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連載
さわこさんと、雪解け祭り その1
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私が居候させていただいておりますバテアさんの巨木の家。
その裏にはバテア青空市というバテアさんと私が共同で経営している市場がございます。
ここでは、さわこの森であれこれ農作物の研究をなさっておられるアミリアさんが生産なさった野菜類や、同じくさわこの森で酒造りをなさっておられるワオンさんのお酒などを持ってきていただいて、それをジュチさんが組合長を務めておられますこの都市の中級酒場組合の皆様を中心に販売させていただいております。
そのジュチさんが、今日の仕入を終えられてから私の元を尋ねてこられました。
「やっと雪も溶けてきたしさ、そろそろ雪解け祭りを開催しようと思ってるんだけど、さわこも参加してくれないかな、と思ってさ」
「『雪解け祭り』……ですか?」
「そう、毎年街中の雪が溶けて、冬が終わるのを記念して開催しているお祭なんだ。
……まぁ、お祭りっていっても中央広場に屋台を並べてみんなでワイワイするだけなんだけどさ」
ジュチさんのお話では、中央広場には花が咲く木々がたくさん植えられているそうでして、もう少しで一斉に開花しそうなんだとか。
「私の国で言うところのお花見みたいで、なんだか楽しそうですね」
「お、じゃあ参加してくれるかい?」
「はい、よろしくお願いいたします」
私がにっこり笑って頭を下げますと、ジュチさんは嬉しそうに笑われました。
「いやぁ、さわこが参加してくれると嬉しいよ! 中級酒場組合に加盟している酒場にもさ、さわこのお店のファンが多くて『さわこさんが参加してくれなかったら次も中級酒場組合の組合長してもらいますからね』とか言って脅されまくってたんだよ」
そう言って、心底安堵した表情を浮かべられているジュチさんなのですが……やはりどこの世界でも責任ある立場になるのは嫌がられているってことなのですね。
◇
ジュチさんがお帰りになると、私は早速屋台で販売する料理をあれこれ考えていきました。
「せっかく春なんだし、出来れば春を満喫出来るような……そんな何かを出してみたいな……」
そんな事を考えながら、私は厨房の上に並べた食材の前で腕組みをしながら考えを巡らせていきました。
そして、あれこれ料理を作成していると、バテアさんが起きてこられました。
今日は男物のスェットの上を着ておいででして、素っ裸ではありません。
私の世界で購入してきたこの男物の大きめのスェットをですね、
『あら、これいいわね。体を締め付けないから楽だし、あったかいし、長く着てても熱がこもらないし……』
そう言って、すごくお気に入りになられたご様子でして、私の世界でこれを購入して以降、毎晩これを着て眠っておられるんです。
……とは言いましても、その下はいつもどおり下着も身につけておられないことがしょっちゅうですので、時折同性の私でもドッキリしてしまう格好で降りてこられる事が少なくないのですよね……とりあえずベルやエンジェさんが真似をしないようにといいますか、悪影響を与えない様に配慮して頂きたい、と、常日頃から申し上げているのですが……
「おあよ~わさこぉ……むにゃむにゃ……」
「はい、おはようございますバテアさん」
とりあえず今日は下着を身につけておいでのバテアさんですが、私のことを「さわこ」ではなく「わさこ」と呼んでいますので、全然目が覚めておられないご様子ですね。
私がタオルをお渡しすると、バテアさんはそのまま洗面所へと移動していかれました。
ほどなくして、ばしゃばしゃ顔を洗う音が聞こえて来まして……
「ふぅ……さっぱりしたぁ」
肩からタオルをかけているバテアさんが居酒屋さわこさんの店内に戻ってこられました。
「さわこ、みんなは?」
