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連載
さわこさんと、休日 その2
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私はバテアさんの家の屋上にいます。
そこにカゴを並べまして、梅を干しております
「梅を干すのにいい天気でよかったです」
思わず笑顔の私。
それもそのはず、空は雲一つない晴天なのです。
陽光が気持ちよく降り注いでおります。
おかげで、冷たいはずの外気がまったく気になりません。
私は、椅子を持ち出しまして、そこに腰掛けました。
すると、
「さーちゃん、ここにいた!」
階下から駆け上がってきたベルが、嬉しそうに私のところへと駆け寄ってきました。
その姿は、牙猫の姿です。
ベルは、そのまま私の膝の上に飛び乗ると、そこで丸くなりました。
「ふにゃあ……さーちゃんのお膝の上、あったかいにゃあ」
まるでとろけるような声を出しながら、ベルはあっという間に寝息を立て始めてしまいました。
私は、そんなベルの背中をなでながら、その顔を見つめていました。
日頃から、あれこれあくせく休みなくお仕事をしている私と申しますか……むしろ何かしていないと落ち着かない、そんな貧乏性なことこの上ない私でございます。
ですが、今のベルを見ておりますと、
「たまには何もかも忘れてのんびりするのも、いいものですね」
そんな事を思った次第でございます。
◇◇
「……ん……」
それから、どれくらい時間が経ったでしょうか……
どうやら私、あのまま寝てしまったようですね。
目を開けると……何やら私、移動している最中といいますか……あれ? あれあれあれ?
「あ、さわこ、目が覚めたの?」
そんな困惑している私の目の前に、バテアさんの顔が大写しになりました。
ここで、私はようやく全てを把握いたしました。
……今の私……バテアさんにお姫様抱っこされていたのでございます。
「そろそろ日が傾いて肌寒くなってきたからね。ベッドに移動させてあげようと思ったんだけど……起こしちゃったみたいね……あ、梅は片付けておいたわよ」
そう言いながらクスクス笑っておられるバテアさん。
「おおおお気遣いあああありがとうございますぅ」
バテアさんの腕の中で、私は顔を真っ赤にしながらわたわた手足を動かしておりました。
よく見ると、私のお腹の上では牙猫姿のままのベルが丸くなって寝ているではありませんか。
「ばばばバテアさん、もう起きましたので、あとは自分の足で歩けるといいますか……」
若干声を裏返らせながらそう申し上げたのですが、バテアさんは、
「遠慮しなくてもいいわ。このままベッドまで運んであげるわよ」
そう言いながら、クスクス笑い続けておられます。
……なんといいますか、ホントバテアさんって、こういうところがすごく男前なんですよね、
私をこうして軽々とお姫様抱っこしてくださいますし。
その言動も、いつもとっても男前と申しますか……
もし、バテアさんが男性で、今、こうして私の事をお姫様抱っこしてくださっていたとします。
……そのままバテアさん♂が
「さわこ、いいかい?」
なんて言われながらベッドに押し倒されてしまいましたら……私、もう頷くことしか……
って、
わわわ私ってばいったいなんて妄想しているんでしょう!?
