とある勇者のアフターライフ ~勇者派遣会社活動記録

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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001章 イゾルンダ世界

1章002ーその城、超絶堅固につき

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 酒場を出た俺とロミネスカスは、俺達が最初に召喚された小高い丘の上へと戻っていた。

 街中からでは城の全貌がはっきりわからなかったからなんだが……
 事情を知ってから改めて見て見ると、この城、すごいことになってるな。

 小山の頂上にある城なんだが
 その周囲は城壁で覆い尽くされており、その切っ先の当部分が少ししか見えていない。
 そっから下は全部城壁で覆い隠されている。

 その城壁は、まるで山をグルグル巻きにするかのように、山の全域を覆い尽くしており、その切れ間がどこにあるのか、これだけ離れた位置から見てもまったく検討がつかない。

 その城壁は、そのまま山麓まで伸びているんだが
 姫勇者こと、勇者ディフェンダ姫は、その城壁の内部に、いまだにデストラップやら仕掛けなんかを新築しているらしく、今でも毎日、どこかの城壁がせり出しているんだとか……

「自分防衛要塞、築30年にしていまだ増設中……ねぇ」
 俺は、城の周囲を何度か見回し、思わず乾いた笑いを浮かべた。

 ったく
 民衆を守るため、魔王を倒してこその勇者じゃねぇのかよ……


 俺の隣では、ロミネスカスが魔法で城の周囲を検索し続けている。

「……ホント、呆れるくらいに堅固な城になってるわ……物理的にも、魔法的にも……」
 一通り検索し終わったロミネスカスもまた、さっきの俺みたいに、その顔に乾いた笑いを浮かべたていた。
「あの城、
 物理的には見ての通りの超強固な城壁で守られているわ。
 しかも、その内部には無数のデストラップが仕掛けられていて、城にたどり着くのも困難な状況ね
 ……っていうか、そもそも誰一人として近づけなくしている……そう言った方が正確かしら……

 魔法的には、周囲10km圏内に半円型の対魔防壁を張り巡らせているわ。
 つまり、あの城を中心とした10km圏内には、魔王やその手下は、容易には侵入出来ない仕組みになっているわね。
 しかも、超級の防壁が7枚……ほんと、半端じゃないわね……」

 ロミネスカスの言葉を聞いて、俺は酒場の亜人娘の言葉を思い出した。
 
 あの亜人娘は
『この城の周囲以外は、もう全部魔王の支配下なんですよ?』
 っていってたけど……そういうことだったのか。

 侵攻してくる魔王軍
 それに蹂躙された人々……
 勇者ディフェンダ姫は、自分を守るためだけに城壁と対魔防壁を張り巡らせ
 魔王軍の侵攻から生き残ったわずかな人々は、その防壁と、城壁の隙間に街を作ってどうにか暮らしてる……それがあの街ってわけか

「東西、そして北はすでに対魔防壁一杯にまで城壁が伸びているわね……人が住めるだけのスペースが残っていろのは、もうこの南側だけね」
「……城の周囲はどんな感じだ?」
「そうね……城の北側に魔王の物と思われる巨大な城塞都市が築かれているわね……
 そこを中心に、この城を取り囲むようにして魔王軍の城壁を築かれているわ」

 ……なるほどねぇ……
 あの街の住人達は、逃げ出したくても、その周囲を、すでに魔王軍に取り囲まれてて逃げ場なしってことか…… 


「なぁ、ロミネスカス」
「何かしら? ウインダ」
「お前ならこういうとき、どうする?」
「私?」
 俺の言葉に、ロミネスカスは乾いた笑いを浮かべると
「逃げるに決まっているでしょう……そもそもこの世界は私が本来いるべき世界ではありませんし、
 すでにこれだけの者達しか生き残っていないのです。
 今更魔王を倒したところで、もうどうにもならないでしょうから」
 そう言いながら俺へその視線を向けた。

