とある勇者のアフターライフ ~勇者派遣会社活動記録

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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001章 イゾルンダ世界

1章003ーそのステージ、罠だらけにつき

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 城への突入に失敗したこの夜。
 俺とロミネスカスは、城の北にある、魔王軍の城塞都市の中にいた。

 ロミネスカスの変化魔法で

 俺は吸血騎士
 ロミネスカスは吸血魔道士に姿を変化させている。

 万が一に備え、ステータス画面は俺が書き換えている。
 というのも、勇者によるステータス書き換え更衣は神の祝福がある分、A級魔法使いであるロミネスカスの行う物よりセキュリティが高くなるって寸法だ。

 しかし、あれだな……

 俺はこの城塞都市に入ってからというもの、呆れるしかなかった。
 城塞都市と言うだけあり、この都市は、城を中心として強固な城壁が構築されてはいるのだが、そこには衛兵もいなければ、防御魔法もかけられていない。

 要は『ただ城壁で囲まれただけ』の都市なんだ……

 だが、街中をふらついてみて、それも納得だ。

 街中には、魔王軍の魔獣や魔物、亜人達が満ちあふれている。
 皆、酒を飲み、何か食っては陽気に笑い声を上げている。

 もし俺とロミネスカスが
 なんの予備知識もなしに、最初にこの城塞都市に送り込まれていたら、何の疑いも無く、この都市を人族の拠点の1つと思っただろう……

 ……俺の知ってる大魔王の魔王軍ってのは、こんなに士気が緩んでなかったぞ……


 そう
 俺が対峙し、倒した大魔王レブラゴナドスは、呆れるぐらいに狡猾で、用心深く、そして強かった。
 ただ強いだけで無く
 常に俺からの攻撃に備え、いついかなる時も油断なく全軍の士気を高いままに保ち続けていた。
 
 ……こいつらは、なんでここまで馬鹿騒ぎが出来るんだ? まだ勇者は死んでないってのに……

 すると
 何やら広場の方から声が聞こえてきた。

 俺とロミネスカスは、そちらへと向かってみると
 広場はすでに魔族達によって埋め尽くされていた。

 皆、拳を突き上げ
 声をあげ
 目を血走らせている

 そんな皆の視線の先
 広場の中央にある、一段高い位置に儲けられているステージの上には、
 蛙の顔をし、背に悪魔の羽を生やした魔族が立っていた。
「皆さん、ご覧くださいまし……」
 その蛙魔族は、広場中に向かって声をあげた。
「ここに引き釣り出しましたるわ、この城塞都市の闇にて暗躍しております、人族の生き残り
『救国の絆』のメンバーどもでございます」
 そう言って、蛙魔族が右手を上げると、
 その手の中には、両手を後ろでに縛られた女が2人無造作に握られた格好で、持ち上げられていた。

 2人とも全裸に近く、その体を隠す物はなにひとつない。
 そのため、後手に縛り上げられたママ、蛙魔族の頭上髙くに持ち上げられた2人には、自分達の体を隠す術が無く、その肢体が余すところなく広場に集まっている魔族達に晒されていた。

 2人の口には、猿ぐつわがガッチリはめられている……おそらく自決防止用だろう。

 見ると
 2人の女のうち、
 1人は完全に絶望し、目を閉じているものの、
 もう1人の女は、この期に及んでも、まだその目を見開いている。

「この2人、
 あろうことか、人族の奴隷娼館に、奴隷娼婦として紛れ込み、この城塞都市の……いやさ、魔王様の居城の情報を、客から聞き出そうとしておりましてございます」
 蛙魔族がそう言うと、
 広場の魔族達からの声が一層大きくなった。
 
 それは、
「ざま~みろ!」
「いい気味だ!」
「人間風情に何が出来るってんだ」
 といった、罵詈雑言が大半をしめており、
 それ以外はほぼ嘲笑の類いで占められていた。


 ……しかし、この一件で俺的にはちょっとありがたい情報が手に入ったと思っている。
 この城塞都市には、人族の生き残りがいて、救国の絆を名乗って活動しているってことだ。


 俺達は群衆の外周の端に立ち、ステージの上へ視線を向けていた。
 すると
 不意に隣に立っているロミネスカス~吸血魔道士スタイル~が、俺の足を軽く踏んづけた。

……な、なんだ?

