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連載
さわこさんと、エンジェさんと一緒
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この夜の私達はエンジェさんを囲んで晩酌を行いました。
ゾフィナさんの友人の方のおかげで、私やバテアさんのような人の姿になることが出来たエンジェさん。
私よりも一回り小さいエンジェさんは、天使のオーナメント姿時代と同じ布の服を身にまとい、頭上に天使の輪と、背に白い羽が生えています。
ですが
その羽を羽ばたかせてみたエンジェさんによりますと、
「さわこ、どうも飛べそうにないわ」
とのことでした。
結局のところ、姿は天使ですが、中身は私と大差ない……そんな感じのようですね。
そんなエンジェさんは、お店の片付けを終えて2階のプライベートルームへ移動している際に、
「さわこ、私ね、あれを食べたいの! 昔からねとっても食べたいと思っていたのよ」
そうおっしゃいました。
「はい、なんでしょう? 今日はもうなんでも作っちゃいますよ」
私が笑顔でそう言いますと、エンジェさんは
「肉じゃが! 肉じゃがを食べたいの!」
そうおっしゃいました。
肉じゃが……
その言葉をお聞きして、私は納得したように頷きました。
エンジェさんはクリスマスツリーの付喪神でございます。
亡き父が購入してきたクリスマスツリーの、で、ございます。
そのクリスマスツリーは、毎年冬になると、当時父が経営し、後に私がそれを引き継ぎました居酒屋酒話のカウンターの上にいつものっていたのですが、そのすぐ隣にいつも肉じゃがの大皿が置かれていたのでございます。
それは、居酒屋さわこさんになった今も同じなんですよ。
きっとエンジェさんは、いつも隣にある肉じゃがを食べたくて仕方なかったのでしょうね。
2階へとあがった私は、エンジェさんにはコタツで休んでもらいまして、その間に台所へと移動していきました。
この2階のリビングには、台所が併設されています。
そこでは私だけでなく、時にバテアさんやリンシンさんも料理をなさっているんですよ。
その台所で、私は魔法袋の中から肉じゃがの大皿を取り出しました。
居酒屋さわこさんでお出ししている大皿料理ですが、いつもカウンターの上に並べております。
閉店した際に残っているようでしたら、それをこうして魔法袋の中で保存しているんです。
お客様に再度お出しするようなことはしないのですが、もったいないですので晩酌に使用したり、翌朝のさわこの森の皆さんの朝ご飯に使用させて頂いたりしている次第でございます。
その大皿の中身をお鍋に移した私は、それを暖め直していきました。
くつくつくつ……
すぐに、お鍋がいい音を立て始めました。
同時に、室内に良い匂いが立ちこめております。
バテアさんとリンシンさんも、すでにコタツに座られまして、エンジェさんと何やらお話をなさっておられるようです。
ベルはベルで、私がいつも座る場所に、牙猫姿で丸くなっております。
ベルはまだお子様ですからね。
お店が終了する頃はいつもこんな感じでございます。
そんな中……
十分あったまった肉じゃがを、私はお皿によそっていきました。
「お待たせしましたエンジェさん。さぁお食べくださいな」
私はまずエンジェさんの前にお皿を置きました。
それを見たエンジェさんは
「これよさわこ! 私、これがずっと食べたかったのよ!」
その顔に満面の笑みを浮かべながらそう言ってくださいました。
最初、お箸をお渡ししたのですが……人の姿になれたばかりのエンジェさんは、まだお箸はうまく使えないようでした。
よく考えたら、それもそうですよね。
エンジェさんは元々天使のオーナメントの姿をなさっておいででした。
そのオーナメントの手は、腕と一体になっていて指を動かす仕様にはなっておりませんでした。
