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連載
さわこさんと、温泉の休日 その1
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私が居候させて頂いておりますバテアさんのお家があるのは、辺境都市トツノコンベという街でございます。
王都と呼ばれるこの世界の中心よりかなり北方にありますこの街は、冬になると豪雪に見舞われるそうなのです。
確かにここ最近寒さが厳しくなってきておりますので、そうなのかな、とは思っていたものの……まだこちらの世界でそこまですごい豪雪を見たことがないものですから、いささか実感がわかないといいますか……
と
そんなのんきなことを考えていたのは昨日までの私でございます。
今の私は、目を丸くしながら北を見つめておりました。
今日は休日ということもありまして、バテア青空市もお休みです。
それでも少し早めに起きた私は、お店の裏に干してあります干カルキを、屋上に移動させようと外へ出たのですが……
「……うわぁ……」
北の方へ視線を向けた私は、思わずそんな声をあげてしまいました。
真っ白なんです。
昨日までは普通の山並みだった北の山々が、一晩で真っ白になっていたのでございます。
右の端から左の端まで……視界に入っている山々全てが見事なまでに真っ白なんです。
ここまで白いと、なんといいますか爽快感すら感じてしまいますね。
干カルキを回収した私は、そのまま屋上へと移動していきました。
「わぁ……」
そこで、私は再度歓声をあげてしまいました。
街並みの向こう……山の裾野に広がっている森まで見渡せているのですが、その森までもがかなりの部分白く染まっていたのでございます。
その白さは、トツノコンベのすぐそこにまでせまっているように見えます。
「たった一晩で、ここまで雪が降ったのですねぇ……」
その光景を見渡しながら、私は干カルキを干していきました。
マフラーを巻いて、分厚いジャンバーを羽織っているのですが、思わず身震いしてしまいます。
マフラーを通して外へ漏れている息……その水分が水滴になってマフラーに付着しています。
あぁ……このままですと、鼻水がたれてしまっても気付かないかもしれません。
それぐらい、顔が冷たくなっているんです。
私は、干カルキを干し終えると、小走りに家の中へと戻っていきました。
「うぅ、寒い寒い……」
ガタガタ体を震わせながら2階へ戻った私は、そのままコタツへ潜り込んでいきました。
外に出る前に温暖魔石のスイッチを入れておきましたので、すでに温かくなっているは……
むにゅ
「はい?」
私の足の先に、何かがあたりました。
……はて、なんでしょう?
疑問に思ったものの、それ以上に体の冷たさが勝っているため、私は確認作業を後回しにしてとにかくコタツに潜り込んでいったのですが……
「うにゃあああああああ、つめたいにゃあああああああああ」
私の真向かいから、ベルがすごい勢いで飛び出しました。
牙猫姿のベルは、コタツから飛び出すとベッドの下で眠っているリンシンさんの布団の中へと潜り込んでいきました。
……ど、どうもですね……さっき私の足先にあたったあの柔らかい物体……あれがベルだったようですね。
そうとは気付かなかった私は、冷え切った足をベルに押しつけていった形になってしまいまして、その結果ベルが飛び出してしまったようでございます。
「ベル、ごめんね……私もすごく寒かったの」
コタツに入った状態でそう言ったのですが……ベルはリンシンさんの布団の中から当分の間出て来ませんでした。
◇◇
「は~、しっかしこれはまた見事に積もったわねぇ」
1時間ほど経ちまして、起きてこられたバテアさんが窓の外を見つめながらびっくりしたような声をあげておられます。
窓は霜で真っ白だったのですが、バテアさんが魔法で溶かしてしまいました。
「せっかくの休みだけど……こう寒いとどっか行こうって気にもならないわね」
バテアさんは、北方の山を見つめながらそう言われているのですが……それには私も激しく同感です。
寒さには強い方だと思っていたのですが……駄目ですね、今の私は全神経がこたつから出ることを拒絶しているんです。
そんな私へ、バテアさんが視線を向けてこられました。
「せっかくだしさ。温泉にでも行って暖まってきちゃう?」
◇◇
そして、その1時間後……
私達は、温泉宿の前に立っていました。
はい、バテアさんの転移魔法によりまして、この世界にございます温泉宿へと出向いてきたのでございます。
「ここは……確か以前にも来たことが……」
「そう、辺境都市リバティコンベの温泉集落よ。ここの宿は食事が絶品なのよ。さ、いきましょう!」
バテアさんが笑顔でそう言うと、
「美味しい物! 美味しい物!」
ベルが嬉しそうに声をあげながらその後についていっています。
その後を、私とリンシンさんがついていきました。
ここ、辺境都市リバティコンベは、私達が住んでいる辺境都市トツノコンベよりかなり南方にございます。
そのため、外気もそこまで寒いとは感じませんでした。
