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さわこさんと、春のお昼の その2
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お昼の居酒屋さわこさんの厨房で、私はもっぱら夜の仕込みを行っています。
最近は、リンシンさんがシロ達白銀狐のみなさんと一緒に収穫してきてくださる春野菜の下ごしらえをすることが多いのですが、こうして季節のお野菜を扱うのっていいですよね。
私が元いた世界では、スーパーに行けばいつでもなんでも手に入る……それが当たり前になっていましたけど、こうして季節の物を頂くことが出来るのって、最高のご馳走だと思うんです。
お鍋で煮こんでアク抜きをしたり
食べられる部分と、そうでない部分を切り分けたり
お野菜を前にして、私は包丁を使い、時に手でむしったりしながら作業を続けていました。
「こんにちは、さわこさん」
そう言って居酒屋さわこさんの玄関を入って来たのは、ハーフエルフのマリーさん。
冬の間、南の街へ出かけておられたのですが、雪解けとともにトツノコンベへと戻ってこられた方でございます。
「マリーさんいらっしゃいませ」
「早速で申し訳ないのですが……試作品が出来たとお聞きしてお邪魔させていただいたのですが……」
「はい、僭越ながらこんなものを作ってみたのですが……」
そう言うと、私は後ろの魔石冷蔵庫の中で冷やしていたある物を取り出しました。
1つは、カラメルソースのプリン
1つは、抹茶プリン
1つは、ジェラート
カウンターの、それらの品物が入っている器を並べていく私。
マリーさんはそれらを興味津々といった様子でご覧になられています。
実は先日、マリーさんに
『私の喫茶店でお出しするスイーツで、何か良い物がないでしょうか。皆さんがあまり食べたことのないような……』
そんな相談をされたものですから、この世界のお店であまり見かけたことがない、それでいて割と手軽に作成する事が出来るスイーツを作成してみた次第なんです。
プリンに使用している卵は、鶏によく似ているクッカドゥウドルの卵を使用しています。
この卵ですが、クッカドゥウドルは、リンシンさん達冒険者の皆様が南方に出向かれては生け捕りにしてきてくださっていまして、それをさわこの森の中で放し飼いしているんです。
そこでの生活に馴染んできた一部のクッカドゥウドル達が卵をたくさん産むようになったものですから、それをこうして料理にも使用させていただいている次第です。
中に有精卵もあるのですが、そこは仕分けをして有精卵はそのまま残して羽化させてもらっています。
そうしておけば、狩ってこなくても放牧場の中だけで増やすことも可能ってことですからね。
この研究は、エミリアが仕事の合間に行ってくれています。
姉のアミリアさんは植物学の権威ですが、エミリアは魔獣飼育の分野をあれこれ勉強していたそうなんです。
アミリアさんが研究に没頭し過ぎて家にあまりお金がなかった時期があったため一度はその勉強をあきらめていたそうなのですが、生活が安定した今では魔女魔法出版というこの世界の出版社が発行している通信教育の教材を定期購入しながら勉強を再開しているんだそうです。
いつかは、王都にある専門の学校……出来る事ならアミリアさんが通っていた学校の魔獣学科に通いたいとの思いを持っているそうでして、今はその入試に受かるように勉強しているところなんです。
さて、話を戻しますが……
「うわぁ、これは黄色だけどこっちは緑なんですね……そしてこちらの物はこっちの2つとは違って、なんだかドロッとしている感じなんですね」
「はい、こちらの2つがプリンと言う物でして、こちらがジェラートという品物なんです。あ、ジェラートは成人なさっている方限定でお願いしますね」
と、いいますのも、このジェラートには酒粕を使用しているんです。
さわこの森で酒造工房を営んでおられますワノンさんから酒粕をたくさん分けて頂いているのですが、それを使用して作成してみた次第なんです。
「では、早速試食を……」
マリーさんがそう言われたところで、
「さーちゃん、何、この甘い匂い!」
「さわこ! なんだかお菓子の匂いがするわ!」
ベルとエンジェさんの2人が二階からすごい勢いで駆け下りてきました。
こういうときの、この2人の嗅覚がすごいんですよね、特に甘い物を準備している時などは。
なので、こうなることをある程度予期していた私は、
「はいはい、2人の分もありますから、マリーさんと一緒に食べましょうね」
そう言いながら、2人用のプリンを準備していきました。
「ニャ! さすがさーちゃんニャ!」
「さわこ、いつもありがとう!」
笑顔の2人の前に、私はプリンの器を2つづつ並べていきました。
「ニャ? さーちゃん、1個足りないニャ?」
「あ、あれはベルとエンジェさんにはダメよ。お酒が入っていますからね」
「ニャ!? そうニャのニャ。わかったニャ!」
ベルは、私の言葉に大きく頷きました。
