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連載
さわこさんと、雪解け祭り 後日談
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雪解け祭りも無事に終了いたしました。
そんな居酒屋さわこさんの店内には、中級酒場組合のジュチさんの姿がありました。
「いやぁ、あんなにすごい雪解け祭りははじめてだったよ。みんなもすっごく感動していたのよねぇ」
ジュチさんは嬉しそうに微笑みながら、私が差し出しているほうじ茶を口になさっています。
「私ははじめてでしたけど、でも本当に素敵なお祭でしたものね」
ジュチさんの言葉に、私も笑顔でお応えいたしました。
お花見でしたら、私も自分の世界で何度か経験がございます。
桜がいっぱい植えられている公園などが、この時期満開の花で彩られておりますので、その花を見ながらみはるや和音達と一緒に毎年楽しくお花見をしていたものです。
とはいえ、お互いにあれこれ忙しくなってからはしばらくご無沙汰だったものですから、先日の雪解け祭りはとっても楽しかったんです。
ベルやエンジェさん、それにバテアさんやリンシンさん、シロやエミリア、ショコラさんの姿もございました。
お店の常連客の方々の姿もたくさんお見かけいたしましたし、街道の向かいで喫茶店を開店されているマリーさんも、私の屋台の向かいに出店されていましたので、時折お互いに手を振り合ったりしていたものです。
「あの日、ブロロッサムの木の精霊達がさわこの屋台に殺到してたじゃない? あれを見て、トツノコンベのみんなが公園のブロロッサムの木の周辺を綺麗にしてまわるようになったんだ」
「まぁ、それはきっと精霊さん達も喜んでいると思います」
「何しろ、ブロロッサムの木の精霊が現れるなんて、長い雪解け祭りの歴史の中でもはじめての出来事だったもんだからさ、街のみんなもすっごく感動してたんだ。もちろんアタシもなんだけどさ」
嬉しそうに笑うジュチさん。
そんなジュチさんに私も笑顔を返しました。
「えぇ、本当にあれは素敵な出来事でした」
……と、その時です。
カラカラ……
お店の扉が開きました。
同時に、小柄な女の子が店内に駆け込んできました。
「さわこ串焼きじゃ! ういんなの串焼きが食べたいのじゃ」
薄いピンクの髪の毛の女の子は、笑顔で私にそういいました。
そろそろ来るころだと思ってすでに準備済みだったものですから
「はい、準備出来ていますよ。みんなで仲良く食べてくださいね」
そう言いながら、ウインナーの串焼きが詰まっている折り詰めが入っている袋を、その女の子に手渡しました。
すると、その女の子は、
「いつもありがとうなのじゃ!」
折り詰めの入っている袋を抱えながら、嬉しそうに微笑みながらお店を出ていきました。
その光景を見ていたジュチさんが、ぽかんと口を開けておいでです。
「……あ、あのさ、さわこ……い、今のって……」
「はい、ブロロッサムの木の精霊さんですよ」
ジュチさんのお言葉に、笑顔で答えた私です。
◇
そうなんです。
あの日以降……きっちり3日に1回、お昼過ぎの居酒屋さわこさんに、ブロロッサムの木の精霊さんがやってくるようになったんです。
最初にやってきた時は、公園にあるブロロッサムの木全てが精霊さんになってやってきたものですから、私もびっくりしてしまったのですが、
「あの……次回からは誰か代表の方に取りに来てもらってもよろしいでしょうか?」
そうお願いしたところ
「「「わかったのじゃ!」」」
と、ブロロッサムの木の精霊さん達も了承してくれまして……そして、こうして3日に1回、代表の精霊さんがウインナーの串焼きを受け取りにくるようになったんです。
◇
「……しかし、ブロロッサムの木の精霊を呼び出しただけじゃなくて、その精霊達が通いたくなるお店って……さわこってすごいね、ホント」
私の話を聞いたジュチさんは、感心しきりといったご様子で何度も頷かれています。
