とある勇者のアフターライフ ~勇者派遣会社活動記録

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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002章 テルミネア世界

2章005ーそしてまさかの結末へ

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「よ~し、そこまでな」
 俺は、勇者ロステータの腕を引っ掴んでそう言った。

 んで、勇者ロステータ、
 いきなり現れた俺に困惑しながらも
「は、離してください! 僕は一刻も早く魔王討伐をやり直して、僧侶プリアと一緒に魔王を討伐しなきゃならないんです!」
 なんて言いやがる。

 バシッ

 俺は、そんな勇者ロステータの頬を張った。

「お前馬鹿か?
 キスにうつつ抜かして、何度惚れた女を劫火に焼かせてやがんだよ?ったく、青臭い」
 俺の言葉に、勇者ロステータは、その場でうつむいていく。

 そりゃ言葉もないだろうよ。

 あのタイミングで魔王がやってくるのは、勇者ロステータはわかっていたんだ。

 にも関わらず、だ
 僧侶プリアがキスを求めてくるもんで、それを受け入れて

 ……で、毎回、その女を消し炭にしてたんだからなぁ……

「ったく、1回のキスを我慢出来ないって、ガキじゃねぇんだから……生きてりゃ、この先何度でも出来るだろうが」
 俺の言葉に、勇者ロステータはうつむいたまま、小さくだけど何度も頷いていく。

……そうですね……そうですよね……僕は、一体何を思い違いしていたんだろう

 って

 まぁ、どうやら、勇者としてすべきことはわかったというか、思い出したようだな。
「はい! 貴方様のおかげで目が覚めました!」
 勇者ロステータ、
 なんか、すっきりした表情で顔をあげた。

 ……うん、これなら大丈夫か

「なら、とっとと魔王を倒してくれ……早くしないと、俺の従者が殺しちまいそうだ」
 そう言いながら俺が指さした先では、
 ミラッパの轟腕で、すでに虫の息の魔王の姿が……

 だが、
 そんな俺に、勇者ロステータは困惑の表情を浮かべながら
「で、ですが、この世界の僧侶プリアはもう……」
 そう言い、再びうつむく勇者ロステータ。

 まったく、よく見ろってんだ。
「勇者ロステータ……」
 そんな勇者ロステータに、離れた場所に立っていた女が駆け寄ってくる。

 あぁ、僧侶プリアだ。

 魔王の劫火が直撃する寸前に、ロミネスカスが氷の防壁を張ってくれたおかげで、無事だ。

「僧侶プリア! い、生きていたのか!?」
「はい、この方々に助けていただきました」
 そう言いながら抱き合う2人。

 そんな2人の様子に、女剣士やら、魔法使いなんかが感涙流してるんだけど……
「とにかく、そういうわけだからさ……とどめを頼むわ」
 俺の言葉に、勇者ロステータは
「わかりました! 今すぐに!」
 そう言うと、その腰の剣を抜き、魔王へと駆け寄っていった。

 ……っていうか、あのままほっといても、あの魔王、死んだと思うけどね
 まったく、ミラッパの拳って、すさまじすぎるな……

◇◇

 それからの事を記しておこう。

 勇者ロステータが、この世界の魔王を倒したことで、もう世界が増えることはなくなった。

 俺は、ミラッパ、ロミネスカスとともに、残った世界の魔王を退治してまわったんだが、これには勇者ロステータと、僧侶プリアも同行した。

 勇者ロステータは、自分がリセットスキルを使用する度に、自分のいない世界が残っていることなどまったく気付いていなかったらしく
「ま、まさかこんなことになっていたなんて……」
 と、真っ青になっていた。

 ここからの討伐は、勇者ロステータも参加したので、俺の負担が随分と軽減された。

 その最中、俺は勇者ロステータに、スキルの重要性と、その習得方法と訓練方法を伝授した。
 勇者ロステータは、やはりそういったことをまったく知らなかったらしく
「ゆ、勇者も精進が必要だったのですね……僕は、早く魔王を倒そうと気ばかり焦っていました」
 と、言っていたが、正確には、
『僧侶プリアと早く結ばれたかった』
 と言いたかったのだろうとの想像は容易についた。

 その後、残っていた世界の魔王をすべて討伐し終えた時点で、俺の目の前に

『ミッションコンプリート』

 の文字が表示され、
「やぁやぁお疲れ様でしたねぇ」
 と、のんきにメフィラが現れた。

 勇者ロステータと、僧侶プリアをはじめとした勇者パーティの面々は、城で魔王討伐の恩賞を受けるために帰還したのだが、その際に
「恩賞はすべて勇者ウインダ様に差し上げたい」
 そう申し出てきた。

 気持ちはありがたいが、俺はあくまでも勇者派遣会社の社員としての仕事を全うしただけなので、と、それは辞退し、この世界を後にした。


 蛇足だが
 この世界の姫姉妹の姉が行方不明とのことだったのだが、これは僧侶プリアだった。
 僧侶プリアは、まだ神託を受け、勇者になる前のロステータに一目惚れし、彼と添い遂げるために城を抜け出していたのだという。
 
