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連載
さわこさんと、タジン鍋
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本日は、居酒屋さわこさんの年内最後の営業日でございます。
店内には、多くのお客様がご来店くださっています。
居酒屋さわこさんと、通路でつながっています向こう側、日中はバテアさんの魔法雑貨のお店の店舗であるスペースなのですが、今はですね、バテアさんが魔法で棚や商品をすべて片付けてくださっていまして、そこに椅子やテーブルを並べて、居酒屋さわこさんの臨時店舗として使用させていただいております。
そこでは今夜は、普段さわこの森で働いておられます皆様が忘年会を開催なさっておいでです。
主催は、ラニィさんです。
この方々は、もともとラニィさんが経営なさっていた上級酒場の従業員だった皆さんです、
ラニィさんのお店は、この辺境都市トツノコンベではかなり大きなお店だったものですから、従業員の皆様もかなりの数おられたんです。
今、さわこの森で働いてくださっている皆様だけでも、総勢で30名近くおられる次第でございます。
ラニィさんのお店が潰れるなり、ラニィさんの元を離れて他のお店に再就職なさった方々も少なくなかったそうですので、元々はいったい何人だったのでしょうね。
でも、もう済んだことですし、そのお話はここまでです。
今の皆様は、さわこの森でお仕事してくださっています。
ワノンさんの酒造工房
アミリアさんの植物研究所
この2つの施設のお手伝いをしてくださっているんです。
ワノンさんの酒造り工房はそんなに人手はいらないものの、人手はそれなりには必要ですし、アミリアさんの植物研究所はかなりの人手を有します。
何しろ、
アミリア米の田んぼ
各種野菜を育てている広大な農園
それに加えて、リンシンさん達居酒屋さわこさんと契約してくださっている冒険者の皆さんが生け捕ってきてくださるクッカドゥウドルの飼育場の管理までしてくださっているんです。
みなさんのおかげで、この2つの施設が問題なく運営出来ていると言っても過言ではありません。
「さぁ皆さん、今日は目一杯食べて飲んでくださいね! このお酒はお店からのサービスです」
私はそう言うと、日本酒の瓶が詰まっている木箱を宴会スペースの真ん中に置きました。
「さわこさん、なんだか気を使わせてしまって申し訳ありません」
ラニィさんがすかさず駆け寄ってこられまして、頭をさげてくださっています。
そんなラニィさんに、私は、
「何をおっしゃいます。皆さんのおかげでさわこの森がなりたっているんですもの、そのおかげでこの居酒屋さわこさんも営業出来ているようなものですから、これくらいさせていただきませんと」
私がそう言うと、テーブルに座っていた皆さんが
「さわこさんありがとうございます」
「とっても嬉しいです」
「これからも頑張りますね」
嬉しそうに微笑みながら、口々に感謝の言葉を述べてくださいました。
そんな皆様で、私の周囲はあっという間に人の輪が出来ていたのでございます。
◇◇
今日の忘年会のメニューは鍋パーティーでございます。
ただですね、鍋は鍋でもタジン鍋にしております。
お鍋には……
まず、たっぷりのお野菜を刻んで敷いていきます。
それこそ、こんもり一山になるほどに、でございます。
その上に細切れにしたクッカドゥウドルの胸肉を敷き詰めます。
さらにその上に、自家製の梅干しを潰したものをちらします。
その上に、さらにお野菜を、ここには私の世界で申しますところのキャベツによく似たキャルベツという野菜を刻んだものをのせていきます。
お酒とお塩、それに香辛料と隠し味といたしまして鷹の爪の煮汁を加えて蓋をし、煮こんだものでございます。
もちろん、使用しているのはさわこの森で収穫されたお野菜ばかりです。
クッカドゥウドルもさわこの森で皆さんが飼育してくださった物です。
そうなんです。
今日は、さわこの森でみなさんが頑張って作ってくださった品々で、皆さんを慰労させていただこうという趣向なのでございます。
普通の寄せ鍋やちゃんこ鍋にしてもよかったのですが、タジン鍋にした方がより野菜の味を堪能して頂けますからね。
それに、サイドメニューといたしまして、
温野菜の肉巻き
お野菜のグラタン風
野菜の昆布和え
などのように、お野菜をあれこれアレンジした一品料理も多数ご用意させていただいているんです。
それらを万遍なく味わっていただこうと思った次第でございます。
この日のために、バテアさんとリンシンさんにご無理を申し上げまして、
バテアさんには、私の世界に転移していただき、
リンシンさんには、購入した大量のタジン鍋の輸送の手伝いをしていただいた次第なんです。
タジン鍋は、みはるのパワーストーンのお店がございますショッピングモールで購入することが出来たのですが、相当大量になってしまったものですから、運搬にはみはるのお店でバイトなさっているゆきかさんまでお手伝いしてくださいました。
みはるのお店の応接室の中まで運び込んでもらいまして、その中で魔法袋に中へと詰め込んでいきました。
