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さわこさんと、仲良し

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 連日大雪に見舞われている辺境都市トツノコンベの周辺でございます。

 そのため、バテアさんの転移魔法で遠方に出向く以外では狩猟を行えていなかった、リンシンさんをはじめとした居酒屋さわこさんと専属契約を結んでくださっている冒険者の皆様。

 そんな皆様は、居酒屋さわこさんに集合しては、

 武具の手入れを一緒になさったり
 過去にあった狩猟の苦労話や自慢話
 魔獣の情報交換

 そう言ったことを日がな一日、交わし合っておられるのがいつもでございます。

 そんなお話を、吟遊詩人のミリーネアさんがすぐ横に同席して、興味深そうにそれらのお話をメモしておられます。
 ミリーネアさんも、大雪のせいで外部から冒険者がこられないものですから歌のネタが入手しにくくなられていたものですから、格好の場のようですね。

 そんなミリーネアさんのために、この街で長く冒険者をなさっているクニャスさんやジューイさんが、居酒屋さわこさんとは契約していない知り合いの冒険者の方をお誘いくださっては、その体験談をミリーネアさんが聞けるように配慮してくださっているのでございます。

 そんな中……

 テーブルの一角に座って罠の手入れをなさっているリンシンさん。
 そのお膝の上には、白銀狐のシロがちょこんと座っています。

 先日、人型に変化することが出来るようになったシロ。
 小さくて可愛らしい女の子姿のシロですが、頭に大きなお耳と、お尻から大きな尻尾が伸びていますので、すぐに亜人種族だとわかります。

 それにしても……

 その尻尾がですね、とっても大きくてフワフワなんですよ。
 そんな尻尾を、リンシンさんのお膝の上に座っている間中、嬉しそうに左右に振っているシロ。
 頬を赤く染め、嬉しそうに微笑みながらリンシンさんの手元を見つめているのが、最近のシロのお決まりの仕草となっております。

 そんな中、
「ジュ、そんなに懐いているのなら、使い魔契約すればいのに」
 ジューイさんがそんな話をリンシンさんになさいました。

「使い魔……?」
「あぁ、さわこは知らなかったかしら」
「はい、はじめてお聞きするように思うのですが……」
 
 厨房の中で首をひねる私、そんな私にカウンター席に座っているバテアさんが話し掛けてくださっています。

「使い魔契約っていうのはね、魔獣と主従契約を結ぶことなのよ。そうすることで魔獣と精神的につながることが出来てコミュニケーションが取りやすくなるの。他にもお互いが持っている情報を共有出来たりするもんだから、冒険者が魔獣を使い魔にすることは結構よくあるのよ。大都市には、使い魔用の魔獣を販売している業者もあるくらいだしね」
「へぇ、そうなんですか」

 私とバテアさんがそんなお話をしている中……

「……んーん、私はいい」
 リンシンさんは、そう言いながら膝の上のシロの頭を撫でておられます。

「ジュ? 嫌なのジュ?」
「……嫌じゃない。シロのこと、大好き……でも、この子は、白銀狐の群れの子供だし……それに、そんなことをしなくても、シロと私は、仲良し……」

 シロの頭を優しく撫でておられるリンシンさん。
 シロも、嬉しそうに微笑み続けています。

 そんな、リンシンさんとシロの笑顔がとってもぽややんとしているものですから、その笑顔を拝見していた私達まで、思わずぽややんとした笑顔を浮かべていたのでございます。

 そんなみなさんのために、私は先ほどから料理をつくっております。

 土鍋で炊いたご飯を、握り飯にしているんです。

 毎日、バテアさんの魔法道具のお店のカウンターで販売している握り飯弁当とは少し趣が違っておりまして、今作成しているおにぎりは具だくさんおにぎりでございます。

 焼き鮭ならぬ、焼きジャッケのおにぎり
 舞茸の代わりに、カゲタケを使用した炊き込みご飯のおにぎり
 タレで炒めた流血狼のお肉をはさんだおにぎり

 そんな感じで、こちらの世界の食材をはさみこんだおにぎりを、どんどん握っているのでございます。

「さ、出来ましたよ。みなさん、少し休憩なさってはいかがですか」
 私は、おにぎりでいっぱいになった大皿を、ワイワイお話なさっている冒険者の皆様のテーブルへと運んでいきました。

 すると、

「ニャ! さーちゃん手伝うニャ!」
「わさこ! 私も手伝うわ!」

 バテアさんの隣で、うどんを踏み踏みしていたベルとエンジェさんが、すぐに私のもとへと駆け寄って来ました。
「じゃあ、2人はそっちのお皿を運んでくださいね」
「さーちゃんまかせてニャ!」
「さわこ、まかせて!」
 私の言葉を聞くと、2人は調理台の上に置いてある大皿を手にとり、慎重にそれを運びはじめました。

 その姿が、なんだか可愛いんです。

 その時、私は先ほどリンシンさんが口になさっていたことを思い出しました。

『そんなことをしなくても、シロと私は、仲良し』
 そう言って、シロを使い魔にすることをやんわりと拒否なさったリンシンさん。

 その時は「絆が深まるんだしよろしいのでは?」と、内心で思っていたのですが……

 もし私が「ベルと使い魔の契約を結んだらどう?」

 そう言われたら……多分、私もリンシンさんと同じように、やんわりと拒否したと思います。
 いえ、使い魔の契約が嫌とか、そういうのではございません。
 そうすることで、お互いの絆が深まるのですからね、むしろ魅力的に感じている私もいるのです。

 ですけど……そんなことをしなくても、私とベルはとっても仲良しなのですから。

◇◇

 おにぎりがいっぱいのっている大皿。
 そのおにぎりを、リンシンさん達は手にとっては口に運んでおられます。

「ジュ、このジャッケのハラミのおにぎり、最高ジュ」
「アタシは断然こっちのお肉をはさんだヤツね」

 そんな会話を交わしておられるジューイさんとクニャスさん。

 そんなお2人同様に、他のみなさんも笑顔でおにぎりを口に運んでおられます。

 シロは、どうやら焼きおにぎりが気に入ったようですね。
 醤油の香ばしい匂いを、スンスンと嗅ぎながら、はむはむと小さなお口でおにぎりを頬張っていくシロ。
「……シロ……お弁当」
 そんなシロのほっぺにくっついたご飯粒を、リンシンさんが指でつまむと、それをご自分の口に中へといれていかれました。

 なんでしょう……まるで親子のような光景ですね。

 その光景に、しばらくぽややんとさせていただいた私。

「さて、外の方はどうでしょう……」
 居酒屋さわこさんの扉から顔をのぞかせると、バテア青空市の方に白銀狐さん達の姿が見えました。

 もう少し温かくなってから、リンシンさん達と一緒に流血狼を狩りにいくことになっているものですから、早めに集合してくれているようです。

 こういったお約束は、シロが伝言係として双方の間を伝達してくれているんです。

 白銀狐さん達が集合しているのを確認した私は、白銀狐さん達のために準備しておいたおにぎりの皿を運ぼうと、厨房の方へ向き直ったのですが……

「さーちゃん、これを運ぶニャね?」
 私の後ろには、おにぎりがのった大皿を抱えるようにして持って炒るベルの姿がありました。

 まだお願いしておりませんのに……こういうのを以心伝心というのでしょうか。

「はい、お願いしてもいいですか?」
「ニャ! さーちゃんのためなら、どんと来いニャ!」
 ベルは嬉しそうに笑いながら外へ歩いていきました。
 そのすぐ後を、エンジェさんが続いていきます。

 今日も、私とベル、それにエンジェさんがとっても仲良しです。

ーつづく
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