異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、役場のヒーロさん その2

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「バテア青空市を、役場が利用したい……ですか?」
 先ほど、ヒーロさんが口になさった言葉を、私は疑問形で反復いたしました。
「そうなんです……実は、今年は例年以上に雪が多くて……そのせいで生活物資を輸送してくれている羽根黒猫宅急便が予定通り運航出来ていないんですよ。そのせいで、食料が十分に行き渡らない状態になりつつありまして……」
 ヒーロさんは、その顔に困惑しきりといった表情を浮かべておいでです。

 そんな表情のまま、ヒーロさんは、しきりと周囲を見回しながら首をひねり続けておいでです。
「……噂では、居酒屋さわこさんの後方に、さわこさんやバテアが作った私設の市場があるって聞いていたのですが……」
 
 ヒーロさんが、バテア青空市を見えないのも仕方ありません。

 実は、この青空市は関係者登録された方以外には見えないように、バテアさんが隠蔽魔法をかけてくださっているんです。

 これは、このバテア青空市が出来上がった経緯に由来しているんです。

 以前、上級酒場組合のみなさんと中級酒場組合のみなさんが大喧嘩なさっていたことがございました。
 その際に、上級酒場組合の皆様へ街の中央卸売市場のみなさんが加担なさいまして、中級酒場組合のみなさんに品物を販売しなくなったことがございました。
 そんな中級酒場組合のみなさんを救済するために、さわこの森の収穫物を中級酒場組合の皆様にだけ販売させていただきはじめたのが、このバテア青空市のはじまりでございます。

 今は、以前のような対立はなくなっておりまして、中央卸売市場の皆様も
「中級酒場組合の人達の利用も可能」
 そう仰ってくださっているのですが、
「バテア青空市の方が品物が良いから、私達は今までどおりバテア青空市でお世話になるよ」
 そう言って、私達が運営しているバテア青空市をご利用し続けてくださっている次第でございます。

 そんな経緯があったものですから、上級酒場組合のみなさんや中央卸売市場のみなさんから、何かしらの嫌がらせがないようにと、関係者登録された方以外には見えないような措置をしている次第なんです。

 そこまでする必要はあるのかな、と思うこともあるのですが……
「さわこ、あんたを拉致した奴らなんだからね、相手は」
 バテアさんにそう言われてしまい、言葉を返せなくなってしまう私でございます。

 そんなわけで、役場のヒーロさんも登録されていないものですから、私とエンジェさんの後方にありますバテア青空市が見えていないんです。

 ヒーロさんの眼には、荷馬車を引きながらバテア青空市の建物の中に入っている中級酒場組合のみなさんが、鬱蒼と茂った森の中へ入っているように見えているはずです。

「ヒーロさんがわざわざこうしてお越しくださったということは……事態はかなり深刻なんですね」

「そうですね……今すぐにってわけじゃないんですけど、今年は特に雪が多いもんですから、早めに手を打っておかないとと思いまして、こうしてお願いに上がったわけなんです」

 私とヒーロさんが、そんな会話を交わしておりますと、そこにバテアさんがお戻りになってこられました。

「どうしたのよヒーロ。こんなに朝早くから、こんなところに足を運んでさ」

「やぁバテア。いつも雪溶かしありがとう。役場を代表してお礼を言わせてもらうよ……実は、バテア青空市を役場で利用させてもらえないかと思って、こうしてお願いに来させてもらった次第なんだ……」

「ふぅん……青空市を、ねぇ……」

 ヒーロさんの言葉に、バテアさんは少し不満そうな表情をなさっておいでです。

「どうするさわこ、役場に品物を卸すとなると、上級酒場組合にもその品物が行き渡ることになるわけだけどさ?」
 
 バテアさんは、不満そうな表情のまま私に向かってそうおっしゃいました。

 そんなバテアさんに、私は

「はい、役場のみなさんにご利用いただいてかまいませんよ」

 笑顔で、そう返事をかえさせて頂きました。

「……ホントにいいのね、さわこ?」
「はい、困った時はお互い様ですから」
 バテアさんの念押しに、再度笑顔でお返事を返した私。

 そんな私を見つめながら、バテアさんは
「まぁ……さわこならそう言うと思ったけどね」
 苦笑なさりながら、そう仰られました。

◇◇

 その後、バテアさんがヒーロさんをはじめとした役場の関係者の方々をバテア青空市の関係者登録してくださったおかげで、みなさんにもバテア青空市が見えるようになりました。

 そこで、早速品物を仕入れられたヒーロさん達は
「ご協力に感謝します。これで街の食糧事情が改善しますよ」
 そう言いながら、私とバテアさんと握手を交わしてから、役場へ戻っていかれました。


 その夜……

 居酒屋さわこさんは、いつものように営業しておりました。

「まったく、ほんとさわこってばお人好しよねぇ」
 カウンター席に座っておられます、中級酒場組合のジュチさんが、厨房の中の私に向かって苦笑なさっておいでです。

 その手には、燗した日本酒が注がれているコップが握られているのですが、その中身は大七の純米生酛でございます。甘みや酸味が深いコクとなって濃厚な味わいを堪能させてくれまして、燗することでその味わいがさらに増す日本酒でございます。

「上級酒場組合のみなさんや、中央卸売市場のみなさんの一件も、もうすでに解決したことですし……お酒に流してしまえばいいではありませんか。それに、困った時はお互い様ですから」
 私は、笑顔でそうお返事いたしました。
 そんな私を見つめながら、ジュチさんは、
「まぁ、そんな心の広いところが、さわこの良いところなんだけどねぇ……そんなわけでさ、今夜お店は終わった後に、二人で飲みなおさない? アタシの店でさ」
 そう言いながら、身を乗り出してこられたのですが……

「あー! やっぱりここにいた!」
「店長、困りますよ、お店を抜け出されちゃあ!」
 お店の扉が開きまして、同時にジュチさんのお店の店員さんらしき女性が2人、店内に入ってこられました。
 
「げ? もうバレた!?」
 その2人の顔を見たジュチさんは、慌てた表情をその顔に浮かべながら、
「ごめんね、また来るわ」
 そう言いながら、代金を渡しに手渡されまして、
「ごめんごめん、ちょおっと休憩のつもりだったんだけどさぁ」
 そう言いながら、その2人の店員さんの肩を抱くようにして外に出ていかれました。

「休憩とか言いながら……また、さわこっていうあの女にうつつを抜かしていたのではありませんか?」
「まったく、私達というものがありながら……」
「あはは、ごめんごめん」
 そんな会話がお店の外から聞こえていたのですが、その声は徐々に小さくなっていきました。

「……ホント、ジュチも相変わらずねぇ」
 お店の扉の方へ視線をむけておられたバテアさんは、苦笑なさりながらそうおっしゃいました。
 そんなバテアさんの言葉を聞いた私も、思わず苦笑していました。

 でも、そうですね……

 みなさんが一緒に笑顔でいられる……それが一番はないかな、って私、思うんです。

 今、こうしてこの居酒屋さわこさんの中で、みなさんが楽しそうに会話をなさりながら、お酒や料理を口になさっている……そんな感じに……

 そんな事を考えながら、私は焼き鳥と串焼きを炭火コンロの上に並べていきました。

ーつづく
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