魔法袋のことを知らなかったみはるやゆきかさんは
「あら? あの大量の荷物はどこにいったの?」
と、困惑しきりだった次第でございます。
ゆきかさんがおられましたので、魔法袋のことを説明するのもあれかな、と思った私は
「えぇ、ちょっと」
と言いながらひたすら笑ってやりすごした次第でございます、はい。
お料理に合わせてお出ししているお酒も、ワノンさんの酒造り工房で製造していますパルマ酒と二人羽織がメインになっております。
この2種類のお酒の製造にも、皆さんが深く関わっておられますからね。
私がサービスさせていただいた日本酒以外は、その2種類のお酒がテーブルに配布されていまして、それを皆さんは注ぎ合っては、乾杯を繰り返しておいでです。
「このお野菜が、私達が頑張った成果なんですねぇ」
「こんなに美味しくなっちゃって、まぁ」
皆さん、そんな会話を交わしながら料理を口に運んでおいでです。
そのお顔には、一様に笑顔が浮かんでおられます。
その笑顔を拝見している私も、なんだか楽しくなっておりました。
……ですが、そちらのことにばかりかかりっきりにはなれません
お店の方も普通に営業しておりますからね。
「さわこさん、タテガミライオンの串焼きをお願い出来るかな?」
「ジュ! こっちはクッカドゥウドルの焼き鳥ジュ」
すっかり常連客になられておりますナベアタマさんとジューイさんがテーブル席から笑顔で声をあげられました。
「さわこ、こっちにはぜんざいだ! 甘酒もお代わりを頼むぞ!」
カウンター席からはゾフィナさんの声が聞こえてきます。
その横には、いつものように役場のヒーロさんが座っておいでです。
そんな2人の様子を、ヒーロさんの部下のシウアさん達が楽しそうに見つめておいでです。
「相変わらずぜんざいばっかだねぇ、ゾフィナってば。ねぇさわこ、何か新メニューはないの?」
ゾフィナさんの様子に苦笑なさっていたツカーサさんが笑顔で声をかけてくださいます。
「さわこ! 料理はいいからこっちにきてお酌してよぉ」
ご自分のお店がすでに昨日からお休みになっておられるジュチさんが、酔っ払ったお顔で私を手招きなさっておられますね……ですが、同じテーブルに座っておられます、ジュチさんのお店の女の子達が
「ちょ、ちょっとジュチ様」
「私達がいるのに他の女に声をかけるなんて!」
そう言いながらご立腹のご様子ですが……ホント、相変わらずですね、ジュチさんってば
そんな、楽しい声がわいわい聞こえてくる店内です。
私は、そんな皆様に笑顔を浮かべながら
「はい、喜んで!」
そう返答しながら、手を動かしていった次第でございます。
今年最後の営業日も、こうして忙しく過ぎていきました。
ーつづく
店内には、多くのお客様がご来店くださっています。
居酒屋さわこさんと、通路でつながっています向こう側、日中はバテアさんの魔法雑貨のお店の店舗であるスペースなのですが、今はですね、バテアさんが魔法で棚や商品をすべて片付けてくださっていまして、そこに椅子やテーブルを並べて、居酒屋さわこさんの臨時店舗として使用させていただいております。
そこでは今夜は、普段さわこの森で働いておられます皆様が忘年会を開催なさっておいでです。
主催は、ラニィさんです。
この方々は、もともとラニィさんが経営なさっていた上級酒場の従業員だった皆さんです、
ラニィさんのお店は、この辺境都市トツノコンベではかなり大きなお店だったものですから、従業員の皆様もかなりの数おられたんです。
今、さわこの森で働いてくださっている皆様だけでも、総勢で30名近くおられる次第でございます。
ラニィさんのお店が潰れるなり、ラニィさんの元を離れて他のお店に再就職なさった方々も少なくなかったそうですので、元々はいったい何人だったのでしょうね。
でも、もう済んだことですし、そのお話はここまでです。
今の皆様は、さわこの森でお仕事してくださっています。
ワノンさんの酒造工房
アミリアさんの植物研究所
この2つの施設のお手伝いをしてくださっているんです。
ワノンさんの酒造り工房はそんなに人手はいらないものの、人手はそれなりには必要ですし、アミリアさんの植物研究所はかなりの人手を有します。
何しろ、
アミリア米の田んぼ
各種野菜を育てている広大な農園
それに加えて、リンシンさん達居酒屋さわこさんと契約してくださっている冒険者の皆さんが生け捕ってきてくださるクッカドゥウドルの飼育場の管理までしてくださっているんです。
みなさんのおかげで、この2つの施設が問題なく運営出来ていると言っても過言ではありません。
「さぁ皆さん、今日は目一杯食べて飲んでくださいね! このお酒はお店からのサービスです」
私はそう言うと、日本酒の瓶が詰まっている木箱を宴会スペースの真ん中に置きました。
「さわこさん、なんだか気を使わせてしまって申し訳ありません」
ラニィさんがすかさず駆け寄ってこられまして、頭をさげてくださっています。
そんなラニィさんに、私は、
「何をおっしゃいます。皆さんのおかげでさわこの森がなりたっているんですもの、そのおかげでこの居酒屋さわこさんも営業出来ているようなものですから、これくらいさせていただきませんと」
