とある勇者のアフターライフ ~勇者派遣会社活動記録

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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EX01 パルマ世界での通常の日々

EX01ー001 ガタコンベの夏祭り

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*このお話は
 ミヤの別作品「異世界コンビニおもてなし繁盛記」
 パルマの夏、ガタコンベの夏祭り その6 
 http://www.alphapolis.co.jp/content/sentence/170008/ 

 と、連動しています。

**************************************

 俺達は、パルマって世界の一地方都市、ブラコンベって街にいる。
 その街並みの一角にある石造りの建物、これが俺の努めてる勇者派遣会社の社員寮兼事務所なわけで、俺達はこの2階の1室に住んでいる。
 まぁ、住んでいるって言っても、就職して1日ここで過ごしてすぐに仕事で異世界に行っちまったもんだから、まだこの部屋では2日ほどしか過ごしたことが無いわけなんだが……

 部屋代と光熱水費は無料だが、それ以外の食費や衣類費などは自己負担ってことになってる。
 最初の話では専属のメイドがつくって話しだったんだが、
「規則でねぇ、従者を従えられた方にはねぇ、有料配備になりますけど、それでもよろしいですかねぇ」
 うん、よろしくない。
 ただでさえ、ロミネスカスに加えてミラッパまで従者に加える羽目になっててキュウキュウいってんだよ、俺の財布様はよ。

 部屋は3つあって、バストイレ付。
 今のところ、部屋は1人が1つ使用している。
 今のところ俺達した住んでないんだから、もう1室貸してほしいとメフィラに頼んで見たんだけど、
「別料金になりますけど、よろしいですかねぇ?」
 と、まぁ、つれない返事が返ってきた……当然諦めましたともさ。

 んで、表向きこの建物はとある冒険者組合の専属の宿ってことになってて、俺達はそこの専属の冒険者ってことになってるらしい。

 この設定はくれぐれも守るようにってメフィラに釘を刺されている。
 間違っても、俺達が勇者派遣組合の社員だなどと口外しないように……と。

 まぁ、俺とロミネスカスに関しては、心配ないと思っているんだが……問題なのは、ミラッパだ。

 この天真爛漫を絵に描いたような世間知らずに、果たしてこれを守らせることが出来るか……
「ミラッパ? うん、みんなにはウインダのお嫁さんって言えばいいっぱよね?」

 ……あれ? 
 なんかすごくあっさり解決したような気がするぞ……
 ただ、その言葉を聞いたロミネスカスがすっごい怒りのオーラを出してる気がしないでもないんだが……
 
◇◇

 さて、
 そんな社員寮に戻って1晩休み、仕事の報告書も提出し終えた俺達は早速街へと繰り出した。

 なんせ、向こうの世界ではろくに観光も食事も出来なかったしな。
 まぁ、復興途上だった街や人にそれを期待するのは酷ってもんだし……

 さて
 俺達の今日の目当ては、隣町である辺境都市ガタコンベって街で開かれてる夏祭りだ。

 まずは、このブラコンベの街にあるコンビニおもてなし2号店って店に立ち寄って飲み物を補充。
「いらっしゃいましぃ」
 ここの店長らしい女性店員が、クリックリの縦ロールを揺らしながら満面の笑みで挨拶してくれた。
 その言葉に、店の中であれこれ作業しているメイド服の店員らも続いていく。

 うん
 まだ来店2回目だけど、この店はいつ来ても接客態度がいい。

 俺達は即座に酒コーナーへ移動していくと、スアビールをがさがさと手に掴んでいく。
「ロミネスカスとミラッパは何本買う?」
「そうですね……ガタコンベで、このスアビールを買えるかどうか未知数ですので、買えるだけ買っていった方がいいのかしら……」
「ミラッパはぁ、とりあえず3本っぱ」
 とあれこれ話をしていると、先ほどの店長らしい女性定員が
「お客様、ガタコンベにはですね、コンビニおもてなしの本店がございますゆえ、あちらでもスアビールはお買い求めいただますわ」
 なんか、この後、おっほっほとでも言い出すのではないかってほどの気品ある受け答えをしてくれる、この女性店員。
 胸の名札によると『シャルンエッセンス』って人らしい。

 ミラッパもこんな応対が出来るような女にならなきゃだけだぞ?
「え~、なんかかたぐるしくっていやっぱ」
 って、すっごい嫌そうな顔をするミラッパ。
 まったく、お前ってヤツは……

 ともかく
 祭りの会場であるガタコンベでもスアビールを買えることがわかった以上、ここで必要以上に買っておく必要はない。
 俺達は、1人3本ずつスアビールを購入し店を出た。

