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連載
さわこさんと、年末の風景
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連日寒さが厳しい、辺境都市トツノコンベでございます。
今日は、中級酒場組合に加盟なさっている皆様を相手にした月に一度の料理教室の日です。
街中にあります中級酒場組合の皆様がご使用なさっておられます集会所の中で、今日も私は僭越ながら講師として皆様にお料理作りを指南させていただいておりました。
今日のお題は『すき焼き』です。
忘年会シーズンになりまして、中級酒場組合に加盟なさっている皆様のお店でも連日忘年会が開催されているそうなんです。
その看板メニューになれるものを、との要望が多かったものですからこのメニューを選択させていただいた次第です。
……もっとも、この要望は以前からよせられておりまして、それを受けまして先月の料理教室ではお鍋の出汁の取り方と、各種お鍋の作り方を指南させていただいた次第でございます。
皆様、それを早速ご利用くださっているとのことなんです。
今回は、それ以外に新しいメニューを何かお願い出来ないか……との要望を受けてのものなんです。
本当は、今回は新年に向けたお料理を……と、思っていたのですが、要望が多い方を優先した次第でございます。
ちなみにですが……
会場には、ベルとエンジェさんの姿もございました。
2人とも私のお手伝い兼ボディガードとして同行してくれているんです。
はい……
もう随分時間が経過しておりますが……私は以前、上級酒場組合の皆様と中級酒場組合の皆様の間でおこったいざこざに巻き込まれる形で拉致されてしまったことがございまして……あの時は、バテアさんのおかげで事なきを得たのですが、あれ以降、私がトツノコンベの街中を出歩く際には、バテアさんかリンシンさん、ベルの誰かが必ず同行することになっているのでございます。
……すでに事件は解決しておりますし、上級酒場組合の皆様と中級酒場組合の皆様の間で和解も成立しているそうですし、ボディガードまでしてもらわなくても……そう思っているのですが……
「そうよベル。料理教室に来てもらう際のボディガードなら、この中級酒場組合長のジュチが責任をもって努めるから心配無用よ」
この料理教室の依頼主でもあられますジュチさんが、ベルに向かってそう言っておられるのですが……
「もうね、さわこのことなら店の前からこの会場までの間、片時も離れないで護衛して……隙あらばちょっと宿屋に寄り道してあんなことやこんな……」
……なんでしょう……その顔を上気させながら、ハァハァ息を荒げていくジュチさん……
……気のせいでしょうか……私、別な意味で身の危険を感じ始めているのですが……
すると、そんな私とジュチさんの間に、黒い棒を持ったベルとエンジェさんが割り込んできました。
「ニャ! ジュチアウトニャ!」
「お尻に蹴りをいれますよ!」
「あたた!? エンジェ、いれますよじゃなくて、もう蹴ってるじゃないのさ」
ベルに棒で叩かれ、エンジェさんにお尻を蹴られたものですから、ジュチさんも退散なさった次第でして……なんといいますか、ホントにジュチさんには困ったものです。
◇◇
その後、料理教室を終えた私は、
右腕にベル
左腕にエンジェさん
それそれに抱きつかれながら街道を歩いておりました……
「あの……2人とも……そこまでしなくてもいいんですよ?」
苦笑しながらそう言う私なのですが……
「ニャ! さーちゃんは隙が多いから駄目なのニャ」
「そうよ!私達がしっかり守るの!」
ベルとエンジェさんは、そう言って、決して私の腕を放そうといたしません。
……なんでしょう……気のせいではなく、周囲の皆様に不思議そうな表情で見つめられているのですが……
でも、これも、私の身を案じてくださっているからこそですものね……そう、自分に言い聞かせながら、私達は街道を居酒屋さわこさんへ向かって歩いておりました。
しかし、あれですね……
街中もすっかり冬景色。
街道の真ん中は雪かきをされているので問題ありませんが、その左右には街道の中央からどかされた雪が山積みになっております。
バテアさんにお聞きしたのですが、役場に魔法使役者の方が所属なさっている北方の街ですと、その方がこの雪をすべて魔法で溶かしてまわるそうなのです。
ただ……この街には、バテアさん以外に定住なさっている魔法使いの方がおられないそうなのです。
役場のヒーロさんから、何度か役場の専属か、冬期の期間限定でもいいので職員になってほしいと何度も打診されているそうなのですが、バテアさんはご自分のお店をお持ちですので