「いえいえ、たまたまですよ。たまたま私の自家製のウインナーの串焼きを、精霊のみなさんが気に入ってくださっただけですので」
私は、そんなジュチさんに笑顔でお応えいたしました。
「あれ……でも、さわこ……お金はどうしてるの? さっきも精霊さんからはお金を受け取ってなかったじゃない? もしなんだったら中級酒場組合が環境保全費ってことにして支払っても……」
「いえいえ大丈夫ですよ、お代は十二分に受け取っておりますので」
「え? そうなの」
「はい……ほら、こちらに……」
私はそう言うと、ジュチさんと一緒にお店の外に出て行きました。
そこで、一緒に家を見上げていきました。
この家……バテアさんのご自宅なのですが、巨木を利用した建物になっているのですが、
「う、うわぁ……す、すご……」
その巨木を見上げたジュチさんは目を丸くなさいました。
その巨木のですね、屋上よりも上の部分にあります葉っぱの部分に、ブロロッサムの花が満開になっているんです。
ある日、精霊さんの1人が、
『さわこ、お礼をするのじゃ』
そう言って、この巨木に魔法をかけてくださったんです。
「……そういえば、この建物の周辺がやけに綺麗だと思ったんだけど……これが原因だったのか」
「えぇ、夜なんか時々桜の花びらが舞い踊りながらお客さんをお迎えしてくださったりするものですから、とっても好評なんですよ。それに晩酌も最近はこのブロロッサムを見ながら屋上でしたりしているんです」
「家にいながらにして、お花見が出来るなんて……確かにすごい贅沢だね」
「えぇ、本当に」
ジュチさんと私は、そんな会話を交わしながら笑顔を交わしておりました。
そんな折り……居酒屋さわこさんの扉が内側から開きました。
出て来たのはベルでした。
「さーちゃん、猫集会に行ってくるニャ!」
最近のベルは、時折こうして猫系の亜人種族の子供達が集まって遊ぶ集会に参加するようになっているんです。
「はい、気をつけて行ってらっしゃいな」
「ニャ!」
手を振る私に、元気に右腕をあげるベル。
その後ろに
「さわこ、行ってくるわ!」
エンジェさんが元気に続いていきます。
エンジェさんは、厳密に言うと猫系ではありませんが、ベルのお友達として集会に参加しているんです。
そして、さらにその後方から、
「さわこ、行ってくるね」
と、白銀狐のシロが笑顔で飛び出してきました。
リンシンさんにすっかり懐いてしまっているシロなのですが、最近は群れの中よりもこの家の中ですごすことが多くなっていまして、こうしてベル達ともすっかり仲良くなっているんです。
そして、さらにその後ろから
「さわこ、行ってくるのじゃ」
そう言いながら、笑顔の女の子がもう1人……
「はい、気をつけて」
私は笑顔でみんなを送り出しました。
そんな私と、駆けだしていった子供達を交互に見つめていたジュチさんが、
「さ、さわこ……さ、最後の1人って……」
えぇ……最後の一人……薄いピンクの髪の毛の女の子。
「はい、この巨木に住み着いて、綺麗なお花を咲かせる魔法を維持してくださっているブロロッサムの木の精霊さんですわ」
「ちょ!? せ、精霊が住み着いてるって!?」
私の言葉に、ジュチさんは目を丸くなさいました。
「何か、問題でもございますか?」
「い、いや……問題っていうか……ブロロッサムの木の精霊が現れただけでも奇跡だってのに、その精霊が住み着いて遊んでるって……」
びっくりしっぱなしのジュチさんですが……
「ベルやエンジェさん、それにシロもいますし、ああして楽しそうに過ごしてくださっていいますし、別によろしいのでは?」
「いや……その、なんだ……ブロロッサムの木の精霊を、そんなあっさり受け入れるなんて……相変わらずさわこはすごいな、ホント」
ジュチさんは、私を苦笑しながら見つめておられるのですが……私といたしましては、可愛い同居人さんが1人増えたくらいにしか感じていなかったのですが……
見上げると、あのブロロッサムの木の精霊さんのおかげでブロロッサムの花が満開になっている巨木が見えます。
