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さわこさんと、餅つき
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「……ん」
リンシンさんが力強く振り上げた杵。
それが、臼のど真ん中に振り降ろされます。
「「「よいしょお!!」」」
同時に、ベルとエンジェさんが声をあげていきます。
その横では、ミリーネアさんが三味線を弾きながら、
「振り降ろされた杵~♪ それを石の臼に~♪」
即興で歌を歌っておられます。
私の世界には、レストランのメニューを情緒豊かに読み上げただけで居合わせたお客様全員を感動させたという逸話を残している方がおられたりするのですが、今のミリーネアさんは餅つきの光景を三味線の音色に乗せながら、店内に居合わせている私達を楽しい気分にさせてくれています。
お店に始めていらした時のミリーネアさんは、長い髪の毛を後ろで編み上げておられたのですが、最近のミリーネアさんは、編み上げず、あるがままの状態になさっておいでです。
その結果、その髪の毛がこんもり膨らんでですね、後ろから拝見しますとふわふわの毛玉が歩いているように見えてしまうんです。
そんなミリーネアさんの歌が響いている居酒屋さわこさんの店内で、私達は餅つきをしている最中でございます。
大掃除も終わり
おせちの準備も終わりましたので……
「せっかくですので餅つきをしませんか?」
と、私が提案した次第でございます。
当然、道具などなかったのですが、
『そのキネとウスってどんなものなの?』
そう尋ねてこられたバテアさんに、
『はい、杵は木で出来ていて、こう先が……』
そうご説明をさせて頂こうとしたところ、
『あぁ、言葉はいいわ。さわこ、頭の中で想像してくれるかしら?』
バテアさんはそうおっしゃいました。
『想像……ですか?』
言われて、私は早速頭の中に杵と臼を思い浮かべました。
すると、バテアさんは私の額に、ご自分の額を合わせられました。
バテアさんの女性なのに男前なお顔が超至近距離に迫ったことで一瞬ドキッとしてしまった私なのですが……なんといいますか、最近ではこれぐらいならもう慣れてしまったといいますか……
そんな私の額にしばらく額を合わせていたバテアさんは、
『……うん、だいたいわかったわ』
そう言うと、私から離れ、右手を一振りなさいました。
すると、バテアさんの魔法道具のお店の中におかれていました大きな石像と、木製の棍棒が宙に浮かび上がりまして、
石像は、まるで粘土のようにグニャリと潰れてから臼の形に
木製の棍棒もまた粘土のように一つにまとまったかと思うと杵の形に
それぞれ、あっという間に変化してしまったのでございます。
◇◇
そうやって出来上がった杵と臼をつかってお餅をつている私とリンシンさん。
厨房では、手伝いに来てくれたエミリアが、せいろで次のもち米を蒸してくれています。
お店の中。
だるまストーブから少し離れた場所で、私とリンシンさんが息のあった感じでお餅をつき続けております。
「さーちゃん、ベルもお手伝いしたいニャ!」
「さわこ、私も手伝いたいわ」
そんな私の後方に、ベルとエンジェさんが駆け寄ってきました。
2人ともお手伝いしたくてうずうずしている……そんな感じでございます。
ですが……
2人ともそんなに力は強くありませんので杵役を任せることは出来ませんし、
かといって、臼役を任せてですね、タイミングがあわなくてリンシンさんの杵を手で受けてしまったら……
そんなことをついつい考えてしまったものですから、
「2人にはですね、お餅がつきあがった後の分ける作業をお願いしますね」
そうお願いしました。
これを受けまして、ベルとエンジェさんは
「うん、わかったニャ!」
「まかせてさわこ!」
大きく頷きながら、胸をドンと叩いてくれた次第です。
2人はすぐにかけ声係に戻りまして、リンシンさんが杵を振り降ろす度に
「「よいしょお!」」
