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さわこさんと、バレンタインデーの夜
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今夜も居酒屋さわこさんはいつものように営業しております。
相変わらず外は雪で覆われているのですが、今夜はいつもよりも風が弱く雪の降りも穏やかです。
そのおかげでしょうか、今夜はいつもより少し多めのお客様で店内が賑わっているように思っております。
そんなお客様がお帰りになる際に
「あ、お待ちくださいな」
私は、厨房から急ぎ足でお客様の元へ歩み寄りますと
「よろしかったらこれをお持ち帰りくださいな」
そう言って、薄い黄色の包装紙でくるまれている板状の品物をお渡しいたしました。
「さわこさん、なんだいこれは?」
「はい、チョコレートです」
「チョコレート?」
「はい、私の住んでいたところでは、本日は日頃の感謝を込めましてチョコレートをお渡しする日なのですよ」
私が笑顔でそう言いますと、
「へぇ、そう言うことならありがたく頂いておこう」
常連客の方は、笑顔で板チョコを受け取ってくださりまして、そのままお店を後になさいました。
すると、そんな私の元に、エミリアが歩みよって来ました。
「へぇ、さわこの世界では、今日はそのバレンタインデーという日なのね」
「えぇ、以前していたお店では、こうしてみなさんにチョコレートをお配りさせていただいていたんです」
私が笑顔でエミリアに伝えますと、
「さわこ! 私もらったことがないわ!」
エンジェさんがびっくりしたような顔をしながら私へ視線を向けました。
「エンジェさん……あなたはクリスマスツリーの付喪神なのですから……この時期にはとっくに箱に入れて押し入れの中だったではありませんか」
私が苦笑しながらそう言いますと、
「あぁ! そうだったのねさわこ。それで記憶になかったのね」
頭に手を当てながら笑っているエンジェさん。
その様子に、お店の皆様も思わず笑顔を浮かべておいででした。
……もっとも、昨年のこの時期の居酒屋酒話には閑古鳥が鳴きまくっておりましたので、お渡しさせていただいたチョコレートは、善治郎さんとそのご友人の皆様の合計6枚こっきりだったのですけれど……
そんなことを思い出しながら私が厨房へ戻っていきますと、バテアさんが私に笑いかけておいでです。
「それで今日、さわこの世界に出向いた際に、その板チョコをたくさん買い込んでいたわけね」
「はい、そうなんです。みなさんに少しでも日頃の感謝をお返しさせていただこうと思いまして」
「そういえば……スア師匠の旦那さんがやってる店でも、この時期バレンタインデーフェアをやってるって聞いたわね」
「え? そうなんですか? じゃあ、この世界にもバレンタインデーを実施している地域があるんですね」
「いえ……その旦那さんのお店だけで実施しているらしいわ」
「あ、そうなのですか」
その旦那さんが、どこからこのバレンタインデーの事をお知りになったのか……少し気にはなったのですが、今夜の居酒屋さわこさんは久しぶりにほぼ満席の大繁盛状態だったものですから、
「さわこさん、鍋を頼むよ」
「こっちは串焼きの盛り合わせを!」
そんな声がすぐにあちらこちらからかかりはじめたものですから
「はい、喜んで!」
私は、笑顔で返答を返させて頂きながら、厨房へ入っていった次第でございます。
◇◇
この日、お客様用に準備していたチョコレートは、ほとんど全部なくなってしまいました。
お店の後片付けを終え、順番にお風呂をすませた私達は、2階にありますリビングのコタツへと集合していきました。
「さぁ、今日は久しぶりに大入り満員だったし、少し盛大な晩酌といこうかね」
バテアさんが満面の笑顔でそうおっしゃいました。
すでに、手には一升瓶をお持ちです。
北秋田の大吟醸
フルーティーで口当たりが非常に良いお酒です。
お手頃価格な割に飲み応えもあるお勧めなお酒でございます。
「あ、でもみなさん、ちょっとお待ちくださいな」
リビング脇にございます簡易キッチンで作業をしていた私は、お鍋の中身をマグカップにうつしていきました。
「はい、まずは最初にこちらをどうぞ」
お盆に乗せて運んできたマグカップを、私はみなさんへお渡ししていきました。
「何これ? 甘い匂いね」
「はい、ホットチョコレートです」
バテアさんに笑顔でお返事した私です。
はい、いつもお世話になっているみなさんのために、別に購入しておいたチョコレートを使用して先ほど作成したのでございます。
ベルとエンジェさんは疲れて眠ってしまっておりますので、また明日作ってあげようと思います。
バテアさん
リンシンさん
ミリーネアさん
いつものお三方にマグカップを手渡し終えた私は、自分のマグカップを片手にいつもの席へと座っていきました。
「では皆さん、ハッピーバレンタイン!」
私がそう言ってマグカップを掲げますと、
「「「ハッピーバレンタイン!」」」
皆さんも同じように声をあげながら、私のマグカップにご自分のマグカップを合わせてくださいました。
「へぇ、ホントに甘いわね」
「……うん、これ……好き」
「そうね……この甘さとても素敵」
お三方は、笑顔でホットチョコレートを口に運んでおられます。
そんな皆さんの笑顔に、私も思わず笑顔を浮かべた次第でございます。
いつかは、男性の方に告白の意味をこめたチョコレートをお渡ししたいと思っていたこともございますけれども、今の私には、気心のしれた皆さんと一緒に友チョコでお祝いするバレンタインデーが楽しくていい感じです。
リビングの中はホットチョコレートの甘い匂いが充満しております。