予約なしの飛び込みだったのですが
「ラッキーよさわこ。キャンセルが出て大部屋が空いてるって!」
バテアさんが嬉しそうにそうおっしゃいました。
この温泉宿は、温泉の効能が非常に強いうえに、料理も絶品なものですから大変人気だそうでして、予約もなかなかとれないことで有名なんだそうです。
私達は、最悪温泉だけ入って帰ろうと考えていたのですが、これで食事も満喫出来ることになりました。
「お店の参考になるかもしれませんし……楽しみですね」
私も、期待でわくわくしております。
◇◇
部屋には内湯がございました。
ベランダに、温泉があるんです。
その向こうが崖になっていまして、その渓谷の展望を満喫出来る仕組みになっております。
そこに壁が設置されているのですが、景色を満喫出来るようにと、温泉側からは景色が見えるのですが、崖側からは見えない仕組みになっているんだそうです。
魔法でそのような細工をしているそうなのですが、私の世界でいいますところのマジックミラーのようなものなのでしょうね。
部屋は絨毯が敷き詰められていて、その上に直接横になれるようになっています。
「にゃはぁ! 気持ちいいにゃあ」
早速ベルがその上で転がり始めました。
ふふ、みんなでお出かけ出来て、テンションが上がっているようですね。
そんなベルを見ながらバテアさんは、
「さぁさぁ、絨毯もいいけど、温泉も満喫しましょう」
そう言いながら、すでに素っ裸になられているではありませんか。
その手には、部屋に設置されております魔石冷蔵庫から取り出したお酒の瓶と、グラスをもたれています。
「わ! 温泉で一杯ですか!」
それを見た私は、思わず笑顔を浮かべながら、大急ぎで服を脱いでいきました。
温泉で一杯……あぁ、なんて甘美な響きでしょう。
朝一で極寒を体験しているだけに、想像しただけで顔がほころんでしまいます。
そんな感じで、私達は早速温泉に入っていきました。
内湯といいましても、この温泉はかなり広いです。
私達4人が一緒に入っても全然余裕です。
さらに、ベルが猫カキで泳ぎ始めても……
「って、ベル! 泳ぐのは駄目ですよ!」
「え~、気持ちいいから泳ぎたいニャあ」
ベルはそう言うと、私の注意を無視してさらに泳いでいきました。
ホントにもう、困ったものです……と、いいたいところですけど、今日はまぁ、無礼講ということで。
「さぁ、さわこ」
バテアさんから渡されたグラスを手に取った私。
そこに、バテアさんがお酒を注いでくださいました。
私は、それを口に運びながら渓谷へ視線を向けました。
紅葉でしょうか……まだ綺麗に赤く染まっている場所があちこちに散見しております。
その光景がまた絶景です。
「……美味し」
お酒を口に運んだ私は、思わずそう呟きながら、耳元の髪の毛をそっとかき上げていきました。
ーつづく
王都と呼ばれるこの世界の中心よりかなり北方にありますこの街は、冬になると豪雪に見舞われるそうなのです。
確かにここ最近寒さが厳しくなってきておりますので、そうなのかな、とは思っていたものの……まだこちらの世界でそこまですごい豪雪を見たことがないものですから、いささか実感がわかないといいますか……
と
そんなのんきなことを考えていたのは昨日までの私でございます。
今の私は、目を丸くしながら北を見つめておりました。
今日は休日ということもありまして、バテア青空市もお休みです。
それでも少し早めに起きた私は、お店の裏に干してあります干カルキを、屋上に移動させようと外へ出たのですが……
「……うわぁ……」
北の方へ視線を向けた私は、思わずそんな声をあげてしまいました。
真っ白なんです。
昨日までは普通の山並みだった北の山々が、一晩で真っ白になっていたのでございます。
右の端から左の端まで……視界に入っている山々全てが見事なまでに真っ白なんです。
ここまで白いと、なんといいますか爽快感すら感じてしまいますね。
干カルキを回収した私は、そのまま屋上へと移動していきました。
「わぁ……」
そこで、私は再度歓声をあげてしまいました。
街並みの向こう……山の裾野に広がっている森まで見渡せているのですが、その森までもがかなりの部分白く染まっていたのでございます。
その白さは、トツノコンベのすぐそこにまでせまっているように見えます。
「たった一晩で、ここまで雪が降ったのですねぇ……」
その光景を見渡しながら、私は干カルキを干していきました。
マフラーを巻いて、分厚いジャンバーを羽織っているのですが、思わず身震いしてしまいます。
マフラーを通して外へ漏れている息……その水分が水滴になってマフラーに付着しています。
あぁ……このままですと、鼻水がたれてしまっても気付かないかもしれません。
それぐらい、顔が冷たくなっているんです。
私は、干カルキを干し終えると、小走りに家の中へと戻っていきました。
「うぅ、寒い寒い……」
ガタガタ体を震わせながら2階へ戻った私は、そのままコタツへ潜り込んでいきました。
外に出る前に温暖魔石のスイッチを入れておきましたので、すでに温かくなっているは……
むにゅ
「はい?」
私の足の先に、何かがあたりました。
……はて、なんでしょう?