と、楽しそうに声をあげはじめました。
◇◇
その声が響くことしばらく……
お餅がほどよい感じに出来上がったところで、リンシンさんの手を止めていただきました。
お餅を取り出した私は、それをぬるま湯を浸した大鍋に入れます。
そのまま近くのテーブルへ移動させますと、その上に置いておりました大きめの容器の中へとお餅を移していきました。
そのお餅の塊を包丁で大まかに切り分けると、
「ではベルとエンジェさん、見ていてくださいね。こんな感じにお餅を分けてくださいな」
私はお手本といたしまして、手でお餅を適当な大きさに分けていきます。
それを2人はふんふんと頷きながら見ていたのですが
「わかったニャ! さーちゃんあとはまかせるニャ!」
「もう大丈夫よ! あとはばっちりやってあげるわ!」
笑顔でそう言った2人は、お餅を手で分け始めました。
私のやり方を見習って、お湯で手を湿らせてからお餅をとりわけ、それをこねて丸めていきます。
最初は、はじめての作業ゆえに手間取っていた2人なのですが、3分の1もおもちを分けた頃には、いい感じに分けることが出来るようになっていた次第です。
「ニャ! なんか楽しくなってきたニャ!」
「そうね、なんだか楽しいわ!」
2人は笑顔をかわしながらお餅をわけわけしています。
なんだか、とっても微笑ましい感じです。
……しかし、あれですね。
よく考えたら、クリスマスツリーの付喪神なエンジェさんがお正月用のお餅をこねているのですから……なんだか少し不思議な感じがしてしまいますね。
ほどなくいたしまして、最初につき上げたお餅を分け終わりました。
ベルとエンジェさんがわけわけしてくれたお餅は一定の大きさ……には、なっていないものの、そんなにひどく形がおかしい物はございません。
それに、終盤はかなり形も安定している感じです。
「じゃあ、せっかくですから、最初のお餅はみんなでいただきましょう」
私は笑顔でそう言いました。
味付けとして準備していますのは、
きな粉
砂糖醤油
ダルイコンを使った大根おろしならぬ、ダルイコンおろし
以上の3品です。
先陣を切りまして、まず私が最初の1つをいただきましす。
ダルイコンおろしに醤油を加えたものをボウルに入れておりますので、その中に出来上がったお餅をくぐらせてから取り皿へといれていきます。
お餅の周囲をダルイコンがほどよくコーティングしてくれています。
それを、口にいれますと……
つきたてでもっちりとしたお餅の感触にダルイコンおろしが絶妙の味のアクセントを加えてくれます。
口の中がさっぱりするものですから、すぐにでも次を食べられそうです。
そんな私の食べ方を見た皆さんも、一斉におもちをダルイコンおろしのボールにくぐらせていきました。
「うん、なかなか良いわね」
「ニャ、美味しいニャ!」
バテアさんとベルがそんな声をあげました。
すると、
「私はこのきなこがいいわ。甘くて美味しい!」
そう言いながら、お餅を口に運んでいるツカーサさん……
「え? ツカーサさん?」
そうなんです……居酒屋さわこさんの常連で、お隣にお住まいのツカーサさんの姿がそこにあったのでございます。
……確か、もちつきの最初にはおられなかったはずなのですが……
「あはは、なんだかさ、楽しそうな声が聞こえてきたからさ」
笑顔でそうおっしゃるツカーサさん。
その笑顔に対しまして、バテアさんも、
「まったく、相変わらずねぇ……食べるのはいいけど、ちゃんと手伝いもしなさいよ。この後もまだまだお餅をつくんだから」
そう言いながら、その顔に苦笑を浮かべておいでです。
「はいな!まかせて!」
笑顔でそう言うツカーサさん。
その手には、お餅がのったお皿をお持ちです……すでにしっかり3個のっています
そんなツカーサさんを前にして、居酒屋さわこさんの中にはみんなの笑い声が響いていきました。
まだまだ餅つき用のもち米などは準備してあります。
今日は、このメンバーでしばらく楽しい時間をすごすことになりそうです。
ーつづく
