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001章 イゾルンダ世界
1章004ーその者達、必死につき
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振り下ろされるミラッパの両腕。
その勢いは半端ねぇ。
一度全身を後方にのけぞらせ、そのまま前に倒れ込んでやがんだが、その全ての勢いを両の拳に集約してやがる。
おそらく、あの剣士はこの拳を剣で受けたんだろう。
普通ならそれが正解だ。
うまく刃を立てることが出来れば、拳を使用不能にすることも出来るしな。
俺は、腰の魔法袋から取り出した剣で、この拳を真正面から受け止めた。
その途端
俺の全身に猛烈な圧力が襲ってくる。
人間には絶対出せない、拳の風圧による加重圧……魔法も使ってねぇのに、なんだこれ……
勇者で
しかも身体能力が超絶強化されていえる俺でさせ支えるのがやっとだ……
あの剣士、この拳が剣に当たった瞬間にはじき飛ばされたんだろう。
そりゃそうだ……勇者の俺ですら受け止めるだけで必死なんだ……
っていうか、そもそも生きてるのか!? あの女剣士……
「さっきの剣士よりはたるっぱねぇ! きゃはは! たっのしぃぱ!」
クソっ、このミラッパって魔族、俺が拳を受け止めてるのを心の底から喜んでやがる、
ってか、まだ押し込んでくるのかよ!?
俺は永遠じゃねぇのかって時間、剣を両手で支え、ミラッパの両の拳を受け止め続けた。
実際は、まぁ、1,2秒だったんだろうけど、俺にはすっげぇ長時間に感じられたわけだ……
とにかく、すげぇ加重圧だった。
見ると、俺の足下は、俺を中心にして半径2mくらいの範囲が、べこんて地下に向かってへこんでやがる……ったく、どんだけすごかったんだよ……
ようやく拳の加重圧が収まり、
俺がまだ建材なのを確認したミラッパは、その顔に満面の笑みを浮かべ
「アタシの一発目を完璧に受け止めたのって、あなたが初めてっぱ」
そうですかい、そりゃどおも。
舌打ちする俺に、ミラッパは再度、その顔に満面の笑みを浮かべ
「じゃあ、どんどんいくっぱよぉ!」
本当に楽しそうに声をあげていった。
でもな……お断りだ
ミラッパが声を上げるのと同時に
俺が両手で支えてた剣が鈍く光った。
「ぱ?」
その異変に、目ざとく気づいたミラッパ。
だが、もう遅い。
次の瞬間
ミラッパの全身に、俺の剣からすさまじい加重圧が襲いかかっていく。
それは、あっという間にミラッパの全身を包み込んでいき、ミラッパの体を宙にはじき飛ばした。
さすがのミラッパも
一言も発することなく宙にふっとばされやがった。
全反射(フルカウンター)の宝剣
敵から受けた物理的攻撃を、倍にして相手に返す事が出来る宝剣だ
俺が手にしてんのは、この宝剣だ。
一見、すっげぇ便利そうな剣なんだが……制約があって実際の所、実践向きじゃない。
っていうのもこの宝剣、物理攻撃しか反射(カウンター)出来ない。
仮に拳に付加魔法がかかってたら、拳は受け止められるけど、魔法部分は全スルーして俺を直撃しちまうってわけだ。
しかも、相手の攻撃を一度完璧に受けきってからでないと反射(カウンター)出来ない。
今回のように、加重圧まで産み出してるミラッパの一撃をそもそも完璧に受けきることがどんだけ困難かってことだ……俺のように身体能力超向上してる勇者でなかったら、マジ死んでたぞ。
そんだけの拳だ……俺は両手で必死に受け止めるしかなかったわけで、この受け止めてる最中に、他の魔族から襲いかかられてたら、俺は為す術がなかったわけだ。
まぁ、これに関しては
俺が、この剣を取り出した時点で、ロミネスカスのヤツが全てを察知し、俺の横で防御魔法を展開して守護くれてたから、問題なかったんだけどな。
「まったく、あなたは無謀すぎます……こんな敵のまっただ中でそんなリスクの高い剣を使用するなんて……加えて、相手が魔法攻撃を使ってきていたらどうする気だったんですか!」
ロミネスカスが、防御魔法を展開しながら俺に悪態をついてくる。
でもなロミネスカス、お前が教えてくれたんじゃないか
ミラッパが女剣士をぶん殴った時『魔法を使った痕跡はない』って。
ミラッパの性格だ、あの女剣士相手にも初っぱなから全力でぶつかっていったに違いない。
となれば、俺にも初っぱなから全力でぶつかってくるに違いない……女剣士にしたのと同じ全力でな
全反射(フルカウンター)の宝剣により、自分の拳の倍のダメージをくらったミラッパは、
派手に宙に舞い上がった後、地面に落下した。
俺は、即座にその体を抱き上げると、救国の絆達と思われる奴らに視線を向けた
ったく、
揃いも揃って何、呆けた顔してやがんだ……今しかないだろ、逃げ出すタイミングは!