「さわこどうかしたの? 顔が真っ赤じゃない」
「あああ、いえいえいえ、ななななんでもないんです。なんでも……」
私は努めて冷静を装おうといたしました。
ですが
まったく無理でした……思いっきり声は裏返るし、さらに顔は赤くなるし……
そんな私を見つめておられたバテアさんは
「大丈夫なの? どれ、熱は……」
そう言うと、私をお姫様抱っこしたまま、私の額にご自分の額を合わせられました。
おでこ体温測定……
そんな破壊力最大級の攻撃を繰り出してこられたバテアさん。
その攻撃を受けてしまった私は、首まで赤くしながら固まってしまいました。
目のすぐ先……そこにはバテアさんのお顔が大写しになっています。
こうして至近距離から拝見すると、その凜々しさがさらに際だっておられます。
これで、バテアさんの豊満な胸の感触が体に当たっていなかったら、先ほどの妄想を現実と勘違いしてしまっていたかもしれません。
「やっぱり、ちょっと熱いわね。さわこ、少しゆっくりしてなさいな」
そう言うと、バテアさんは私をベッドの上に降ろしてくださいました。
お布団をかけてくださり、再度私の額に手をあててくださっています。
「うん……そんなにひどくはなさそうだけど、とにかく安静にしてなさい」
そう言うと、バテアさんはその視線をベルに向けました。
「ベル、さわこの側であたためてあげなさい。何かあったらすぐに私に言いにくるのよ」
そんなバテアさんの言葉を受けて、ベルは、
「わかった! ば……アーちゃん!」
一度「バーちゃん」と言いかけて、慌てて言い直していました。
そんなベルに、バテアさんは
「はい、よく出来ました」
クスクス笑いながらそう言われました。
◇◇
その後、強制的にベッドで寝ることになった私なのですが……
どうやら少し疲れていたようですね。
目を閉じると、そのまま再び眠りに落ちてしまいました。
ベルの体温がとても心地よいです。
そうですね……たまにはこうしてゆっくり眠る……そんなお休みの過ごし方も悪くないですね。
◇◇
それからしばらくいたしまして……私はベッドの中で目を覚ましました。
眠っていた時間はそんなに長くはなかったと思うのですが、とてもよく眠れたように思います。
おかげで、頭もすっきりしております。
……ただ、夢の中で、白馬にのったバテア王子様に連れられて森の中をデートしていた夢を見てしまったのは、なんといいますか……あ、あは、あはは……
ベッドから起き出した私は、その足で厨房へ移動しました。
1階の居酒屋さわこさんではなく、2階のリビングに併設されている厨房の方でございます。
外がすでに暗くなり始めておりますので、皆様の夕食を作ろうと思った次第です。
そういえば……今日はなんのかんのでよく寝ていたものですから、私、お昼ご飯を食べておりません。
そのため、今の私は、空腹の極みでございました。
すると、
「……さわこ、こっち」
一階からリンシンさんの声が聞こえてきました。
「はい?」
階段の上から階下へ視線を向けますと、そこにリンシンさんのお姿がありました。
リンシンさんは割烹着を身につけておられます。
「……ご飯つくってる。こっちに来て」
リンシンさんがそうおっしゃいました。
1階におりますと……居酒屋さわこさんの厨房で、バテアさんが何やら調理してくださっていたのです。
リンシンさんも、すぐにその横に移動なさいまして、調理をおこなわれています。
どうやら、寝ている私を起こさないように、と、わざわざ一階で調理してくださっていたようです。
「今日はアタシ達がご飯を作ってあげるから、さわこは休んでなさい」
「……うん、まかせて」
バテアさんとリンシンさんが笑顔でそう言ってくださいました。
「よろしいのですか? お手伝いいたしますよ」
「いいからいいから、さわこはカウンターに座ってなさいな」
バテアさんは、クスクス笑いながらそう言ってくださいました。
それを受けまして、私はお言葉に甘えてカウンター席へと腰を下ろしました。
バテアさんは、何やら薬草を刻んで鍋に入れておられます。
ひょっとしたら私の体調を考慮してくださっているのかもしれません。
リンシンさんは、お肉を焼いておられます。
その匂いが、空腹の私の胃をおもいっきり刺激しております。
私は、そんなお2人の前に座りまして、料理が出来上がるのをひたすらお待ちいたしました。
やがて、牙猫姿のまま駆けて来たベルが、私の膝の上で丸くなりました。
そうですね……こんな時間を過ごせる休日というのも、たまには良いものですね。
ーつづく
そこにカゴを並べまして、梅を干しております
「梅を干すのにいい天気でよかったです」
思わず笑顔の私。
それもそのはず、空は雲一つない晴天なのです。
陽光が気持ちよく降り注いでおります。
おかげで、冷たいはずの外気がまったく気になりません。
私は、椅子を持ち出しまして、そこに腰掛けました。
すると、
「さーちゃん、ここにいた!」
階下から駆け上がってきたベルが、嬉しそうに私のところへと駆け寄ってきました。
その姿は、牙猫の姿です。
ベルは、そのまま私の膝の上に飛び乗ると、そこで丸くなりました。
「ふにゃあ……さーちゃんのお膝の上、あったかいにゃあ」
まるでとろけるような声を出しながら、ベルはあっという間に寝息を立て始めてしまいました。
私は、そんなベルの背中をなでながら、その顔を見つめていました。
日頃から、あれこれあくせく休みなくお仕事をしている私と申しますか……むしろ何かしていないと落ち着かない、そんな貧乏性なことこの上ない私でございます。
ですが、今のベルを見ておりますと、
「たまには何もかも忘れてのんびりするのも、いいものですね」
そんな事を思った次第でございます。
◇◇
「……ん……」
それから、どれくらい時間が経ったでしょうか……
どうやら私、あのまま寝てしまったようですね。
目を開けると……何やら私、移動している最中といいますか……あれ? あれあれあれ?
