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さわこさんと、春を頂きます
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先日、白銀狐のシロ、と申しましてもこの名前はリンシンさんが心の中でお付けになった名前なのですが、そのシロを助けたお礼にと、白銀狐の群れのみなさんが雪の下で芽吹いていたたくさんのお野菜を届けてくださいました。
それは、私の世界で例えますと、
タケノコ
ふきのとう
タラの芽
菜の花
これらにとてもよく似た物が多く含まれていました。
せっかくですので、これを調理させていただこうと思います。
春のお野菜は少しほろ苦い物が多いため、天ぷらにするのが最適だと個人的に思っております。
普通に天ぷらとして揚げるのもいいのですが、それとは別にもう一品。
下ごしらえをすませた春のお野菜をですね、水切りをした後粗くほぐしたお豆腐くるみまして、それに天ぷら粉をまぶして揚げていきます。
こうしますと、お豆腐のふんわりした衣の中から春野菜が顔を出してきまして、お酒の肴に最適なんです。
これを天つゆではなく、抹茶の粉とお塩をブレンドした物でいただきます。
そうですね、1対1でちょうどいい感じです。
試食をしてみましたところ……
「うん、このほろ苦さがいい感じですね」
私は思わず笑顔を浮かべました。
はい、私の世界の春野菜に負けずとも劣らない美味しさでございます。
これなら、お客様もきっと喜んでくださるはずです。
下ごしらえをした状態で魔法袋に保存しておきまして、居酒屋さわこさんの営業時間に注文が入りましたらその都度揚げお出ししようと思っております。
◇◇
とはいえ、このお野菜が入手出来たのはリンシンさんのおかげなわけです。
そんなわけで、この天ぷらは、まずはリンシンさんに召し上がっていただこうと思っております。
今日は、バテアさんの転移魔法で、冒険者の皆様と一緒に南方へ狩りに向かわれているリンシンさん。
お戻りになられたのはお昼をずいぶんすぎてからでした。
「……さわこ、いっぱい狩れた」
お戻りになられたバテアさんは、嬉しそうに笑顔を浮かべてお出でです。
他の皆様も、リンシンさん同様に楽しそうにお話なさっておいでです。
ここ辺境都市トツノコンベ周辺は、ここしばらくは大雪で覆われているものですから、リンシンさん達もなかなか成果があがらなかったため、少々意気消沈なさっていただけに、今日の大成功をみなさん大喜びなさっておられるようですね。
私としましてもお店のお肉のストックが増えるわけですので嬉しいことこの上ありません。
「みなさんお疲れさまでした。よかったら一休みしていってくださいな」
営業前の居酒屋さわこさんの店内で一休みなさっているみなさんにお茶をお配りしながら、私は笑顔でそう言いました。
最初はリンシンさんお一人に味見を……と、思っていたのですが、せっかくですのでみなさんに試食していただこうと思った次第なんですよ。
厨房へ入った私は、早速魔法袋の中から少し前に下ごしらえしたばかりの材料を取りだしました。
魔石コンロで熱した天ぷら油の中に、それらを順次投入していきます。
ジュワー……
材料が油に入る度に、いい音が店内に響いていきます。
その度に、リンシンさんをはじめとした冒険者のみなさんが、喉を鳴らしている音が聞こえてまいります。
このお野菜を、あの白銀狐のみなさんが一生懸命雪をかき分けて集めてくださったのですね……
そう思いますと、なんだか感慨深い気持ちになってしまいます。
またいつかお会い出来たら、いっぱいご馳走してあげたいな、と、思っております。
天ぷらとくればビール……
そう思われる方も少なくないと思いますが、少々苦みのある春野菜の天ぷらには辛口のお酒が相性ぴったりだと、私は思っております。
そこで本日選択いたしましたのは、菊水の辛口でございます。
辛口のお酒の代表格といっても過言ではない逸品です。
洗練された旨みがまず口の中に広がりまして辛みが最後にピシッとしめてくれる、そんな味わいを楽しめるお酒でございます。
揚がった天ぷらを大皿にのせまして、それをベルとエンジェさんが運んでくださいます。
いつもですと、大皿料理の運搬はリンシンさんのお仕事なのですが、
「今日はリンシンはお客さんニャ!」
「私とベルに、任せて!」
ベルとエンジェさんは笑顔でそう言いながら、2人で息を合わせて大皿を運んでくれています。
「料理は2人に任せるとして……お酒はアタシの担当ね」
そう言って、バテアさんがみなさんにお酒を注いでまわってくださっています。
リンシンさんは、まずは春野菜とお豆腐の天ぷらを一口。
それを口になさると、いつものように何度も何度も口を動かしながら、その顔に満面の笑顔をうかべておいでです。
そのお顔が、すべてを物語っています。