俺が声を発しようとすると
「そこのでかいの、気絶している女剣士を抱えなさい。
逃走経路があるのでしょう? とっとと案内しなさい!」
ロミネスカスが、その集団の元にすっげぇ勢いで駆け寄り怒鳴り上げていく。
その声で我に返った救国の絆の奴らは
一番でかいのが女剣士を肩にのせた
そして
「こ、こっちです!」
さっき、女剣士の代わりに剣を抜いてた小柄な女剣士が、先頭にたって広場の外に向かって走り出した。
そんな救国の絆の連中の動きに
ミラッパが吹っ飛ばされたことで、しばし呆けてた魔族のやつらも正気に戻り
「お、追え! ミラッパ様を取り戻すのだ!」
って、
救国の絆の奴らじゃ無くて、ミラッパを肩に乗せてる俺に殺到してくる……って、まじか!?
すると、
ロミネスカスが俺と、追ってくる魔族の間に立ちふさがり
「大爆破(ビッグブラスト)!」
爆破魔法をやたらめったら打ちまくっていく。
この影響で、追ってきてた魔族らは派手に吹っ飛び、周辺の建物までもが崩壊していく。
この崩壊のおかげで、広場からこの路地へ至る道が完全に封鎖された。
よし、これで時間が稼げる。
途中、騒ぎを駆けつけて、横道から現れる魔族らもいたんだが
そいつらは俺が、片手剣ですべてなぎ払った。
まぁ、雑魚魔族相手に後れをとってたら、勇者の名が泣くしな
俺とロミネスカスは、
こうして救国の絆の奴らとともに、路地を細かく駆け回りながら、城塞都市の奥深くへと突き進んでいった。
◇◇
小一時間は走り続けただろうか。
この城塞都市の下水道と思われる配管道を抜け、その奥に隠されていた一室の中に俺達はいた。
広場でミラッパの一撃を食らって気絶していた女剣士は
先ほどロミネスカスの治癒魔法を受けてどうにか動けるまでには回復しているんだが
「ひどいものね……両腕の骨どころか、脊髄まで砕けてたわよ……一応再生したけど、反射感覚が完全に戻るまでには、かなり時間がかかるでしょうね」
と、ロミネスカス。
しれっと言っているが、おそらくロミネスカスが治癒しなければ確実に死んでいたってことだろう。
それをわかっているらしく、女剣士はロミネスカスに向かって
「……本当に、……本当にありがとうございました」
そう言いながら、その場で土下座をしていく。
だが……なんだろう
気のせいか、この部屋の奴ら、俺とロミネスカスに、妙に距離を取っているような気が……
って
ここで俺、ロミネスカスの姿を見て、理解した。
俺とロミネスカス、魔族の姿に変化したままじゃん!?
いくら自分達を助けたからといって……相手が魔族の姿してちゃ、そりゃ警戒もするわな。
俺に言われて、
ロミネスカスは、慌てて変化魔法を解除した。
これにより
俺とロミネスカスが、本来の姿である人の姿に戻ったことで、救国の絆のメンバーもようやく警戒心を解き、安堵のため息をもらしていった。
先ほどロミネスカスに土下座した女剣士は、改めて俺とロミネスカスの前に歩みでると
「改めてお礼を言わせて頂きたい……私を……そして、捕らわれていた我が仲間達を助けていただき、本当にありがとう……心から感謝するでござる」
そう言うと、再びその場で土下座していく。
この女剣士
長髪を後頭部でポニーテールにまとめており、どこか和装を思わせる出で立ちをしている……
和装といっても、俺の世界での呼び名だしな、この世界でこれをどう言ってるのかまではわからないが。
「我が名はミツルミ、救国の絆の突撃隊長を仰せつかっている者でござる。
この部屋にいるのは、我が配下にあたる者達でござる」
ミツルミは、そう言いながら後方を振り返っていく。
数にして9人……救出した2人を会わせて11人ってとこか。
男が3で女が8
女のうち、3人が魔法職で、あとは皆騎士か剣士らしい。
……とはいえ……なんなんだ、この脆弱な面々は?
