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さわこさんと、仕入れ その4
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みはるのパワーストーンのお店に到着した私達なのですが、ミリーネアさんは、
「ふわぁ……すごいすごい」
店内を見回しながら眼を丸くしっぱなしです。
「魔石をこんな風にアクセサリーに……はじめて見ました」
そんなことを口になさりながら、展示してある商品を見つめ続けています。
そんなミリーネアさんを店内に残しておいて、私とバテアさんは、みはると一緒に店の奥にある応接室へ入っていました。
「ミリーネアさんだっけ? なんかすっごい好奇心旺盛ねぇ」
「えぇ、歌を歌っているお方でして、色んな事に興味を持たれるみたいなんです」
委託販売していた魔石の代金と、新しく持参した魔石を交換しながら、私とみはるはそんな会話を交わしていました。
「まぁ、何にしてもウチの商品を気に入ってくれたのなら光栄だわ。パワーストーンを細工している職人冥利につきるっていうかさ」
そう言いながら笑っているみはる。
そうなんです。
このお店で販売している商品のほとんどは、みはるが自分で加工を行っているんです。
学生時代から手先が器用だったみはるは、いろんな道具を駆使しては様々な装飾品を作成していたんです。
そんな趣味が高じて、今ではこうしてショッピングモールの中に大きなお店を構えるまでになっているのですから、さすがとしか言いようがありません。
何しろ、料理とお酒が好きで居酒屋をついだ私や、日本酒が好き過ぎて酒造工房へ就職していた和音なんかは、揃って倒産と首を経験しておりますので……
「何言ってるのよ。アタシだってこの店をここまでするのに結構苦労したんだからね。それに、さわこにしろ和音にしろ、2人とも基礎がしっかりしてたしさ、いつかはこうして成功すると思ってたわよ……まぁ、その場所が異世界になるなんて、思ってもみなかったけどね」
みはるは、そう言って笑いました。
「これもみんなバテアさんのおかげです」
そう言ってみはるに笑い返す私。
そんな私に向かって、バテアさんは、
「何言ってるのよ。お店に関してはアタシは何にもしてないわ。ただ、話好きが高じて、接客させてもらってるだけよ」
そう言って笑ってくださいました。
◇◇
しばらくそんな感じで雑談した私達。
「じゃあ、今日はこの辺で」
夜のお店のこともありますので、私とバテアさんは紅茶が無くなったところで席を立ちました。
「名残惜しいけど、また来週ってことね」
「うん、よろしくねみはる」
私達は、そんな会話を交わしながら応接室を出て、店内へ移動していきました。
そこでは、ミリーネアさんが、バイトのユキカさんに商品の説明をしてもらっているところでした。
「……で、これはですね、ここの細工がかなり特殊になってまして」
「うんうん、こんな細工、はじめて」
その説明を聞きながら、ミリーネアさんは相変わらず眼を輝かせておいでです。
そんなミリーネアさんのところに、バテアさんが歩み寄っていかれました。
「さ、名残は惜しいだろうけど、次に行くよ」
「あ、うん。わかった」
ミリーネアさんは、そう言うと、ユキカさんとみはるに何度も頭を下げていたのですが、そんなミリーネアさんにみはるが
「ウチの商品を気に入ってくれたお礼よ。これはサービスね」
そう言って、パワーストーンが埋め込まれているネックレスをミリーネアさんに手渡しました。
「え? いいの」
「えぇ、今日は特別よ」
みはるの言葉を受けて、ミリーネアさんはすごく嬉しそうに微笑んでいたのですが、
「この世界のお金、持ってないから……お礼に……」
そう言うと、背負っていたリュックサックの中から、小型のハープを取り出されました。
三味線は、大きいため今日は家に置いてこられていたんです。
