241 / 343
連載
さわこさんと、迷子さん その1
しおりを挟む
今日は、週に一度の仕入の日でございます。
仕入れと言いましても、辺境都市トツノコンベでの仕入のことではございません。
バテアさんの転移ドアをくぐって、私の世界へ買い物に行く日でございます。
私が準備していると……私以上に楽しそうに準備をなさっているお方が1名……
♪さわこの世界~
♪謎とはじめてのつまっている世界~
♪ルルル、ミステリー
ミリーネアさんは、その美しい歌声で鼻歌を歌いながら、いつも背負っておられるリュックサックにあれこれ詰め込んでおられるところです。
その顔には嬉々とした表情が浮かんでいます。
はい、私以上に楽しそうに準備をしているお方……それはミリーネアさんのことでございます。
吟遊詩人のミリーネアさんは、歌の題材に出来ることを探して街から街へと旅をしておられるお方です。
そのため、ご自分が見た事も聞いた事もない世界を歩くことが大好きなんです。
はじめて私の世界に、一緒に出向いた際に、
「……す、すごい……さわこの世界、すごい……楽しい」
すっかりその魅力に取り憑かれてしまったミリーネアさん。
あの日以降、私達が私の世界へ仕入で出向く際に、ミリーネアさんも常に同行なさっているんです。
着替えを終えた私は、ミリーネアさんとともに一階へと移動していきました。
一階では、バテアさんがエミリアとショコラの2人とあれこれお話をしているところでした。
居酒屋さわこさんは夜からの営業ですが、バテアさんの魔法道具のお店は昼間に開店しております。
その打ち合わせを、店番をしているエミリアとショコラの2人としているところのようですね。
「いいこと、この魔石は必ずこれとセットで販売するようにね、あと、行商のテイがカゲタケを売りに来るはずだから受け取っておいてくれる? 代金はここに……」
「オーケーバテア、了解したわ」
「はい、お任せくださいませ」
バテアさんの言葉に、頷くエミリアとショコラの2人。
それを確認したところで、バテアさんは私達の方へ歩いてこられました。
「2人ともお待たせ。さぁ、行きましょうか」
そう言うと、バテアさんは右手を伸ばして詠唱を開始なさいました。
同時に、その手の先に魔法陣が展開しはじめ、その中から転移ドアが出現していきます。
今でこそ、この光景にすっかり慣れた私なのですが、最初の頃はドキドキしっぱなしでした。
なんと言いますか……ど●で●ドアをはじめて使用したら、こんな感じになってしまうのかもしれませんね。
「さ、行くわよ」
「はい」
「うん!」
バテアさんに続いて、私・ミリーネアさんの順番で転移ドアをくぐっていきます。
たった一歩、そのドアの向こうに足を伸ばしただけで、そこは私が30年以上過ごした世界です。
一歩戻れば、そこはこの1年近くを主に過ごしているバテアさんの世界……
こうして考えると、本当に不思議な感じがしてしまいますね。
ビルの合間を抜け、歩道を移動した私達は、いつものようにバスに乗ってショッピングモールを目指して移動してきます。
バスの中で、ミリーネアさんは窓に張り付くようにしながら外を眺め続けておいでです。
「鉄の馬車……光る箱……空には紐……不思議がいっぱい……」
そんな事を口になさりながら、楽しそうに首を左右に振っているミリーネアさん。
なんでしょう、その口ぶりがすでに歌のように感じてしまいます。
ショッピングモールの中に入り、その中を移動している最中もそれは同じです。
左右をキョロキョロなさりながら、その顔を輝かせているミリーネアさん。
「ほらミリーネア、しっかり歩きなさい。ちゃんとついてこないと帰れなくなるわよ」
そう言うと、バテアさんはミリーネアの手を握って歩きはじめました。
ミリーネアさんがかなり小柄なのに対しまして、女性にしては身長が高い部類に入るバテアさんが手をつないで歩いておられるものですから、まるで親子のように見えてしまいます。
背後から2人の後ろ姿を拝見しながら、私はそんなことを考えて思わず笑顔になっていたのでございます。
程なくして、みはるのパワーストーンのお店が見えてまいりました。
店先では、店長のみはるが、バイトのゆきかさんと一緒に、店先の商品を陳列しているところのようです。
「あ、さわこにバテア、それと、ミリーネアさんだったわね」
私達に気がついたみはるが、満面の笑顔で右手をあげてくれました。
「みはる、一週間ぶり。今日もよろしくね」
「えぇ、こちらこそ」
私とみはるは、笑顔で握手を交わしていきました。
みはるはその後、バテアさん、ミリーネアさんの順番で握手を交わしていきます。