 支払いはすべてロミネスカス姉さんだ。
「お世話になります」
「ゴチっぱ」
 俺とミラッパが手を合わせる前で、
「まったく、こういう時だけは調子いいんだから」
 そう言い、苦笑するロミネスカス。

 俺達は早速1本目のスアビールを飲みながら店をでた……か~。やっぱうめぇ、このスアビール。
「ちょっと、もう1本飲んじゃったの?」
 早速2本目を開けてる俺を呆れたような目で見つめているロミネスカス。

 まぁ、祭りだし、いいじゃねぇか。

 そんな俺に肩をすくませると、ロミネスカスは
「じゃ。移動するわよ」
 そう言うと、転移魔法を発動していく。

 この転移魔法ってのは、本来一度行ったことのある場所に転移出来る代物なんだが、ロミネスカスのようなA級魔法使いだと、詳細な地図があれば転移可能なんだとか。
 それでも、あまり近づき過ぎると、出現したら壁の中でした、とかなりかねないわけなので、少し離れた空中に出現した俺達。

 ブラコンベもだったけど、このガタコンベって街も、その周囲を堅牢な城壁で囲っている。
 ウインダの話だと
「この世界の辺境ですとねぇ、人を襲う魔獣とかが結構生息してますのでねぇ、そんな奴らに襲われないようにしてるんですねぇ」
 とのことだった。

 そのため、街に入るには門を通過しなきゃならないんだけど、この門も日の入りと同時に閉鎖され、翌朝日が昇るまで何があっても開門されないんだとか。
 まぁ、俺達のように飛翔魔法が使える者にとっては、別に問題じゃないんけどね。

 門をくぐり、ガタコンベの街中へと入ると、街道らしき大きな通りはすでにすごい人でごった返していた。
 皆笑顔で行き交っている。
 あぁ、これが平和ってヤツなんだなぁ

 ミツルミ達の世界でも、いつかこんな賑やかな祭りが……なんて、ちょっと感傷にひたってると、そんな俺の腕をつかんだミラッパが
「ダーリン、早く早くっぱ!」
 そう言いながら、俺の手を無邪気な笑顔とともに引っ張っていく。

 そのあまりにも天真爛漫な様子に、
 俺だけじゃなく、ロミネスカスまでもが、思わず笑みをこぼしていく。

 でもまぁあれだ
 こういった祭り会場では、ミラッパの態度が正解だ。

 さぁ、この世界の祭りってのを満喫するぞ!

◇◇

 まず俺達は街道を通って中央広場へ移動。
 そこがこの祭りのメイン会場と聞いたからなんだが、到着して納得した。

 今通ってきた街道の混み具合を8としたら、
 この中央広場は15の度合いで混み合ってる。

 そんな見渡す限り人・人・人の中を、客の人達は皆笑顔で楽しそうに行き来している・

 この大混雑の中で感心したのが
 皆が周囲に気を配ってて、ほとんど喧嘩らしい喧嘩の声が聞こえてこないってこと。

 俺が暮らしていた世界だったら、
 こんだけ人がいたら、肩があたったあたらないっていう程度のくだらない理由で斬り合いの喧嘩が起こってても不思議じゃない。
 だが、ここでは、例えぶつかって転んだとしても、
「おっとっと失礼、大丈夫ですか?」
「いや、こちらこそすまない」
 ってな具合で和気藹々とした空気で事がおさまっる。

 中には怒り狂っいかけてるやつもいるんだが
 それを周囲の人間達が自発的になだめすかしてるって感じだ。

 そんだけ、
 ここの集ってる人達ってのは、皆心にゆとりがあるんだろうなぁ。
 田舎とはいえ……いや、田舎だからなのかもしれないけど、こういう雰囲気は嫌いじゃない。


 んでもって、俺達が目当てにしているコンビニおもてなし本店の出店ってのなんだが、すぐに見つかった。
 このただでさえ混雑しまくっている中央広場の中でも、一番の人だかりが出来てる屋台だった……って、まじか!?

 とにかく、スアビールを買わなきゃ始まらないとばかりに、俺達はすぐに列の最後尾に並んだ。
 うわぁ、しかし、これは時間かかるんじゃないのかぁ……
 最初はそう思ってたんだけど、
 このすごい列なんだが、すごい勢いで短くなっていく。
 よく見てみると、この列の先頭で接客をしてる男……こいつ、ただ者じゃねぇ。

「いらっしゃいませぇ」
「お買い上げありがとうございます」
「商品お預かりしますねぇ」
 こういった声出しと同時に、よどみなく体を動かしていくんだが、その動作にまったく無駄がない。
 集計用の魔法計算機らしきものをすごい勢いで操作したかと思うと、どんなに大量の商品を前にしても、俺が見たところ2秒以上かかったケースは1度もない。
 商品の袋詰めにもよどみが無く、客が金を出すのに手間取ると、さりげなくその対応を、他の店員に任せて、自分は次の客の応対へと移動していく。

