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さわこさんと、仕入れ その3
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「ほわぁ……」
転移ドアをくぐったミリーネアさんは、眼を丸くしたまま固まっていました。
バテアさんが召喚してくださった転移ドアは、いつものように私が以前、居酒屋酒話を営業していた建物の近くにございますビルの合間の小道の突き当たりに出現しています。
ですので、左右を高いビルで囲まれているんです。
「すごく高い建物……しかもこれ、石じゃない?」
コンクリート製の壁を触りながら、ミリーネアさんは眼を丸くなさっておいでです。
ちなみに、今のミリーネアさん。
ベルがこの世界にくる際のために準備していたダウンジャケットやズボンをはいています。
さすがに、いつものポンチョ姿では少々目立ってしまうといいますか……これがもう少し都会、そうですね秋葉原あたりでしたらコスプレで押し通せたかもしれませんが、あいにくこのあたりは、それなりに発展はしているものの世間一般的には田舎に分類されてしまう地域でございますので……
まるっとモフっと広がっている長い髪の毛も、ダウンジャケットの中に隠してもらっています。
今回は、私・バテアさんに加えて、ミリーネアさんの合計3人でこちらへ出向いています。
私達は、いつものように歩道を歩いてバスステーションへ向かっていたのですが、その間もミリーネアさんは、
「馬車!?……じゃ、ない?? あれは何!?」
道路を走っている車を見ながら眼を丸くし続けていらっしゃいました。
あちらの世界では、街道を走っている乗り物といえば馬車か馬しかありませんものね。
車をはじめてご覧になったミリーネアさんが、そんな反応を示してしまうのも致し方ないとは思うのですが、
「もっと近くで見たい」
そうおっしゃると同時に、道路に向かって飛びだそうとなさった際は、心臓が飛び出してしまうかと思ってしまいました……
そんなミリーネアさんを、ギリギリのところで抱き留めることに成功した私とバテアさん。
「いいことミリーネア、アタシとさわこの言うことを聞けないんだったら、この場で強制送還するからね」
バテアさんの真剣な口調に、ミリーネアさんも
「う、うん……わかった」
眼を丸くなさったまま、何度も頷いておられた次第でございます。
◇◇
とにもかくにも……好奇心が旺盛なミリーネアさんは、
「あれ、何?」
「あれは?」
と、その眼を丸くなさったまま、何度も私に尋ねてこられました。
その都度、私は
「あれは電信柱ですよ」
「あっちはコンビニエンスストアというお店です」
そう説明をさせていただいておりました。
あまりにも立ち止まることが多かったものですから、予定していたバスを2本遅らせないといけなくなった程でございました。
これが都会のバスでしたら、2本遅れてもせいぜい数十分といったところなのですが、この田舎で2本も遅れてしまいますとしっかり1時間はロスしてしまうんです。
それでも、
「あれは?」
「これは?」
と、私に質問なさりながら眼を輝かせているミリーネアさんの様子を拝見しておりますと、
「まぁ、仕方ありませんね」
「そうねぇ……これだけ喜んでるんだしねぇ」
私とバテアさんは、互いに貌を見合わせながら苦笑することしか出来ませんでした。
その後
ようやくバスに乗り込むことが出来た私達なのですが、
「速い速い!」
座席に座ったミリーネアさんは、今度は窓の外を見つめながらバスの速さに感動しきりの様子です。
椅子の上に膝立ちになり、顔を窓ガラスにべたっとつけまして、その状態で窓の外をジッと見つめ続けていらっしゃるのですが……これって、ベルがバスに乗った際と同じといいますか……
幸いなことに、ミリーネアさんはかなり小柄なうえに、童顔なものですから
『子供がはしゃいでいるのね』
的な感じで、周囲の皆様も温かい眼差しで見つめてくださっていました。
ただ、私達のことを見ていた女子高生らしい方々が
「あの夫婦、なんかいいね」
「あの人、すっごい美形~」
そんな会話をなさりながら、私達の方を見ていたんです……
バテアさんをパパ、私をママ、ミリーネアさんを子供と思っておられるのでしょうか……
確かに、今のバテアさんはこちらの世界で購入したパンツルックをピシッと着こなしておいででして、そう見えてもおかしくないとは思うのですが……けしからんくらいに自己主張なさっている胸を見れば、性別を間違うはずはないと思うのですが……
は!?
ま、まさか私をパパと思っているとか!?