エンジェさんも同様に頷いてくださっているのですが……よく考えたら、クリスマスツリーの付喪神のエンジェさんは小柄なだけで、年齢的には十分成人なさっている気がしないでもなかったのですが……一応、ベルと同様に納得してくださったようなので、あえてそれ以上は考えないことにいたしました。
……そして
バテアさんの魔法道具のお店の方からすごい勢いでこちらに向かって駆けてくる女性の姿がありました。
「さわこさ~ん、何、その美味しそうな匂い!?」
すっかりお馴染みになっています、お隣にお住まいのツカーサさんです。
えぇ、試作品を準備しておりましたので、その襲来をしっかり予感していた私でございます。
「えぇ、ちゃんと準備してありますよ」
苦笑しながら、私は着席なさったばかりのツカーサさんの前にプリンを2種類と、ジェラートを並べていきました。
「ニャ!? ツーちゃんは、それを食べれるのニャ!?」
「えへへ、そうよ~ベルちゃん、私は成人してて結婚もしてるからね~」
ジェラートの器を手に、ピースサインをなさっているツカーサさん。
そんなツカーサさんを見つめながら、ベルは、
「にゅ~……ベルも早く大人になりたいニャ」
そう言いながら頬を膨らませていました。
でも……そうですね、大人になったベルとお酒を酌み交わすのも……なんだか楽しそうですね。
ふふ……これではまるでベルのお母さんみたいですね、私ってば。
「さぁ、そろそろ召し上がってくださいな」
私の声で、皆さんは一斉に試食を口に運びはじめました。
「まぁ、このプリン……凄くなめらかで、甘くて……」
「底にある茶色いのがすごく甘いニャ!」
「さわこ! この緑のプリンも美味しいわ!」
「きゅ~、お酒がほんのりかおってくるこれ、最高~!」
皆さん、口々に感嘆の声を上げながら、試食をすごい勢いで召し上がっておられます。
この様子ですと、どうやら試作品は大成功のようですね。
4人の姿を厨房の中から拝見しながら、私は思わず笑顔になっていたのですが……
「ふにゃあ……」
そんな中、急にベルが妙な声をあげながらカウンターに突っ伏してしまいました。
「あ!? ベルちゃんったら、アタシのジェラートを盗み食いしてる!?」
ツカーサさんが仰ったとおり、ツカーサさんのジェラートの横の部分がごっそりなくなっていたのです。
どうやらベルってば、それを盗み食いして、酔っ払ってしまったようですね。
顔を真っ赤にして机に突っ伏しているベルは、
「ふにゃ~なんか良い気持ちにゃ~」
妙に楽しそうな声をあげています。
しかし……酒粕入りのジェラート一口でこれでは、一緒に晩酌出来るようになるまでには相当時間がかかりそうですね。
エンジェさんに背中をさすられているベルを見ながら、私はそんなことを考えながら苦笑しておりました。
ーつづく
最近は、リンシンさんがシロ達白銀狐のみなさんと一緒に収穫してきてくださる春野菜の下ごしらえをすることが多いのですが、こうして季節のお野菜を扱うのっていいですよね。
私が元いた世界では、スーパーに行けばいつでもなんでも手に入る……それが当たり前になっていましたけど、こうして季節の物を頂くことが出来るのって、最高のご馳走だと思うんです。
お鍋で煮こんでアク抜きをしたり
食べられる部分と、そうでない部分を切り分けたり
お野菜を前にして、私は包丁を使い、時に手でむしったりしながら作業を続けていました。
「こんにちは、さわこさん」
そう言って居酒屋さわこさんの玄関を入って来たのは、ハーフエルフのマリーさん。
冬の間、南の街へ出かけておられたのですが、雪解けとともにトツノコンベへと戻ってこられた方でございます。
「マリーさんいらっしゃいませ」
「早速で申し訳ないのですが……試作品が出来たとお聞きしてお邪魔させていただいたのですが……」
「はい、僭越ながらこんなものを作ってみたのですが……」
そう言うと、私は後ろの魔石冷蔵庫の中で冷やしていたある物を取り出しました。
1つは、カラメルソースのプリン
1つは、抹茶プリン
1つは、ジェラート
カウンターの、それらの品物が入っている器を並べていく私。
マリーさんはそれらを興味津々といった様子でご覧になられています。
実は先日、マリーさんに
『私の喫茶店でお出しするスイーツで、何か良い物がないでしょうか。皆さんがあまり食べたことのないような……』
そんな相談をされたものですから、この世界のお店であまり見かけたことがない、それでいて割と手軽に作成する事が出来るスイーツを作成してみた次第なんです。
プリンに使用している卵は、鶏によく似ているクッカドゥウドルの卵を使用しています。
この卵ですが、クッカドゥウドルは、リンシンさん達冒険者の皆様が南方に出向かれては生け捕りにしてきてくださっていまして、それをさわこの森の中で放し飼いしているんです。
そこでの生活に馴染んできた一部のクッカドゥウドル達が卵をたくさん産むようになったものですから、それをこうして料理にも使用させていただいている次第です。
中に有精卵もあるのですが、そこは仕分けをして有精卵はそのまま残して羽化させてもらっています。
そうしておけば、狩ってこなくても放牧場の中だけで増やすことも可能ってことですからね。
この研究は、エミリアが仕事の合間に行ってくれています。
