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さわこさんと、忘年会とみはる その2
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「いやぁ、今日は楽しかったわぁ」
その夜、営業時間が終わった居酒屋さわこさんの後片付けを終えた私達は、2階のリビングに戻り着替えていました。
「さ、みんな。着物を脱ぐ前に私の前に集まってねぇ」
そう言ってくださるバテアさんの前にみんなで移動していきまして、洗浄魔法をかけてもらいます。
この魔法のおかげで、今日1日の間に着物についた汚れや匂いが綺麗に洗い流されてしまうのです。
本来ですと定期的にクリーニングに出さないといけない着物ですが、このバテアさんの魔法のおかげでその必要がないばかりか、劣化まで防げている上に、少々の穴や傷・裂け目などまで魔法で修復して頂けるのですから、もう、私、感動することこの上ありません。
一度クリーニングに出すと、それなりにお値段が高めな上に1週間から3週間近く預ける必要がありますので、そういった金銭的、時間的なロスを軽減出来ているのも本当にありがたい次第でございます。
今の居酒屋さわこさんでは、常時
私
バテアさん
リンシンさん
エミリア
この4人が着物を着ています。
さらに、ラニィさんとショコラさんが時折助っ人で加わってくださって着物を着ています。
エンジェさんにも着物を準備しているのですが……お店で働けた最長時間が2時間少々ですので、これからに期待といいますか……
これだけ多くの方々がご使用くださっている着物を一度にクリーニングに出してしまいますと、いくら私が曾祖母の代からの着物を受け継いでいるとはいえ、着物が足りなくなってしまいかねませんからね。
そんなわけで……
バテアさんの前に、順番でやってきた私は、
「バテアさん、本当にいつもありがとうございます」
そう、心の底から御礼を申し上げながら頭をさげました。
「何言ってるのよさわこ、親友のためじゃない。これくらいお安いご用よ」
バテアさんは、そんな私の頭を優しく撫でながらそう言ってくださいました。
それを横で見ていたみはるが、
「あはは、2人ってばホントに仲良しよね。幼なじみの私が妬いちゃうくらいじゃない」
そう言って笑っています。
そんなみはるに、私は、
「何言ってるのみはる。あなただって大事な親友じゃない」
そう言いながら笑顔を返しました。
親友……そうですね……
すごく軽く使っているようで……実はすごく大切に扱っているこの言葉……
その言葉を、こうして躊躇することなく使用出来る友人達がいつも側にいることに、心の底から感謝している次第でございます。
◇◇
その後、着替え終わり、さわこの森へ帰っていくエミリアを見送った私達は、お風呂を頂いていきました。
入浴をすませた面々から、リビングの真ん中に設置してありますコタツへと入って今夜の晩酌をはじめていくのがいつものスタイルでございます。
いつもは私、バテアさん、リンシンさんの3人ですが、今夜はみはるがこれに加わることになりました。
なので、コタツを出してからはじめて四方が埋まることになります。
なんでしょう、たったそれだけのことなんですけど、少し嬉しくなってしまいますね。
私の横では、人の姿に変化しているベルがまっすぐに伸びた状態で、顔だけコタツ布団の外に出しています。
「さわこの横の女の子って、猫っぽいのに、なんか不思議な寝方をしてるのねぇ」
その様子を見つめながらみはるが笑っています。
その手にはグラスが握られていまして、晩酌がはじまってそんなに時間はたっていないのですが、結構な量を飲んでいる様ですね。
お酒には比較的強いはずのみはるの頬が真っ赤になっていますもの。
「ベルは牙猫族ですけれども、古代怪獣族という種族なの。だから私達のような哺乳類……っていうのかな、こっちの世界でも?……まぁ、そんなわけで、哺乳類じゃなくては虫類に近い存在なのよ。だから体全体をまんべんなくあっためようとしてこの姿勢をとっているみたいなの」
私がそう説明しますと、みはるはベルの顔の近くに自らの顔を寄せました。
「あはは、こんなにかわいいいベルちゃんがはちゅうるいなのかぁ。でも、かわいいからゆるす」