そ、そりゃ、確かに私の胸は自己主張に乏しいですけど……けどぉ
◇◇
私達を乗せたバスは、ほぼ時間通りにショッピングモールへ到着しました。
まずはこの中にあります、私の親友みはるが経営しているパワーストーンのお店で、パワーストーンとして委託販売してもらっていた魔石の代金を受け取りまして、新しい魔石を渡さないといけません。
バテアさんの魔法雑貨のお店で販売なさっている魔石を私が居酒屋さわこさんの売り上げで購入させていただきまして、それをみはるのお店でパワーストーンとして販売してもらっているんです。
こうすることで、私は、居酒屋さわこさんの売り上げ代金……当然、向こうの世界のお金ですね、それを、日本のお金に変換出来ているんです。
このおかげで、こちらの世界で品物を仕入れることが出来ていますので、本当に助かっているんですよ。
そんなショッピングモールの建物の前で、ミリーネアさんは再び固まってしまいました。
「お……大きい……こんな大きな建物、はじめて……」
ミリーネアさんは、今日最大にその眼を丸くなさっています。
「まぁ、こんな大きな建物って、アタシの世界じゃ王都でも見かけないからねぇ」
ミリーネアさんを見つめながら苦笑なさっているバテアさん。
ショッピングモールを見上げたまま固まっているミリーネアさんの手を取ると、そのまま引っ張るようにして建物の中へと入って行きました。
私も、その後をついていきました。
中に入ったら入ったで……ミリーネアさんは、しきりと周囲をキョロキョロなさいまして、
「あれは何?」
「これは何?」
といった具合で、手をつないでいるバテアさんを質問責めにしていかれています。
いくら物知りなバテアさんでも、この世界の事にまで精通していらっしゃるわけではありません。
「さ、さわこ、交代して」
困惑した表情で、バテアさんは自らが握っていらしたミリーネアさんの手を私に差し出してこられました。
その結果、ミリーネアさんの
「あれは何?」
「これは何?」
攻撃が、今度は私に向かって来た次第です。
私は、その1つ1つにお応えさせて頂きながら、ショッピングモールの中を歩いていきました。
ただ
いつもに比べると相当遅い移動速度でございます。
ですが……
「……そっか、あれは食べ物のお店……ふーん、これがこの世界の食べ物……」
新しく知ったことを、何度も反復なさりながら、それをメモなさっているミリーネアさん。
眼を輝かせながら、ペンを走らせていらっしゃる様子を前にいたしますと、それもまた仕方ないかな、と思えてしまうんですよね。
「……ま、たまにはこんなのんびりもいいかもね」
「そうですね」
バテアさんの言葉に、私は苦笑しながら頷きました。
その間も、ミリーネアさんは、メモにペンを走らせています。
そんな私達の先に、ようやくみはるのパワーストーンのお店が見えてきました。
バイトのゆきかさんが、店頭の商品を補充なさっているようですね。
私達は、そこに向かって歩いていきました。
ーつづく
転移ドアをくぐったミリーネアさんは、眼を丸くしたまま固まっていました。
バテアさんが召喚してくださった転移ドアは、いつものように私が以前、居酒屋酒話を営業していた建物の近くにございますビルの合間の小道の突き当たりに出現しています。
ですので、左右を高いビルで囲まれているんです。
「すごく高い建物……しかもこれ、石じゃない?」
コンクリート製の壁を触りながら、ミリーネアさんは眼を丸くなさっておいでです。
ちなみに、今のミリーネアさん。
ベルがこの世界にくる際のために準備していたダウンジャケットやズボンをはいています。
さすがに、いつものポンチョ姿では少々目立ってしまうといいますか……これがもう少し都会、そうですね秋葉原あたりでしたらコスプレで押し通せたかもしれませんが、あいにくこのあたりは、それなりに発展はしているものの世間一般的には田舎に分類されてしまう地域でございますので……
まるっとモフっと広がっている長い髪の毛も、ダウンジャケットの中に隠してもらっています。
今回は、私・バテアさんに加えて、ミリーネアさんの合計3人でこちらへ出向いています。
私達は、いつものように歩道を歩いてバスステーションへ向かっていたのですが、その間もミリーネアさんは、
「馬車!?……じゃ、ない?? あれは何!?」
道路を走っている車を見ながら眼を丸くし続けていらっしゃいました。
あちらの世界では、街道を走っている乗り物といえば馬車か馬しかありませんものね。
車をはじめてご覧になったミリーネアさんが、そんな反応を示してしまうのも致し方ないとは思うのですが、
「もっと近くで見たい」
そうおっしゃると同時に、道路に向かって飛びだそうとなさった際は、心臓が飛び出してしまうかと思ってしまいました……
そんなミリーネアさんを、ギリギリのところで抱き留めることに成功した私とバテアさん。
「いいことミリーネア、アタシとさわこの言うことを聞けないんだったら、この場で強制送還するからね」
バテアさんの真剣な口調に、ミリーネアさんも
「う、うん……わかった」
眼を丸くなさったまま、何度も頷いておられた次第でございます。
◇◇
とにもかくにも……好奇心が旺盛なミリーネアさんは、
「あれ、何?」
