とある勇者のアフターライフ ~勇者派遣会社活動記録

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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003章 セルイッシュ世界

3章001ー相変わらず説明不足気味なまま旅立たされるわけで

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 俺達の部屋の中は4つに別れていて、

 1つが台所付きのリビング。
 ここでよくお茶をしながら皆で話をする。
 飯も、家で食べるときはここで、みんな一緒に食べる。
 最近は、ロミネスカスが日中は本屋に入り浸っているせいで、昼飯を一緒に食べることがあまりなくなっているけど、大きな問題ではない。
 ロステータとプリアが遊びに来たときもここで歓談している。

 あとの3部屋は、俺・ロミネスカス・ミラッパの自室。

 俺の部屋には、剣が壁に飾ってある。
 今までの旅の途中で手に入れた、宝剣ほどじゃないけど、見た目気に入ってる剣達だ。
 まぁ、とはいえ、どれも1本で魔王の隊長クラスなら一刀両断出来る業物ばかりで、売れば相当な金になるだろう。
 ……金欠だったときは、数本売却すべきかと思って時期もあったけど、冒険者組合で張り出される害獣駆除で金を稼げるようになったのと、勇者派遣会社からの初任給の振り込みもあったので、まぁ、そこまでしなくても大丈夫だろうくらいには潤っているので、自室にいるときはこれを眺めながらのんびりしている。

 ロミネスカスの部屋は……いや、あれはもう部屋とは言えないな……倉庫というか、書庫だ。
 このパルマ世界の魔法系書物を一手に取り扱っている書店を見つけたもんだから、休暇中のロミネスカスはそこに入り浸っては、毎日のように魔法系書籍を購入して帰ってきている。
 そのため、ロミネスカスの部屋は、全空間の87%が書物に占拠されている。
 念のために捕捉しておくが、これは二次元的……つまり床面における占有率ではない。
 三次元的……部屋空間内における占有率だ。
 ロミネスカスの部屋に入ると、本の山しかみえず、壁も見えない。
 一応、約束事として、俺の夜の相手をしない方の女性は自室で寝ることとしてはいるんだが、最近、ミラッパといたした良く朝、リビングのソファで本を片手に寝落ちしているロミネスカスをしょっちゅう見かけるのは気のせいではないと思う。

 ロミネスカスとは対照的に、ミラッパの部屋には何もない。
 机もベッドもなく、布団を床に敷いているだけだ。
 着替えなんかも、全部魔法袋に入れているとのことで、不便はしていないそうなんだが、一応年頃の女の子なんだし、もうちょっと飾りっ気とかしたらどうだ? と話したことがあるんだけど、
「どうせウインダと結婚して一緒に暮らすっぱ」
 と、まぁ、はんろんの余地を一切はらませてくれないわけで……


 とまぁ、そんな俺達の部屋に今日も朝が来た。

 昨夜はロミネスカスが俺と寝る日だったんだけど、ロミネスカスは俺と寝た日はすごく早くに目を覚ますんだ。
 俺より長く寝ていた事がない。
 一度そのことをロミネスカスに聞いたことがあるんだけど
「……寝起きとはいえ、この年のすっぴん顔をあなたに見せるわけにはいきませんから」
 そう言いながら赤くなってたっけ。

 で、そのパターンどおり。
 俺が目を覚ますと、俺の腕枕からすでにロミネスカスの姿はなかった。
 俺は、周囲に脱ぎ散らかしたままになってる服を身につけるとリビングへ

「おはよう、ウインダ」
 そこでは、台所にたったロミネスカスが朝食を作っていた。

 軽く鼻歌を歌いながら汁物を煮込むロミネスカス。
 まぁ、いたした翌朝はいつも上機嫌なロミネスカスなんだけど、時折愛おしそうにお腹を撫でながら祈るような仕草をしてるのって、あれ、絶対受胎祈願してるよなぁ、と思いつつ苦笑するしかないんだけど……まぁ、でも最近はそれでもいいかと思ったりしてるわけで……

「ウインダ、悪いけどミラッパを起こしてきてくれるかしら?」
「ん、わかった」
 洗面所で顔を洗い、歯を磨いた俺は、ロミネスカスに言われてミラッパの部屋へ。
「ミラッパ、朝だ。飯だぞぉ」
「……うみゅう……っぱ」
 俺の声からしばらくすると、眠そうな目をこしこしこすりながらミラッパが出てきた。

 全裸で

「服を着ろ、服を!」
 俺に、部屋へと投げ戻されたミラッパは、おおよそ3分後、半袖のシャツにハーフパンツという出で立ちで現れた。
「さ、ミラッパ。顔を洗っていらっしゃい、朝ご飯にしましょう」
「うみゅう……っぱ」
 ロミネスカスに言われ、相変わらず目をこすりながら洗面所に歩いていくミラッパ。
 あれでも、魔王の娘なんだよなぁ……威厳もへったくれもあったもんじゃない。
 俺は苦笑しながら、ミラッパを待っていた。