いつも無口なリンシンさん。
特に、物を食べたりお酒を飲まれる際にはその傾向がより顕著になっていします。
なのですが……
その分、そのお顔が全てを物語ってくださるのが、リンシンさんなんですよね。
その嬉しそうな笑顔を見た、他の冒険者のみなさんも一緒に天ぷらを口に運ばれました。
「うん、これはいいね」
「ジュ! すごく美味しいジュ! この緑の塩みたいたのがまたあうジュ!」
「このお酒がまたあうねぇ」
冒険者のみなさんは、歓声をあげながら春野菜の天ぷらをどんどん口に運んでおられます。
その楽しそうな雰囲気を厨房から拝見していると、私まで楽しくなって参ります。
「さぁ、ベル、エンジェさん。次があがりますよ」
「さーちゃん、わかったニャ」
「さわこ、まかせて!」
私の言葉に、ベルとエンジェさんも笑顔で駆け寄ってきてくれました。
そんな2人に、大皿を渡す私。
それを、みんなの元へ
「よいしょよいしょ」
「よいしょよいしょ」
2人息を合わせながら運んでいくベルと、エンジェさん。
「さぁ、今日は特別なんだから、飲んで食べないと損よ、損」
そう言いながらみなさんお酒を注いで回ってくださっているバテアさん……なのですが、時折天ぷらをつまんではご自分の口に運んでおられるのは……まぁ、今日のところはご愛敬ということで。
みなさん、大喜びしながら春のお野菜の天ぷらを食べてくださっていたのですが……
なんでしょう……よく見るとバテアさんが周囲をキョロキョロなさりはじめました。
「……バテアさん? どうかなさったのですか?」
「いえね……こうやってみんなで目新しい物を食べてるとさ、どこからともなく現れる……」
「あぁ!? ツカーサさん!?」
そのお言葉をお聞きした私も、思わず周囲を見回してしまいました。
お店のお隣にお住まいのツカーサさんは、こうやって新製品を試食していると、必ずと言っていい程店内に出没なさるんです……
なのですが……変ですね、今日はそのお姿が一向に見えません。
すると、
「あぁ、ツカーサさんなら今日はお友達のゴリュークさん達と旅行に出かけていて留守のはずですよ」
冒険者のシロイルさんが、お酒を飲みながら教えてくださいました。
それを聞いたバテアさんは、
「あらあら、ツカーサってば帰って来てこの料理の話を聞いたら悔しがるかもね」
そう言って楽しそうに笑われました。
そのお言葉に、他の冒険者の皆様も一斉に笑い声をあげていった次第でございます。
お野菜はまだまだございますので、ツカーサさんがお戻りになられるまでくらいでしたら十分持つと思いますので、その際にしっかり味わっていただこうと思います。
ーつづく
それは、私の世界で例えますと、
タケノコ
ふきのとう
タラの芽
菜の花
これらにとてもよく似た物が多く含まれていました。
せっかくですので、これを調理させていただこうと思います。
春のお野菜は少しほろ苦い物が多いため、天ぷらにするのが最適だと個人的に思っております。
普通に天ぷらとして揚げるのもいいのですが、それとは別にもう一品。
下ごしらえをすませた春のお野菜をですね、水切りをした後粗くほぐしたお豆腐くるみまして、それに天ぷら粉をまぶして揚げていきます。
こうしますと、お豆腐のふんわりした衣の中から春野菜が顔を出してきまして、お酒の肴に最適なんです。
これを天つゆではなく、抹茶の粉とお塩をブレンドした物でいただきます。
そうですね、1対1でちょうどいい感じです。
試食をしてみましたところ……
「うん、このほろ苦さがいい感じですね」
私は思わず笑顔を浮かべました。
はい、私の世界の春野菜に負けずとも劣らない美味しさでございます。
これなら、お客様もきっと喜んでくださるはずです。
下ごしらえをした状態で魔法袋に保存しておきまして、居酒屋さわこさんの営業時間に注文が入りましたらその都度揚げお出ししようと思っております。
◇◇
とはいえ、このお野菜が入手出来たのはリンシンさんのおかげなわけです。
そんなわけで、この天ぷらは、まずはリンシンさんに召し上がっていただこうと思っております。
今日は、バテアさんの転移魔法で、冒険者の皆様と一緒に南方へ狩りに向かわれているリンシンさん。
お戻りになられたのはお昼をずいぶんすぎてからでした。
「……さわこ、いっぱい狩れた」
お戻りになられたバテアさんは、嬉しそうに笑顔を浮かべてお出でです。
他の皆様も、リンシンさん同様に楽しそうにお話なさっておいでです。
ここ辺境都市トツノコンベ周辺は、ここしばらくは大雪で覆われているものですから、リンシンさん達もなかなか成果があがらなかったため、少々意気消沈なさっていただけに、今日の大成功をみなさん大喜びなさっておられるようですね。
私としましてもお店のお肉のストックが増えるわけですので嬉しいことこの上ありません。
「みなさんお疲れさまでした。よかったら一休みしていってくださいな」