**************************
今年最後の更新になります。
今年一年拝読頂きましてまことにありがとうございます
来年もよろしくお願いいたします
リンシンさんが力強く振り上げた杵。
それが、臼のど真ん中に振り降ろされます。
「「「よいしょお!!」」」
同時に、ベルとエンジェさんが声をあげていきます。
その横では、ミリーネアさんが三味線を弾きながら、
「振り降ろされた杵~♪ それを石の臼に~♪」
即興で歌を歌っておられます。
私の世界には、レストランのメニューを情緒豊かに読み上げただけで居合わせたお客様全員を感動させたという逸話を残している方がおられたりするのですが、今のミリーネアさんは餅つきの光景を三味線の音色に乗せながら、店内に居合わせている私達を楽しい気分にさせてくれています。
お店に始めていらした時のミリーネアさんは、長い髪の毛を後ろで編み上げておられたのですが、最近のミリーネアさんは、編み上げず、あるがままの状態になさっておいでです。
その結果、その髪の毛がこんもり膨らんでですね、後ろから拝見しますとふわふわの毛玉が歩いているように見えてしまうんです。
そんなミリーネアさんの歌が響いている居酒屋さわこさんの店内で、私達は餅つきをしている最中でございます。
大掃除も終わり
おせちの準備も終わりましたので……
「せっかくですので餅つきをしませんか?」
と、私が提案した次第でございます。
当然、道具などなかったのですが、
『そのキネとウスってどんなものなの?』
そう尋ねてこられたバテアさんに、
『はい、杵は木で出来ていて、こう先が……』
そうご説明をさせて頂こうとしたところ、
『あぁ、言葉はいいわ。さわこ、頭の中で想像してくれるかしら?』
バテアさんはそうおっしゃいました。
『想像……ですか?』
言われて、私は早速頭の中に杵と臼を思い浮かべました。
すると、バテアさんは私の額に、ご自分の額を合わせられました。
バテアさんの女性なのに男前なお顔が超至近距離に迫ったことで一瞬ドキッとしてしまった私なのですが……なんといいますか、最近ではこれぐらいならもう慣れてしまったといいますか……
そんな私の額にしばらく額を合わせていたバテアさんは、
『……うん、だいたいわかったわ』
そう言うと、私から離れ、右手を一振りなさいました。
すると、バテアさんの魔法道具のお店の中におかれていました大きな石像と、木製の棍棒が宙に浮かび上がりまして、
石像は、まるで粘土のようにグニャリと潰れてから臼の形に
木製の棍棒もまた粘土のように一つにまとまったかと思うと杵の形に
それぞれ、あっという間に変化してしまったのでございます。
◇◇
そうやって出来上がった杵と臼をつかってお餅をつている私とリンシンさん。
厨房では、手伝いに来てくれたエミリアが、せいろで次のもち米を蒸してくれています。
お店の中。
だるまストーブから少し離れた場所で、私とリンシンさんが息のあった感じでお餅をつき続けております。
「さーちゃん、ベルもお手伝いしたいニャ!」
「さわこ、私も手伝いたいわ」
そんな私の後方に、ベルとエンジェさんが駆け寄ってきました。
2人ともお手伝いしたくてうずうずしている……そんな感じでございます。
ですが……
2人ともそんなに力は強くありませんので杵役を任せることは出来ませんし、
かといって、臼役を任せてですね、タイミングがあわなくてリンシンさんの杵を手で受けてしまったら……
そんなことをついつい考えてしまったものですから、
「2人にはですね、お餅がつきあがった後の分ける作業をお願いしますね」
そうお願いしました。
これを受けまして、ベルとエンジェさんは
「うん、わかったニャ!」
「まかせてさわこ!」
大きく頷きながら、胸をドンと叩いてくれた次第です。
2人はすぐにかけ声係に戻りまして、リンシンさんが杵を振り降ろす度に
「「よいしょお!」」
と、楽しそうに声をあげはじめました。
◇◇
その声が響くことしばらく……