 俺がそちらへ視線を向けると
 ロミネスカスはステージに向かって右手を振り上げ
「いい気味だねぇ」
 などと声を上げている。

 その時、俺はロミネスカスの意図を悟った。

 というのが
 ちょうどロミネスカスの顔の向こう
 数人の魔族の衛兵が群衆を見回していやがったんだ。

 やべ
 こいつら、群衆の中で怪しい動きをしてる……例の救国の絆の関係者を燻り出そうとしてやがんのか……

 俺は即座に両手を振り上げ
「ワ~ワ~」
 って、声を上げた……し、仕方ねぇだろ、すぐに言い言葉が思いつかなかったんだからよ……

 でもまぁ
 ロミネスカスの機転のおかげで、
 俺達のことをチラチラ見ていた衛兵らは、その場を離れ、別の場所へと移動していった。

 ……ふぅ
 マジで、ロミネスカス様々だな

 そんな俺達を含んだ群衆を前に
 蛙魔族は
「この人間共は、
 只今より24時間、この場でさらし者にいたしまする。
 処刑は明日のこの時間……それまでに、こやつら2人に、今まで生きてきたことを存分に後悔させてあげてくださいませ」
 そう言うと、四方に向かって恭しく一礼し、
 2人を後ろ手に拘束している綱を、ステージの真ん中から着きだしている鋼鉄製の棒にくくりつけていった。

 これであの2人は、
 ほぼ裸状態のまま、あのステージ上に固定されたってわけだ。

 蛙魔族がステージを降りると同時に
 2人に向かって魔族達が群がっていく……そりゃそうだろう
 それが目的のさらし者なんだしな……

 要はあれだ
 救国の絆のメンバーをこうして晒し者にし、
 魔族共になぶらせ、
 我慢出来ずに仲間が助けに出てきたところを一網打尽にする……

 お決まりではあるが
 効果は絶大だよな……

 地下に潜ってる奴らをあぶり出すにはもってこいだ……

 最初はまだいい……
 士気が高いウチは、仲間がなぶられ、それを見殺しにしたとしても、皆
「仕方なかった」「この敵はいつかかならず……」
 そうなるんだが、
 これが長くなってくると
「どうせ助けにいかないんだろ」「どうせ何も出来ないんだろ」
 になっていき、徐々にメンバーの士気が下がり、メンバーそのものがいなくなっていくんだ……

 
 ……しかし、だ、どうする俺
 目の前の2人

 あれは貴重な人材だ
 あの2人を助けることが出来れば、いまだに魔王と対峙しているという、救国の絆と関係をもてる可能性が高まる。
 そうすれば、俺達に、致命的に枯渇している魔王軍の情報が手に入る可能性が高い。

 だが、リスクもでかい。

 そもそも、このイベントそのものが、救国の絆のメンバーをあぶり出すために仕掛けられているのは明白だ。
 ってことは、当然、敵の襲撃には万全の体制を敷いているはずだ。
 実際、俺の索敵魔法も、あのステージに対して警告音を発しまくっている……

 ……とはいえ、目の前じゃあ、もう陵辱行為が始まってる……
 え~い、くそ……考えてる暇はねぇか

 俺が、そう思いながら駆け出そうとした
 まさにその時だった。

 
 広場の四方の建物がいきなり爆音とともに崩壊し、
 広場に集まっている群衆めがけて倒れ込んでいく。

 建物の崩落は、しっかり計算されていて、巧みにステージには届かないように調整されていた。

 ……こんだけの警備の中、とくやったもんだ

 建物の残骸に魔族が押しつぶされ、あちこちから阿鼻叫喚の声が上がる中
 数人の人影がステージ上へと駆け上がっていく。

「な、なんだてめぇ……」
 女の1人に馬乗りになり、陵辱の最中だった魔族が、言葉の途中で横薙ぎに切り裂かれた。
 同時に、
 ステージ上に残っていた魔族総勢6人を、そのステージに駆け上がった4人の人影が瞬時に切り裂いていく。
「さぁ、逃げるぞ」
 そう言い、その人影の数人が、人質となっていた人族の拘束を剣で切り裂き、その手を引いていく。