「じゃ、ゆきか、ここの作業よろしくね」
「うむ、承った」
陳列作業をゆきかさんに任せて、みはるは私達と一緒に店の奥にある応接室へと移動していきました。
「いやぁ、さわこが持ってきてくれるパワーストーンってば、ホント質がよくてね、入荷する度にすぐ売れちゃうのよね」
嬉しそうに離しているみはるですが……私が持参しているのは、居酒屋さわこさんの売り上げでバテアさんから購入させていただいた魔石なんですよね。
それを、パワーストーンとしてこちらの世界で委託販売してもらっているんです。
……しかし、本当に不思議な話です。
バテアさんの世界では魔石として利用されている石が、私の世界ではパワーストーンとして販売されているのですからね。
みはるから、委託販売代金を受け取り、新しい魔石を手渡した私は、しばらく会話を交わした後に、みはるのお店を後にしていきました。
「……しかし、みはるの店はホント不思議ね」
「そうなのですか?」
「えぇ、この世界の魔法使いみたいな人が集まっているんですもの」
「え?」
バテアさんの言葉に、思わず目を丸くしてしまう私。
そんな私の前で、バテアさんはみはるのお店の一角を指さしました。
「ほら、あそこで陳列されたばかりの魔石を食い入るように見つめている女がいるじゃない? あの人は間違いなく魔法使いよ」
「そ、そうなのですか?……」
バテアさんの言葉に、半信半疑だった私なのですが、横目でその女性の方を拝見していますと……
魔石を手にとり、その魔石に向かって右手の人差し指を伸ばしていかれたのですが……
「……え?」
私の目の錯覚……では、ないようです、はい……その指の先に、魔法陣が展開しているではありませんか!?
「ああして、魔石の種類と含有魔力量を調べているのよ」
「へ、へぇ……そうなのですね……」
バテアさんの言葉をお聞きしながら、私はその女性の手元から目が離せなくなっていたのです、が……
「……あら?」
ここで、バテアさんがびっくりしたような声を上げられました。
「ミリーネアはどこ?」
「はい?」
バテアさんのお言葉をお聞きして、慌てて周囲を見回した私なのですが……あれ? そういうことでしょうか……ミリーネアさんの姿がどこにもないんです!?
ーつづく
仕入れと言いましても、辺境都市トツノコンベでの仕入のことではございません。
バテアさんの転移ドアをくぐって、私の世界へ買い物に行く日でございます。
私が準備していると……私以上に楽しそうに準備をなさっているお方が1名……
♪さわこの世界~
♪謎とはじめてのつまっている世界~
♪ルルル、ミステリー
ミリーネアさんは、その美しい歌声で鼻歌を歌いながら、いつも背負っておられるリュックサックにあれこれ詰め込んでおられるところです。
その顔には嬉々とした表情が浮かんでいます。
はい、私以上に楽しそうに準備をしているお方……それはミリーネアさんのことでございます。
吟遊詩人のミリーネアさんは、歌の題材に出来ることを探して街から街へと旅をしておられるお方です。
そのため、ご自分が見た事も聞いた事もない世界を歩くことが大好きなんです。
はじめて私の世界に、一緒に出向いた際に、
「……す、すごい……さわこの世界、すごい……楽しい」
すっかりその魅力に取り憑かれてしまったミリーネアさん。
あの日以降、私達が私の世界へ仕入で出向く際に、ミリーネアさんも常に同行なさっているんです。
着替えを終えた私は、ミリーネアさんとともに一階へと移動していきました。
一階では、バテアさんがエミリアとショコラの2人とあれこれお話をしているところでした。
居酒屋さわこさんは夜からの営業ですが、バテアさんの魔法道具のお店は昼間に開店しております。
その打ち合わせを、店番をしているエミリアとショコラの2人としているところのようですね。
「いいこと、この魔石は必ずこれとセットで販売するようにね、あと、行商のテイがカゲタケを売りに来るはずだから受け取っておいてくれる? 代金はここに……」
「オーケーバテア、了解したわ」
「はい、お任せくださいませ」
バテアさんの言葉に、頷くエミリアとショコラの2人。
それを確認したところで、バテアさんは私達の方へ歩いてこられました。
「2人ともお待たせ。さぁ、行きましょうか」
そう言うと、バテアさんは右手を伸ばして詠唱を開始なさいました。
同時に、その手の先に魔法陣が展開しはじめ、その中から転移ドアが出現していきます。
今でこそ、この光景にすっかり慣れた私なのですが、最初の頃はドキドキしっぱなしでした。
なんと言いますか……ど●で●ドアをはじめて使用したら、こんな感じになってしまうのかもしれませんね。