 そこまでの作業をこなし続けておきながら、この男、汗ひとつかかず、満面の笑顔をまったく崩さない。

 ……すげぇ……すげぇよ、こいつ


 俺が、接客をしてる店員に感動してる横で、ロミネスカスはロミネスカス出店の後方に目が釘付けになっていた。
 ロミネスカスの視線の先では、全身真っ白な人型をした何かが4つ、何やら忙しそうに動いているんだが
「……あれってば、アナザーボディ……普通1人が1体操るだけでも大変なのに……4体も……」
 なんか、ロミネスカスはそう言いながら生唾を飲み込んでいた。
 この術者らしい魔法使いを探しているのか、終始キョロキョロしていたロミネスカスなんだが、結局最後まで見つけられなかったらしい。

 そんな感じで、この出店のあれこれに圧倒されていると、何やらトレーを持った女の子が近寄って来た。
「ウルムナギの蒲焼きの試食です、いかがですか?」
 エプロン姿の女の子が、そう元気に声をかけてくれたんだが……

 う、ウルムナギって、ひょっとしてあれか?
 俺の世界でいうtころの、ウンチャルナーギのことじゃないのか?
 あの細くて長くて、ぬめっとしてて……輪切りで食うしかないのに、泥臭くてっていう……

 俺が、乾いた笑いを浮かべてると、俺の後方で、ロミネスカスも、思わず後ずさってる。

 そんな俺達に、この女の子
「パパが作ったんです。美味しいですよ」
 と、再び、にっこり。

 ……あぁ、
 俺の辞書に、この笑顔に抗うって言葉は無い……

 意を決した俺は、震える手で少女の持ってるトレーから試食のウルムナギを1つ、口に運んでいった。

「あれ? うまい」
「はい、おいしいです」
 思わず、間抜けな声をあげた俺に、女の子はニッコリ笑ったんだが、いや、マジでこれうまいって。
 女の子によると、これの弁当がレジ横で売ってるらしい。
 いや、お世辞とかそんなんじゃなくて、マジで買うって、これ。

 んで
 俺の行動を見てたロミネスカスとミラッパも、おそるおそる試食を口に運び
「あら、おいしい」
「うん、おいしいっぱ」
 と、2人そろって間抜けな声をあげやがった。

 ってなわけで、俺達は、この出店で購入制限である5本ずつスアビールを買った上で、ウルムナギの蒲焼き蒲焼き弁当を1つづつ追加購入し、一度屋台を離れた。

 中央広場の一角には座って休憩できる場所が設けられており、そこで飲食をしてる人が多い。
 かなり混雑してたんだけど、どうにか空いた席を見つけて、一角に座った俺達は、
「とにかくお疲れさんでした!」
 ってな具合に、スアビールを一斉にブシュッとやってから
「「「かんぱ~い!」」」
 ごっごっごっご……ぶは~って、な具合なわけだ。
「だからウインダ、ペースが速いって」
 そう言いながら苦笑してるロミネスカスなんだけど、そういうロミネスカスも、もう1本目を飲み終えそうだ。
 ミラッパはミラッパで、スアビールもそこそこに、ウルムナギの蒲焼き弁当をすごい勢いでがっついている。
「こもぐれもぐ、すっもごもごごく、もぐもぐおいもぐしいもぐもぐっぱ」
 うん、食いながら話すな。
 何言ってるのかさっぱりわからねぇけど、その満面の笑みで、すっごく美味しいって思ってる気持ちは伝わってっから。

 そんな感じで、和気藹々と食事をしてった俺達なんだが
 まぁ、スアビールもあっと言う間に飲み干して……さて、もう一回並びますか、って思ってたら
「コンビニおもてなしのビアガーデンが開店したぞ! 今日は昼からやるらしい」
 ってな声が聞こえてきた。
 なんか、その声と同時に、民族大移動さながらに、すごい数の人達がなんか移動を始めたんだが、なんだ、そのビアガーデンってのは?
「せっかくだし、行ってみましょう」
 そういうロミネスカスとともに、俺達はその人の流れにのっかって、街道を移動していった。

 程なくすると、街道の端にある1件の店にたどり着いたんだが……
 なんだこの店は?
 周囲の建物は、皆木か石造りなんだけど、この店だけはその壁が何で出来てるのか判断出来ない……
 しかも、店の全面がガラス張りになってて、店内が丸見えだ。
 こ、こんな店みたことないぞ!?