 勇者ロステータが城に戻り、そこで僧侶プリアが姿を見せたことで発覚したとのことであった。


 今回の一件で、強く言いたいのは、神も、神の名において力を与えるのだから、想定外の事態が生じないよう、しっかり吟味していただきたいということだ。
 今回はたまたまうまく処置出来たものの、一歩間違えば、俺が力尽きていてもおかしくなかったことを申し添えておく。
 また、勇者に神託を与える際にも、スキルの重要性、修練の必要性などをしっかり説明すべきだと考える。

 これらは、勇者が魔王を討伐出来るかどうかに関わる非常に重要な部分でもあり、勇者に神託を与える際の教訓としていただけたらと思う。

                             勇者派遣会社社員 勇者ウインダ

 やれやれ、やっと書き上がった。
  俺は手に持っていたペンを机上に置くと、首をコキコキと鳴らしていく。
 「……とりあえず出来た……ロミネスカス。悪いけど目を通してくれるか」
  俺は、やっとの思いで書き上がった報告書の束をロミネスカスへと手渡した。

  ロミネスカスは、それを受け取ると、フンフンと目を通していく。

 しかし、最初はどうなるかと思った今回の一件だけど、どうにか無事に終了して何よりだった。

 そんなことを思っていると
「ウインダ、報告書済んだっぱ?」
 そう言いながら、ミラッパが自室から駆け出してきた。

「済んだんなら、美味しい物を食べに行こうっぱ」
 そう言いながら抱きついてくるミラッパなんだが、

 今回の一件では、ミラッパの一言がなかったら本当にやばかったわけだ。
「そうだな、今回はミラッパに助けられたし、俺が奢るぞ」
 そう言いながら、俺は首に抱きついたままのミラッパをそのままに立ち上がった。

 やっと1回目の給料が振り込まれてたわけで
 んで、前回のヒッキー姫勇者さんときのボーナスが結構もらえたもんだから、俺もちょっと気分が大きくなってるわけだ。
「やったぁっぱ! ウインダ大好きっぱ」
 そう言って、嬉しそうに笑うミラッパ。
 そんな俺達を横目で見ていたロミネスカスは
「はいはい、書類もこれで大丈夫そうだから、メフィラに提出してでかけましょうか」
 そう言いながらニッコリ笑った。

 ってなわけで、俺達は出口へと向かったんだが

 俺が手を伸ばした先で、
 先に戸が開いた。

「おや? おでかけですかねぇ?」
 そこには、いつものように、小脇に書類の束を抱えたメフィラの姿が……って、まさかまた仕事か?
 おいおい、もう少し休ませてくれよ……

 そう、俺が思っていると

「いえいえ、仕事じゃないですねぇ」
 そう言いながら顔を左右に振っていく。
「今日はですねぇ、勇者派遣会社の新入社員を紹介しますねぇ」
 メフィラはそう言いながら、横に立ってたらしい人物を手招きした。

 へぇ、俺以外の社員が入ったのか。
 ってことは、俺も先輩になるのか……って思ってたら、

「勇者ウインダ先輩! 今日からお世話になります。勇者ロステータです」
 って……え? 君、あの世界で恩賞もらって、優雅な老後……じゃなかったのかい?
「いえ、勇者ウインダ様と出会って、僕は悟りました。
 この勇者の力は、自分のためだけに使ってはダメなんだと……勇者ウインダ先輩のように、他の勇者を助けるためにこそ使うべきなんだと!」
 って、言いながら、ロステータ、すごく燃えたぎった目を俺に向けてくるんだけどさ
 ……ロステータ、君、僧侶プリアはどうしたの? あの娘、確か王族だったから……

 なんて思ってると
 ロステータの横から、ひょっこり僧侶プリアが姿を現した。
「私、旦那であるロステータの従者としてどこまでも添い遂げることにいたしましたの。
 城には、もう死んだものとおもってくださいと、申し出ておりますわ」
 そう言うと、ロステータへと寄り添っていく。

 そんな2人を横で見つめながら、メフィラ
「というわけでですねぇ、仲良くしてあげてくださいねぇ」
 そう言ってニッコリ笑った。

 で、まぁ、色々思うところはあったんだけど……来ちまった者は、ま、しょうがないか。

 俺は、報告書をメフィラに手渡すと、
「ロステータ、俺達これから飯を食べに行くけど、一緒にどうだい?
 結婚祝いと就職祝いを兼ねて奢るよ」
 そう言ってニカっと笑った。
 そんな俺に、ロステータとプリアの2人は
「お供します、ウインダ先輩!」
「ありがとうござます、ウインダ様」
 と、口々に言いながら俺の後についてきた。

 俺は俺で、右にミラッパ、左にロミネスカスを引き連れて進んでいくわけで……

 
 どうやら、ここ勇者派遣会社の寮も、今まで以上に賑やかになりそうだ。

ーつづく



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