「あれは?」
と、その眼を丸くなさったまま、何度も私に尋ねてこられました。
その都度、私は
「あれは電信柱ですよ」
「あっちはコンビニエンスストアというお店です」
そう説明をさせていただいておりました。
あまりにも立ち止まることが多かったものですから、予定していたバスを2本遅らせないといけなくなった程でございました。
これが都会のバスでしたら、2本遅れてもせいぜい数十分といったところなのですが、この田舎で2本も遅れてしまいますとしっかり1時間はロスしてしまうんです。
それでも、
「あれは?」
「これは?」
と、私に質問なさりながら眼を輝かせているミリーネアさんの様子を拝見しておりますと、
「まぁ、仕方ありませんね」
「そうねぇ……これだけ喜んでるんだしねぇ」
私とバテアさんは、互いに貌を見合わせながら苦笑することしか出来ませんでした。
その後
ようやくバスに乗り込むことが出来た私達なのですが、
「速い速い!」
座席に座ったミリーネアさんは、今度は窓の外を見つめながらバスの速さに感動しきりの様子です。
椅子の上に膝立ちになり、顔を窓ガラスにべたっとつけまして、その状態で窓の外をジッと見つめ続けていらっしゃるのですが……これって、ベルがバスに乗った際と同じといいますか……
幸いなことに、ミリーネアさんはかなり小柄なうえに、童顔なものですから
『子供がはしゃいでいるのね』
的な感じで、周囲の皆様も温かい眼差しで見つめてくださっていました。
ただ、私達のことを見ていた女子高生らしい方々が
「あの夫婦、なんかいいね」
「あの人、すっごい美形~」
そんな会話をなさりながら、私達の方を見ていたんです……
バテアさんをパパ、私をママ、ミリーネアさんを子供と思っておられるのでしょうか……
確かに、今のバテアさんはこちらの世界で購入したパンツルックをピシッと着こなしておいででして、そう見えてもおかしくないとは思うのですが……けしからんくらいに自己主張なさっている胸を見れば、性別を間違うはずはないと思うのですが……
は!?
ま、まさか私をパパと思っているとか!?
そ、そりゃ、確かに私の胸は自己主張に乏しいですけど……けどぉ
◇◇
私達を乗せたバスは、ほぼ時間通りにショッピングモールへ到着しました。
まずはこの中にあります、私の親友みはるが経営しているパワーストーンのお店で、パワーストーンとして委託販売してもらっていた魔石の代金を受け取りまして、新しい魔石を渡さないといけません。
バテアさんの魔法雑貨のお店で販売なさっている魔石を私が居酒屋さわこさんの売り上げで購入させていただきまして、それをみはるのお店でパワーストーンとして販売してもらっているんです。
こうすることで、私は、居酒屋さわこさんの売り上げ代金……当然、向こうの世界のお金ですね、それを、日本のお金に変換出来ているんです。
このおかげで、こちらの世界で品物を仕入れることが出来ていますので、本当に助かっているんですよ。
そんなショッピングモールの建物の前で、ミリーネアさんは再び固まってしまいました。
「お……大きい……こんな大きな建物、はじめて……」
ミリーネアさんは、今日最大にその眼を丸くなさっています。
「まぁ、こんな大きな建物って、アタシの世界じゃ王都でも見かけないからねぇ」
ミリーネアさんを見つめながら苦笑なさっているバテアさん。
ショッピングモールを見上げたまま固まっているミリーネアさんの手を取ると、そのまま引っ張るようにして建物の中へと入って行きました。
私も、その後をついていきました。
中に入ったら入ったで……ミリーネアさんは、しきりと周囲をキョロキョロなさいまして、
「あれは何?」
「これは何?」
といった具合で、手をつないでいるバテアさんを質問責めにしていかれています。
いくら物知りなバテアさんでも、この世界の事にまで精通していらっしゃるわけではありません。
「さ、さわこ、交代して」
困惑した表情で、バテアさんは自らが握っていらしたミリーネアさんの手を私に差し出してこられました。
その結果、ミリーネアさんの
「あれは何?」
「これは何?」
攻撃が、今度は私に向かって来た次第です。
私は、その1つ1つにお応えさせて頂きながら、ショッピングモールの中を歩いていきました。
ただ
いつもに比べると相当遅い移動速度でございます。
ですが……
「……そっか、あれは食べ物のお店……ふーん、これがこの世界の食べ物……」
新しく知ったことを、何度も反復なさりながら、それをメモなさっているミリーネアさん。
眼を輝かせながら、ペンを走らせていらっしゃる様子を前にいたしますと、それもまた仕方ないかな、と思えてしまうんですよね。
「……ま、たまにはこんなのんびりもいいかもね」
「そうですね」
バテアさんの言葉に、私は苦笑しながら頷きました。
その間も、ミリーネアさんは、メモにペンを走らせています。
そんな私達の先に、ようやくみはるのパワーストーンのお店が見えてきました。
バイトのゆきかさんが、店頭の商品を補充なさっているようですね。
私達は、そこに向かって歩いていきました。
ーつづく
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