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さわこさんと、雪の日のメニュー
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「わっせ、わっせ」
「わっせ、わっせ」
最近の昼間の居酒屋さわこさんの店内には、ベルとエンジェさんのかけ声が響いています。
仲良く2人で、うどんを踏み踏みしてくれているんです。
エンジェさんがお手伝いをはじめた直後は、
「にゃ! エーちゃんには負けないニャ!」
「私も負けませんわ! ベルさん!」
そう言いながら、2人して踏みっこ勝負みたいになってしまっていたのですが、この数日ですっかり仲良くなった2人は、
「エーちゃん、がんばるニャ!」
「ベルさん頑張りましょう!」
仲良くそんな声を掛け合いながらカウンターの前に2人並んでうどんを踏み踏みしてくれているんです。
厨房で夜の仕込みをしている私は、そんな2人を真正面に見ながら作業しているんです。
2人の楽しそうな姿に釣られて、私もなんだか元気になれまして、いつもより張り切って料理をすることが出来ているような気がいたします。
そんな感じで、私にパワーをくれている2人は、うどんの踏み踏み作業が終わると、
「今度はお店の掃除にゃ!」
「えぇ、掃除するわ!」
2人は仲良くそう言いながらバケツと雑巾を準備していきました。
すると、
「ウェイトよベル、エンジェ」
バテアさんの魔法道具のお店の方からエミリアが小走りでやってきました。
今はお昼をかなり回った頃合いですので、バテアさんの魔法道具のお店もややお客様が少ない時間なんです。
それに、今日はバテア青空市のバイトをしてくれているショコラっも手伝いにきてくれていますので、エミリアが抜けても問題ない感じでした。
「いい、2人とも、ただ拭くだけじゃバッドよ。まず床をクリーンにする際にはね、ちゃんと角まで……」
そう言いながら、エミリアは自らお手本を示すかのように床を拭いていきました。
「ニャ!」
「私もいくわ!」
エミリアから一列ずつずれた格好で、ベルとエンジェさんが続いていきました。
そんな感じで、エミリアが2人にあれこれ掃除の仕方を教えてくれたんです。
その指導は、微に入り細に入りとても丁寧でわかりやすい感じでした。
ですので、ベルとエンジェさんも、
「ふんふん、了解にゃ!」
「私もわかったわ、エミリア」
笑顔でそう言いながら、何度も大きく頷いていました。
そんな3人の様子を見ておりますと……エミリアがまるで、ベルとエンジェさんのお姉さんみたいに見えてしまいますね。
そんな事を考えている私の前で、エミリアは
「OK? じゃ、もう一回、一緒にやってみましょう」
そう言いながら、ベルとエンジェさんの前で机を拭き始めていました。
◇◇
そんな感じで、今日はお掃除まで目一杯頑張ってくれたベルとエンジェさん。
そのため、今日は2人とも、お店が開店する前にすっかり眠りこけてしまっていました。
ベルはコタツで、
エンジェさんがベッドで、それぞれ横になってもらいました。
よっぽど疲れたみたいですね、
ベルは私が、エンジェさんはリンシンさんが、それぞれ抱きかかえて2階の寝室まで連れて行ったのですが、2人ともまったく起きる気配がありませんでした。
そんな2人を起こさないように気をつけながら、私とリンシンさんは居酒屋さわこさんへ戻っていきました。
◇◇
今日も外は寒いです。
「寒いはずね……雪が降ってるわ」
窓の外を見つめていたバテアさんがそうおっしゃいました。
私も、一度料理の手を止めて窓辺に歩み寄っていきました。
温度差のせいで白く曇っている窓。
それを手で拭き取っていきますと……その向こうに無数の白い粒が舞っていました。
「うわぁ……雪ですねぇ」
その雪を見つめながら、私は思わず笑顔になっていました。