ミツルミは、リーダーをやっているだけあってA級の剣士に分類出来るが、
あとの面々は、軒並みE級かF級だ……Fなんざ駆けだしの冒険者レベルだぞ?
一同のレベルを脳内でチェックしながら、俺は思わず頭を抱えていく。
「……失礼だけど、突撃隊にしては、ちょっとお粗末なんじゃないか? この面々はさ……」
俺はそう言いながらミツルミを真正面から見つめていった。
その言葉に
後方に控えていた、一番体のデカい男がいきりたったが、周囲の者が慌ててそれを止めていく。
表向き、渋々といった感じで引き下がった男だが、本気で俺に向かってこようとしていたかどうかは怪しいもんだ……
「覚えてるぜ、お前、ミツルミがやられた時、腰を抜かさんばかりに倒れ込んでたじゃん。
なんで今の勢いをあの時ださなかったんだ?」
俺がそう言うと、この男
「い、いや、その……」
そう言いながら、足下を見つめて黙り込んでいく。
その様子に、周囲も思わず苦笑をもらしていった。
そんな、俺と男とのやりとりを横目で確認していたミツルミは、眉をしかめながら改めて俺に視線を向けた。
「……お察しのとおりでござる。この者達は、皆戦場に立って間がないでござる……
歴戦の勇士達は、皆捕まり、慰み者にされた挙げ句……」
あぁ、そういうことか……
さっきのあの広場のショーでみんなやられちまったってことか……
ここでミツルミは、俺ににじり寄ると
「そこな剣士殿に、折り入ってお願いがござる……どうか、我ら救国の絆に協力してはもらえまいか?」
ミツルミがそう言うと、その後方にいた全員が、その後方に付き従い、その場に膝を降ろしていく。
土下座の習慣は、ミツルミにしかないらしく、他の者達は皆、片膝をつき、両手を床についた状態で頭を下げている。
「貴殿のような人族の剣士が、まだこの世界に存命であったことは我ら救国の絆にとっても幸いであったと思う……なぜ、どうやって貴殿が今まで生きながらえて来たかは詮索せぬ……
場合によっては……魔族の片棒を担がれたかも知れぬ……だが、それも問う気はない……
だから、どうか……どうか我らに力を貸して欲しい……勇者ディフェンダ姫様とともに魔王を討ち滅ぼす、その手助けを、どうかしてもらいたい」
っとぉ……
ここで、忘れたかった名前がぽ~んと出てきたぞ……
そもそも、この最悪な状況を作り出している諸悪の権化……勇者ディフェンダ姫……
俺の横で、ロミネスカスもこめかみに人差し指をあてて首を左右にふってやがる……そりゃそうなるよな
……だが、まてよ
ここでディフェンダの名前が出るってことは……ひょっとしてだが、こいつら、ディフェンダの命令を受けて動いている……なんてことは
「……いえ、ディフェンダ様とは、我らが父の世代から、一度もお話をさせていただいたことがござらぬ」
……だよねぇ……
自分以外の城の人間を全員追い出した上で
あんだけの防御を自分の周囲に展開しまくってる姫勇者さんだもん……別働隊を組織して……なんて期待する方がどうかしてるわな……
「ですが……我らは信じているでござる……今の勇者ディフェンダ姫様は、魔王を倒すための力を蓄えていられる最中なのだと……いつか必ず魔王討伐に立ち上がられる、と」
「我ら救国の絆は、勇者ディフェンダ姫が魔王討伐に立たれた折に、その先兵となり突撃する所存」