疑問に思ったものの、それ以上に体の冷たさが勝っているため、私は確認作業を後回しにしてとにかくコタツに潜り込んでいったのですが……
「うにゃあああああああ、つめたいにゃあああああああああ」
私の真向かいから、ベルがすごい勢いで飛び出しました。
牙猫姿のベルは、コタツから飛び出すとベッドの下で眠っているリンシンさんの布団の中へと潜り込んでいきました。
……ど、どうもですね……さっき私の足先にあたったあの柔らかい物体……あれがベルだったようですね。
そうとは気付かなかった私は、冷え切った足をベルに押しつけていった形になってしまいまして、その結果ベルが飛び出してしまったようでございます。
「ベル、ごめんね……私もすごく寒かったの」
コタツに入った状態でそう言ったのですが……ベルはリンシンさんの布団の中から当分の間出て来ませんでした。
◇◇
「は~、しっかしこれはまた見事に積もったわねぇ」
1時間ほど経ちまして、起きてこられたバテアさんが窓の外を見つめながらびっくりしたような声をあげておられます。
窓は霜で真っ白だったのですが、バテアさんが魔法で溶かしてしまいました。
「せっかくの休みだけど……こう寒いとどっか行こうって気にもならないわね」
バテアさんは、北方の山を見つめながらそう言われているのですが……それには私も激しく同感です。
寒さには強い方だと思っていたのですが……駄目ですね、今の私は全神経がこたつから出ることを拒絶しているんです。
そんな私へ、バテアさんが視線を向けてこられました。
「せっかくだしさ。温泉にでも行って暖まってきちゃう?」
◇◇
そして、その1時間後……
私達は、温泉宿の前に立っていました。
はい、バテアさんの転移魔法によりまして、この世界にございます温泉宿へと出向いてきたのでございます。
「ここは……確か以前にも来たことが……」
「そう、辺境都市リバティコンベの温泉集落よ。ここの宿は食事が絶品なのよ。さ、いきましょう!」
バテアさんが笑顔でそう言うと、
「美味しい物! 美味しい物!」
ベルが嬉しそうに声をあげながらその後についていっています。
その後を、私とリンシンさんがついていきました。
ここ、辺境都市リバティコンベは、私達が住んでいる辺境都市トツノコンベよりかなり南方にございます。
そのため、外気もそこまで寒いとは感じませんでした。
予約なしの飛び込みだったのですが
「ラッキーよさわこ。キャンセルが出て大部屋が空いてるって!」
バテアさんが嬉しそうにそうおっしゃいました。
この温泉宿は、温泉の効能が非常に強いうえに、料理も絶品なものですから大変人気だそうでして、予約もなかなかとれないことで有名なんだそうです。
私達は、最悪温泉だけ入って帰ろうと考えていたのですが、これで食事も満喫出来ることになりました。
「お店の参考になるかもしれませんし……楽しみですね」
私も、期待でわくわくしております。
◇◇
部屋には内湯がございました。
ベランダに、温泉があるんです。
その向こうが崖になっていまして、その渓谷の展望を満喫出来る仕組みになっております。
そこに壁が設置されているのですが、景色を満喫出来るようにと、温泉側からは景色が見えるのですが、崖側からは見えない仕組みになっているんだそうです。
魔法でそのような細工をしているそうなのですが、私の世界でいいますところのマジックミラーのようなものなのでしょうね。
部屋は絨毯が敷き詰められていて、その上に直接横になれるようになっています。
「にゃはぁ! 気持ちいいにゃあ」
早速ベルがその上で転がり始めました。
ふふ、みんなでお出かけ出来て、テンションが上がっているようですね。
そんなベルを見ながらバテアさんは、
「さぁさぁ、絨毯もいいけど、温泉も満喫しましょう」
そう言いながら、すでに素っ裸になられているではありませんか。
その手には、部屋に設置されております魔石冷蔵庫から取り出したお酒の瓶と、グラスをもたれています。
「わ! 温泉で一杯ですか!」
それを見た私は、思わず笑顔を浮かべながら、大急ぎで服を脱いでいきました。
温泉で一杯……あぁ、なんて甘美な響きでしょう。
朝一で極寒を体験しているだけに、想像しただけで顔がほころんでしまいます。
そんな感じで、私達は早速温泉に入っていきました。
内湯といいましても、この温泉はかなり広いです。
私達4人が一緒に入っても全然余裕です。
さらに、ベルが猫カキで泳ぎ始めても……
「って、ベル! 泳ぐのは駄目ですよ!」
「え~、気持ちいいから泳ぎたいニャあ」
ベルはそう言うと、私の注意を無視してさらに泳いでいきました。
ホントにもう、困ったものです……と、いいたいところですけど、今日はまぁ、無礼講ということで。
「さぁ、さわこ」
バテアさんから渡されたグラスを手に取った私。
そこに、バテアさんがお酒を注いでくださいました。
私は、それを口に運びながら渓谷へ視線を向けました。
紅葉でしょうか……まだ綺麗に赤く染まっている場所があちこちに散見しております。
その光景がまた絶景です。
「……美味し」
お酒を口に運んだ私は、思わずそう呟きながら、耳元の髪の毛をそっとかき上げていきました。
ーつづく
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