とある勇者のアフターライフ ~勇者派遣会社活動記録

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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001章 イゾルンダ世界

1章006ーその女、自己中につき

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 俺は、急を知らせにやってきた救国の絆の剣士に付き従って廊下を歩いていた。
 剣士の話だと
 ミラッパが目を覚ましたらしいんだが、
「ミラッパを倒した剣士に会わせろっぱ」
 と騒いでいるらしい……っていうか、なんなんだ、その「っぱ」「っぱ」ってのは……

 で、剣士の後を着いて歩いている俺なんだが
「……いいですね、話はまだ終わっていませんからね」
 俺の横では、ロミネスカスがカンカンな表情で付き従っている。

 まぁ、なんだ……
 朝飯に出た赤い飯が、剣士ミツルミが初めてを終えたお祝いだと聞いたロミネスカスは
 その相手が俺だったと聞き、烈火の勢いで俺の部屋にやってきて、俺を怒鳴りつけていた最中だった。

 ……たださ……確かに今まで2度関係もったけどさ……別に付き合ってるわけじゃないんだし、そこまで言われなくちゃならないのか?……

 と、心の中では思った俺なんだが
 これを口に出したら、多分大事故になるのは明白だったため、ロミネスカスの言うに任せていた所に、この天の助け……もとい、急報が飛び込んできたわけだ。


「聞いているのですが、ウインダ! 帰ったらきちんと話をですね……」
「わかったってば、ほら、もう着くから後にしようぜ」
 俺がそう言ったところで、俺とロミネスカスは、先導していた剣士とともに、とある1室へと入った。

 そこは、
 昨日俺達がこの救国の絆の拠点に案内された際、最初に通された会議室風の部屋である。

「……んで?」
 俺はそう言いながら部屋の中を見回し、その中の一角で視線を止めた。

 その視線の先には、ミラッパがいた。

 拘束はそのままだが、
 目を覚ましているミラッパは、部屋に入ってきた俺に気づくと
「あ、やっときたっぱ。マイダーリン」
 って、満面の笑み。

 って、ぅおぃ!? いきなり何言ってやがる、この魔王の娘!?

 このミラッパの一言に、

 ロミネスカスが顔を引きつらせ
「……ウインダ、あなた……ミツルミだけじゃなく、この魔族の女にまで手を……」
 って……ちょっと待て!? 誤解だ! 絶対に誤解だ!

 よく見ると、部屋にいたミツルミまで、突き刺さるような視線を俺に向けてて
「……いえ、別にいいのでござるよ。妾は、貴殿の子種さえいただければ……」
 って……あのな……その視線といい口調といい、全然納得してねぇだろうが!? お前も!

 俺は2人を交互に見やった後
 視線をミラッパへ向けると
「おい、ミラッパ」
「何っぱ?」
「お前、なんで俺をダーリンと呼んだ?」
「ミラッパは、自分を倒した男の妻になるっぱ。そう決めてたっぱ」
「勝手に決めるな! いい迷惑だ!」
「迷惑なら、妾でも、隷属のままでもいいっぱよ。どこまでもついていくっぱ、マイダーリン」
 そこで、バチッとウインクするミラッパ。

 ……う

 不覚にも、ちょっと可愛いと思ってしまったんだが
「……何デレてるんですか」
「……殿方がはしたないですぞ」
 って、なんで、2人仲良く俺の頬をつねってくるのかね、ロミネスカスさんにミツルミさん

◇◇

 とまぁ、
 ロミネスカスとミツルミの白い目を散々浴びながらも、
「婚前交渉? まだっぱよ」
 というミラッパの発言を引き出せたことで、どうにか身の潔白だけは証明出来た俺なんだが……

 ち、ちょっとまってくれ
 いきなり精神的に追い詰められて、もう何をどうしていいかわからねぇえんだけど……

 そんな俺の前で
 ミラッパは相変わらず拘束されたままの状態でニコニコしてやがる。

 ったく
「だいたいお前、自分を倒したヤツの妻になるとか言ってるけど、そう簡単に捨てることができるのかよ?……その、お前の立場的なもんとかをさ」
 俺は、言葉を濁しながらも
 暗に、「お前、魔王の娘なのにそんなこと出来んのか?」って聞いてったんだけど、
 すると、それを聞いたミラッパは
「立場? 魔王の娘ってことっぱ?」
 って、いともあっさり暴露りやがった!?