お餅がほどよい感じに出来上がったところで、リンシンさんの手を止めていただきました。
お餅を取り出した私は、それをぬるま湯を浸した大鍋に入れます。
そのまま近くのテーブルへ移動させますと、その上に置いておりました大きめの容器の中へとお餅を移していきました。
そのお餅の塊を包丁で大まかに切り分けると、
「ではベルとエンジェさん、見ていてくださいね。こんな感じにお餅を分けてくださいな」
私はお手本といたしまして、手でお餅を適当な大きさに分けていきます。
それを2人はふんふんと頷きながら見ていたのですが
「わかったニャ! さーちゃんあとはまかせるニャ!」
「もう大丈夫よ! あとはばっちりやってあげるわ!」
笑顔でそう言った2人は、お餅を手で分け始めました。
私のやり方を見習って、お湯で手を湿らせてからお餅をとりわけ、それをこねて丸めていきます。
最初は、はじめての作業ゆえに手間取っていた2人なのですが、3分の1もおもちを分けた頃には、いい感じに分けることが出来るようになっていた次第です。
「ニャ! なんか楽しくなってきたニャ!」
「そうね、なんだか楽しいわ!」
2人は笑顔をかわしながらお餅をわけわけしています。
なんだか、とっても微笑ましい感じです。
……しかし、あれですね。
よく考えたら、クリスマスツリーの付喪神なエンジェさんがお正月用のお餅をこねているのですから……なんだか少し不思議な感じがしてしまいますね。
ほどなくいたしまして、最初につき上げたお餅を分け終わりました。
ベルとエンジェさんがわけわけしてくれたお餅は一定の大きさ……には、なっていないものの、そんなにひどく形がおかしい物はございません。
それに、終盤はかなり形も安定している感じです。
「じゃあ、せっかくですから、最初のお餅はみんなでいただきましょう」
私は笑顔でそう言いました。
味付けとして準備していますのは、
きな粉
砂糖醤油
ダルイコンを使った大根おろしならぬ、ダルイコンおろし
以上の3品です。
先陣を切りまして、まず私が最初の1つをいただきましす。
ダルイコンおろしに醤油を加えたものをボウルに入れておりますので、その中に出来上がったお餅をくぐらせてから取り皿へといれていきます。
お餅の周囲をダルイコンがほどよくコーティングしてくれています。
それを、口にいれますと……
つきたてでもっちりとしたお餅の感触にダルイコンおろしが絶妙の味のアクセントを加えてくれます。
口の中がさっぱりするものですから、すぐにでも次を食べられそうです。
そんな私の食べ方を見た皆さんも、一斉におもちをダルイコンおろしのボールにくぐらせていきました。
「うん、なかなか良いわね」
「ニャ、美味しいニャ!」
バテアさんとベルがそんな声をあげました。
すると、
「私はこのきなこがいいわ。甘くて美味しい!」
そう言いながら、お餅を口に運んでいるツカーサさん……
「え? ツカーサさん?」
そうなんです……居酒屋さわこさんの常連で、お隣にお住まいのツカーサさんの姿がそこにあったのでございます。
……確か、もちつきの最初にはおられなかったはずなのですが……
「あはは、なんだかさ、楽しそうな声が聞こえてきたからさ」
笑顔でそうおっしゃるツカーサさん。
その笑顔に対しまして、バテアさんも、
「まったく、相変わらずねぇ……食べるのはいいけど、ちゃんと手伝いもしなさいよ。この後もまだまだお餅をつくんだから」
そう言いながら、その顔に苦笑を浮かべておいでです。
「はいな!まかせて!」
笑顔でそう言うツカーサさん。
その手には、お餅がのったお皿をお持ちです……すでにしっかり3個のっています
そんなツカーサさんを前にして、居酒屋さわこさんの中にはみんなの笑い声が響いていきました。
まだまだ餅つき用のもち米などは準備してあります。
今日は、このメンバーでしばらく楽しい時間をすごすことになりそうです。
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