「さ、行くわよ」
「はい」
「うん!」
バテアさんに続いて、私・ミリーネアさんの順番で転移ドアをくぐっていきます。
たった一歩、そのドアの向こうに足を伸ばしただけで、そこは私が30年以上過ごした世界です。
一歩戻れば、そこはこの1年近くを主に過ごしているバテアさんの世界……
こうして考えると、本当に不思議な感じがしてしまいますね。
ビルの合間を抜け、歩道を移動した私達は、いつものようにバスに乗ってショッピングモールを目指して移動してきます。
バスの中で、ミリーネアさんは窓に張り付くようにしながら外を眺め続けておいでです。
「鉄の馬車……光る箱……空には紐……不思議がいっぱい……」
そんな事を口になさりながら、楽しそうに首を左右に振っているミリーネアさん。
なんでしょう、その口ぶりがすでに歌のように感じてしまいます。
ショッピングモールの中に入り、その中を移動している最中もそれは同じです。
左右をキョロキョロなさりながら、その顔を輝かせているミリーネアさん。
「ほらミリーネア、しっかり歩きなさい。ちゃんとついてこないと帰れなくなるわよ」
そう言うと、バテアさんはミリーネアの手を握って歩きはじめました。
ミリーネアさんがかなり小柄なのに対しまして、女性にしては身長が高い部類に入るバテアさんが手をつないで歩いておられるものですから、まるで親子のように見えてしまいます。
背後から2人の後ろ姿を拝見しながら、私はそんなことを考えて思わず笑顔になっていたのでございます。
程なくして、みはるのパワーストーンのお店が見えてまいりました。
店先では、店長のみはるが、バイトのゆきかさんと一緒に、店先の商品を陳列しているところのようです。
「あ、さわこにバテア、それと、ミリーネアさんだったわね」
私達に気がついたみはるが、満面の笑顔で右手をあげてくれました。
「みはる、一週間ぶり。今日もよろしくね」
「えぇ、こちらこそ」
私とみはるは、笑顔で握手を交わしていきました。
みはるはその後、バテアさん、ミリーネアさんの順番で握手を交わしていきます。
「じゃ、ゆきか、ここの作業よろしくね」
「うむ、承った」
陳列作業をゆきかさんに任せて、みはるは私達と一緒に店の奥にある応接室へと移動していきました。
「いやぁ、さわこが持ってきてくれるパワーストーンってば、ホント質がよくてね、入荷する度にすぐ売れちゃうのよね」
嬉しそうに離しているみはるですが……私が持参しているのは、居酒屋さわこさんの売り上げでバテアさんから購入させていただいた魔石なんですよね。
それを、パワーストーンとしてこちらの世界で委託販売してもらっているんです。
……しかし、本当に不思議な話です。
バテアさんの世界では魔石として利用されている石が、私の世界ではパワーストーンとして販売されているのですからね。
みはるから、委託販売代金を受け取り、新しい魔石を手渡した私は、しばらく会話を交わした後に、みはるのお店を後にしていきました。
「……しかし、みはるの店はホント不思議ね」
「そうなのですか?」
「えぇ、この世界の魔法使いみたいな人が集まっているんですもの」
「え?」
バテアさんの言葉に、思わず目を丸くしてしまう私。
そんな私の前で、バテアさんはみはるのお店の一角を指さしました。
「ほら、あそこで陳列されたばかりの魔石を食い入るように見つめている女がいるじゃない? あの人は間違いなく魔法使いよ」
「そ、そうなのですか?……」
バテアさんの言葉に、半信半疑だった私なのですが、横目でその女性の方を拝見していますと……
魔石を手にとり、その魔石に向かって右手の人差し指を伸ばしていかれたのですが……
「……え?」
私の目の錯覚……では、ないようです、はい……その指の先に、魔法陣が展開しているではありませんか!?
「ああして、魔石の種類と含有魔力量を調べているのよ」
「へ、へぇ……そうなのですね……」
バテアさんの言葉をお聞きしながら、私はその女性の手元から目が離せなくなっていたのです、が……
「……あら?」
ここで、バテアさんがびっくりしたような声を上げられました。
「ミリーネアはどこ?」
「はい?」
バテアさんのお言葉をお聞きして、慌てて周囲を見回した私なのですが……あれ? そういうことでしょうか……ミリーネアさんの姿がどこにもないんです!?
ーつづく
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
3,675
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。