こちらの世界では少々不謹慎なのですが……私が元いた世界で住んでいた一帯には、滅多に雪が降りませんでした。
そのため、こうして雪を見ることが出来るとそれだけでなんだか嬉しくなってしまうんですよね。
雪の日が多くなってきたこともありますので、それにちなんだメニューを準備しております。
はい、雪見鍋でございます。
醤油と昆布で出汁をとった鍋の中に、クッカドゥウドルのぶつ切りともやし、この世界の茸である影茸を加えて煮こんでいきます。ここに、私の世界のネギととニラを加えて煮こんだら、最後におろした大根もどきことダルイコンおろしを4分の1分だけのせて、はい、完成でございます。
「へぇ……ダルイコンにこんな食べ方があったんだ」
ヒーロさんは感心したような口調で、その眼前に置かれております一人鍋の中を見つめておいででした。
早速、箸を使って中身を取り分けていくヒーロさん。
はい、ヒーロさんも今ではすっかり箸の使い方をマスターしておられます。
で、それを一口、口に運ばれたヒーロさんは、
「うん、このダルイコンおろしが、鍋の具材に絶妙に絡んでますね。すごく美味しいです」
そう言いながら、すごい勢いでお鍋の中身を口に運び始めました。
いつも冷静沈着なヒーロさんが、すごい勢いで食べ始められたものですから、私達店員だけでなく、お店の常連の皆様も一様にびっくりなさった様子でした。
でも……ヒーロさんがそこまで夢中になってしまうということですものね、雪見鍋は大成功といえます。
そんな私の思惑通り、と、申しますか、ヒーロさんの食べっぷりをご覧になっていた他の常連客の皆様がですね
「さわこさん、こっちにもその雪見鍋を頼むよ」
「こっちにもよろしくね」
「ジュ、こっちもジュ!」
こんな感じでどんどん注文してくださった次第でございます。
おかげさまで、最初に準備していたダルイコンおろしが、早々になくなってしまったんです。
雪見鍋をすることに決めておりましたので、ダルイコンおろしも相当量準備していたんですけど……まさかこんなに早くなくなるとは夢にも思っておりませんでした。
この頃には、すでにご自分の一人用雪見鍋を完食なさっていたヒーロさんなのですが、
「さわこさん、お代わりもらえますか? この一人鍋の」
そう言ってこられました。
「あの……そんなに召し上がって、大丈夫ですか?」
私が少し心配そうな表情でそう言いますと、ヒーロさんは、
「あぁ、大丈夫ですよ。今日は他の物をあまり注文していないしね……それに、この雪見鍋、すごく美味しいというか、僕の好みにぴったりな味なんだ」
そう言いながら嬉しそうに笑ってくださいました。
そんなヒーロさんに、私は、
「了解いたしました、改めまして喜んで!」
私もまた、自分の顔に笑みを浮かべながらそう言いました。
私が、頑張ってダルイコンおろしを作っていると、バテアさんが酒瓶を両手に、店内を妖艶な感じで歩いておられます。
「さ、みんな、今日のお勧めの日本酒よ」
バテアさんはそう言いながら、皆さんにお酒のラベルがよく見えるようにしておられます。
今日、バテアさんが手になさっているのは二人羽織と上善如水です。
どちらも、さっぱり系のお鍋にはぴったりな味わいなんですよ。
そんなバテアさんが店内を歩いていますと、
「バテア、こっちにお代わり!」
「こっちには二人羽織をちょうだい」
「こっちはどっちも1杯ずつもってきてくれ」
そんな声がお店のあちこちからあがっていきました。
その声を受けて、バテアさんは
「はいはい、呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん、よ」
楽しそうにそう言いながら、笑い声をあげておいでです。
さぁ、バテアさんがお酒で場をつないでくださっている間に、私はお鍋をつくっていきませんと。
そんな事を考えていた私は、お鍋をクツクツと火にかけつつ、同時にダルイコンをおろしていった次第でございます。
楽しい雰囲気の店内とは裏腹に、お店の外には雪がどんどん降りそそいでおりました。