「……ですが
 私の知っている、とある勇者は、
 例えこんな状況であっても、きっとなんとかしようとするでしょうけどね」

 俺は、ロミネスカスへ再度視線を向けた。
 ロミネスカスは、そんな俺をニッコリ笑って見つめてやがる。

「……まったく、お前の知ってる勇者ってのは、ずいぶんお人好しでお節介なんだな」
 そう言いながら俺は、魔法袋からいくつかの剣を取り出していく。
「……ところで、ウインダ。
 あなたは何をしているのです?」
 そう聞いてくるロミネスカス。
「とにかく、その30年引きこもってるっていう勇者ディフェンダ姫ってのに、一度会いに行ってみないことには、、なんとかしようにも、どうにもならないだろ?」
 俺は、ロミネスカスにそう応えると、飛翔の宝剣を天にかざした。


 飛翔の宝剣
 使用者に飛行能力を与る宝剣。
 その分、攻撃力には欠けるが、刃を振るい衝撃波を生じさせ、遠距離攻撃する事が出来る。


 地上は城壁だらけ
 ならば、空から行くしかないだろ。

 俺が宝剣に力を込めていくと、
 
 その前方でロミネスカスが俺にいくつもの付加魔法をかけてくる。

 防御力向上
 身体能力向上
 球体視野
 危険察知能力向上
 自動治癒
 ……

「じゃ、ま、とりあえず言ってくる」
 俺は、飛翔の宝剣の準備が整うと、そのまま天空に向かって飛び上がった。

 
 俺の体は一瞬にして宙に舞い上がる。
 俺はその上空で一度静止すると、前方の城へ視線を向けた。

 城の塔部分と、ほぼ同じ高さにまで上昇しているというのに
 ここでも、城は、その塔の先の一部しか見えない……ホント、あの城壁って、すごい高さまで作られてんだな……

 ま、考えても仕方ねぇ

 俺はその場から、塔に向かって一気に飛翔した。
 このまま、あの塔に突入し、勇者ディフェンダ姫に会うつもり……なんだが

 俺が城に向かって飛翔し始めた途端に、城や城壁から、すさまじい数の飛翔系モンスターが出現し、皆、一斉に俺に向かってきやがった。
 しかもそいつら、鷹人や、鷲人が武具を手にしたやつらを始め
 でっかいワイバーンや、ロック鳥まで、しかもそんなデカ物達がすごい数出現してきて、その全員が俺に向かって殺到してくる。

「ち、ちょっと!? 何それ!?」
 正直予想外だ。
 こんだけの防備を固めてる勇者ディフェンダ姫のことだから、当然対空防御対策も当然何かしてるとは思ってたさ。
 ……でもな、あんだけの対魔防壁を周囲に展開してるんだから、その内側の対空防御は若干薄いと予測してたんだが……

 俺の予想を遙かにこえたの大群の襲来に、俺は一度急降下すると、城壁の隙間へと逃げ込んだ。
 当然のように飛行怪物らは、俺の後をおいかけて城壁の内部へと殺到していく。
 そのあまりの数に、城壁がすさまじい勢いで破壊されていった。

 その派手な壊れっぷりを見た俺は
「案外、このまま逃げ回ってれば、この迷路みたいな城壁を、城までの通路分くらいは無力化出来るんじゃないか?」

 なんて思ったんだが……甘かった

 破壊された城壁部分は、そお一体が光ったかと思うと、一瞬にして元通りに戻っていく。

 げ……じ、自動修復魔法がかかってんのか? それとも、勇者ディフェンダ姫が魔法で直してんのか?

 とにかく
 どっちにしても、俺にとっては最悪な状態だ

「えぇい、クソ!」
 後方から追いかけてくる飛行怪物達から、次々に放たれるブレスや投擲に加え、城壁内にも、ミノタウロスやサイクロプスといった巨大地上怪物の群れが続々と出現しており、城壁内を飛び回っている俺を執拗に追いかけてくる。

 その結果、俺の周囲は、あっと言う間に、空も地上も、すさまじい数の敵で埋め尽くされ
 その全てが俺めがけて殺到している。

「えぇいくそ!」
 俺はいちかばちか上空に身を躍らせ、城の塔部分へと顔を向けていく。

「おい! ディフェンダ姫! 俺はお前の手助けをしにきた、勇者派遣会社の勇者ウインダってもんだ!
 敵じゃ無い! だから話だけでも聞い……」
 俺がそこまで言葉にしたところで、
 四方からドラゴンブレスが襲ってきた。

 ご丁寧に、四方からなもんだから、俺には避ける場がない。
「くそがぁ!? 話だけでも聞けってんだ」
 俺は、手足を引き、体を小さくして身構えると
「体壁防御ぉ!」
 自分の周囲に、防御魔砲を展開した。

