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さわこさんと、ナカンコンベ その3

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 食事を終えた私達は、食堂ピアーグを早めに後にいたしました。
 何しろ長蛇の列が出来ていますからね、あまり長居をしては申し訳ありません。

 支払いはバテアさんがしてくださったのですが、そのお値段を聞いて私はびっくりいたしました。
 私の世界のお金で例えますと、大人3人子供3人で総額4000円もかかっていなかったんです。

「大人の代金はともかくとして、子供の料金をすごく安くしてあるみたいね」

 支払いを済ませながら、バテアさんがそう教えてくださいました。

「なんでも、この店の実質的なオーナーさんがさ、すごく子供に優しいそうでね『小さなお子さんの食事代金は安くしてあげましょう』って言ってるそうでね、その方針に従って値段設定してあるそうよ」
「まぁ、そうなんですね」
 
 バテアさんのお言葉を聞いて改めて店内を見回して見ますと……確かに、子供を連れているお客様の数がすごく多いように感じました。

 ……もっとも、周囲の皆さんから見れば、私達も小さな子供達を3人連れているようにしか見えないと思うんですけどね……あ、でも、いいのかな……エンジェさんが見た目は子供だけど、クリスマスツリーが付喪神になっているものですから年齢的にはかなりあれなのですが……

 少し困惑した私なのですが、それを察したらしいバテアさんが、

「その分アタシ達大人組がしっかり代金を支払ってるんだからさ、気にしない気にしない」

 そう言いながら私の肩を押されたものですから……結局私はそのままお店を後にした次第でございます、はい……

◇◇

「とっても美味しかったニャ」
「えぇ、とってもおいしかったわ」

 お店を出たベルとエンジェさんは、終始ご機嫌な様子です。
 リンシンさんと手をつないで歩いているシロもニコニコしっぱなしですので、食事を気に入ったのでしょう。

 そんなみんなを笑顔で見回していた私なのですが、不意にベルとエンジェさんが私へ振り向きました。

「美味しかったけど、さーちゃんのご飯の方が美味しいニャ」
「私もそう思うわ!」

 ベルとエンジェさんは、笑顔でそう言いながら私に抱きついてくれました。
 そんなに無理をしなくても……と、内心思ってしまった私なのですが、

「確かにあの店の食事は美味しかったけど、アタシもベルとエンジェと同意見よ。さわこの料理の方が美味しいと思うわ」
「……うん、私もそう思う」

 その後方から、バテアさんとリンシンさんまでもがそうおっしゃってくださるものですから……

「ど、どうもありがとうございます」

 私は照れ笑いを浮かべながらみんなに向かって頭をさげていくのが精一杯でした。

「ニャ! バーちゃんもたまにはいい事を言うニャ!」
「ちょっとベル! アタシを呼ぶときは『バテア』の『バ』じゃなくて『ア』の方をとってアーちゃんと呼びなさいって何度も言ってるでしょ! それと、「たまに」は余計!」
「わかったニャ! バーちゃん!」
「ったくもう! 言ってる側からこれなんだから……」

 満面笑顔のベルの前で、肩をすくめるバテアさん。

 さすがのバテアさんでも、ベルにはお手上げのようですね。

◇◇

 その後、人気のない場所でバテアさんが魔法陣を展開してくださいまして、それを通って私達は辺境都市トツノコンベへと戻ってまいりました。

「ニャ~、楽しかったニャ!」
「楽しかったわ!」
「楽しかった~!」

 ベッドに飛び込んだベルとエンジェさんに続いて、リンシンさんの肩から飛び降りたシロまでベッドに飛び込んでいきました。

 時々一緒に遊んでいる3人ですので、もうすっかり仲良しさんなんです。

 こうして考えて見ますと……今年の冬はいろんな出会いがあったわけです。

 クリスマスにあわせて準備したクリスマスツリーが付喪神化してエンジェさんになり……

 白銀狐のみなさんと出会って、その中にいた、人型に変化出来る稀少な種だったシロともこうして出会えたわけです。

 特にシロや、シロの仲間の白銀狐のみなさんは、今年は例年以上に積雪がすごかったとのことですので、お腹を空かせた流血狼達の餌食になってしまっていたかもしれません。
 実際に……シロの両親は、流血狼に……

 そんなシロですが、こうしてベルとエンジェさんと楽しそうにお話をしていますし、何よりリンシンさんにとっても懐いています。
 そのことを、白銀狐のみなさんもすごく喜んでくださっているみたいでして、週に何度か山菜などを採取してきてくださるのですが、その量がすごいことになっているんですよね。
 おかげさまで、居酒屋さわこさんでお出しする春の料理もバラエティに富んでいる次第でございます。

「……そういえば、今日のピアーグの子供料金はいい案でしたね。あれなら子供連れのお客様にも好評でしょうし……」

 そう思い出した私なのですが……そうですね、私のお店でそれを実践するのはちょっと問題がありそうですね。
 何しろ私のお店は居酒屋ですので……

「……あ、でも、お昼に販売している握り飯弁当に、子供用に安い物を準備することは出来るかも……」

 私がそう言うと、

「ニャ! さーちゃんの握り飯食べたいニャ!」
「さわこ! 私も食べたいわ!」
「私も!」

 ベッドに寝そべって楽しそうにお話していたベル・エンジェさん・シロの3人が、一斉に私へと顔を向けて、一斉に右手をあげました。

「え? 今? だってさっきお昼を食べてきたばっかりでしょう?」
「ニャ! さーちゃんのご飯なら入るニャ!」
「私もよ!」
「私も!」

 
 苦笑する私の周囲に、3人が一斉に駆け寄ってきました。
 そんな3人に囲まれながら、私は、

「はいはい、じゃあすぐにつくりますから、ちょっとだけ待ってくださいね」

 笑顔でそう言いながら、1階への階段を降りていきました。
 この世界に電気はありませんので、ご飯はいつも土鍋で炊いています。
 もっとも、これは私が元いた世界でも、お店でずっとやっていたことですので、そんなに苦には思いません。
 お焦げとか、美味しいですしね。

 私が居酒屋さわこさんの厨房へと移動していくと、ベル達も笑顔でカウンターへと移動してきました。

「さーちゃん! せっかくだからうどん踏みするニャ!」
「え? 今日はお店もお休みだから無理にしなくてもいいんですよ」
「いいニャ! したいニャ!」

 ベルは笑顔でそう言いました。
 エンジェさんとシロも笑顔で手をあげています。

 居酒屋さわこさんの、お鍋のシメとしてお出ししているおうどんなのですが、お店で使用しているおうどんはすべてベル達が一生懸命ふみふみしてくれているんです。

 私は、魔法袋の中で寝かせておいたうどん玉を3つ取り出すと、

「じゃあ、3人ともお願いしますね」

 笑顔でそう言いました。
 すると、3人も

「はいニャ! 任せたニャ!」
「さわこ、やるわよ!」
「がんばる!」

 満面の笑顔でそう言ってくれました。

 程なくいたしまして……

 お店の中には

「「「わっせ、わっせ」」」

 うどん玉を、かけ声を会わせながらふみふみしてくれているベル・エンジェさん・シロの3人の声と、土鍋がクツクツ煮えている音が響いていました。

 こんな休日も、たまにはいいものですね。

ーつづく
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