そのハープを構えると、ミリーネアさんはそれをおもむろにつま弾き始めました。
♪ 輝く石の光り~
♪ その織りなす彩りは目を奪い~
お店で聞き慣れている、透き通るような歌声。
それが、ハープの音色とともに店内に響いていきます。
すると……
「何々?」
「何か綺麗な歌声が……」
店の前を素通りしようとなさっていたお客さん達が、軒並みその足を止めて店内へと入って来始めたではありませんか。
ショッピングモールの中ですので、みはるのお店の前では館内放送が常に流れています。
ですが
ミリーネアさんの歌声は、それにまったく負けていない感じです。
声が大きいわけではないんです。
その透き通るような声が、行き交う人の耳を包み込んでいく……そんな感じでしょうか。
「居酒屋さわこさんじゃあ、店内の雰囲気を盛り上げるような歌を歌ってるけど……今は、お客さんを呼び込む歌を歌っているわね」
ミリーネアさんの様子を見つめながら、バテアさんが感心したような声をあげられました。
「魅了系魔法に近い効能が声にのってる感じね……ミリーネアってば結構やるじゃない」
「そうなんですねぇ」
バテアさんの話を聞きながら、私は少々びっくりしながら眼を丸くしていた次第です。
ミリーネアさんの歌は、確かに透き通っていて素敵だと思っていたのですが……まさか、そんな効果を歌に持たせることまで出来るなんて、思ってもみませんでした。
そんな私達が見守っている中
ミリーネアさんはしばらくの間、ハープを奏でながら歌を歌い続けていました。
その歌が終わる頃には、店内がお客様でいっぱいになっていたのは言うまでもありませんでした。
◇◇
その後、いつものアイスクリームの量販店でアイスクリームを買った私達は、再びバスに乗って移動していきました。
次に到着した。いつもの業務用スーパーで、こちらの世界の食材や日本酒を大量に仕入れている間も、ミリーネアさんは、
「ふわぁ……商品がこんなにいっぱい……王都の商会でもここまではないです」
そう言いながら、ここでも眼を丸くなさっていた次第です。
「今日のミリーネアさんは、びっくりしっぱなしですね」
私が思わずそう声をかけると、ミリーネアさんは、
「うん、でもすごく楽しい」
満面の笑顔でそうおっしゃいました。
その間も、メモ帳にあれこれメモをし続けておられたのは言うまでもありません。
◇◇
その夜。
開店した居酒屋さわこさんの片隅では、今日もミリーネアさんが椅子に座って歌を歌っておいでです。
♪ 商品の山に囲まれて~
♪ その中から見出されし至高のお酒~
そんな歌声が、お客様の会話を邪魔しない程度の音量で店内に響いています。
すると、
「へぇ、そんなお店で買ってきた酒ってのがあるんです?」
常連客のナベアタマさんがそんな事を口になさいました。
すると
「えぇ、そんなお店から仕入れてきたお酒がこれだけど、どう? 試してみる?」
そんなナベアタマさんの横に、すかさずバテアさんが歩み寄られました。
その手には日本酒の一升瓶をお持ちです。
獺祭(だっさい)の磨き三割九分、純米大吟醸でございます。
このお酒はもろみの状態からお酒を分離しておりますのでもろみの本来の旨みを余すところなく味わうことが出来るお酒なんです。
「へぇ、じゃあ頂いてみようかな」
「えぇ、どうぞ」
ナベアタマさんが差し出したコップに、バテアさんが笑顔でお酒を注いでいかれました。
その様子を見つめながら、ミリーネアさんも演奏を続けています。
そんなミリーネアさんの歌声が縁になった、その一杯を、ナベアタマさんは一息で飲み干されました。
「うん、これは美味しいね。もう一杯もらえるかな?」
「えぇ、喜んで」
ナベアタマさんに笑顔を返しながら、バテアさんはお代わりを注いでいかれました。
そんな店内では、今ではすっかりお馴染みになったミリーネアさんの歌声が、静かに響いておりました。
