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さわこさんと、吟遊詩人さん その3

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 翌朝になりました。

 バテア青空市の対応を終えた私は、エンジェさんと一緒にだるまストーブを持ち帰り、居酒屋さわこさんの中へ設置しなおしました。

 それに火をつけ、朝ご飯の準備をはじめます。
 私達の食事に加えまして、さわこの森で働いてくださっているみなさんのお食事でございます。

 バテアさんが発見なさった異世界ですが、この異世界は大きな森林程度の大きさしかございません。
 異世界がたくさん存在している空間の中に、小さくぽつんと存在しているこの異世界ですが、これをバテアさんは「さわこの森」と名付けておられるのです。

 その中には、

 アミリアさんが運営なさっている農場と植物研究所。
 ワノンさんと、私の親友の和音が運営しているワノン酒造工房の施設・建物が建築されております。

 クッカドゥウドルの放牧場もございます。

 これらの施設では、上級酒場組合に所属していたラニィさんの酒場で働いておられた皆様が多数働いておられます。
 この皆様は、ラニィさんの酒場が諸事情で上級酒場組合を除名されて、同時に潰れた際に、
「ぜひ働かせて下さい」
 そう申し出てくださったラニィさんを筆頭に、一緒にここで働く事を了承してくださった皆様なのでございます。

 その働いてくださる条件といたしまして、食事のお世話をさせて頂いているのでございます。

 そんな皆様に、よそったご飯やおかずの皿をお渡ししている皆様の中に、

「ご飯……どうぞ」

 おどおどしながらも、頑張ってくださっているミリーネアさんのお姿がございました。

 昨夜、早々に寝てしまったミリーネアさんなのですが、目を覚まされると同時にですね
「はわわ!? ぼ、ボク、寝ちゃってた……ご、ごめんなさい」
 そう言いながら大慌てな様子で起き上がろうとなさったのですが……リンシンさんと同じお布団で眠られていたミリーネアさんは、抱き枕よろしくミリーネアさんに抱きしめられていたものですから、起き上がるに起き上がれないようでして……

 その後、どうにかリンシンさんから解放された後、ミリーネアさんは、
「何かお手伝い……させて……」
 そうおっしゃったのでございます。

 そこで今朝、さわこの森の皆様に食事をお渡しするお手伝いをしていただいている次第なのでございます。

 最近は、私とエミリア、エンジェさんの3人で食事をお渡ししていました。

 バテアさんは朝が弱いですし、古代怪獣族では虫類属性の生き物のため、朝は体が冷え気味のためなかなか起き上がれないベルの2人は参加出来ておりません。

 若干人数が少なめだったものですから、こうして新たに手伝ってくださる方が増えると、私といたしましてもとてもありがたい次第でございます。

 ミリーネアさんは、お味噌汁を配膳してくださっています。
 寸胴鍋の中には、カルーボチャとジャルガイモ、それにタルマネギを具材にしたお味噌汁が入っております。
 
 お味噌は、色々試してみたのですが、こちらの世界の皆様には赤味噌が好評なようですので、赤味噌で味付けしてあります。
「ミリーネアさん、底からよくかき混ぜてからお椀にそそいでくださいね」
「うん……わかった」
 私の言葉に、真剣な表情で頷かれたミリーネアさん。
 少々おっかなびっくりな様子ですが、すごく一生懸命頑張ってくださっています。

 そんなミリーネアさんのおかげもありまして、食事の配膳をいつもより早く終えることが出来ました。

 居酒屋さわこさんさの中には、さわこの森で働いておられます皆さんがいっぱいです。
 
 いつもは4人で座っていただくテーブルなのですが、朝ご飯と夜ご飯の際には6人で座っていただいております。

 そんな中……

 ミリーネアさんは、2階に置いていたリュックサックから何やら取り出して戻ってこられました。
 その手には……なんでしょう、小さなハープのような楽器をお持ちです。
 それを手になさったミリーネアさんは、お店の端っこに立たれますと、おもむろにそれを奏でられはじめました。