つまりエンジェさんは、産まれてはじめて指を動かせていて、当然お箸も始めて手になさっているわけです。
「なんだか悔しいわさわこ。今度お箸の使い方を教えてね」
「はい、一緒に頑張りましょう」
エンジェさんの言葉に、私は笑顔でお応えさせて頂きました。
その後、私がお渡しいたしましたフォークで、お皿の中のジャガイモ……いえ、その肉じゃがに使用しておりますのは、さわこの森にございますアミリアさんの畑で収穫されましたジャルガイモですね、そのジャルガイモを口に含んだエンジェさん。
そのジャルガイモが大きかったためでしょう……エンジェさんは口いっぱいになっているそのジャルガイモをなんとかしてかみ砕こうとしながら口を一生懸命動かしておられます。
その後、どうにかそれをかみ砕き、飲み込むことに成功したエンジェさん。
「さわこ!すっごく美味しいわ!想像した以上よ!」
その顔に、満面の笑みを浮かべながら、次のジャルガイモを口に運んでおられました。
結局、この夜のエンジェさんは残っていた肉じゃがをすべて1人で平らげてしまいました。
量にいたしまして、5,6人前はあったはずなのですが、
「美味しいわさわこ、すごく美味しいわ」
満面の笑みをその顔に浮かべつつ、エンジェさんはあっという間にそれをすべて食べ終えてしまったのでございます。
見た目は私よりも小柄なのに……この体のどこにあの大量の肉じゃがが入っていったのでしょう……少々神秘ですね。
そんなエンジェさんの姿を、コタツの向かいの席から見つめておられたバテアさんは、
「ふふ、まるでさわこに食いしん坊の妹が出来たみたいね」
そう言いながら日本酒を口になさっておいでです。
「ふふ、こんなに可愛い妹なら、いくら食いしん坊でも許しちゃいますよ」
私は笑顔でバテアさんにお応えさせて頂きました。
そんな私達の視線の先で、エンジェさんはその顔に満面の笑みを浮かべながら肉じゃがを口に運び続けていました。
私達は、そんなエンジェさんを肴にお酒を頂いていった次第でございます。
この日の晩酌は、いつもより少々遅くまで続いていった次第でございます。
◇◇
その後……
晩酌を終え、歯磨きをすませた私達は寝室へと移動していきました。
リンシンさんは、いつもは床の上に布団を敷いてお休みになっているのですが……最近は少々事情が違っておりまして……
はい、リビングにございますコタツに足が入るようにお布団を敷かれまして、そこでお休みになられているんです。
「……これ、暖かくて、すごくいい。とてもよく眠れる」
リンシンさんは、とっても嬉しそうにそう仰っています。
そして……そのコタツの暖かさに惹かれるようにして、ベルも最近はリンシンさんと一緒に寝ているんです。
牙猫姿のベルは、リンシンさんの布団の隙間からコタツに入ったり出たりして体温調節をしながら寝ているんです。
そのため……最近のダブルベッドの上は、私とバテアさんの2人だけだったのですが、今日はそんな私達の間にエンジェさんが加わったのでございます。
いままでは、クリスマスツリーにもたれるようにして夜を過ごしていたエンジェさんなのですが、
「さわこと一緒に眠れるなんて感動だわ! 私、ちゃんと眠れるかしら!」
エンジェさんは興奮した様子でそうおっしゃいました。
その姿は、まるで子供のようです。
私は、そんなエンジェさんをベッドの中で優しく抱き寄せました。
「エンジェさん、私もとっても嬉しいです。これからずっと一緒にいてくださいね」
「もちろんよさわこ! 早速明日は青空市のお手伝いからしてあげるわよ、それからお洗濯や洗い物、それに……」
エンジェさんは興奮した様子でそんな言葉を続けておいでです。
そんなエンジェさんの言葉を、私は笑顔で聞いておりました。
その夜、エンジェさんはいっぱいお話をしてですね……まるで、凧の糸が切れたかのようにいきなり眠り始めてしまいました。
きっとあれですね……興奮してお話しすぎて、疲れてしまったのでしょう。
「……エンジェさん、お休みなさい」