少しろれつが回っていない感じの口調でそう言いながら、ベルのほっぺたに人差し指をあてています。
「む~……息がお酒くさいニャ……」
ベルはそう言うと、いやいやと首を左右に振りながら牙猫の姿に変化し、そのまま私の膝の上にのっかって参りました。
「ありゃ? 嫌われちったか」
そんなベルの様子を見つめながら、みはるは舌をペロッと出しながら苦笑しています。
……しかしあれですね……いくら酔っているとはいえ、
頭に角が生えているリンシンさん。
魔法で着物を綺麗にしてくれたバテアさん。
人の姿から牙猫の姿に変化したベル。
私の世界ではありえないことを目の前で体験しているにもかかわらず、みはるはいたってマイペースなまま、その全てを受け入れています。
そんなみはるの姿を見ていたバテアさんが
「……さわこの友達ってすごいのね。ワノンのところの和音といい、このみはるといい、異世界に来てるってのに普通でいられるんだから」
そう言った後、その視線を私に向けてこられました。
「……よく考えたら、その親玉みたいなさわこの友人だもんねぇ」
「親玉だなんて……」
バテアさんの言葉に、思わず苦笑してしまった私。
それを聞いたみはるが、
「え~? さわこが親玉なら、私は戦闘員か何かかしら?」
そう言いながら、右手を斜め上にあげて、「いー!」と連呼しはじめました。
その元ネタがなんなのか私もよくわからなかったのですが、
「みはるってば、何よそれ。ザコ感半端ないわ」
バテアさんがお腹を抱えて笑っておられました。
それに釣られて、私も笑い転げていった次第でございます。
そんな中でも……
リンシンさんはいつものように、お酒の入ったグラスを両手で抱えて、
「……おいし」
真っ赤になった顔に笑顔を浮かべながら、お酒をチビチビと飲まれていました。
今夜のお酒、和和和のひやおろし
『和(わ)の心で和(やわ)らぎ、和(なご)んでほしい』との思いが込められているこのお酒。
今夜の私達にはぴったりのチョイスだったかもしれません。
◇◇
翌朝早くに、私とバテアさんは、みはるを元の世界に送っていきました。
バテアさんにしてみれば相当な早起きの時間です。
「……まぁでも、みはるのためだしねぇ」
大きなあくびをなさりながら、バテアさんは転移ドアを召喚してくださいました。
その扉をくぐり、元の世界へ戻ったみはる。
「……なんていうのかな……昨日からびっくりしっぱなしだけど」
そう言うと、その顔ににっこり笑顔を浮かべました。
「すっごく楽しかったわ。また遊びにいかせてよね」
そう言うと、みはるは私を優しく抱き寄せてくれました。
親友としての、親愛の抱擁です。
「えぇ、もちろんよ。また一緒に晩酌しましょうね」
私もそう言いながらみはるを抱きしめました。
時間にしてほんの少し。
笑顔で、友情を確かめ合った私とみはるは、
「じゃあね」
「またね」
短い言葉を交わし、手を振り合いながら笑顔でわかれましていきました。
「バテアさんも、さわこのことをよろしくね」
角を曲がる寸前に、最後にそう言い残してみはるの姿は見えなくなりました。
「はいはい、わかってるわよ」
眠たそうな顔に笑顔を浮かべながら、バテアさんも手を振り替えしておられました。
「……しっかし、一応びっくりはしてたのね、みはるも」
「まったくそうは見えませんでしたけど……どうもそのようですね」
私とバテアさんは、そんな会話を交わしながら転移ドアをくぐっていきました。
今の私にとっては、この転移ドアの向こう……そちらが私の世界でございます。
「さ、青空市にだるまストーブを持っていかないと」
私はそう言いながら服を着込んでいきます。
「さわこ! 早く行こう!」
1階から、エンジェさんの声が聞こえてきます。
どうやら私達がみはるを送っていっている間に起きたようですね。
「はいはい、今いきます」
私は、返事を返しながら服をさらに着込んでいきます。
今日も外は寒そうですからね。
「さわこ頑張ってね、アタシはもう少し寝るわ」
バテアさんはそう言うと……先ほどまで来ていた服を全部脱ぎ捨ててお布団の中に入っていきました。
「バテアさん、その格好で寝ていたら風邪をひきますよ」
そう言ったのですが、すでにバテアさんは寝息をたてておられまして、お返事はありませんでした。