今夜は、一層寒くなりそうですね。
ーつづく
「わっせ、わっせ」
最近の昼間の居酒屋さわこさんの店内には、ベルとエンジェさんのかけ声が響いています。
仲良く2人で、うどんを踏み踏みしてくれているんです。
エンジェさんがお手伝いをはじめた直後は、
「にゃ! エーちゃんには負けないニャ!」
「私も負けませんわ! ベルさん!」
そう言いながら、2人して踏みっこ勝負みたいになってしまっていたのですが、この数日ですっかり仲良くなった2人は、
「エーちゃん、がんばるニャ!」
「ベルさん頑張りましょう!」
仲良くそんな声を掛け合いながらカウンターの前に2人並んでうどんを踏み踏みしてくれているんです。
厨房で夜の仕込みをしている私は、そんな2人を真正面に見ながら作業しているんです。
2人の楽しそうな姿に釣られて、私もなんだか元気になれまして、いつもより張り切って料理をすることが出来ているような気がいたします。
そんな感じで、私にパワーをくれている2人は、うどんの踏み踏み作業が終わると、
「今度はお店の掃除にゃ!」
「えぇ、掃除するわ!」
2人は仲良くそう言いながらバケツと雑巾を準備していきました。
すると、
「ウェイトよベル、エンジェ」
バテアさんの魔法道具のお店の方からエミリアが小走りでやってきました。
今はお昼をかなり回った頃合いですので、バテアさんの魔法道具のお店もややお客様が少ない時間なんです。
それに、今日はバテア青空市のバイトをしてくれているショコラっも手伝いにきてくれていますので、エミリアが抜けても問題ない感じでした。
「いい、2人とも、ただ拭くだけじゃバッドよ。まず床をクリーンにする際にはね、ちゃんと角まで……」
そう言いながら、エミリアは自らお手本を示すかのように床を拭いていきました。
「ニャ!」
「私もいくわ!」
エミリアから一列ずつずれた格好で、ベルとエンジェさんが続いていきました。
そんな感じで、エミリアが2人にあれこれ掃除の仕方を教えてくれたんです。
その指導は、微に入り細に入りとても丁寧でわかりやすい感じでした。
ですので、ベルとエンジェさんも、
「ふんふん、了解にゃ!」
「私もわかったわ、エミリア」
笑顔でそう言いながら、何度も大きく頷いていました。
そんな3人の様子を見ておりますと……エミリアがまるで、ベルとエンジェさんのお姉さんみたいに見えてしまいますね。
そんな事を考えている私の前で、エミリアは
「OK? じゃ、もう一回、一緒にやってみましょう」
そう言いながら、ベルとエンジェさんの前で机を拭き始めていました。
◇◇
そんな感じで、今日はお掃除まで目一杯頑張ってくれたベルとエンジェさん。
そのため、今日は2人とも、お店が開店する前にすっかり眠りこけてしまっていました。
ベルはコタツで、
エンジェさんがベッドで、それぞれ横になってもらいました。
よっぽど疲れたみたいですね、
ベルは私が、エンジェさんはリンシンさんが、それぞれ抱きかかえて2階の寝室まで連れて行ったのですが、2人ともまったく起きる気配がありませんでした。
そんな2人を起こさないように気をつけながら、私とリンシンさんは居酒屋さわこさんへ戻っていきました。
◇◇
今日も外は寒いです。
「寒いはずね……雪が降ってるわ」
窓の外を見つめていたバテアさんがそうおっしゃいました。
私も、一度料理の手を止めて窓辺に歩み寄っていきました。
温度差のせいで白く曇っている窓。
それを手で拭き取っていきますと……その向こうに無数の白い粒が舞っていました。
「うわぁ……雪ですねぇ」
その雪を見つめながら、私は思わず笑顔になっていました。
こちらの世界では少々不謹慎なのですが……私が元いた世界で住んでいた一帯には、滅多に雪が降りませんでした。
そのため、こうして雪を見ることが出来るとそれだけでなんだか嬉しくなってしまうんですよね。