「週に1、2回なら、溶かしてまわってあげてもいいわ」
と、言われているそうでして、その言葉通り週に1,2回、この雪を溶かして回られているんです。
このトツノコンベなのですが、結構広いんですよ。
なので、雪を溶かして回るのも一苦労なんだそうです。
ですから、バテアさんが作業してまわられる際には、何か温かい物を準備してお待ちしている次第なんです。
雪が大変なのは、私の世界もこちらの世界も一緒なんですよね。
◇◇
「ただいま戻りました」
裏口から家の中に入った私は、そう声をあげました。
「ただいまニャ!」
「かえったわ!」
ベルとエンジェさんも、そう声をあげています。
すると、ベルはすぐさまこたつに向かって猛ダッシュをしていきます。
「こらベル! 外から帰ったらうがいをする約束でしょう?」
私は、そう言いながらベルを引き留めました。
「うにゃ……そうだったにゃ」
そう言いながら、ベルは私の元に戻ってきました。
私は、3人一緒に洗面所へ移動していきまして、まず手を洗ってから3人一緒にうがいをしていきました。
口に水を含み、上をむいてガラガラガラ……
それを、コップ一杯分しっかり行います。
私が小さい頃、おばあちゃんから何度も言われたこのうがい。
今では、帰宅した際に行わないと気持ち悪く感じております。
うがいが終わると、ベルは即座に
「コタツ~!」
と言いながら、今度こそコタツの中に入っていきました。
エンジェさんは、
「さわこ、今日は何からするのかしら?」
そう言いながら、私のお手伝いをしてくださる気、満々の様子です。
すると、ベルがコタツから顔だけだしてきました。
「さーちゃん、ベルもあったまったらお手伝いするニャ」
「わかりました、よろしくお願いしますね」
ベルに、私は笑顔で返事を返しました。
今夜は、忘年会の予約は入っておりません。
ですが、今夜も寒い中、お店に来てくださるお客様がおられるはずです。
「さ、エンジェさん、まずはお店の出入り口のお掃除からはじめましょうか」
「わかったわさわこ」
私の言葉に頷くと、エンジェさんは駆け足で階段を降りていきました。
私もその後に続いていきます。
そろそろ年末が近いですし……大掃除も兼ねてお店のお掃除もしないといけませんからね。
この世界で暮らし始めて始めて迎える年末年始です。
そう考えると、なんだかやる気も出て来てしまいますね。
私は、エンジェさんと一緒に、まずは拭き掃除からはじめていきました。
ーつづく
今日は、中級酒場組合に加盟なさっている皆様を相手にした月に一度の料理教室の日です。
街中にあります中級酒場組合の皆様がご使用なさっておられます集会所の中で、今日も私は僭越ながら講師として皆様にお料理作りを指南させていただいておりました。
今日のお題は『すき焼き』です。
忘年会シーズンになりまして、中級酒場組合に加盟なさっている皆様のお店でも連日忘年会が開催されているそうなんです。
その看板メニューになれるものを、との要望が多かったものですからこのメニューを選択させていただいた次第です。
……もっとも、この要望は以前からよせられておりまして、それを受けまして先月の料理教室ではお鍋の出汁の取り方と、各種お鍋の作り方を指南させていただいた次第でございます。
皆様、それを早速ご利用くださっているとのことなんです。
今回は、それ以外に新しいメニューを何かお願い出来ないか……との要望を受けてのものなんです。
本当は、今回は新年に向けたお料理を……と、思っていたのですが、要望が多い方を優先した次第でございます。
ちなみにですが……
会場には、ベルとエンジェさんの姿もございました。
2人とも私のお手伝い兼ボディガードとして同行してくれているんです。
はい……
もう随分時間が経過しておりますが……私は以前、上級酒場組合の皆様と中級酒場組合の皆様の間でおこったいざこざに巻き込まれる形で拉致されてしまったことがございまして……あの時は、バテアさんのおかげで事なきを得たのですが、あれ以降、私がトツノコンベの街中を出歩く際には、バテアさんかリンシンさん、ベルの誰かが必ず同行することになっているのでございます。
……すでに事件は解決しておりますし、上級酒場組合の皆様と中級酒場組合の皆様の間で和解も成立しているそうですし、ボディガードまでしてもらわなくても……そう思っているのですが……
「そうよベル。料理教室に来てもらう際のボディガードなら、この中級酒場組合長のジュチが責任をもって努めるから心配無用よ」
この料理教室の依頼主でもあられますジュチさんが、ベルに向かってそう言っておられるのですが……
「もうね、さわこのことなら店の前からこの会場までの間、片時も離れないで護衛して……隙あらばちょっと宿屋に寄り道してあんなことやこんな……」