 お店の中では、朝ご飯を食べておられる皆様のお姿がございます。

 わいわい楽しそうにお話をなさりながら、笑顔で食事をなさっている皆さん。

 その会話の合間を縫うようにして、ミリーネアさんのハープの音色が奏でられていきます。
 朝だからでしょうか、元気の出る楽しげな調べを奏でておられるミリーネアさん。

 音楽には疎い私なのですが、そんな私がお聞きしてもとても心地よい音色だと思います。

 皆さんの会話を邪魔しないように、それでいて、しっかりと自己主張をなさっているミリーネアさんの音色です。

 お代わりを求めてこられている皆様の対応をさせて頂きながら、私はそんなミリーネアさんの姿を見つめておりました。
 私の視線の先で、ミリーネアさんは気持ちよさそうな笑顔でハープを奏で続けておられます。

 その時でした。

「ん~……悪くないんだけど~」
 そう言いながら、ミリーネアさんの元に歩みよっていったのは和音でした。
 ちなみに、今日の和音は「寒椿」と手書きしている長袖シャツを着ています。

「いい音楽なんだけど~……居酒屋さわこさんにはちょっと合わないっていうか……」
「え? あの……」
「いいからいいから~」
 そういうと、食事を終えていた和音はそのままさわこの森へと戻っていってしまいました。

 ミリーネアさんの腕を引っ張って……

 あまりにもいきなりの事だったものですから、私はそんな2人の後ろ姿を見送ることしか出来ませんでした。

◇◇

 ミリーネアさんが戻ってこられたのは、夕方になってでした。

 一緒に戻って来た和音は、嬉しそうな笑顔を浮かべていました。
 そして、ミリーネアさんは……なぜか三味線を手になさっています。

「この人筋がいいよ~。はじめて手にした三味線を、すぐに弾けるようになったのよ」
 和音は、ミリーネアさんを見つめながら満面の笑顔を浮かべ続けています。

 そういえば……
 確か和音は、学生時代に三味線を習っていたはずです。
 しかも、かなりの腕前だったはずなんですよ、

 それで、この世界にも三味線を持って来ていたのかもしれません。

「和音、ミリーネアさんが三味線の筋がいいのはわかったけど……なんでまた三味線を?」
 首をひねっている私に、和音はにっこり微笑みました。
「だってさ、このお店は和風じゃない。だったら洋楽器のハープじゃなくて、和楽器の三味線の方がいいんじゃないかと思って~」
 そんな和音は、新たに「津軽三味線」と手書きしているシャツを着ています。

 ……この和音の意見なのですが……私も納得いたしました。

 朝、ハープを弾いていたミリーネアさん。
 その音色はとても素敵だったのです……ですが、

 ……何か、居酒屋さわこさんには合わないような……

 そんな気が、若干していたのでございます。

 ただ、だからといってミリーネアさんの楽器を変更していただくというのもどうなのかな……

 私がそんなことを思っていると、ミリーネアさんは、
「この楽器面白い……はじめてだけど、ボク、すっかり気に入りました」
 そう言いながら満面の笑顔を浮かべておいでです。

 ……ま、まぁ、ご本人も納得といいますか、気に入っておいでなのでしたら、いいのかな?

 少々苦笑しながらも、私は、
「じゃ、じゃあミリーネアさん。今晩からお店で演奏していただけますか?」
 そう、ミリーネアさんにお聞きしました。
 そんな私に、ミリーネアさんは、
「うん……任せて、ボク、頑張る」
 そう言いながら笑顔で頷いてくださったのですが、そんなミリーネアさんの前にバテアさんが移動していかれました。
「違うわよミリーネア。このお店ではね、そういう時は『はい、よろこんで』って言うのよ」
 
 そう言うと、バテアさんは悪戯っぽく笑いながら、私へ視線を向けました。

 そんなバテアさんの前で、ミリーネアさんは
「わ、わかりました……はい! 喜んで」
 改めてそう言ってくださった次第です。

「あ、あの……それは私の口癖と申しますか……」
 私は慌ててそう言ったのですが、
「いいよ……これ、口にしたらすごく気持ちいい」
 ミリーネアさんはそう言いながら笑ってくださっています。

 ……なんでしょう

 三味線といい、この挨拶を受け入れてくださったのといい……ミリーネアさんってば、どこか和の心と相性がいいのかもしれませんね。

ーつづく
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