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さわこさんと、春のお昼の その1

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 私が居候させて頂いております辺境都市トツノコンベは、狩猟と農業、そして交易を主として栄えている都市です。

 冬の間は大雪に覆われてしまいますので農家の方々は農作業を行えません。
 その代わりに、秋に収穫したお野菜をあれこれ加工されているそうなんです。

「さわこさん、今日はこんなのを持って来ましたにゃ~」

 最近よくお店においでになられている農家の猫人族ネココさん。
 荷車にのせてお持ちくださったのは、野菜を漬けた樽でございます。

「今日のは、ハルクサイの塩漬けにゃ~、」

 ハルクサイというのは、私の世界の白菜によく似たお野菜です。

 もともとこの世界にございましたハルクサイは、私の世界の白菜よりも2回りくらい小振りなものでした。
 それを、植物研究家のアミリアさんが、私の世界の白菜を研究して品種改良を行いまして、私の世界の倍近い大きさのハルクサイが収穫出来るようにしていたのでございます。

 アミリアさんが品種改良したお野菜の苗なんかは、バテアさんの魔法道具のお店で販売しております。

「最近のアタシのお店って、なんでも屋みたいよねぇ……さわこの握り飯弁当も売ってるし」

 バテアさんも、よくそう言って笑っておいでです。
 とはいえ、バテアさんのお店で販売しているアミリアさんの野菜の苗は、口コミで

「すごく大きな実がなるそうだ」
「成長も早いんだと」

 といった噂がトツノコンベ中に広まっていまして、バテアさんの魔法道具のお店には農家の方々が頻繁に訪れてくださっている次第なんです。

 そんな中、

「このお店で売ってもらった苗のおかげで今年は大豊作だったですにゃ~、そのお礼ですにゃ~」

 ネココさんのように、冬の間漬け込んでいたお野菜をわざわざ持って来てくださる農家の方も少なくないんです。

「ネココさん、いつもありがとうございます」
「いえいえ、お礼を言うのはこっちですにゃ~、このお店の苗は本当にすごいでしにゃ~。おかげで今年は楽に冬を越せましたにゃ~、そのお礼ですにゃ~」

 そう言いながら、ネココさんは漬物石をはずした樽をお店の地下倉庫に運びこんでくださっています。
 私もお手伝いを……とは思うのですが、いかんせん力仕事は……

 それでも、ベルとエンジェさんの助力を得まして、どうにか樽を1つ、地下倉庫へ運ぶ事が出来ました。

「ネココさん、ありがとうございます。大切に使わせていただきますね」
「遠慮なくお使いくださいにゃ~。まだいるようならいつでも言ってほしいにゃ~」

 ネココさんはにっこり笑顔でそう言ってくださいました。

 ちなみに……

 ネココさんが漬物石として使用なさっていた石なのですが……

 荷車の上に残ったその石達が、

 ……ですのぉ
 ……ですのぉ
 ……ですのぉ

 と、言葉を発していた気がしたのですが……

「あぁ、この石は意思を持ってますにゃ~。ちょうどいいつかり具合になるように自分で重さを調節してくれるんですにゃ~」

 ネココさんがそう教えてくださった次第でございます。
 なんでもアケーチ石というそうなのですが……この世界には本当に色々と不思議なものがあるのですね。

 ネココさんをお見送りした私は、早速漬物をいただくことにいたしました。
 ちょうどお昼前ですし、これをおかずにお昼ご飯をいただいてもいいですね。

 バテアさんは、薬草を採取しに南方へ転移魔法でおでかけなさっています。
 リンシンさんは、シロ達白銀狐のみなさんと一緒に山菜採りに、ミリーネアさんは冒険者組合へ歌のネタを仕入れにお出かけなさっていますので、今、この家の中は、

 私
 ベル
 エンジェさん
 
 そして、バテアさんの魔法道具のお店の店番をしているエミリアとショコラさんの合計5人です。

 バテアさんの魔法道具のお店の方は開店しておりますので、それなりにお客様がお見えになっていますので、お昼は交代でとってもらわないといけません。

「さて、ではやりますか」

 地下倉庫から、ハルクサイの漬け物を持って来た私。
 特に古めの物を選別しています。

 私はこれをおかずにご飯をいただけるのですが、それだとベルがいまいちな顔をしてしまうんですよね。

 なので、これに一手間加えます。

 ハルクサイの漬け物をざく切りにします。
 細切れにした豚肉と一緒に、それをフライパンで炒めます。
 醤油とごま油を全体によく混ぜ合わせまして、しっかり炒めて……

「さて、こんなもんですね」

 私は炒め終わったハルクサイの漬け物をお皿によそっていきました。
 お肉を加えたのは、ベルとエンジェさんが喜ぶからです。

 これに、朝、さわこの森で働かれている皆様にお出しした豚汁の残りをよそったお椀と、土鍋ご飯、さらに卵焼きと、タラの芽とジャコをきんぴら風に炒めたものを加えました。

 少し油物が大目になっておりますが、ベルとエンジェさんの舌に会わせるとどうしてもこうなってしまうんですよね。

 私達は、まだ開店していない居酒屋さわこさんの窓際の席に座りました。
 バテアさんの魔法道具のお店は、今はエミリアが店番をしてくれていまして、かわりにショコラさんが先に加わっています。

「では、いただきましょう」
 
 私が手を合わせると、テーブルに集まったみんなも一緒に手を合わせ、

「「「いただきます」」」
 
 一緒に声をあげてくれました。

「にゃ、この卵焼き美味しいニャ!」
「さわこ、このお肉とお野菜を炒めたものも美味しいわ!」
「こっちのきんぴらも美味しいですぅ」

 みんな笑顔でおかずとご飯、それに豚汁を交互に口に運んでは、笑顔を浮かべてくださっています。
 その笑顔を拝見出来るのが、料理した私にとっての一番のご馳走かもしれませんね。

 少し早めにご飯を食べ終えたショコラさん。
 変わってエミリアがテーブルに加わります。

「ありがとうさわこ、ランチをいただくわ」
「さわこさん、アタシのもよろしくね」
「はい、すぐに準備を……ん?」

 その時、私は違和感を感じました。

 おかしいですね……今、新たにテーブルに加わったのはエミリアだけのはずなのですが、なぜか声が2人分聞こえたような気が……

 ゆっくり振り向いた私の視線の先には、テーブルに座っているエミリアと、その横にマイ箸を片手にニコニコ笑っておられるお隣のツカーサさんのお姿が……

「えへへ、バテアさんのお店に来てたら、なんか美味しそうな匂いがしてたもんだから、つい……」
 
 苦笑なさっているツカーサさん。
 そんなツカーサさんに、私も苦笑しながらも、

「では、すぐに準備しますので少しお待ちくださいね」

 そうお応えいたしました。
 恒例の、ツカーサさんの乱入ですけど、せっかくのお昼ですし、みんなで一緒だとなお美味しいですしね。

ーつづく
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