営業前の居酒屋さわこさんの店内で一休みなさっているみなさんにお茶をお配りしながら、私は笑顔でそう言いました。
最初はリンシンさんお一人に味見を……と、思っていたのですが、せっかくですのでみなさんに試食していただこうと思った次第なんですよ。
厨房へ入った私は、早速魔法袋の中から少し前に下ごしらえしたばかりの材料を取りだしました。
魔石コンロで熱した天ぷら油の中に、それらを順次投入していきます。
ジュワー……
材料が油に入る度に、いい音が店内に響いていきます。
その度に、リンシンさんをはじめとした冒険者のみなさんが、喉を鳴らしている音が聞こえてまいります。
このお野菜を、あの白銀狐のみなさんが一生懸命雪をかき分けて集めてくださったのですね……
そう思いますと、なんだか感慨深い気持ちになってしまいます。
またいつかお会い出来たら、いっぱいご馳走してあげたいな、と、思っております。
天ぷらとくればビール……
そう思われる方も少なくないと思いますが、少々苦みのある春野菜の天ぷらには辛口のお酒が相性ぴったりだと、私は思っております。
そこで本日選択いたしましたのは、菊水の辛口でございます。
辛口のお酒の代表格といっても過言ではない逸品です。
洗練された旨みがまず口の中に広がりまして辛みが最後にピシッとしめてくれる、そんな味わいを楽しめるお酒でございます。
揚がった天ぷらを大皿にのせまして、それをベルとエンジェさんが運んでくださいます。
いつもですと、大皿料理の運搬はリンシンさんのお仕事なのですが、
「今日はリンシンはお客さんニャ!」
「私とベルに、任せて!」
ベルとエンジェさんは笑顔でそう言いながら、2人で息を合わせて大皿を運んでくれています。
「料理は2人に任せるとして……お酒はアタシの担当ね」
そう言って、バテアさんがみなさんにお酒を注いでまわってくださっています。
リンシンさんは、まずは春野菜とお豆腐の天ぷらを一口。
それを口になさると、いつものように何度も何度も口を動かしながら、その顔に満面の笑顔をうかべておいでです。
そのお顔が、すべてを物語っています。
いつも無口なリンシンさん。
特に、物を食べたりお酒を飲まれる際にはその傾向がより顕著になっていします。
なのですが……
その分、そのお顔が全てを物語ってくださるのが、リンシンさんなんですよね。
その嬉しそうな笑顔を見た、他の冒険者のみなさんも一緒に天ぷらを口に運ばれました。
「うん、これはいいね」
「ジュ! すごく美味しいジュ! この緑の塩みたいたのがまたあうジュ!」
「このお酒がまたあうねぇ」
冒険者のみなさんは、歓声をあげながら春野菜の天ぷらをどんどん口に運んでおられます。
その楽しそうな雰囲気を厨房から拝見していると、私まで楽しくなって参ります。
「さぁ、ベル、エンジェさん。次があがりますよ」
「さーちゃん、わかったニャ」
「さわこ、まかせて!」
私の言葉に、ベルとエンジェさんも笑顔で駆け寄ってきてくれました。
そんな2人に、大皿を渡す私。
それを、みんなの元へ
「よいしょよいしょ」
「よいしょよいしょ」
2人息を合わせながら運んでいくベルと、エンジェさん。
「さぁ、今日は特別なんだから、飲んで食べないと損よ、損」
そう言いながらみなさんお酒を注いで回ってくださっているバテアさん……なのですが、時折天ぷらをつまんではご自分の口に運んでおられるのは……まぁ、今日のところはご愛敬ということで。
みなさん、大喜びしながら春のお野菜の天ぷらを食べてくださっていたのですが……
なんでしょう……よく見るとバテアさんが周囲をキョロキョロなさりはじめました。
「……バテアさん? どうかなさったのですか?」
「いえね……こうやってみんなで目新しい物を食べてるとさ、どこからともなく現れる……」
「あぁ!? ツカーサさん!?」
そのお言葉をお聞きした私も、思わず周囲を見回してしまいました。
お店のお隣にお住まいのツカーサさんは、こうやって新製品を試食していると、必ずと言っていい程店内に出没なさるんです……
なのですが……変ですね、今日はそのお姿が一向に見えません。
すると、
「あぁ、ツカーサさんなら今日はお友達のゴリュークさん達と旅行に出かけていて留守のはずですよ」
冒険者のシロイルさんが、お酒を飲みながら教えてくださいました。
それを聞いたバテアさんは、
「あらあら、ツカーサってば帰って来てこの料理の話を聞いたら悔しがるかもね」
そう言って楽しそうに笑われました。
そのお言葉に、他の冒険者の皆様も一斉に笑い声をあげていった次第でございます。
お野菜はまだまだございますので、ツカーサさんがお戻りになられるまでくらいでしたら十分持つと思いますので、その際にしっかり味わっていただこうと思います。
ーつづく
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