ミツルミの後方に控えていた、魔法使いらしき女が言葉を続けた。
そして、その場の一同は、一斉に
「「「我らが命、勇者ディフェンダ姫様のために」」」
そう言って、皆、頭を下げていった。
……あの引きこもり姫勇者様……こいつらにはすっごい高評価だな、おい
まぁあれだろうな……
誰もあったことがない中で、どんどん神格化されていったんだろう……
そうとでも思わなきゃやってられないわな……
だが、だからといって
あの引きこもり姫勇者が魔王討伐に立つ未来……いやいやいや、ありえないわぁ……
それでもこいつらは、
さらに子を成し、救国の絆を受け継いでいく気なんだろうな……
いつか、あの姫勇者が魔王討伐に立ち上がる、その日まで
……いやいやいや、ありえないわぁ……
俺は、救国の絆の奴らの話を聞き終えると、部屋の隅へと歩いて行った。
そこには、さっき俺が広場で仕留めたミラッパが転がっている。
衝撃がすさまじすぎたらしく、その体は傷だらけで、いまだに気を失っている。
結構な勢いで運んだんだが、まったく目を覚ます気配がなかったもんな……
逆を言えば、それだけこいつの一撃がすさまじかったってことだ……
今更ながらだけど、背筋が寒くなってくる……俺、よくあれを受け止め切れたな……
俺は、こいつが暴れ出さないように、隷属魔法をかけていく。
こうしておけば、いざ暴れ出したとしても強制的におとなしくさせることが出来るしな……っていうか、あのパワーで暴れられたらって思うと……背筋がまた寒くなってきやがった……
なんかやたらかかりにくかったんだが、どうにか6回目で隷属化に成功した……やれやれ、気絶してまで手間をかけさせやがる……
……そういえば魔族のやつら、こいつのことを『ミラッパ様』とか言ってたな……
ひょっとしたらこいつ、連隊長か、場合によっては魔王軍の幹部の1人かもしれない。
うまくすれば、魔王や魔王軍を情報を引き出せるかもしれないな……
俺はそう思いながら、こいつのレベルを脳内で確認しようとしたんだが……
おい、ちょっと待て、
この、属性欄にある【魔王の娘】ってのは、一体何の冗談だ?
-つづく
その勢いは半端ねぇ。
一度全身を後方にのけぞらせ、そのまま前に倒れ込んでやがんだが、その全ての勢いを両の拳に集約してやがる。
おそらく、あの剣士はこの拳を剣で受けたんだろう。
普通ならそれが正解だ。
うまく刃を立てることが出来れば、拳を使用不能にすることも出来るしな。
俺は、腰の魔法袋から取り出した剣で、この拳を真正面から受け止めた。
その途端
俺の全身に猛烈な圧力が襲ってくる。
人間には絶対出せない、拳の風圧による加重圧……魔法も使ってねぇのに、なんだこれ……
勇者で
しかも身体能力が超絶強化されていえる俺でさせ支えるのがやっとだ……
あの剣士、この拳が剣に当たった瞬間にはじき飛ばされたんだろう。
そりゃそうだ……勇者の俺ですら受け止めるだけで必死なんだ……
っていうか、そもそも生きてるのか!? あの女剣士……
「さっきの剣士よりはたるっぱねぇ! きゃはは! たっのしぃぱ!」
クソっ、このミラッパって魔族、俺が拳を受け止めてるのを心の底から喜んでやがる、
ってか、まだ押し込んでくるのかよ!?