雪の日が多くなってきたこともありますので、それにちなんだメニューを準備しております。
はい、雪見鍋でございます。
醤油と昆布で出汁をとった鍋の中に、クッカドゥウドルのぶつ切りともやし、この世界の茸である影茸を加えて煮こんでいきます。ここに、私の世界のネギととニラを加えて煮こんだら、最後におろした大根もどきことダルイコンおろしを4分の1分だけのせて、はい、完成でございます。
「へぇ……ダルイコンにこんな食べ方があったんだ」
ヒーロさんは感心したような口調で、その眼前に置かれております一人鍋の中を見つめておいででした。
早速、箸を使って中身を取り分けていくヒーロさん。
はい、ヒーロさんも今ではすっかり箸の使い方をマスターしておられます。
で、それを一口、口に運ばれたヒーロさんは、
「うん、このダルイコンおろしが、鍋の具材に絶妙に絡んでますね。すごく美味しいです」
そう言いながら、すごい勢いでお鍋の中身を口に運び始めました。
いつも冷静沈着なヒーロさんが、すごい勢いで食べ始められたものですから、私達店員だけでなく、お店の常連の皆様も一様にびっくりなさった様子でした。
でも……ヒーロさんがそこまで夢中になってしまうということですものね、雪見鍋は大成功といえます。
そんな私の思惑通り、と、申しますか、ヒーロさんの食べっぷりをご覧になっていた他の常連客の皆様がですね
「さわこさん、こっちにもその雪見鍋を頼むよ」
「こっちにもよろしくね」
「ジュ、こっちもジュ!」
こんな感じでどんどん注文してくださった次第でございます。
おかげさまで、最初に準備していたダルイコンおろしが、早々になくなってしまったんです。
雪見鍋をすることに決めておりましたので、ダルイコンおろしも相当量準備していたんですけど……まさかこんなに早くなくなるとは夢にも思っておりませんでした。
この頃には、すでにご自分の一人用雪見鍋を完食なさっていたヒーロさんなのですが、
「さわこさん、お代わりもらえますか? この一人鍋の」
そう言ってこられました。
「あの……そんなに召し上がって、大丈夫ですか?」
私が少し心配そうな表情でそう言いますと、ヒーロさんは、
「あぁ、大丈夫ですよ。今日は他の物をあまり注文していないしね……それに、この雪見鍋、すごく美味しいというか、僕の好みにぴったりな味なんだ」
そう言いながら嬉しそうに笑ってくださいました。
そんなヒーロさんに、私は、
「了解いたしました、改めまして喜んで!」
私もまた、自分の顔に笑みを浮かべながらそう言いました。
私が、頑張ってダルイコンおろしを作っていると、バテアさんが酒瓶を両手に、店内を妖艶な感じで歩いておられます。
「さ、みんな、今日のお勧めの日本酒よ」
バテアさんはそう言いながら、皆さんにお酒のラベルがよく見えるようにしておられます。
今日、バテアさんが手になさっているのは二人羽織と上善如水です。
どちらも、さっぱり系のお鍋にはぴったりな味わいなんですよ。
そんなバテアさんが店内を歩いていますと、
「バテア、こっちにお代わり!」
「こっちには二人羽織をちょうだい」
「こっちはどっちも1杯ずつもってきてくれ」
そんな声がお店のあちこちからあがっていきました。
その声を受けて、バテアさんは
「はいはい、呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~ん、よ」
楽しそうにそう言いながら、笑い声をあげておいでです。
さぁ、バテアさんがお酒で場をつないでくださっている間に、私はお鍋をつくっていきませんと。
そんな事を考えていた私は、お鍋をクツクツと火にかけつつ、同時にダルイコンをおろしていった次第でございます。
楽しい雰囲気の店内とは裏腹に、お店の外には雪がどんどん降りそそいでおりました。
今夜は、一層寒くなりそうですね。
ーつづく
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