私がそう言うと、テーブルに座っていた皆さんが
「さわこさんありがとうございます」
「とっても嬉しいです」
「これからも頑張りますね」
嬉しそうに微笑みながら、口々に感謝の言葉を述べてくださいました。
そんな皆様で、私の周囲はあっという間に人の輪が出来ていたのでございます。
◇◇
今日の忘年会のメニューは鍋パーティーでございます。
ただですね、鍋は鍋でもタジン鍋にしております。
お鍋には……
まず、たっぷりのお野菜を刻んで敷いていきます。
それこそ、こんもり一山になるほどに、でございます。
その上に細切れにしたクッカドゥウドルの胸肉を敷き詰めます。
さらにその上に、自家製の梅干しを潰したものをちらします。
その上に、さらにお野菜を、ここには私の世界で申しますところのキャベツによく似たキャルベツという野菜を刻んだものをのせていきます。
お酒とお塩、それに香辛料と隠し味といたしまして鷹の爪の煮汁を加えて蓋をし、煮こんだものでございます。
もちろん、使用しているのはさわこの森で収穫されたお野菜ばかりです。
クッカドゥウドルもさわこの森で皆さんが飼育してくださった物です。
そうなんです。
今日は、さわこの森でみなさんが頑張って作ってくださった品々で、皆さんを慰労させていただこうという趣向なのでございます。
普通の寄せ鍋やちゃんこ鍋にしてもよかったのですが、タジン鍋にした方がより野菜の味を堪能して頂けますからね。
それに、サイドメニューといたしまして、
温野菜の肉巻き
お野菜のグラタン風
野菜の昆布和え
などのように、お野菜をあれこれアレンジした一品料理も多数ご用意させていただいているんです。
それらを万遍なく味わっていただこうと思った次第でございます。
この日のために、バテアさんとリンシンさんにご無理を申し上げまして、
バテアさんには、私の世界に転移していただき、
リンシンさんには、購入した大量のタジン鍋の輸送の手伝いをしていただいた次第なんです。
タジン鍋は、みはるのパワーストーンのお店がございますショッピングモールで購入することが出来たのですが、相当大量になってしまったものですから、運搬にはみはるのお店でバイトなさっているゆきかさんまでお手伝いしてくださいました。
みはるのお店の応接室の中まで運び込んでもらいまして、その中で魔法袋に中へと詰め込んでいきました。
魔法袋のことを知らなかったみはるやゆきかさんは
「あら? あの大量の荷物はどこにいったの?」
と、困惑しきりだった次第でございます。
ゆきかさんがおられましたので、魔法袋のことを説明するのもあれかな、と思った私は
「えぇ、ちょっと」
と言いながらひたすら笑ってやりすごした次第でございます、はい。
お料理に合わせてお出ししているお酒も、ワノンさんの酒造り工房で製造していますパルマ酒と二人羽織がメインになっております。
この2種類のお酒の製造にも、皆さんが深く関わっておられますからね。
私がサービスさせていただいた日本酒以外は、その2種類のお酒がテーブルに配布されていまして、それを皆さんは注ぎ合っては、乾杯を繰り返しておいでです。
「このお野菜が、私達が頑張った成果なんですねぇ」
「こんなに美味しくなっちゃって、まぁ」
皆さん、そんな会話を交わしながら料理を口に運んでおいでです。
そのお顔には、一様に笑顔が浮かんでおられます。
その笑顔を拝見している私も、なんだか楽しくなっておりました。
……ですが、そちらのことにばかりかかりっきりにはなれません
お店の方も普通に営業しておりますからね。
「さわこさん、タテガミライオンの串焼きをお願い出来るかな?」
「ジュ! こっちはクッカドゥウドルの焼き鳥ジュ」
すっかり常連客になられておりますナベアタマさんとジューイさんがテーブル席から笑顔で声をあげられました。
「さわこ、こっちにはぜんざいだ! 甘酒もお代わりを頼むぞ!」
カウンター席からはゾフィナさんの声が聞こえてきます。
その横には、いつものように役場のヒーロさんが座っておいでです。
そんな2人の様子を、ヒーロさんの部下のシウアさん達が楽しそうに見つめておいでです。
「相変わらずぜんざいばっかだねぇ、ゾフィナってば。ねぇさわこ、何か新メニューはないの?」
ゾフィナさんの様子に苦笑なさっていたツカーサさんが笑顔で声をかけてくださいます。
「さわこ! 料理はいいからこっちにきてお酌してよぉ」
ご自分のお店がすでに昨日からお休みになっておられるジュチさんが、酔っ払ったお顔で私を手招きなさっておられますね……ですが、同じテーブルに座っておられます、ジュチさんのお店の女の子達が
「ちょ、ちょっとジュチ様」
「私達がいるのに他の女に声をかけるなんて!」
そう言いながらご立腹のご様子ですが……ホント、相変わらずですね、ジュチさんってば
そんな、楽しい声がわいわい聞こえてくる店内です。
私は、そんな皆様に笑顔を浮かべながら
「はい、喜んで!」
そう返答しながら、手を動かしていった次第でございます。
今年最後の営業日も、こうして忙しく過ぎていきました。
ーつづく
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