異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

文字の大きさ
上 下
242 / 343
連載

さわこさんと、迷子さん その2

しおりを挟む
「ミリーネアさんがいません!?」
「ちょ!? あの子ってば、どこに行ったのよ!?」

 ショッピングモールの中で、私とバテアさんは思わず貌を見合わせていました。
 みはるのパワーストーンのお店に入るまでは一緒にいたはずです。
 あのモフモフな髪の毛の後ろ姿が記憶にありますので……


 では……

 今、その姿が見えなくなっているミリーネアさんは、今、いったいどこに……

「どうしましょう……と、とりあえず迷子センターに……あ、いえ、それとも警察に……」
 私は困惑してしまい、ただただオロオロしていたのですが、そんな私の横で、バテアさんは右手を顔の前に寄せながら詠唱を始められました。
 
 すると……

 その手の上に、このショッピングモールが線の状態で出現していきまして……その中に明滅している点がありました。

「いたわ! ここよ!」
「えっと、そこは……」

 その場所を見つめながら、私はこのショッピングモールの構造を思い出していました。

 みはるのパワーストーンのお店を少し行った先にあるエスカレーターを降りた先に……


「……思い出しました! そこ、中央広場です」
「さわこ、案内して!」
「はい!」

 バテアさんの手の上にあるショッピングモールの図面の中。
 その光点目指して小走りに進んでいく私とバテアさん。

 休日のため、通路を行き交う人々が多いものですから、なかなか思うように進めません。

 その時です。

「光点が動いた!?」
「えぇ!?」

 バテアさんの言葉をお聞きして、その手の上へ視線を向けますと……確かに、光点が横に向かって移動しているではありませんか。

「や、やっと到着したのに……」
 
 エスカレーターを降りると、そこに中央広場がございました。

 今日はそこでヒーローショーが開催されていたらしく、今の子供ずれのお客様でごった返していました。

「しかし、さっきのあの女の子すごかったなぁ」
「だよねぇ、ヒーローの動きに合わせてハープをかき鳴らしはじめてさ」
「でも、それがすごくマッチしてたのよね」

 親子連れの皆さんの会話をお聞きしながら、私とバテアさんは思わず顔を見合わせました。

 ちょうど近くにいたお母さんが、ママ友さんと先ほど撮影した会場の画像を見せ合いっこなさっていたものですから、それを横から盗み見させていただきましたところ……

 そこには……ステージで躍動しているヒーローの横で、ハープを手にしているミリーネアさんの姿がしっかり映っていたのでございます。

「あの子ってば、何やってんのよ、ホントに」
「でも、なんだか楽しそうなお顔をなさっていましたねぇ」
「だからといって、迷子になられたらかなわないっての」
「それはもう、ごもっともです……」

 私とバテアさんは、小走りに光点を追いかけていきました。


 その後のミリーネアさんは……


 着ぐるみショーの、着ぐるみの後を追いかけていた姿が目撃されたかと思いますと、

 たこ焼き屋の匂いにつられて、お店の壁にべったり張り付いていた姿が目撃されていたり

 風船を配っているお姉さんから風船を受け取ったとの目撃例があったりと……


 とにかく、一時も立ち止まることなくショッピングモールの中を動き回り続けていたのでございます。

「ま、まったくあの子は……いったいなんのつもりなのよ!」

 動き回りすぎて、さすがのバテアさんも息を切らしておいでです。
 かく言う私も、かなり息がきれておりまして……はぁ……

 そんな中……この1時間近く、忙しく動き回り続けていた光点がやっと停止したのでございます。

「さ、さわこ! こ、今度こそミリーネアを捕まえるわよ!」
「はい!」

 私とバテアさんは、大きく頷き会ってから、改めて小走りに進んでいきました。

「……あれ? この通路って……」

 その光点に向かって進みながら、私は違和感を覚えていました。
 ミリーネアさんの現在位置を指し示している光点は、その先の過度を曲がった場所で停止しているのですが……

「……確か、その先って……」

 私とバテアさんが角を曲がると……そこにあったのは、みはるのパワーストーンのお店だったのです。

 よく見ると、その店先にミリーネアさんの姿があるではないですか!?
 ミリーネアさんは、私達の姿に気がつくと、

「2人ともどこにいってた? 心配した……」

 そう言ったのでございます。
 その言葉に、私とバテアさんは思わずカクンとなってしまった次第でございます。

 ◇◇

 その後、ミリーネアさんから事情をお聞きしたのですが……


 みはるのパワーストーンのお店へ移動していた際にですね、ヒーローショーの音楽が聞こえてきたもんですから、それに興味を持ってしまったミリーネアさんは、

「ちょっと見てくる」

 そう言って、駆け出していったそうなんです。

 歌を歌っている姿からは想像がつかないほど、普段は小声でお話をするミリーネアさんですからね、ただでさえ人混みでごった返しているショッピングモールの中で、その小さな声に気が付けと言う方が……ねぇ?


「ミリーネア、一人で勝手に離れないようにって、言ったでしょう?」

 バテアさんがそう言うと、ミリーネアさんはにっこりと微笑みました。

「あのね……とっても楽しかった」

 この様子だと……今もミリーネアさんは、自分が迷子になっていたという感覚はないんでしょうね・

 ただ、この広いショッピングモールの中をあちこち動き回っておきながら、みはるのパワーストーンのお店の位置をしっかりと把握していたのですから……さすが、旅慣れている吟遊詩人のミリーネアさんって、思ってしまった次第でした。

 その後……

 今度こそ、ミリーネアさんと一緒にバスに乗って帰路についた私達なのですが……その間、一度もミリーネアさんの手を離さなかったのは、言うまでもございません。


 ちなみに……歩き回って疲れてしまったのか、帰路のバスの中でミリーネアさんはずっと眠ったままでした。

 その寝顔に釣られるようにして、私もバスの中で少しうとうとしていたのですが、バテアさんが起きていてくださったものですから、降りるべきバス停を行き過ぎてしまうという最悪の事態にはならなかった次第でございます。


◇◇

 翌日……

 居酒屋さわこさんの店内の片隅で、ミリーネアさんがハープをかき鳴らしながら歌を歌っておいででした。

 ♪ラララ、無数のライトに身を委ね

  ♪集まる人々の歓声が集まっていく

   ♪ラララ、香ばしい匂いについつられ……

  その歌をお聴きしていますと……ヒーローショーの話題がでたかと思うと、たこ焼きやの体験談が出て来たりと、いろんな意味でバラエティに富んだ内容になっていた次第です。

 その歌を、楽しそうに歌っている姿を拝見していると、なんだか私まであの日のショッピングモールの事が思い出されてしまう私でした。


ーつづく
しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。