そんな中、私達はいつものように他愛もない会話を交わしながら、やがてお酒を酌み交わしていきました。
ーつづく
相変わらず外は雪で覆われているのですが、今夜はいつもよりも風が弱く雪の降りも穏やかです。
そのおかげでしょうか、今夜はいつもより少し多めのお客様で店内が賑わっているように思っております。
そんなお客様がお帰りになる際に
「あ、お待ちくださいな」
私は、厨房から急ぎ足でお客様の元へ歩み寄りますと
「よろしかったらこれをお持ち帰りくださいな」
そう言って、薄い黄色の包装紙でくるまれている板状の品物をお渡しいたしました。
「さわこさん、なんだいこれは?」
「はい、チョコレートです」
「チョコレート?」
「はい、私の住んでいたところでは、本日は日頃の感謝を込めましてチョコレートをお渡しする日なのですよ」
私が笑顔でそう言いますと、
「へぇ、そう言うことならありがたく頂いておこう」
常連客の方は、笑顔で板チョコを受け取ってくださりまして、そのままお店を後になさいました。
すると、そんな私の元に、エミリアが歩みよって来ました。
「へぇ、さわこの世界では、今日はそのバレンタインデーという日なのね」
「えぇ、以前していたお店では、こうしてみなさんにチョコレートをお配りさせていただいていたんです」
私が笑顔でエミリアに伝えますと、
「さわこ! 私もらったことがないわ!」
エンジェさんがびっくりしたような顔をしながら私へ視線を向けました。
「エンジェさん……あなたはクリスマスツリーの付喪神なのですから……この時期にはとっくに箱に入れて押し入れの中だったではありませんか」
私が苦笑しながらそう言いますと、
「あぁ! そうだったのねさわこ。それで記憶になかったのね」
頭に手を当てながら笑っているエンジェさん。
その様子に、お店の皆様も思わず笑顔を浮かべておいででした。
……もっとも、昨年のこの時期の居酒屋酒話には閑古鳥が鳴きまくっておりましたので、お渡しさせていただいたチョコレートは、善治郎さんとそのご友人の皆様の合計6枚こっきりだったのですけれど……
そんなことを思い出しながら私が厨房へ戻っていきますと、バテアさんが私に笑いかけておいでです。
「それで今日、さわこの世界に出向いた際に、その板チョコをたくさん買い込んでいたわけね」
「はい、そうなんです。みなさんに少しでも日頃の感謝をお返しさせていただこうと思いまして」
「そういえば……スア師匠の旦那さんがやってる店でも、この時期バレンタインデーフェアをやってるって聞いたわね」
「え? そうなんですか? じゃあ、この世界にもバレンタインデーを実施している地域があるんですね」
「いえ……その旦那さんのお店だけで実施しているらしいわ」
「あ、そうなのですか」
その旦那さんが、どこからこのバレンタインデーの事をお知りになったのか……少し気にはなったのですが、今夜の居酒屋さわこさんは久しぶりにほぼ満席の大繁盛状態だったものですから、
「さわこさん、鍋を頼むよ」
「こっちは串焼きの盛り合わせを!」
そんな声がすぐにあちらこちらからかかりはじめたものですから
「はい、喜んで!」
私は、笑顔で返答を返させて頂きながら、厨房へ入っていった次第でございます。
◇◇
この日、お客様用に準備していたチョコレートは、ほとんど全部なくなってしまいました。
お店の後片付けを終え、順番にお風呂をすませた私達は、2階にありますリビングのコタツへと集合していきました。
「さぁ、今日は久しぶりに大入り満員だったし、少し盛大な晩酌といこうかね」
バテアさんが満面の笑顔でそうおっしゃいました。
すでに、手には一升瓶をお持ちです。
北秋田の大吟醸
フルーティーで口当たりが非常に良いお酒です。
お手頃価格な割に飲み応えもあるお勧めなお酒でございます。
「あ、でもみなさん、ちょっとお待ちくださいな」
リビング脇にございます簡易キッチンで作業をしていた私は、お鍋の中身をマグカップにうつしていきました。
「はい、まずは最初にこちらをどうぞ」
お盆に乗せて運んできたマグカップを、私はみなさんへお渡ししていきました。
「何これ? 甘い匂いね」
「はい、ホットチョコレートです」
バテアさんに笑顔でお返事した私です。
はい、いつもお世話になっているみなさんのために、別に購入しておいたチョコレートを使用して先ほど作成したのでございます。
ベルとエンジェさんは疲れて眠ってしまっておりますので、また明日作ってあげようと思います。
バテアさん
リンシンさん
ミリーネアさん
いつものお三方にマグカップを手渡し終えた私は、自分のマグカップを片手にいつもの席へと座っていきました。
「では皆さん、ハッピーバレンタイン!」
私がそう言ってマグカップを掲げますと、
「「「ハッピーバレンタイン!」」」
皆さんも同じように声をあげながら、私のマグカップにご自分のマグカップを合わせてくださいました。
「へぇ、ホントに甘いわね」
「……うん、これ……好き」
「そうね……この甘さとても素敵」
お三方は、笑顔でホットチョコレートを口に運んでおられます。
そんな皆さんの笑顔に、私も思わず笑顔を浮かべた次第でございます。
いつかは、男性の方に告白の意味をこめたチョコレートをお渡ししたいと思っていたこともございますけれども、今の私には、気心のしれた皆さんと一緒に友チョコでお祝いするバレンタインデーが楽しくていい感じです。
リビングの中はホットチョコレートの甘い匂いが充満しております。
そんな中、私達はいつものように他愛もない会話を交わしながら、やがてお酒を酌み交わしていきました。
ーつづく
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