そんなミリーネアさんの胸には、みはるからもらったパワーストーンのネックレスが輝いていました。
ーつづく
「ふわぁ……すごいすごい」
店内を見回しながら眼を丸くしっぱなしです。
「魔石をこんな風にアクセサリーに……はじめて見ました」
そんなことを口になさりながら、展示してある商品を見つめ続けています。
そんなミリーネアさんを店内に残しておいて、私とバテアさんは、みはると一緒に店の奥にある応接室へ入っていました。
「ミリーネアさんだっけ? なんかすっごい好奇心旺盛ねぇ」
「えぇ、歌を歌っているお方でして、色んな事に興味を持たれるみたいなんです」
委託販売していた魔石の代金と、新しく持参した魔石を交換しながら、私とみはるはそんな会話を交わしていました。
「まぁ、何にしてもウチの商品を気に入ってくれたのなら光栄だわ。パワーストーンを細工している職人冥利につきるっていうかさ」
そう言いながら笑っているみはる。
そうなんです。
このお店で販売している商品のほとんどは、みはるが自分で加工を行っているんです。
学生時代から手先が器用だったみはるは、いろんな道具を駆使しては様々な装飾品を作成していたんです。
そんな趣味が高じて、今ではこうしてショッピングモールの中に大きなお店を構えるまでになっているのですから、さすがとしか言いようがありません。
何しろ、料理とお酒が好きで居酒屋をついだ私や、日本酒が好き過ぎて酒造工房へ就職していた和音なんかは、揃って倒産と首を経験しておりますので……
「何言ってるのよ。アタシだってこの店をここまでするのに結構苦労したんだからね。それに、さわこにしろ和音にしろ、2人とも基礎がしっかりしてたしさ、いつかはこうして成功すると思ってたわよ……まぁ、その場所が異世界になるなんて、思ってもみなかったけどね」
みはるは、そう言って笑いました。
「これもみんなバテアさんのおかげです」
そう言ってみはるに笑い返す私。
そんな私に向かって、バテアさんは、
「何言ってるのよ。お店に関してはアタシは何にもしてないわ。ただ、話好きが高じて、接客させてもらってるだけよ」
そう言って笑ってくださいました。
◇◇
しばらくそんな感じで雑談した私達。
「じゃあ、今日はこの辺で」
夜のお店のこともありますので、私とバテアさんは紅茶が無くなったところで席を立ちました。
「名残惜しいけど、また来週ってことね」
「うん、よろしくねみはる」
私達は、そんな会話を交わしながら応接室を出て、店内へ移動していきました。
そこでは、ミリーネアさんが、バイトのユキカさんに商品の説明をしてもらっているところでした。
「……で、これはですね、ここの細工がかなり特殊になってまして」
「うんうん、こんな細工、はじめて」
その説明を聞きながら、ミリーネアさんは相変わらず眼を輝かせておいでです。
そんなミリーネアさんのところに、バテアさんが歩み寄っていかれました。
「さ、名残は惜しいだろうけど、次に行くよ」
「あ、うん。わかった」
ミリーネアさんは、そう言うと、ユキカさんとみはるに何度も頭を下げていたのですが、そんなミリーネアさんにみはるが
「ウチの商品を気に入ってくれたお礼よ。これはサービスね」
そう言って、パワーストーンが埋め込まれているネックレスをミリーネアさんに手渡しました。
「え? いいの」
「えぇ、今日は特別よ」
みはるの言葉を受けて、ミリーネアさんはすごく嬉しそうに微笑んでいたのですが、
「この世界のお金、持ってないから……お礼に……」
そう言うと、背負っていたリュックサックの中から、小型のハープを取り出されました。
三味線は、大きいため今日は家に置いてこられていたんです。
そのハープを構えると、ミリーネアさんはそれをおもむろにつま弾き始めました。
♪ 輝く石の光り~
♪ その織りなす彩りは目を奪い~
お店で聞き慣れている、透き通るような歌声。