私は、そんなエンジェさんを優しく抱きしめながら眠りに落ちていきました。
今日は、とてもいい夢を見れそうです。
ーつづく
ゾフィナさんの友人の方のおかげで、私やバテアさんのような人の姿になることが出来たエンジェさん。
私よりも一回り小さいエンジェさんは、天使のオーナメント姿時代と同じ布の服を身にまとい、頭上に天使の輪と、背に白い羽が生えています。
ですが
その羽を羽ばたかせてみたエンジェさんによりますと、
「さわこ、どうも飛べそうにないわ」
とのことでした。
結局のところ、姿は天使ですが、中身は私と大差ない……そんな感じのようですね。
そんなエンジェさんは、お店の片付けを終えて2階のプライベートルームへ移動している際に、
「さわこ、私ね、あれを食べたいの! 昔からねとっても食べたいと思っていたのよ」
そうおっしゃいました。
「はい、なんでしょう? 今日はもうなんでも作っちゃいますよ」
私が笑顔でそう言いますと、エンジェさんは
「肉じゃが! 肉じゃがを食べたいの!」
そうおっしゃいました。
肉じゃが……
その言葉をお聞きして、私は納得したように頷きました。
エンジェさんはクリスマスツリーの付喪神でございます。
亡き父が購入してきたクリスマスツリーの、で、ございます。
そのクリスマスツリーは、毎年冬になると、当時父が経営し、後に私がそれを引き継ぎました居酒屋酒話のカウンターの上にいつものっていたのですが、そのすぐ隣にいつも肉じゃがの大皿が置かれていたのでございます。
それは、居酒屋さわこさんになった今も同じなんですよ。
きっとエンジェさんは、いつも隣にある肉じゃがを食べたくて仕方なかったのでしょうね。
2階へとあがった私は、エンジェさんにはコタツで休んでもらいまして、その間に台所へと移動していきました。
この2階のリビングには、台所が併設されています。
そこでは私だけでなく、時にバテアさんやリンシンさんも料理をなさっているんですよ。
その台所で、私は魔法袋の中から肉じゃがの大皿を取り出しました。
居酒屋さわこさんでお出ししている大皿料理ですが、いつもカウンターの上に並べております。
閉店した際に残っているようでしたら、それをこうして魔法袋の中で保存しているんです。
お客様に再度お出しするようなことはしないのですが、もったいないですので晩酌に使用したり、翌朝のさわこの森の皆さんの朝ご飯に使用させて頂いたりしている次第でございます。
その大皿の中身をお鍋に移した私は、それを暖め直していきました。
くつくつくつ……
すぐに、お鍋がいい音を立て始めました。
同時に、室内に良い匂いが立ちこめております。
バテアさんとリンシンさんも、すでにコタツに座られまして、エンジェさんと何やらお話をなさっておられるようです。
ベルはベルで、私がいつも座る場所に、牙猫姿で丸くなっております。
ベルはまだお子様ですからね。
お店が終了する頃はいつもこんな感じでございます。
そんな中……
十分あったまった肉じゃがを、私はお皿によそっていきました。
「お待たせしましたエンジェさん。さぁお食べくださいな」
私はまずエンジェさんの前にお皿を置きました。
それを見たエンジェさんは
「これよさわこ! 私、これがずっと食べたかったのよ!」
その顔に満面の笑みを浮かべながらそう言ってくださいました。
最初、お箸をお渡ししたのですが……人の姿になれたばかりのエンジェさんは、まだお箸はうまく使えないようでした。
よく考えたら、それもそうですよね。
エンジェさんは元々天使のオーナメントの姿をなさっておいででした。
そのオーナメントの手は、腕と一体になっていて指を動かす仕様にはなっておりませんでした。
つまりエンジェさんは、産まれてはじめて指を動かせていて、当然お箸も始めて手になさっているわけです。
「なんだか悔しいわさわこ。今度お箸の使い方を教えてね」
「はい、一緒に頑張りましょう」
エンジェさんの言葉に、私は笑顔でお応えさせて頂きました。