姉のアミリアさんは植物学の権威ですが、エミリアは魔獣飼育の分野をあれこれ勉強していたそうなんです。
アミリアさんが研究に没頭し過ぎて家にあまりお金がなかった時期があったため一度はその勉強をあきらめていたそうなのですが、生活が安定した今では魔女魔法出版というこの世界の出版社が発行している通信教育の教材を定期購入しながら勉強を再開しているんだそうです。
いつかは、王都にある専門の学校……出来る事ならアミリアさんが通っていた学校の魔獣学科に通いたいとの思いを持っているそうでして、今はその入試に受かるように勉強しているところなんです。
さて、話を戻しますが……
「うわぁ、これは黄色だけどこっちは緑なんですね……そしてこちらの物はこっちの2つとは違って、なんだかドロッとしている感じなんですね」
「はい、こちらの2つがプリンと言う物でして、こちらがジェラートという品物なんです。あ、ジェラートは成人なさっている方限定でお願いしますね」
と、いいますのも、このジェラートには酒粕を使用しているんです。
さわこの森で酒造工房を営んでおられますワノンさんから酒粕をたくさん分けて頂いているのですが、それを使用して作成してみた次第なんです。
「では、早速試食を……」
マリーさんがそう言われたところで、
「さーちゃん、何、この甘い匂い!」
「さわこ! なんだかお菓子の匂いがするわ!」
ベルとエンジェさんの2人が二階からすごい勢いで駆け下りてきました。
こういうときの、この2人の嗅覚がすごいんですよね、特に甘い物を準備している時などは。
なので、こうなることをある程度予期していた私は、
「はいはい、2人の分もありますから、マリーさんと一緒に食べましょうね」
そう言いながら、2人用のプリンを準備していきました。
「ニャ! さすがさーちゃんニャ!」
「さわこ、いつもありがとう!」
笑顔の2人の前に、私はプリンの器を2つづつ並べていきました。
「ニャ? さーちゃん、1個足りないニャ?」
「あ、あれはベルとエンジェさんにはダメよ。お酒が入っていますからね」
「ニャ!? そうニャのニャ。わかったニャ!」
ベルは、私の言葉に大きく頷きました。
エンジェさんも同様に頷いてくださっているのですが……よく考えたら、クリスマスツリーの付喪神のエンジェさんは小柄なだけで、年齢的には十分成人なさっている気がしないでもなかったのですが……一応、ベルと同様に納得してくださったようなので、あえてそれ以上は考えないことにいたしました。
……そして
バテアさんの魔法道具のお店の方からすごい勢いでこちらに向かって駆けてくる女性の姿がありました。
「さわこさ~ん、何、その美味しそうな匂い!?」
すっかりお馴染みになっています、お隣にお住まいのツカーサさんです。
えぇ、試作品を準備しておりましたので、その襲来をしっかり予感していた私でございます。
「えぇ、ちゃんと準備してありますよ」
苦笑しながら、私は着席なさったばかりのツカーサさんの前にプリンを2種類と、ジェラートを並べていきました。
「ニャ!? ツーちゃんは、それを食べれるのニャ!?」
「えへへ、そうよ~ベルちゃん、私は成人してて結婚もしてるからね~」
ジェラートの器を手に、ピースサインをなさっているツカーサさん。
そんなツカーサさんを見つめながら、ベルは、
「にゅ~……ベルも早く大人になりたいニャ」
そう言いながら頬を膨らませていました。
でも……そうですね、大人になったベルとお酒を酌み交わすのも……なんだか楽しそうですね。
ふふ……これではまるでベルのお母さんみたいですね、私ってば。
「さぁ、そろそろ召し上がってくださいな」
私の声で、皆さんは一斉に試食を口に運びはじめました。
「まぁ、このプリン……凄くなめらかで、甘くて……」
「底にある茶色いのがすごく甘いニャ!」
「さわこ! この緑のプリンも美味しいわ!」
「きゅ~、お酒がほんのりかおってくるこれ、最高~!」
皆さん、口々に感嘆の声を上げながら、試食をすごい勢いで召し上がっておられます。
この様子ですと、どうやら試作品は大成功のようですね。
4人の姿を厨房の中から拝見しながら、私は思わず笑顔になっていたのですが……
「ふにゃあ……」
そんな中、急にベルが妙な声をあげながらカウンターに突っ伏してしまいました。
「あ!? ベルちゃんったら、アタシのジェラートを盗み食いしてる!?」
ツカーサさんが仰ったとおり、ツカーサさんのジェラートの横の部分がごっそりなくなっていたのです。
どうやらベルってば、それを盗み食いして、酔っ払ってしまったようですね。
顔を真っ赤にして机に突っ伏しているベルは、
「ふにゃ~なんか良い気持ちにゃ~」
妙に楽しそうな声をあげています。
しかし……酒粕入りのジェラート一口でこれでは、一緒に晩酌出来るようになるまでには相当時間がかかりそうですね。
エンジェさんに背中をさすられているベルを見ながら、私はそんなことを考えながら苦笑しておりました。
ーつづく
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