そんなバテアさんの様子に苦笑しながら、着替えを終えた私は1階へ降りていきました。
さぁ、今日も1日が始まります。
ーつづく
その夜、営業時間が終わった居酒屋さわこさんの後片付けを終えた私達は、2階のリビングに戻り着替えていました。
「さ、みんな。着物を脱ぐ前に私の前に集まってねぇ」
そう言ってくださるバテアさんの前にみんなで移動していきまして、洗浄魔法をかけてもらいます。
この魔法のおかげで、今日1日の間に着物についた汚れや匂いが綺麗に洗い流されてしまうのです。
本来ですと定期的にクリーニングに出さないといけない着物ですが、このバテアさんの魔法のおかげでその必要がないばかりか、劣化まで防げている上に、少々の穴や傷・裂け目などまで魔法で修復して頂けるのですから、もう、私、感動することこの上ありません。
一度クリーニングに出すと、それなりにお値段が高めな上に1週間から3週間近く預ける必要がありますので、そういった金銭的、時間的なロスを軽減出来ているのも本当にありがたい次第でございます。
今の居酒屋さわこさんでは、常時
私
バテアさん
リンシンさん
エミリア
この4人が着物を着ています。
さらに、ラニィさんとショコラさんが時折助っ人で加わってくださって着物を着ています。
エンジェさんにも着物を準備しているのですが……お店で働けた最長時間が2時間少々ですので、これからに期待といいますか……
これだけ多くの方々がご使用くださっている着物を一度にクリーニングに出してしまいますと、いくら私が曾祖母の代からの着物を受け継いでいるとはいえ、着物が足りなくなってしまいかねませんからね。
そんなわけで……
バテアさんの前に、順番でやってきた私は、
「バテアさん、本当にいつもありがとうございます」
そう、心の底から御礼を申し上げながら頭をさげました。
「何言ってるのよさわこ、親友のためじゃない。これくらいお安いご用よ」
バテアさんは、そんな私の頭を優しく撫でながらそう言ってくださいました。
それを横で見ていたみはるが、
「あはは、2人ってばホントに仲良しよね。幼なじみの私が妬いちゃうくらいじゃない」
そう言って笑っています。
そんなみはるに、私は、
「何言ってるのみはる。あなただって大事な親友じゃない」
そう言いながら笑顔を返しました。
親友……そうですね……
すごく軽く使っているようで……実はすごく大切に扱っているこの言葉……
その言葉を、こうして躊躇することなく使用出来る友人達がいつも側にいることに、心の底から感謝している次第でございます。
◇◇
その後、着替え終わり、さわこの森へ帰っていくエミリアを見送った私達は、お風呂を頂いていきました。
入浴をすませた面々から、リビングの真ん中に設置してありますコタツへと入って今夜の晩酌をはじめていくのがいつものスタイルでございます。
いつもは私、バテアさん、リンシンさんの3人ですが、今夜はみはるがこれに加わることになりました。
なので、コタツを出してからはじめて四方が埋まることになります。
なんでしょう、たったそれだけのことなんですけど、少し嬉しくなってしまいますね。
私の横では、人の姿に変化しているベルがまっすぐに伸びた状態で、顔だけコタツ布団の外に出しています。
「さわこの横の女の子って、猫っぽいのに、なんか不思議な寝方をしてるのねぇ」
その様子を見つめながらみはるが笑っています。
その手にはグラスが握られていまして、晩酌がはじまってそんなに時間はたっていないのですが、結構な量を飲んでいる様ですね。
お酒には比較的強いはずのみはるの頬が真っ赤になっていますもの。
「ベルは牙猫族ですけれども、古代怪獣族という種族なの。だから私達のような哺乳類……っていうのかな、こっちの世界でも?……まぁ、そんなわけで、哺乳類じゃなくては虫類に近い存在なのよ。だから体全体をまんべんなくあっためようとしてこの姿勢をとっているみたいなの」
私がそう説明しますと、みはるはベルの顔の近くに自らの顔を寄せました。
「あはは、こんなにかわいいいベルちゃんがはちゅうるいなのかぁ。でも、かわいいからゆるす」
少しろれつが回っていない感じの口調でそう言いながら、ベルのほっぺたに人差し指をあてています。
「む~……息がお酒くさいニャ……」
ベルはそう言うと、いやいやと首を左右に振りながら牙猫の姿に変化し、そのまま私の膝の上にのっかって参りました。