「リンシンさんはシロや白銀狐のみなさんと一緒に森にいかれています。ベルとエンジェさんは猫集会、ミリーネアさんは冒険者組合へ歌のネタ探しに早くから向かわれましたよ」
「ふ~ん……じゃ、アタシもそろそろ薬草の採取に行ってくるとしようかね」
バテアさんはそう言いながら思いっきり伸びをしていかれました。
「あ、じゃあよかったらこれをお持ちくださいな」
そう言ってバテアさんにお渡ししたのは、握り飯弁当です。
「現地でお昼になったら……」
そう、私が言っておりますと、バテアさんってば、
「……なんかいつもと匂いが違うわね」
そう言いながら握り飯弁当の包みを早速開け始めてしまいました。
バテアさんが嗅ぎつけられたとおり、その中には先ほど試作したばかりの、雪解け祭りで販売するためのおにぎりが入っているんです。
1つは、菜の花とジャッケのおにぎりです。
こちらの世界で発見いたしました菜の花……私の世界の菜の花によく似ていたので、私はそう呼んでいるのですが、こちらの世界ではイエローポップスという野草なんだそうですが、これを茹でて適当な大きさに刻んだものを、ジャッケと一緒に土鍋ご飯として一緒に炊き上げたんです。
炊き上がった後、ジャッケの身を一度取り出してからほぐし、それをくわえて混ぜ合わせた後、それを握り飯に仕上げたものでございます。
もう1つは、タルケノコのおにぎりです。
私の世界のタケノコによく似ているタルケノコですが、こちらの世界ではまだしばらく採取出来そうでして、今日もシロ達白銀狐のみなさんと一緒に森に行っておられるリンシンさんがたくさん収穫して帰ってきてくれるはずです。
水煮したタルケノコを薄切りに、塩ゆでした私の世界で購入してきた絹さやを細切りに、同じく私の世界で購入してきた油揚げも細切りにして、土鍋でご飯と一緒に炊き上げております。
そんなおにぎり二種類に、新タルマネギとタテガミライオンのお肉のミニ串焼きをおかずとして添えてあるこの春のおにぎり弁当なのですが、
「うわぁ、なんか緑がいっぱいねぇ」
バテアさんは、感動した声をあげながら、まずは菜の花とジャッケのおにぎりをぱくり。
「……うん、ジャッケがこのイエローポップスに合うのねぇ、愛称がいいっていうか……っていうか、あのイエローポップスがこんなに美味しく食べられるなんてはじめて知ったわ」
おにぎりの断面を確認しながら、感動なさった声をあげておられるバテアさん。
口の中のおにぎりを飲み込むと、今度はタルケノコのおにぎりをぱくり。
「……うん、こっちも美味しいわ。さっぱりした味なのかと思ったら、この茶色くて細長いやつがさ、噛めば噛むほどいい感じに旨みをくわえてくれるもんだから、とまらなくなっちゃうわ」
笑顔でそう言ってくださっているバテアさんなのですが……実際、その手と口はまったくとまっていないといいますか……あああ、お昼用にってお渡ししたのに、もうすっかり無くなってしまっているではありませんか……
「バテアさん……一応お昼用にってお渡ししたはずなんですけど」
私が苦笑していますと、バテアさんは、
「まぁまぁ、朝ご飯もまだだったんだし、大目にみてよ」
そう言いながら、いたずらっぽく舌を出しておいでです。
「……と、いうわけで、お昼にもこれを食べたいんだけど……」
「はいはい、今追加で握りますから、少しお待ちくださいな」
私がそう言うと……
「さわこ、私にもお願い!」
そう言ってカウンター席で手をあげておられるのは……もう、すっかりお馴染みになっているツカーサさんです。
私が新商品を試作していると、ほぼ例外なくどこからともなく参上なさるツカーサさん……ですが、今日は、開店したばかりのバテアさんの魔法道具のお店に一番のりで来店なさった途端に、バテアさんが私が試作したばかりの「春の握り飯弁当」を試食なさっているのに気がついて、駆けつけてこられたご様子ですね。
「相変わらず、美味しい物があるとすぐにやってくるわね、ツカーサってば」
「えー?そうかなぁ。偶然だってば」
バテアさんの言葉に苦笑なさっているツカーサさん。