それを見上げながら、私は笑顔を浮かべておりました。
ーつづく
そんな居酒屋さわこさんの店内には、中級酒場組合のジュチさんの姿がありました。
「いやぁ、あんなにすごい雪解け祭りははじめてだったよ。みんなもすっごく感動していたのよねぇ」
ジュチさんは嬉しそうに微笑みながら、私が差し出しているほうじ茶を口になさっています。
「私ははじめてでしたけど、でも本当に素敵なお祭でしたものね」
ジュチさんの言葉に、私も笑顔でお応えいたしました。
お花見でしたら、私も自分の世界で何度か経験がございます。
桜がいっぱい植えられている公園などが、この時期満開の花で彩られておりますので、その花を見ながらみはるや和音達と一緒に毎年楽しくお花見をしていたものです。
とはいえ、お互いにあれこれ忙しくなってからはしばらくご無沙汰だったものですから、先日の雪解け祭りはとっても楽しかったんです。
ベルやエンジェさん、それにバテアさんやリンシンさん、シロやエミリア、ショコラさんの姿もございました。
お店の常連客の方々の姿もたくさんお見かけいたしましたし、街道の向かいで喫茶店を開店されているマリーさんも、私の屋台の向かいに出店されていましたので、時折お互いに手を振り合ったりしていたものです。
「あの日、ブロロッサムの木の精霊達がさわこの屋台に殺到してたじゃない? あれを見て、トツノコンベのみんなが公園のブロロッサムの木の周辺を綺麗にしてまわるようになったんだ」
「まぁ、それはきっと精霊さん達も喜んでいると思います」
「何しろ、ブロロッサムの木の精霊が現れるなんて、長い雪解け祭りの歴史の中でもはじめての出来事だったもんだからさ、街のみんなもすっごく感動してたんだ。もちろんアタシもなんだけどさ」
嬉しそうに笑うジュチさん。
そんなジュチさんに私も笑顔を返しました。
「えぇ、本当にあれは素敵な出来事でした」
……と、その時です。
カラカラ……
お店の扉が開きました。
同時に、小柄な女の子が店内に駆け込んできました。
「さわこ串焼きじゃ! ういんなの串焼きが食べたいのじゃ」
薄いピンクの髪の毛の女の子は、笑顔で私にそういいました。
そろそろ来るころだと思ってすでに準備済みだったものですから
「はい、準備出来ていますよ。みんなで仲良く食べてくださいね」
そう言いながら、ウインナーの串焼きが詰まっている折り詰めが入っている袋を、その女の子に手渡しました。
すると、その女の子は、
「いつもありがとうなのじゃ!」
折り詰めの入っている袋を抱えながら、嬉しそうに微笑みながらお店を出ていきました。
その光景を見ていたジュチさんが、ぽかんと口を開けておいでです。
「……あ、あのさ、さわこ……い、今のって……」
「はい、ブロロッサムの木の精霊さんですよ」
ジュチさんのお言葉に、笑顔で答えた私です。
◇
そうなんです。
あの日以降……きっちり3日に1回、お昼過ぎの居酒屋さわこさんに、ブロロッサムの木の精霊さんがやってくるようになったんです。
最初にやってきた時は、公園にあるブロロッサムの木全てが精霊さんになってやってきたものですから、私もびっくりしてしまったのですが、
「あの……次回からは誰か代表の方に取りに来てもらってもよろしいでしょうか?」
そうお願いしたところ
「「「わかったのじゃ!」」」
と、ブロロッサムの木の精霊さん達も了承してくれまして……そして、こうして3日に1回、代表の精霊さんがウインナーの串焼きを受け取りにくるようになったんです。
◇
「……しかし、ブロロッサムの木の精霊を呼び出しただけじゃなくて、その精霊達が通いたくなるお店って……さわこってすごいね、ホント」
私の話を聞いたジュチさんは、感心しきりといったご様子で何度も頷かれています。
「いえいえ、たまたまですよ。たまたま私の自家製のウインナーの串焼きを、精霊のみなさんが気に入ってくださっただけですので」
私は、そんなジュチさんに笑顔でお応えいたしました。