 魔法が苦手の俺の防御魔法じゃ、たかがしれてはいる。
 だが
 事前にロミネスカスが付加をつけてくれてるし、1発くらいはどうにかなるだろう……

 俺の思惑通り
 1発目の直撃はどうにか耐えることが出来た俺。

 だが、さすがに4匹のワイバーンによるブレス一斉攻撃はきつい。
 右足に結構なダメージをもらったな、こりゃ


 とにかく
 勇者ディフェンダ姫の防衛システムのど真ん中で
 しかもダメージまでくらったとなりと、これはもう引くしかない。

 俺は、再度城壁の中に逃げ込むと、そのまま壁を破壊しながら飛行を続け、どうにか城壁の外側へと飛び出すことに成功した。

「ウインダ!?」
 転がりながら丘の上へ着地した俺に、ロミネスカスが駆け寄り
 即座に、その前に立ちはだかる。

 杖を構え、
 俺を追撃してくるであろう飛行怪物や、城壁怪物達をここで防ごうって構えだ。

「かまわねぇ、ロミネスカス……先に逃げろ!」
「馬鹿をいわないで、アナタを残していけるわけないでしょう?」

 そんなやりとりをしている俺達。
 その前方
 城壁の端には、無数の飛行怪物と、地上怪物の姿があった。

 だが、こいつら
 不思議なことに、城壁より外側へは一切出てこようとしない。

 しばし城壁を挟んでにらみ合いになった俺達と、怪物達

 すると、怪物達は
 俺が、再度突入をしようとする意思がないことを悟ると、元いた場所へと戻りはじめた。
 ほどなくして、
 俺が脱出用に破壊した城壁も元通りになっていき、
 気がつけば、ついさっきまでの喧噪がまるで嘘のように、周囲一帯は元通りになって静まりかえっていた。


 ロミネスカスは、怪物達が戻っていったのを確認し、再度襲ってくる気配がないことを確認すると
 俺の側へと歩み寄り、俺の右足へ回復魔法をかけ始めた。
「……会いに行こうとしただけで、これですか……」
 ロミネスカスの言葉に、俺は
「あぁ……こりゃ、ほんと、やっかいだな……」
 苦笑しながら、城の方を見つめ続けていた。



◇◇side : Princess brave woman

「魔王だわ……魔王がまた私を殺しに来たんだわ……」
 ベッドの下に潜り込みながら、ディフェンダは、ガタガタ震えながら頭を抱えていた。
「昨日もだったわ……廊下の向こうでぴちょ~んって音がしたもの……
 あれもきっと魔王の刺客が暗躍した音なのよ」

 ベッドの下で震えながら、ディフェンダはその目の前にスクリーン状の物を表示させた。

 それは、ディフェンダの魔法でその場に投影されているらしく
 その中には、城とその周囲を覆っている城壁の見取り図が詳細に表示されていた。

「あぁ!? な、なんということでしょうか!?
 こんなに城壁が攻撃を受けているなんて……やはり魔王が……魔王がやって来たのですね……いや、いやよ、私は死にたくありません! 死にたくないんです!」
 ディフェンダは、そう言うと、スクリーンに投影されている城壁の見取り図に指をあて、あれこれ魔法を詠唱しながら何事かをかき込みをはじめた。
「そうよ……ここにデストラップを追加して……こっちには魔獣召喚トラップを追加しましょう。
 あとこちらには、対空防御用の魔獣を追加配備して……」
 
 ベッドの下で
 ディフェンダは、まるで何かに取り憑かれたかのように、魔法による書きこみを続けていく。


 その書き込みが終了する度に
 城壁が外側へと広がっていき、その城壁の近くにあった街並みを破壊していたのであった。

 だが、ディフェンダはそんなことなどお構いなしに、ベッドの下に潜りこんだまま
「もっとよ……もっと、もっともっと私を守る仕掛けを考えないと……作らないと……」
 ブツブツいいながら、その指を動かし続けていたのだった。


 勇者の天啓を受けた際、この世界の神から授かった『自分の想像した物を召喚出来る力』
 この力を使用し、ディフェンダは、自らを守るための何かを、ひたすら創造し続けていたのだった。
 

-つづく

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