 来るときはバラバラだった、その人影は
 人質を確保すると、今度は一丸となってステージ下へと駆け下りていく。

 さすがに、魔族の衛兵らがその前に立ちはだかっていくが
 その戦闘を走っている剣士風の女は、相当腕が立つらしく、そのことごとくを切り伏せていく。

 これなら
 このままこの場を脱出出来そうだな……

 俺は、その進行方向を見つめながら、心の中で安堵のため息をもらしつつ
 あの一群の行き先を探ろうと、別ルートから移動を開始しようと、移動しはじめた。

 すると

 その一群の動きがいきなり止まった。

 ……な、なんだ? 何かあったのか?
 

 俺が、その方向へ視線を向けると
 魔族の女が、一群の前に立ちはだかったいる。

 ……しかも、先ほどの剣士の女は、その魔族の女に一撃で倒されたらしく、地面に大の字になってやがる……おいおい、マジか……

 俺は、さりげなくその方向へと歩を進めた。
 ロミネスカスも、その後に続いている。

 すると
 その立ちはだかっている魔族の甲高い声が聞こえてきた。

「何よ何よ何よぉ、こぉんなシチュエーションで助けにやってくる猛者さんなんだからぁ、
 ミラッパ、めたんこ期待したのに、この雑魚っぷりは酷すぎっぱ。一発で気絶って、ひどいっぱ」
 その女は、そう言いながら、すっごく不満そうに頬を膨らませて地団駄を踏んでいる……
 
 ……この魔族の女、演技じゃ無くて、本気で悔しがってやがる……
 っていうか
 この気絶してる女にしたって、そこまで雑魚じゃねぇぞ……
 それなりの剣の技術は持ってた……まぁ、俺には遠く及ばないが

 しかしだな
 そんな剣士の女を前にして、このミラッパとか言った女
 なんか、シャドーボクシングでもするかのように、手足を動かし続けていく。

 その様子を見ている俺の耳元に、ロミネスカスが口を寄せ
「……魔法を使った痕跡はないわ……あのミラッパって女、素手であの剣士を倒したようね」
 って、おいおいマジか!?
 剣士を素手で倒しなんて、よっぽどの実力差がないとありえねぇだろうに……

 先頭を走っていた剣士が倒されたことで
 その後方を走っていた剣士が、そのミラッパっていう魔族の前に対峙した。

 ……だが、この剣士
 どうみてもお話にならない……
 対峙している今の段階で、すでにガタガタ震えまくってて、すでにやる前から勝敗は見えてるわな

 ミラッパって魔族も、それがわかってるらしく
 その顔に不服そうな表情を浮かべ、頬をぷぅっと膨らませると
「こんな雑魚じゃつまんないっぱ……後は衛兵が好きにするっぱ」
 そう言って、剣士に向かって背を向けた。

 それに呼応して
 周囲から駆け寄って来ていた衛兵らが前に出て、一群に襲いかかっていく。

 その時
 ロミネスカスが俺の肩を掴んだ
 同時に、俺の耳元に口を寄せ
「……ウインダ、わかってるとは思いますが、くれぐれもここは自重を……」
 そう、声を掛けてきたんだが

 その時、俺はあることに気づいた。
 
 あの一群に、背を向けていたミラッパって魔族が、ジッと俺を見ていたんだ。
 その口元には、何やら笑みが浮かんでいやがる。

「衛兵、ちょっと待つっぱ」
 そう言うと、そのミラッパって魔族は、俺に向かってツカツカと歩いてくる。

「そこの男……魔族の格好をしてるけど、違うっぱね?」
 そう言い、腕をグルグル回すと、ミラッパはその体を宙に躍らせた。

 やべぇ!? こりゃバレてる!?
 俺は、ロミネスカスを突き飛ばすと、腰の魔法袋へ手を伸ばす。

 そんな俺に
 宙に舞ったミラッパは、その両の拳を握り合わせ、全身を逸らせまがら、その拳を俺に向かって振り下ろさんとしていやがった。

ーつづく
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