「あれ……でも、さわこ……お金はどうしてるの? さっきも精霊さんからはお金を受け取ってなかったじゃない? もしなんだったら中級酒場組合が環境保全費ってことにして支払っても……」
「いえいえ大丈夫ですよ、お代は十二分に受け取っておりますので」
「え? そうなの」
「はい……ほら、こちらに……」
私はそう言うと、ジュチさんと一緒にお店の外に出て行きました。
そこで、一緒に家を見上げていきました。
この家……バテアさんのご自宅なのですが、巨木を利用した建物になっているのですが、
「う、うわぁ……す、すご……」
その巨木を見上げたジュチさんは目を丸くなさいました。
その巨木のですね、屋上よりも上の部分にあります葉っぱの部分に、ブロロッサムの花が満開になっているんです。
ある日、精霊さんの1人が、
『さわこ、お礼をするのじゃ』
そう言って、この巨木に魔法をかけてくださったんです。
「……そういえば、この建物の周辺がやけに綺麗だと思ったんだけど……これが原因だったのか」
「えぇ、夜なんか時々桜の花びらが舞い踊りながらお客さんをお迎えしてくださったりするものですから、とっても好評なんですよ。それに晩酌も最近はこのブロロッサムを見ながら屋上でしたりしているんです」
「家にいながらにして、お花見が出来るなんて……確かにすごい贅沢だね」
「えぇ、本当に」
ジュチさんと私は、そんな会話を交わしながら笑顔を交わしておりました。
そんな折り……居酒屋さわこさんの扉が内側から開きました。
出て来たのはベルでした。
「さーちゃん、猫集会に行ってくるニャ!」
最近のベルは、時折こうして猫系の亜人種族の子供達が集まって遊ぶ集会に参加するようになっているんです。
「はい、気をつけて行ってらっしゃいな」
「ニャ!」
手を振る私に、元気に右腕をあげるベル。
その後ろに
「さわこ、行ってくるわ!」
エンジェさんが元気に続いていきます。
エンジェさんは、厳密に言うと猫系ではありませんが、ベルのお友達として集会に参加しているんです。
そして、さらにその後方から、
「さわこ、行ってくるね」
と、白銀狐のシロが笑顔で飛び出してきました。
リンシンさんにすっかり懐いてしまっているシロなのですが、最近は群れの中よりもこの家の中ですごすことが多くなっていまして、こうしてベル達ともすっかり仲良くなっているんです。
そして、さらにその後ろから
「さわこ、行ってくるのじゃ」
そう言いながら、笑顔の女の子がもう1人……
「はい、気をつけて」
私は笑顔でみんなを送り出しました。
そんな私と、駆けだしていった子供達を交互に見つめていたジュチさんが、
「さ、さわこ……さ、最後の1人って……」
えぇ……最後の一人……薄いピンクの髪の毛の女の子。
「はい、この巨木に住み着いて、綺麗なお花を咲かせる魔法を維持してくださっているブロロッサムの木の精霊さんですわ」
「ちょ!? せ、精霊が住み着いてるって!?」
私の言葉に、ジュチさんは目を丸くなさいました。
「何か、問題でもございますか?」
「い、いや……問題っていうか……ブロロッサムの木の精霊が現れただけでも奇跡だってのに、その精霊が住み着いて遊んでるって……」
びっくりしっぱなしのジュチさんですが……
「ベルやエンジェさん、それにシロもいますし、ああして楽しそうに過ごしてくださっていいますし、別によろしいのでは?」
「いや……その、なんだ……ブロロッサムの木の精霊を、そんなあっさり受け入れるなんて……相変わらずさわこはすごいな、ホント」
ジュチさんは、私を苦笑しながら見つめておられるのですが……私といたしましては、可愛い同居人さんが1人増えたくらいにしか感じていなかったのですが……
見上げると、あのブロロッサムの木の精霊さんのおかげでブロロッサムの花が満開になっている巨木が見えます。
それを見上げながら、私は笑顔を浮かべておりました。
ーつづく
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