その後、私がお渡しいたしましたフォークで、お皿の中のジャガイモ……いえ、その肉じゃがに使用しておりますのは、さわこの森にございますアミリアさんの畑で収穫されましたジャルガイモですね、そのジャルガイモを口に含んだエンジェさん。
そのジャルガイモが大きかったためでしょう……エンジェさんは口いっぱいになっているそのジャルガイモをなんとかしてかみ砕こうとしながら口を一生懸命動かしておられます。
その後、どうにかそれをかみ砕き、飲み込むことに成功したエンジェさん。
「さわこ!すっごく美味しいわ!想像した以上よ!」
その顔に、満面の笑みを浮かべながら、次のジャルガイモを口に運んでおられました。
結局、この夜のエンジェさんは残っていた肉じゃがをすべて1人で平らげてしまいました。
量にいたしまして、5,6人前はあったはずなのですが、
「美味しいわさわこ、すごく美味しいわ」
満面の笑みをその顔に浮かべつつ、エンジェさんはあっという間にそれをすべて食べ終えてしまったのでございます。
見た目は私よりも小柄なのに……この体のどこにあの大量の肉じゃがが入っていったのでしょう……少々神秘ですね。
そんなエンジェさんの姿を、コタツの向かいの席から見つめておられたバテアさんは、
「ふふ、まるでさわこに食いしん坊の妹が出来たみたいね」
そう言いながら日本酒を口になさっておいでです。
「ふふ、こんなに可愛い妹なら、いくら食いしん坊でも許しちゃいますよ」
私は笑顔でバテアさんにお応えさせて頂きました。
そんな私達の視線の先で、エンジェさんはその顔に満面の笑みを浮かべながら肉じゃがを口に運び続けていました。
私達は、そんなエンジェさんを肴にお酒を頂いていった次第でございます。
この日の晩酌は、いつもより少々遅くまで続いていった次第でございます。
◇◇
その後……
晩酌を終え、歯磨きをすませた私達は寝室へと移動していきました。
リンシンさんは、いつもは床の上に布団を敷いてお休みになっているのですが……最近は少々事情が違っておりまして……
はい、リビングにございますコタツに足が入るようにお布団を敷かれまして、そこでお休みになられているんです。
「……これ、暖かくて、すごくいい。とてもよく眠れる」
リンシンさんは、とっても嬉しそうにそう仰っています。
そして……そのコタツの暖かさに惹かれるようにして、ベルも最近はリンシンさんと一緒に寝ているんです。
牙猫姿のベルは、リンシンさんの布団の隙間からコタツに入ったり出たりして体温調節をしながら寝ているんです。
そのため……最近のダブルベッドの上は、私とバテアさんの2人だけだったのですが、今日はそんな私達の間にエンジェさんが加わったのでございます。
いままでは、クリスマスツリーにもたれるようにして夜を過ごしていたエンジェさんなのですが、
「さわこと一緒に眠れるなんて感動だわ! 私、ちゃんと眠れるかしら!」
エンジェさんは興奮した様子でそうおっしゃいました。
その姿は、まるで子供のようです。
私は、そんなエンジェさんをベッドの中で優しく抱き寄せました。
「エンジェさん、私もとっても嬉しいです。これからずっと一緒にいてくださいね」
「もちろんよさわこ! 早速明日は青空市のお手伝いからしてあげるわよ、それからお洗濯や洗い物、それに……」
エンジェさんは興奮した様子でそんな言葉を続けておいでです。
そんなエンジェさんの言葉を、私は笑顔で聞いておりました。
その夜、エンジェさんはいっぱいお話をしてですね……まるで、凧の糸が切れたかのようにいきなり眠り始めてしまいました。
きっとあれですね……興奮してお話しすぎて、疲れてしまったのでしょう。
「……エンジェさん、お休みなさい」
私は、そんなエンジェさんを優しく抱きしめながら眠りに落ちていきました。
今日は、とてもいい夢を見れそうです。
ーつづく
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