……なんでしょう……その顔を上気させながら、ハァハァ息を荒げていくジュチさん……
……気のせいでしょうか……私、別な意味で身の危険を感じ始めているのですが……
すると、そんな私とジュチさんの間に、黒い棒を持ったベルとエンジェさんが割り込んできました。
「ニャ! ジュチアウトニャ!」
「お尻に蹴りをいれますよ!」
「あたた!? エンジェ、いれますよじゃなくて、もう蹴ってるじゃないのさ」
ベルに棒で叩かれ、エンジェさんにお尻を蹴られたものですから、ジュチさんも退散なさった次第でして……なんといいますか、ホントにジュチさんには困ったものです。
◇◇
その後、料理教室を終えた私は、
右腕にベル
左腕にエンジェさん
それそれに抱きつかれながら街道を歩いておりました……
「あの……2人とも……そこまでしなくてもいいんですよ?」
苦笑しながらそう言う私なのですが……
「ニャ! さーちゃんは隙が多いから駄目なのニャ」
「そうよ!私達がしっかり守るの!」
ベルとエンジェさんは、そう言って、決して私の腕を放そうといたしません。
……なんでしょう……気のせいではなく、周囲の皆様に不思議そうな表情で見つめられているのですが……
でも、これも、私の身を案じてくださっているからこそですものね……そう、自分に言い聞かせながら、私達は街道を居酒屋さわこさんへ向かって歩いておりました。
しかし、あれですね……
街中もすっかり冬景色。
街道の真ん中は雪かきをされているので問題ありませんが、その左右には街道の中央からどかされた雪が山積みになっております。
バテアさんにお聞きしたのですが、役場に魔法使役者の方が所属なさっている北方の街ですと、その方がこの雪をすべて魔法で溶かしてまわるそうなのです。
ただ……この街には、バテアさん以外に定住なさっている魔法使いの方がおられないそうなのです。
役場のヒーロさんから、何度か役場の専属か、冬期の期間限定でもいいので職員になってほしいと何度も打診されているそうなのですが、バテアさんはご自分のお店をお持ちですので
「週に1、2回なら、溶かしてまわってあげてもいいわ」
と、言われているそうでして、その言葉通り週に1,2回、この雪を溶かして回られているんです。
このトツノコンベなのですが、結構広いんですよ。
なので、雪を溶かして回るのも一苦労なんだそうです。
ですから、バテアさんが作業してまわられる際には、何か温かい物を準備してお待ちしている次第なんです。
雪が大変なのは、私の世界もこちらの世界も一緒なんですよね。
◇◇
「ただいま戻りました」
裏口から家の中に入った私は、そう声をあげました。
「ただいまニャ!」
「かえったわ!」
ベルとエンジェさんも、そう声をあげています。
すると、ベルはすぐさまこたつに向かって猛ダッシュをしていきます。
「こらベル! 外から帰ったらうがいをする約束でしょう?」
私は、そう言いながらベルを引き留めました。
「うにゃ……そうだったにゃ」
そう言いながら、ベルは私の元に戻ってきました。
私は、3人一緒に洗面所へ移動していきまして、まず手を洗ってから3人一緒にうがいをしていきました。
口に水を含み、上をむいてガラガラガラ……
それを、コップ一杯分しっかり行います。
私が小さい頃、おばあちゃんから何度も言われたこのうがい。
今では、帰宅した際に行わないと気持ち悪く感じております。
うがいが終わると、ベルは即座に
「コタツ~!」
と言いながら、今度こそコタツの中に入っていきました。
エンジェさんは、
「さわこ、今日は何からするのかしら?」
そう言いながら、私のお手伝いをしてくださる気、満々の様子です。
すると、ベルがコタツから顔だけだしてきました。
「さーちゃん、ベルもあったまったらお手伝いするニャ」
「わかりました、よろしくお願いしますね」
ベルに、私は笑顔で返事を返しました。
今夜は、忘年会の予約は入っておりません。
ですが、今夜も寒い中、お店に来てくださるお客様がおられるはずです。
「さ、エンジェさん、まずはお店の出入り口のお掃除からはじめましょうか」
「わかったわさわこ」
私の言葉に頷くと、エンジェさんは駆け足で階段を降りていきました。
私もその後に続いていきます。
そろそろ年末が近いですし……大掃除も兼ねてお店のお掃除もしないといけませんからね。
この世界で暮らし始めて始めて迎える年末年始です。
そう考えると、なんだかやる気も出て来てしまいますね。
私は、エンジェさんと一緒に、まずは拭き掃除からはじめていきました。
ーつづく
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