「ありゃ? 嫌われちったか」
そんなベルの様子を見つめながら、みはるは舌をペロッと出しながら苦笑しています。
……しかしあれですね……いくら酔っているとはいえ、
頭に角が生えているリンシンさん。
魔法で着物を綺麗にしてくれたバテアさん。
人の姿から牙猫の姿に変化したベル。
私の世界ではありえないことを目の前で体験しているにもかかわらず、みはるはいたってマイペースなまま、その全てを受け入れています。
そんなみはるの姿を見ていたバテアさんが
「……さわこの友達ってすごいのね。ワノンのところの和音といい、このみはるといい、異世界に来てるってのに普通でいられるんだから」
そう言った後、その視線を私に向けてこられました。
「……よく考えたら、その親玉みたいなさわこの友人だもんねぇ」
「親玉だなんて……」
バテアさんの言葉に、思わず苦笑してしまった私。
それを聞いたみはるが、
「え~? さわこが親玉なら、私は戦闘員か何かかしら?」
そう言いながら、右手を斜め上にあげて、「いー!」と連呼しはじめました。
その元ネタがなんなのか私もよくわからなかったのですが、
「みはるってば、何よそれ。ザコ感半端ないわ」
バテアさんがお腹を抱えて笑っておられました。
それに釣られて、私も笑い転げていった次第でございます。
そんな中でも……
リンシンさんはいつものように、お酒の入ったグラスを両手で抱えて、
「……おいし」
真っ赤になった顔に笑顔を浮かべながら、お酒をチビチビと飲まれていました。
今夜のお酒、和和和のひやおろし
『和(わ)の心で和(やわ)らぎ、和(なご)んでほしい』との思いが込められているこのお酒。
今夜の私達にはぴったりのチョイスだったかもしれません。
◇◇
翌朝早くに、私とバテアさんは、みはるを元の世界に送っていきました。
バテアさんにしてみれば相当な早起きの時間です。
「……まぁでも、みはるのためだしねぇ」
大きなあくびをなさりながら、バテアさんは転移ドアを召喚してくださいました。
その扉をくぐり、元の世界へ戻ったみはる。
「……なんていうのかな……昨日からびっくりしっぱなしだけど」
そう言うと、その顔ににっこり笑顔を浮かべました。
「すっごく楽しかったわ。また遊びにいかせてよね」
そう言うと、みはるは私を優しく抱き寄せてくれました。
親友としての、親愛の抱擁です。
「えぇ、もちろんよ。また一緒に晩酌しましょうね」
私もそう言いながらみはるを抱きしめました。
時間にしてほんの少し。
笑顔で、友情を確かめ合った私とみはるは、
「じゃあね」
「またね」
短い言葉を交わし、手を振り合いながら笑顔でわかれましていきました。
「バテアさんも、さわこのことをよろしくね」
角を曲がる寸前に、最後にそう言い残してみはるの姿は見えなくなりました。
「はいはい、わかってるわよ」
眠たそうな顔に笑顔を浮かべながら、バテアさんも手を振り替えしておられました。
「……しっかし、一応びっくりはしてたのね、みはるも」
「まったくそうは見えませんでしたけど……どうもそのようですね」
私とバテアさんは、そんな会話を交わしながら転移ドアをくぐっていきました。
今の私にとっては、この転移ドアの向こう……そちらが私の世界でございます。
「さ、青空市にだるまストーブを持っていかないと」
私はそう言いながら服を着込んでいきます。
「さわこ! 早く行こう!」
1階から、エンジェさんの声が聞こえてきます。
どうやら私達がみはるを送っていっている間に起きたようですね。
「はいはい、今いきます」
私は、返事を返しながら服をさらに着込んでいきます。
今日も外は寒そうですからね。
「さわこ頑張ってね、アタシはもう少し寝るわ」
バテアさんはそう言うと……先ほどまで来ていた服を全部脱ぎ捨ててお布団の中に入っていきました。
「バテアさん、その格好で寝ていたら風邪をひきますよ」
そう言ったのですが、すでにバテアさんは寝息をたてておられまして、お返事はありませんでした。
そんなバテアさんの様子に苦笑しながら、着替えを終えた私は1階へ降りていきました。
さぁ、今日も1日が始まります。
ーつづく
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