俺は永遠じゃねぇのかって時間、剣を両手で支え、ミラッパの両の拳を受け止め続けた。
実際は、まぁ、1,2秒だったんだろうけど、俺にはすっげぇ長時間に感じられたわけだ……
とにかく、すげぇ加重圧だった。
見ると、俺の足下は、俺を中心にして半径2mくらいの範囲が、べこんて地下に向かってへこんでやがる……ったく、どんだけすごかったんだよ……
ようやく拳の加重圧が収まり、
俺がまだ建材なのを確認したミラッパは、その顔に満面の笑みを浮かべ
「アタシの一発目を完璧に受け止めたのって、あなたが初めてっぱ」
そうですかい、そりゃどおも。
舌打ちする俺に、ミラッパは再度、その顔に満面の笑みを浮かべ
「じゃあ、どんどんいくっぱよぉ!」
本当に楽しそうに声をあげていった。
でもな……お断りだ
ミラッパが声を上げるのと同時に
俺が両手で支えてた剣が鈍く光った。
「ぱ?」
その異変に、目ざとく気づいたミラッパ。
だが、もう遅い。
次の瞬間
ミラッパの全身に、俺の剣からすさまじい加重圧が襲いかかっていく。
それは、あっという間にミラッパの全身を包み込んでいき、ミラッパの体を宙にはじき飛ばした。
さすがのミラッパも
一言も発することなく宙にふっとばされやがった。
全反射(フルカウンター)の宝剣
敵から受けた物理的攻撃を、倍にして相手に返す事が出来る宝剣だ
俺が手にしてんのは、この宝剣だ。
一見、すっげぇ便利そうな剣なんだが……制約があって実際の所、実践向きじゃない。
っていうのもこの宝剣、物理攻撃しか反射(カウンター)出来ない。
仮に拳に付加魔法がかかってたら、拳は受け止められるけど、魔法部分は全スルーして俺を直撃しちまうってわけだ。
しかも、相手の攻撃を一度完璧に受けきってからでないと反射(カウンター)出来ない。
今回のように、加重圧まで産み出してるミラッパの一撃をそもそも完璧に受けきることがどんだけ困難かってことだ……俺のように身体能力超向上してる勇者でなかったら、マジ死んでたぞ。
そんだけの拳だ……俺は両手で必死に受け止めるしかなかったわけで、この受け止めてる最中に、他の魔族から襲いかかられてたら、俺は為す術がなかったわけだ。
まぁ、これに関しては
俺が、この剣を取り出した時点で、ロミネスカスのヤツが全てを察知し、俺の横で防御魔法を展開して守護くれてたから、問題なかったんだけどな。
「まったく、あなたは無謀すぎます……こんな敵のまっただ中でそんなリスクの高い剣を使用するなんて……加えて、相手が魔法攻撃を使ってきていたらどうする気だったんですか!」
ロミネスカスが、防御魔法を展開しながら俺に悪態をついてくる。
でもなロミネスカス、お前が教えてくれたんじゃないか
ミラッパが女剣士をぶん殴った時『魔法を使った痕跡はない』って。
ミラッパの性格だ、あの女剣士相手にも初っぱなから全力でぶつかっていったに違いない。
となれば、俺にも初っぱなから全力でぶつかってくるに違いない……女剣士にしたのと同じ全力でな
全反射(フルカウンター)の宝剣により、自分の拳の倍のダメージをくらったミラッパは、
派手に宙に舞い上がった後、地面に落下した。
俺は、即座にその体を抱き上げると、救国の絆達と思われる奴らに視線を向けた
ったく、
揃いも揃って何、呆けた顔してやがんだ……今しかないだろ、逃げ出すタイミングは!
俺が声を発しようとすると
「そこのでかいの、気絶している女剣士を抱えなさい。
逃走経路があるのでしょう? とっとと案内しなさい!」
ロミネスカスが、その集団の元にすっげぇ勢いで駆け寄り怒鳴り上げていく。
その声で我に返った救国の絆の奴らは
一番でかいのが女剣士を肩にのせた
そして
「こ、こっちです!」
さっき、女剣士の代わりに剣を抜いてた小柄な女剣士が、先頭にたって広場の外に向かって走り出した。
そんな救国の絆の連中の動きに
ミラッパが吹っ飛ばされたことで、しばし呆けてた魔族のやつらも正気に戻り
「お、追え! ミラッパ様を取り戻すのだ!」
って、
救国の絆の奴らじゃ無くて、ミラッパを肩に乗せてる俺に殺到してくる……って、まじか!?