 机上に視線を移すと、

 季節の野菜の汁物
 パン
 生野菜のサラダ
 肉の炒め物

 栄養バランスの考えられたメニューが、それぞれの前に取り分けた状態で置かれている。
「パンと汁物はおかわりがありますから、遠慮無く言ってね」
 そう言うロミネスカス。
 俺とミラッパは朝から結構食べるので、それを踏まえた配慮なわけで、ロミネスカスはホント気がつくな、と思うわけだ。

「あ~、ロミネスカスさん、私のがないねぇ」
「あら? そうでしたか?」
「私は野菜大目でお願いしますねぇ」
「はい了解しました」
「うみゅう~っぱ……」
「はい、ミラッパさんも、ちゃんと目を覚ましてご飯を食べましょうねぇ」
「……お待たせしました、野菜大目で装っておきましたよ」
「はいはい、ありがとうございますねぇ……じゃ、皆さん、頂きましょうかねぇ」
「……おい?」
「はい?」

 俺はここまで、違和感なく続いていく会話に流されそうになってたんだが、
「なんで、俺達の食卓にお前が混じってる、メフィラ?」
 猛烈な違和感を発見し、その元凶に声をかけた。

 なんか、こいつ
 気がついたらロミネスカスの隣にいて、しれっと自分の分を要求してやがった……野菜大目とか抜かしやがって。

 そんな俺の周囲では
「あら、いつのまに……」
「気がつかなかったっぱ」
 と、ロミネスカスもミラッパもびっくりしてるんだが……おいおい頼むぞA級魔法使いに魔王の娘さんよぉ。

 んで、まぁ、そんな俺の言葉などお構いなしに朝食を食べ始めたメフィラは
「まぁ、仕事ですねぇ。
 その話に来たら、みなさん朝ご飯中でしたので、ご相伴にあずからせて頂いたんですねぇ」
 そう言いながら、パンの間に野菜をしこたまはさんで、もっしゃもっしゃと食べている。
 ……ってか、齧歯類並みに膨らむのな、お前の頬って。

 で、まぁ、
 今日はメフィラを交えた4人での朝食になったわけだが、

 メフィラのヤツ、俺やミラッパよりも食いやがった……
 あとで絶対朝飯代請求してやるって思ってる俺の前で、メフィラは
「はいはい、ではでは、お仕事の話にまいりますねぇ」
 そう言うと、ロミネスカスが片付け終わった机の上に1枚の紙を置いた。

 そこには

『勇者をどうにかした上で、魔王をどうにかする』

「……は?」

 俺が唖然とした声をあげると
 ロミネスカスも同様に首をかしげている。

 なお、ミラッパだけは
「わかったっぱ。勇者も魔王もぶっ飛ばせばいいっぱね?」
 と言いながら両腕をブルンブルン振り回しているだけど、危ないからちょっと落ちつこうね。

 そんな俺達の前で、メフィラは説明を始めた。
「このセルイッシュ世界の勇者デジュアはですねぇ、すでに魔王軍を壊滅させてですねぇ、魔王ビナスを屈服させているんですねぇ」

「……は?」

 その言葉に、俺が再び唖然とした声をあげると
 ロミネスカスも同様に首をかしげている。

 なお、ミラッパだけは
「じゃあ、誰をぶっ放せばいいっぱ?」
 と言いながら四股みたいなのを踏んでるんだけど、女の子なんだから大股押っ広げはやめようね。

「意味がわかりません……その状況であれば、すでに魔王討伐がなされており、世界は救済されているのではありませんか?」
 ロミネスカスの言葉に、俺も頷くしかない。

 すでに魔王軍は壊滅
 魔王も屈服

 ……で、なんでそこに俺達がいかなきゃなんないんだ?

 俺も腕を組みながら頭をひねる。

 そんな俺達に、メフィラは
「まぁ、そこらも含めて情報収集した上で、この問題をウインダさん達なりのやり方で解決させてほしいんですよねぇ」
 そう言うと、右手をパチンと鳴らした。

 って、おい、またこのパターンか!?

 俺の悪い予想どおり、
 俺達は一瞬にして地下の異世界転移室へと転移していた。

 すでに周囲の魔法陣は全開状態で、いつでも俺達をセルイッシュ世界に送り込める状態なのが一目瞭然だ。

「おいこら、せめて準備くらいさせろって!」
 俺が絶叫する中
「ではよろしくなのですよぉ」
 そう言いながら、メフィラはお気楽に手を振ってやがる。

「……まぁ、そろそろかなとは思って、準備はしてましたけどね」
 と、半ばあきれ顔をしながら、腰の魔法袋をポンと叩くロミネスカス。

「ミラッパは、これさえあればバチコイっぱ」
 と、両腕を振り回すミラッパ。
 ……ってか、半袖シャツにハーフパンツのまま行く気かよ……

 まぁ、俺も宝剣の入った魔法袋は肌身離さず持ち歩いているので、問題ないんだけどな。

 そんな俺達の姿は、
 ほどなくして部屋の中から消え去っていった。
 

……さて、今回はどんな勇者様に出会えるのかねぇ


ーつづく
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