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さわこさんと、最近の朝の光景

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 朝です。

 まだ薄暗い中、私は眼を冷ましました。
 毎朝この時間に起きているものですから最近は目覚ましが無くても起きることが出来るまでになっています。
 
 私の隣では、クリスマスツリーの付喪神ことエンジェさんが小柄な体をベッドに横たえて気持ちよさそうに寝息をたてています。
 その向こうにバテアさんが眠っています。

 いつもですと、朝ご飯の時間になって
『わさこ、おあよ~』
 と、私の名前を言い間違えながら降りてこられるのが常なのですが……

「……わさこぉ、もう朝ぁ?」
 横になったままのバテアさんが、寝ぼけた声をあげられました。

 そうなんです。
 最近のバテアさんはとても早起きなんです。

「バテアさん、おはようございます。今日もよろしくお願いしますね」
「はいはい、まかせて……ふあぁ」
 私の言葉に返答なさりながら、バテアさんは大きく伸びをなさっておいでです。

 ここで、エンジェさんがパチッと眼を開けます。
「さわこ、バテア、おはよう!」
 満面の笑顔のエンジェさん。
 こちらは、バテアさんとは対象的に目覚めからバッチリ全開の様子です。

「おあよ~アンジェ……今日も元気ねぇ」
「違うわバテア、私はアンジェじゃなくてエンジェよ」
 最近、毎朝繰り返されているこの会話。
 なんといいますか、すっかり定番化しています、はい。

 その後、ベッドから抜け出した私達は、コタツで眠っているリンシンさん・ベル・ミリーネアさんを起こさないように気をつけながら服を着替えると、その足で一階へと降りていきました。

「さぁ、やりますか」
 だるまストーブの前で気合いを入れる私。
 エンジェさんが倉庫から台車を持ってきてくれています。

「んじゃ、アタシもちょっくらやってくるわぁ」
 バテアさんはそう言うと、居酒屋さわこさんの扉をくぐって外へ出ていかれました。

 台車にだるまストーブをのせた私とエンジェさんは、バテアさんの後を追いかけるようにして扉をくぐりました。

 お店の前には、昨夜から降り積もった雪が堆積……しているはずだったのですが、



 はい、まったくございません。

 

 街道の方へ視線を向けますと、そこに先に外へ出たバテアさんの姿がありました。

 その両腕の前には魔法陣が展開しています。
 その腕を、前方の道に堆積している雪へ向けると、その雪がすごい勢いで蒸発といいますか、溶けるといいますか、とにかくその場から消え去っているのです。

 そうなんです。

 最近のバテアさんは、毎朝こうして街道の雪を魔法で消滅させてくださっているんです。
 
 役場のヒーロさんからの依頼でもあるのですが、それに加えましてバテア青空市へ毎朝仕入にやってこられている中級酒場組合のみなさまの荷馬車や荷車が通行出来るようにしてくださっているのです。

 最近は、朝になりますと30センチから50センチ近く街道に積雪しています。
 そのままでは、とてもバテア青空市までお出で頂けません。

「なぁ、バテア。頼むよぉ、なんとかしてくれって」
 そう申し出てこられた中級酒場組合の組合長をなさっておいでのジュチさんの要望がございましてはじまったこの朝の除雪作業でございます。

「まったくぅ、ヒーロまでさ『ついでだから中央街道だけでも雪を消しておいてもらえないかな?』とか言いだしてさぁ……まぁ、ついでだからいいけどさぁ」
 バテアさんはブツブツいいながら街道を歩いてお出でです。

 その口ぶりですと、必要最低限といいますか、街道だけを除雪なさっているように聞こえますが……

 街道を歩いておられるバテアさんは、道の雪を消滅させますと、その手を左右に建物へ向けられます。
 すると、

 家の屋根
 
 家と家の間の小道

 道ばたの花壇

 そんなところに降り積もっていた雪まで綺麗になくなっていくのです。

 そんな中
「うわぁ、すごぉい!」
 近くの家の2階にあるベランダから小さな女の子が身を乗り出していました。

 バテアさんが魔法で除雪なさっている様子を感動しながら見つめているようです。

「魔法使いのお姉ちゃん、すごいね!、すごいね!」
 女の子は、眼を輝かせながらバテアさんに向かって思いっきり両手を振っています。
 バテアさんは、そんな女の子に
「家に入りなさいな、風邪ひくわよぉ」
 そう言いながら、右手を軽く振り返していました。

 その時の女の子、本当に嬉しそうな笑顔でした。

◇◇

 そんなバテアさんのおかげで、辺境都市トツノコンベの街道周辺からはもれなく雪が消え去りました。

「まぁねぇ、そうしないとさわこが複雑な表情をしちゃうじゃない」
 そう言いながら、バテアさんは苦笑しておられます。

 ……そうなんですよね

 実は、除雪をはじめてすぐの頃のバテアさんは、街の一部の除雪をなさっておられなかったのです。

 どこかといいますと……上級酒場組合に加盟なさっておられます酒場がございます一角と、中央卸売市場に近辺なんです。


 ……確かに、どちらも私に対してちょっとあれこれしでかされた皆様ですので、さもありなんといえなくもないのですが……

 そのお話をお聞きした私は、
「私を拉致した事件の首謀者の皆様は罰せられたわけですし、以後は何も起きておりません。それに、あの件に関与なさっておられない方もおられますので……お願い出来ませんか? バテアさん」
 そう、バテアさんにお願いした次第なのです。

「まったくもう……相変わらずお人好しなんだから、さわこってば」
 バテアさんは、少し嫌そうな顔をなさっておいでだったのですが、
「さわこがそう言うのなら、そうするわよ」
 そう言って、その一角の除雪も行ってくださるようになった次第でございます。

 本当に、バテアさんはお優しいですので。

「……優しいのはさわこじゃないのさ」
「いえいえ、バテアさんですわ」
「違うわよ、さわこよ」
「いえいえ、バテアさんですってば」
 だるまストーブを前にして、除雪から戻ってこられたバテアさんと私は、しばらくそんなキャッチボールを繰り返しておりました。

 そんな会話を続けておりますと

「グッモーニン、さわこ、バテア」
 居酒屋さわこさんの方からエミリアがやってきました。
 バテア青空市の対応をしてくれているエミリアです。
 その後方からは、エミリアのお手伝いをしてくれているショコラの姿もありました。

「どうやら、そろそろ青空市の方も賑やかになってきそうですね」
 そう言いながら、私は腰につけている魔法袋の中からお鍋を取り出しまして、それをだるまストーブの上におきました。

 すでに、あったまっているだるまストーブの上で、お鍋はすぐにクツクツ音をたて始めます。
 今日は豚汁です。

 バテア青空市にやってきてくださった皆様に暖まって頂こうと思いまして、毎朝準備させて頂いている次第です。

「さ、私はこれを仕上げることにしますわ」
「じゃ、アタシは一仕事済んだし……もう一眠りしてくるわね」
 バテアさんはあくびをしながら居酒屋さわこさんへ向かって歩いていかれました。
「バテアさん、今朝もありがとうございました」
 そう言った私に、バテアさんは右手を振って応えてくださいました。

 空は青空です。

 寒さはすごいのですが、日中は雪はふりそうにありませんね。

ーつづく
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