 その言葉に、当然騒然となる室内。

 で
 ミラッパ、そんな周囲などお構いなしに俺を見つめながら
「そんなの、ミラッパは気にしないっぱよ。
 ミラッパは、ミラッパが決めた殿方と添い遂げると決めてたっぱ」
 俺の側にすり寄ってきた。

 んで、俺の足にすり寄ると、そのまま、頬をす~り、す~りとしてくるミラッパ。

 その光景に
 またぞろ、ロミネスカスとミツルミが、俺に白い目線を向けて
「うわぁ……若い娘にあんなことをさせて……」
「引くでござる……鬼畜でござる……」
 って、
 お前ら一部始終見てたよな!? これ、こいつが自発的かつ勝手にやってますぅ! 俺命じてませんし!


 その時だった。
 急に部屋全体が激しく揺れた。
「な、なんだ?」
 俺は、よろけながらも、どうにか踏ん張り、その場に立っていたんだが
 俺以外では、ミツルミがかろうじて立っていたのみで、部屋の中にいた全員がその場に倒れ込んでいた。

 揺れは、2度、3度と続いていく。

 俺が天井を見上げながら
「一体、何が起きた?」
 って、訝しそうな表情をしていると。

 ミラッパがぼそっと
「……ありゃりゃ……パパが探しに来たっぱかな?」
 って

 すると
 そんなミラッパの呟きとほぼ同時に、救国の絆の剣士が部屋に駆け込んで来た。
「た、大変です!? ま、魔王が……魔王がこの真上あたりで暴れています!!」

 その剣士の言葉に、ミツルミは目を見開き
「ま……まさか、魔王は、ここを見つけたというのでゴザルか?……隠蔽魔法でうまく隠しており、今までも隠しおおせていたというのに……なぜ、急に……」
 そう、呟くように声を出していく。

 あぁ
 そうだよなぁ……

 普通なら理由なんて検討もつかねぇよなぁ

 だが、
 ミラッパが魔王の娘だと知っている俺は、ミラッパへ視線を向けた。
 すると、俺の視線の先で、ミラッパは
「そうみたいっぱ。パパが私を見つけたっぱね」
 そう言い、てへってな感じで、舌をだして笑いやがった。

 そういうことか。
 魔王は、娘であるミラッパの波動をたどって、ここを突き止めてんだ……
 ここが救国の絆の基地かどうかなんてどうでもいい、
 要は、昨日さらわれた自分の娘を、ミラッパを探してるってこった。


「ぱ、パパだと!?」
「ま、魔王がパパだというのか、その娘!?」
 そんな俺の思考の向こうで
 先ほどのミラッパの言葉に、騒然となる部屋の中の救国の絆の面々。
 中には剣を抜こうとしてるヤツまでいる
「待て待て待て」
 俺は、ミラッパと、救国の絆の連中の間に立つと
「あぁ、確かにこいつは魔王の娘だ……
 昨日、こいつのステータスを確認したときにわかってた……教えなかったのは、こいつをどう扱うべきか悩んでたからだ……すまない」
 俺はそう言うと、救国の絆の皆に向かって頭を下げた。