すると、
ロミネスカスが俺と、追ってくる魔族の間に立ちふさがり
「大爆破(ビッグブラスト)!」
爆破魔法をやたらめったら打ちまくっていく。
この影響で、追ってきてた魔族らは派手に吹っ飛び、周辺の建物までもが崩壊していく。
この崩壊のおかげで、広場からこの路地へ至る道が完全に封鎖された。
よし、これで時間が稼げる。
途中、騒ぎを駆けつけて、横道から現れる魔族らもいたんだが
そいつらは俺が、片手剣ですべてなぎ払った。
まぁ、雑魚魔族相手に後れをとってたら、勇者の名が泣くしな
俺とロミネスカスは、
こうして救国の絆の奴らとともに、路地を細かく駆け回りながら、城塞都市の奥深くへと突き進んでいった。
◇◇
小一時間は走り続けただろうか。
この城塞都市の下水道と思われる配管道を抜け、その奥に隠されていた一室の中に俺達はいた。
広場でミラッパの一撃を食らって気絶していた女剣士は
先ほどロミネスカスの治癒魔法を受けてどうにか動けるまでには回復しているんだが
「ひどいものね……両腕の骨どころか、脊髄まで砕けてたわよ……一応再生したけど、反射感覚が完全に戻るまでには、かなり時間がかかるでしょうね」
と、ロミネスカス。
しれっと言っているが、おそらくロミネスカスが治癒しなければ確実に死んでいたってことだろう。
それをわかっているらしく、女剣士はロミネスカスに向かって
「……本当に、……本当にありがとうございました」
そう言いながら、その場で土下座をしていく。
だが……なんだろう
気のせいか、この部屋の奴ら、俺とロミネスカスに、妙に距離を取っているような気が……
って
ここで俺、ロミネスカスの姿を見て、理解した。
俺とロミネスカス、魔族の姿に変化したままじゃん!?
いくら自分達を助けたからといって……相手が魔族の姿してちゃ、そりゃ警戒もするわな。
俺に言われて、
ロミネスカスは、慌てて変化魔法を解除した。
これにより
俺とロミネスカスが、本来の姿である人の姿に戻ったことで、救国の絆のメンバーもようやく警戒心を解き、安堵のため息をもらしていった。
先ほどロミネスカスに土下座した女剣士は、改めて俺とロミネスカスの前に歩みでると
「改めてお礼を言わせて頂きたい……私を……そして、捕らわれていた我が仲間達を助けていただき、本当にありがとう……心から感謝するでござる」
そう言うと、再びその場で土下座していく。
この女剣士
長髪を後頭部でポニーテールにまとめており、どこか和装を思わせる出で立ちをしている……
和装といっても、俺の世界での呼び名だしな、この世界でこれをどう言ってるのかまではわからないが。
「我が名はミツルミ、救国の絆の突撃隊長を仰せつかっている者でござる。
この部屋にいるのは、我が配下にあたる者達でござる」
ミツルミは、そう言いながら後方を振り返っていく。
数にして9人……救出した2人を会わせて11人ってとこか。
男が3で女が8
女のうち、3人が魔法職で、あとは皆騎士か剣士らしい。
……とはいえ……なんなんだ、この脆弱な面々は?
ミツルミは、リーダーをやっているだけあってA級の剣士に分類出来るが、
あとの面々は、軒並みE級かF級だ……Fなんざ駆けだしの冒険者レベルだぞ?
一同のレベルを脳内でチェックしながら、俺は思わず頭を抱えていく。
「……失礼だけど、突撃隊にしては、ちょっとお粗末なんじゃないか? この面々はさ……」
俺はそう言いながらミツルミを真正面から見つめていった。
その言葉に
後方に控えていた、一番体のデカい男がいきりたったが、周囲の者が慌ててそれを止めていく。
表向き、渋々といった感じで引き下がった男だが、本気で俺に向かってこようとしていたかどうかは怪しいもんだ……
「覚えてるぜ、お前、ミツルミがやられた時、腰を抜かさんばかりに倒れ込んでたじゃん。
なんで今の勢いをあの時ださなかったんだ?」
俺がそう言うと、この男
「い、いや、その……」
そう言いながら、足下を見つめて黙り込んでいく。
その様子に、周囲も思わず苦笑をもらしていった。
そんな、俺と男とのやりとりを横目で確認していたミツルミは、眉をしかめながら改めて俺に視線を向けた。
「……お察しのとおりでござる。この者達は、皆戦場に立って間がないでござる……
歴戦の勇士達は、皆捕まり、慰み者にされた挙げ句……」
あぁ、そういうことか……
さっきのあの広場のショーでみんなやられちまったってことか……
ここでミツルミは、俺ににじり寄ると
「そこな剣士殿に、折り入ってお願いがござる……どうか、我ら救国の絆に協力してはもらえまいか?」
ミツルミがそう言うと、その後方にいた全員が、その後方に付き従い、その場に膝を降ろしていく。
土下座の習慣は、ミツルミにしかないらしく、他の者達は皆、片膝をつき、両手を床についた状態で頭を下げている。
「貴殿のような人族の剣士が、まだこの世界に存命であったことは我ら救国の絆にとっても幸いであったと思う……なぜ、どうやって貴殿が今まで生きながらえて来たかは詮索せぬ……
場合によっては……魔族の片棒を担がれたかも知れぬ……だが、それも問う気はない……