それが、ハープの音色とともに店内に響いていきます。
すると……
「何々?」
「何か綺麗な歌声が……」
店の前を素通りしようとなさっていたお客さん達が、軒並みその足を止めて店内へと入って来始めたではありませんか。
ショッピングモールの中ですので、みはるのお店の前では館内放送が常に流れています。
ですが
ミリーネアさんの歌声は、それにまったく負けていない感じです。
声が大きいわけではないんです。
その透き通るような声が、行き交う人の耳を包み込んでいく……そんな感じでしょうか。
「居酒屋さわこさんじゃあ、店内の雰囲気を盛り上げるような歌を歌ってるけど……今は、お客さんを呼び込む歌を歌っているわね」
ミリーネアさんの様子を見つめながら、バテアさんが感心したような声をあげられました。
「魅了系魔法に近い効能が声にのってる感じね……ミリーネアってば結構やるじゃない」
「そうなんですねぇ」
バテアさんの話を聞きながら、私は少々びっくりしながら眼を丸くしていた次第です。
ミリーネアさんの歌は、確かに透き通っていて素敵だと思っていたのですが……まさか、そんな効果を歌に持たせることまで出来るなんて、思ってもみませんでした。
そんな私達が見守っている中
ミリーネアさんはしばらくの間、ハープを奏でながら歌を歌い続けていました。
その歌が終わる頃には、店内がお客様でいっぱいになっていたのは言うまでもありませんでした。
◇◇
その後、いつものアイスクリームの量販店でアイスクリームを買った私達は、再びバスに乗って移動していきました。
次に到着した。いつもの業務用スーパーで、こちらの世界の食材や日本酒を大量に仕入れている間も、ミリーネアさんは、
「ふわぁ……商品がこんなにいっぱい……王都の商会でもここまではないです」
そう言いながら、ここでも眼を丸くなさっていた次第です。
「今日のミリーネアさんは、びっくりしっぱなしですね」
私が思わずそう声をかけると、ミリーネアさんは、
「うん、でもすごく楽しい」
満面の笑顔でそうおっしゃいました。
その間も、メモ帳にあれこれメモをし続けておられたのは言うまでもありません。
◇◇
その夜。
開店した居酒屋さわこさんの片隅では、今日もミリーネアさんが椅子に座って歌を歌っておいでです。
♪ 商品の山に囲まれて~
♪ その中から見出されし至高のお酒~
そんな歌声が、お客様の会話を邪魔しない程度の音量で店内に響いています。
すると、
「へぇ、そんなお店で買ってきた酒ってのがあるんです?」
常連客のナベアタマさんがそんな事を口になさいました。
すると
「えぇ、そんなお店から仕入れてきたお酒がこれだけど、どう? 試してみる?」
そんなナベアタマさんの横に、すかさずバテアさんが歩み寄られました。
その手には日本酒の一升瓶をお持ちです。
獺祭(だっさい)の磨き三割九分、純米大吟醸でございます。
このお酒はもろみの状態からお酒を分離しておりますのでもろみの本来の旨みを余すところなく味わうことが出来るお酒なんです。
「へぇ、じゃあ頂いてみようかな」
「えぇ、どうぞ」
ナベアタマさんが差し出したコップに、バテアさんが笑顔でお酒を注いでいかれました。
その様子を見つめながら、ミリーネアさんも演奏を続けています。
そんなミリーネアさんの歌声が縁になった、その一杯を、ナベアタマさんは一息で飲み干されました。
「うん、これは美味しいね。もう一杯もらえるかな?」
「えぇ、喜んで」
ナベアタマさんに笑顔を返しながら、バテアさんはお代わりを注いでいかれました。
そんな店内では、今ではすっかりお馴染みになったミリーネアさんの歌声が、静かに響いておりました。
そんなミリーネアさんの胸には、みはるからもらったパワーストーンのネックレスが輝いていました。
ーつづく
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