 その俺の行動に、
 その場に居合わせた救国の絆のメンバーは、皆凍り付いていく。
「ま、魔王の娘って……」
「あ、あのにっくき魔王の……」
「我が同胞の敵、魔王の……」
 皆、譫言のように呟きながらミラッパを見つめている。
「殺すべきだ!」
 そのうち、救国の絆の騎士の1人がそう叫んだ。
「こんな女、生きている価値はない!」
「そうだ殺せ!」
「仲間の敵だ!」
「俺が殺してやる!」
 騎士の言葉に、救国の絆の面々は、まるで堰を切ったかのようにミラッパに向けて怒号を浴びせかけていった。
 中には、すでに剣を抜き、今にもミラッパに斬りかかろうとしている者までいた。


 俺は、そんな救国の絆の面々の前に立ち塞がり
「馬鹿野郎! お前らの的は魔王だろう? この女じゃねぇ!」
 そう声を荒げる。
 だが、すでに半分暴徒と化している救国の絆の面々の怒りはおさまることなく、
 ひたすらミラッパへ押し寄せようとする。

 ロミネスカスとミツルミは
 どうすべきか判断しかねているのか、脇で困惑した表情を浮かべたまま立ち尽くしている。

 そんな中
 救国の絆の1人が振り上げていた剣が、俺の頬をかすめた。

 斬り傷はわずかだったが、
 長く切れた傷跡から、血しぶきがあがっていく。

 それを目の当たりにしたミラッパは、
 ふん、と力を込めると、その両手足を拘束していた拘束具をいとも簡単に破壊し立ち上がった。

 いきなり自由となったミラッパ。

 そのミラッパの姿に
 救国の絆の面々は思わずその場から後ずさっていく。
 皆、緊張で顔を強ばらせ
 その額に滝のような汗を流し続けている。

 そんな一同を改めて一瞥したミラッパは、
「……呆れて物がいえないっぱ。
 拘束されてて身動き出来ない相手になら、やれ殺せ、やれ殺せって、好き勝手言えるくせに、
 こうして自由になった途端に、逃げ腰になるっぱ? あんた達、どんだけ雑魚っぱ?」
 そう言いながら、ミラッパは
 俺に歩み寄ると、俺の頬に出来たばかりの刀傷をなめていく。

「……ダーリン、ごめんっぱ……とりあえず、パパと話をつけてくるっぱ。
 そうすれば、ダーリンがこの人達からゴチャゴチャ言われなくてすむっぱね」

 そう言うミラッパなんだが……
 なんなんだよ、この自己中は!?
 そんだけでみんながゴチャゴチャいわなくなるわけがないだろう!?
 お前の父ちゃんは、もう何十年も人間を蹂躙しててだな……

 そう言いかけた俺の前で
 ミラッパはその場から徐々に姿を消していく。

 転移魔法か!?

 俺は、姿が完全に消える寸前のミラッパの腕を掴んだ。
「だ、ダーリン!?」
 俺の行動に、困惑の表情を浮かべるミラッパ。
「だから、ダーリンじゃねぇ!」
 そう、怒声を返す俺
 そんな俺達の姿は、すぐにその場から消え去っていった。

◇◇

 ミラッパの手を掴んだままの俺は、
 目の前の光景に思わず息を飲んだ。

 そこには、でっかい魔獣の顔があった。

 その魔獣は、自分の足元をすごい勢いで掘り進んでいる途中だったらしく、その手にはかなりの量の土を掴んでいる。

 そんな魔獣の眼前に出現し
 飛翔魔法で宙に浮いているミラッパは、その魔獣に向かい
「パパ、もうやめてほしいっぱ。
 ミラッパはこの人の物になって一生可愛がってもらうことにしたっぱ」
 そう言い
 ミラッパの右腕を掴んでいる俺をひょいっと持ち上げると

 その魔獣の目の前で、俺に口づけた。

 その光景に
 その魔獣は激しく咆哮した。

「認めぬ! そのような勝手は、このワシが認めぬぞミラッパぁ!」
 そう言いながら、その魔獣、

 ……おそらく、魔王なんだろう

 は
 俺に向かってその目を見開いてきた


 ……おいおい、こっからどうしろってんだ

ーつづく
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