だから、どうか……どうか我らに力を貸して欲しい……勇者ディフェンダ姫様とともに魔王を討ち滅ぼす、その手助けを、どうかしてもらいたい」
っとぉ……
ここで、忘れたかった名前がぽ~んと出てきたぞ……
そもそも、この最悪な状況を作り出している諸悪の権化……勇者ディフェンダ姫……
俺の横で、ロミネスカスもこめかみに人差し指をあてて首を左右にふってやがる……そりゃそうなるよな
……だが、まてよ
ここでディフェンダの名前が出るってことは……ひょっとしてだが、こいつら、ディフェンダの命令を受けて動いている……なんてことは
「……いえ、ディフェンダ様とは、我らが父の世代から、一度もお話をさせていただいたことがござらぬ」
……だよねぇ……
自分以外の城の人間を全員追い出した上で
あんだけの防御を自分の周囲に展開しまくってる姫勇者さんだもん……別働隊を組織して……なんて期待する方がどうかしてるわな……
「ですが……我らは信じているでござる……今の勇者ディフェンダ姫様は、魔王を倒すための力を蓄えていられる最中なのだと……いつか必ず魔王討伐に立ち上がられる、と」
「我ら救国の絆は、勇者ディフェンダ姫が魔王討伐に立たれた折に、その先兵となり突撃する所存」
ミツルミの後方に控えていた、魔法使いらしき女が言葉を続けた。
そして、その場の一同は、一斉に
「「「我らが命、勇者ディフェンダ姫様のために」」」
そう言って、皆、頭を下げていった。
……あの引きこもり姫勇者様……こいつらにはすっごい高評価だな、おい
まぁあれだろうな……
誰もあったことがない中で、どんどん神格化されていったんだろう……
そうとでも思わなきゃやってられないわな……
だが、だからといって
あの引きこもり姫勇者が魔王討伐に立つ未来……いやいやいや、ありえないわぁ……
それでもこいつらは、
さらに子を成し、救国の絆を受け継いでいく気なんだろうな……
いつか、あの姫勇者が魔王討伐に立ち上がる、その日まで
……いやいやいや、ありえないわぁ……
俺は、救国の絆の奴らの話を聞き終えると、部屋の隅へと歩いて行った。
そこには、さっき俺が広場で仕留めたミラッパが転がっている。
衝撃がすさまじすぎたらしく、その体は傷だらけで、いまだに気を失っている。
結構な勢いで運んだんだが、まったく目を覚ます気配がなかったもんな……
逆を言えば、それだけこいつの一撃がすさまじかったってことだ……
今更ながらだけど、背筋が寒くなってくる……俺、よくあれを受け止め切れたな……
俺は、こいつが暴れ出さないように、隷属魔法をかけていく。
こうしておけば、いざ暴れ出したとしても強制的におとなしくさせることが出来るしな……っていうか、あのパワーで暴れられたらって思うと……背筋がまた寒くなってきやがった……
なんかやたらかかりにくかったんだが、どうにか6回目で隷属化に成功した……やれやれ、気絶してまで手間をかけさせやがる……
……そういえば魔族のやつら、こいつのことを『ミラッパ様』とか言ってたな……
ひょっとしたらこいつ、連隊長か、場合によっては魔王軍の幹部の1人かもしれない。
うまくすれば、魔王や魔王軍を情報を引き出せるかもしれないな……
俺はそう思いながら、こいつのレベルを脳内で確認しようとしたんだが……
おい、ちょっと待て、
この、属性欄にある【魔王の娘】ってのは、一体何の冗談だ?
-つづく
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サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
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魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
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貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
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元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
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三話完結です。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
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2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
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