そんなお2人の会話をお聞きしながら、私は新しい春の握り飯弁当を2つ作成しているところでした。
ーつづく
その裏にはバテア青空市というバテアさんと私が共同で経営している市場がございます。
ここでは、さわこの森であれこれ農作物の研究をなさっておられるアミリアさんが生産なさった野菜類や、同じくさわこの森で酒造りをなさっておられるワオンさんのお酒などを持ってきていただいて、それをジュチさんが組合長を務めておられますこの都市の中級酒場組合の皆様を中心に販売させていただいております。
そのジュチさんが、今日の仕入を終えられてから私の元を尋ねてこられました。
「やっと雪も溶けてきたしさ、そろそろ雪解け祭りを開催しようと思ってるんだけど、さわこも参加してくれないかな、と思ってさ」
「『雪解け祭り』……ですか?」
「そう、毎年街中の雪が溶けて、冬が終わるのを記念して開催しているお祭なんだ。
……まぁ、お祭りっていっても中央広場に屋台を並べてみんなでワイワイするだけなんだけどさ」
ジュチさんのお話では、中央広場には花が咲く木々がたくさん植えられているそうでして、もう少しで一斉に開花しそうなんだとか。
「私の国で言うところのお花見みたいで、なんだか楽しそうですね」
「お、じゃあ参加してくれるかい?」
「はい、よろしくお願いいたします」
私がにっこり笑って頭を下げますと、ジュチさんは嬉しそうに笑われました。
「いやぁ、さわこが参加してくれると嬉しいよ! 中級酒場組合に加盟している酒場にもさ、さわこのお店のファンが多くて『さわこさんが参加してくれなかったら次も中級酒場組合の組合長してもらいますからね』とか言って脅されまくってたんだよ」
そう言って、心底安堵した表情を浮かべられているジュチさんなのですが……やはりどこの世界でも責任ある立場になるのは嫌がられているってことなのですね。
◇
ジュチさんがお帰りになると、私は早速屋台で販売する料理をあれこれ考えていきました。
「せっかく春なんだし、出来れば春を満喫出来るような……そんな何かを出してみたいな……」
そんな事を考えながら、私は厨房の上に並べた食材の前で腕組みをしながら考えを巡らせていきました。
そして、あれこれ料理を作成していると、バテアさんが起きてこられました。
今日は男物のスェットの上を着ておいででして、素っ裸ではありません。
私の世界で購入してきたこの男物の大きめのスェットをですね、
『あら、これいいわね。体を締め付けないから楽だし、あったかいし、長く着てても熱がこもらないし……』
そう言って、すごくお気に入りになられたご様子でして、私の世界でこれを購入して以降、毎晩これを着て眠っておられるんです。
……とは言いましても、その下はいつもどおり下着も身につけておられないことがしょっちゅうですので、時折同性の私でもドッキリしてしまう格好で降りてこられる事が少なくないのですよね……とりあえずベルやエンジェさんが真似をしないようにといいますか、悪影響を与えない様に配慮して頂きたい、と、常日頃から申し上げているのですが……
「おあよ~わさこぉ……むにゃむにゃ……」
「はい、おはようございますバテアさん」
とりあえず今日は下着を身につけておいでのバテアさんですが、私のことを「さわこ」ではなく「わさこ」と呼んでいますので、全然目が覚めておられないご様子ですね。
私がタオルをお渡しすると、バテアさんはそのまま洗面所へと移動していかれました。
ほどなくして、ばしゃばしゃ顔を洗う音が聞こえて来まして……
「ふぅ……さっぱりしたぁ」
肩からタオルをかけているバテアさんが居酒屋さわこさんの店内に戻ってこられました。
「さわこ、みんなは?」
「リンシンさんはシロや白銀狐のみなさんと一緒に森にいかれています。ベルとエンジェさんは猫集会、ミリーネアさんは冒険者組合へ歌のネタ探しに早くから向かわれましたよ」
「ふ~ん……じゃ、アタシもそろそろ薬草の採取に行ってくるとしようかね」