 ビアガーデンは、この店の裏側の河原で営業してるらしいんだが、この店に興味を持った俺達は一度店内の方へと移動した。

 店の中は、かなりの客で繁盛していたんだが、なんか猿人の女の子達がテキパキ動いて接客してる。
 一人だけ「あじゃぱぱぱぱぱぱ」とかいいながら、転がりまくってるドジっ子がいるんだが、そのフォローまできっちりやってるわけだ。

 店内はこじんまりとしているんだけど、棚が理路整然と並べられてて、商品も綺麗に陳列されている。
 客が乱しても、すぐに店員がやってきてさりげなく直している……あの出店といい、ホントここの店員はよく訓練されてるな。
「おひょひょよひょひょひょ……」
 ……うん、例外はどこにでもいる。

 んで、その中でロミネスカスが目を輝かせて
「ウインダ! これ買いましょう!」
 って言ってきたのが『魔法冷蔵庫』

 あれ? こういった魔法家電って結構高いんじゃなかったっけ?

「それがこれ、信じられないくらい安いんですよ! しかも冷蔵魔石も補充型なので、必要なだけ詰めればいいタイプです! こんなの初めてみましたよ」
 そう言うが早いかロミネスカス、店頭にあった魔法冷蔵庫を即座に購入して寮に転送してました……は、早いなおい……

 その後、店内を改めて物色。

 武具なんかも並んでる店内。
 さすがに俺が欲しがるような宝物クラスのものは無いけど、どれも丁寧に製作されていて、値段以上のいい品揃えをしている。

 その横では、鉄製の鍋なんかも売ってたんだけど、
 ロミネスカスは、これらもかなり買い込んでいた……そういや、寮の台所って調理器具が何もなかったもんなぁ。

 そんなこんなで店内を一通り見て回った俺達は、店の裏でやってるっていうビアガーデンってのに移動していった。

 そこは、天然の河原を利用して、椅子や机が並べられている、ちょっとしたピクニック会場みたいな感じになってるんだが、その一角で、スアビールと、焼きたての肉なんかが販売されている。
 この焼きたての肉がすっごい良い匂いを会場中にまき散らしてて、これがもうたまらないわけだ。

 ここでのスアビールは、大きな木のジョッキっていうやつを持っておいて、それをスアビールのカウンターに持って行くと1杯いくらで、樽から直接注いでくれる仕組みになっている。
 詳しくはわからないんだけど、このシュワシュワが抜けない工夫と、常にキンキンに冷えてる状態が保たれてるんだとか。

 んで、
 ここで特大ジョッキにスアビールをなみなみとついで貰ったミラッパは
「ミラッパと、ウインダの永遠の愛を祝って、乾杯っぱぁ!」
 って言いながら、俺の首筋に抱きついたかと思うと、スアビールを口いっぱいに含んでから、それを俺に口移ししてくる……って、うぉい!?
 周囲からは
「お、新婚さんかい?」
「見せつけてくれるねぇ」
「グーグス、こっちもやるであります」
「おめでと~」
 と、まぁ、歓迎ムード一色なんだが
「そんなこと、誰が許したかぁ! これは私のだ!」
 って、ロミネスカスがすっごい勢いで俺をミラッパの腕から引っこ抜く。
「いやまて、これってなんだ、これって!」
 思わず突っ込む俺なんだが、ロミネスカスは、そんな俺の言葉などお構いなしに、スアビールを極限まで口に含むと、俺に口づけ、俺の口に一気に注ぎ込んできた。
 
 結局、この調子で、交互に……えっと、何回だっけ?
 なんかもう、回数も思い出せないくらいに口移しでスアビールを飲まされまくった俺なんだが
 
 気がつけば、ミラッパもロミネスカスも、俺の膝を勝手に枕にして眠りこけている。
 俺にしこたま飲ませてた奴らが、なんで俺より先に潰れてんだよ、ったく。

 俺は、さっき交ったタクラ酒ってのを口に運んだ。
 俺的には、スアビールよりも、コレの方が気に入ったかもしれない。
 そんなことを思いながらちびりちびりやってると、なんかいきなり空一面に極彩色の光が舞い始めた。
 な、なんだこりゃ!?
 これも祭りの演出なのか!?
 最初は周囲の皆もびっくりしてた感じなんだが……なんていうか、この光、みてるだけですっごく癒やされる、そんな優しい光を放ってる。
「何っぱ、これ……」
「魔法ね……綺麗……」
 目を覚ましたミラッパとロミネスカスも、その光景を見上げて思わず笑顔になっていった。

 なんていうか
 こんな時間も、いいもんだなって、そおう思いながら、俺は夜空を見上げ続けた。


ーつづく
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