バテアさんはそう言いながら思いっきり伸びをしていかれました。
「あ、じゃあよかったらこれをお持ちくださいな」
そう言ってバテアさんにお渡ししたのは、握り飯弁当です。
「現地でお昼になったら……」
そう、私が言っておりますと、バテアさんってば、
「……なんかいつもと匂いが違うわね」
そう言いながら握り飯弁当の包みを早速開け始めてしまいました。
バテアさんが嗅ぎつけられたとおり、その中には先ほど試作したばかりの、雪解け祭りで販売するためのおにぎりが入っているんです。
1つは、菜の花とジャッケのおにぎりです。
こちらの世界で発見いたしました菜の花……私の世界の菜の花によく似ていたので、私はそう呼んでいるのですが、こちらの世界ではイエローポップスという野草なんだそうですが、これを茹でて適当な大きさに刻んだものを、ジャッケと一緒に土鍋ご飯として一緒に炊き上げたんです。
炊き上がった後、ジャッケの身を一度取り出してからほぐし、それをくわえて混ぜ合わせた後、それを握り飯に仕上げたものでございます。
もう1つは、タルケノコのおにぎりです。
私の世界のタケノコによく似ているタルケノコですが、こちらの世界ではまだしばらく採取出来そうでして、今日もシロ達白銀狐のみなさんと一緒に森に行っておられるリンシンさんがたくさん収穫して帰ってきてくれるはずです。
水煮したタルケノコを薄切りに、塩ゆでした私の世界で購入してきた絹さやを細切りに、同じく私の世界で購入してきた油揚げも細切りにして、土鍋でご飯と一緒に炊き上げております。
そんなおにぎり二種類に、新タルマネギとタテガミライオンのお肉のミニ串焼きをおかずとして添えてあるこの春のおにぎり弁当なのですが、
「うわぁ、なんか緑がいっぱいねぇ」
バテアさんは、感動した声をあげながら、まずは菜の花とジャッケのおにぎりをぱくり。
「……うん、ジャッケがこのイエローポップスに合うのねぇ、愛称がいいっていうか……っていうか、あのイエローポップスがこんなに美味しく食べられるなんてはじめて知ったわ」
おにぎりの断面を確認しながら、感動なさった声をあげておられるバテアさん。
口の中のおにぎりを飲み込むと、今度はタルケノコのおにぎりをぱくり。
「……うん、こっちも美味しいわ。さっぱりした味なのかと思ったら、この茶色くて細長いやつがさ、噛めば噛むほどいい感じに旨みをくわえてくれるもんだから、とまらなくなっちゃうわ」
笑顔でそう言ってくださっているバテアさんなのですが……実際、その手と口はまったくとまっていないといいますか……あああ、お昼用にってお渡ししたのに、もうすっかり無くなってしまっているではありませんか……
「バテアさん……一応お昼用にってお渡ししたはずなんですけど」
私が苦笑していますと、バテアさんは、
「まぁまぁ、朝ご飯もまだだったんだし、大目にみてよ」
そう言いながら、いたずらっぽく舌を出しておいでです。
「……と、いうわけで、お昼にもこれを食べたいんだけど……」
「はいはい、今追加で握りますから、少しお待ちくださいな」
私がそう言うと……
「さわこ、私にもお願い!」
そう言ってカウンター席で手をあげておられるのは……もう、すっかりお馴染みになっているツカーサさんです。
私が新商品を試作していると、ほぼ例外なくどこからともなく参上なさるツカーサさん……ですが、今日は、開店したばかりのバテアさんの魔法道具のお店に一番のりで来店なさった途端に、バテアさんが私が試作したばかりの「春の握り飯弁当」を試食なさっているのに気がついて、駆けつけてこられたご様子ですね。
「相変わらず、美味しい物があるとすぐにやってくるわね、ツカーサってば」
「えー?そうかなぁ。偶然だってば」
バテアさんの言葉に苦笑なさっているツカーサさん。
そんなお2人の会話をお聞きしながら、私は新しい春の握り飯弁当を2つ作成しているところでした。
ーつづく
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