「あ、さわこ、目が覚めたの?」
そんな困惑している私の目の前に、バテアさんの顔が大写しになりました。
ここで、私はようやく全てを把握いたしました。
……今の私……バテアさんにお姫様抱っこされていたのでございます。
「そろそろ日が傾いて肌寒くなってきたからね。ベッドに移動させてあげようと思ったんだけど……起こしちゃったみたいね……あ、梅は片付けておいたわよ」
そう言いながらクスクス笑っておられるバテアさん。
「おおおお気遣いあああありがとうございますぅ」
バテアさんの腕の中で、私は顔を真っ赤にしながらわたわた手足を動かしておりました。
よく見ると、私のお腹の上では牙猫姿のままのベルが丸くなって寝ているではありませんか。
「ばばばバテアさん、もう起きましたので、あとは自分の足で歩けるといいますか……」
若干声を裏返らせながらそう申し上げたのですが、バテアさんは、
「遠慮しなくてもいいわ。このままベッドまで運んであげるわよ」
そう言いながら、クスクス笑い続けておられます。
……なんといいますか、ホントバテアさんって、こういうところがすごく男前なんですよね、
私をこうして軽々とお姫様抱っこしてくださいますし。
その言動も、いつもとっても男前と申しますか……
もし、バテアさんが男性で、今、こうして私の事をお姫様抱っこしてくださっていたとします。
……そのままバテアさん♂が
「さわこ、いいかい?」
なんて言われながらベッドに押し倒されてしまいましたら……私、もう頷くことしか……
って、
わわわ私ってばいったいなんて妄想しているんでしょう!?
「さわこどうかしたの? 顔が真っ赤じゃない」
「あああ、いえいえいえ、ななななんでもないんです。なんでも……」
私は努めて冷静を装おうといたしました。
ですが
まったく無理でした……思いっきり声は裏返るし、さらに顔は赤くなるし……
そんな私を見つめておられたバテアさんは
「大丈夫なの? どれ、熱は……」
そう言うと、私をお姫様抱っこしたまま、私の額にご自分の額を合わせられました。
おでこ体温測定……
そんな破壊力最大級の攻撃を繰り出してこられたバテアさん。
その攻撃を受けてしまった私は、首まで赤くしながら固まってしまいました。
目のすぐ先……そこにはバテアさんのお顔が大写しになっています。
こうして至近距離から拝見すると、その凜々しさがさらに際だっておられます。
これで、バテアさんの豊満な胸の感触が体に当たっていなかったら、先ほどの妄想を現実と勘違いしてしまっていたかもしれません。
「やっぱり、ちょっと熱いわね。さわこ、少しゆっくりしてなさいな」
そう言うと、バテアさんは私をベッドの上に降ろしてくださいました。
お布団をかけてくださり、再度私の額に手をあててくださっています。
「うん……そんなにひどくはなさそうだけど、とにかく安静にしてなさい」
そう言うと、バテアさんはその視線をベルに向けました。
「ベル、さわこの側であたためてあげなさい。何かあったらすぐに私に言いにくるのよ」
そんなバテアさんの言葉を受けて、ベルは、
「わかった! ば……アーちゃん!」
一度「バーちゃん」と言いかけて、慌てて言い直していました。
そんなベルに、バテアさんは
「はい、よく出来ました」
クスクス笑いながらそう言われました。
◇◇
その後、強制的にベッドで寝ることになった私なのですが……
どうやら少し疲れていたようですね。
目を閉じると、そのまま再び眠りに落ちてしまいました。
ベルの体温がとても心地よいです。
そうですね……たまにはこうしてゆっくり眠る……そんなお休みの過ごし方も悪くないですね。
◇◇
それからしばらくいたしまして……私はベッドの中で目を覚ましました。
眠っていた時間はそんなに長くはなかったと思うのですが、とてもよく眠れたように思います。
おかげで、頭もすっきりしております。
……ただ、夢の中で、白馬にのったバテア王子様に連れられて森の中をデートしていた夢を見てしまったのは、なんといいますか……あ、あは、あはは……
ベッドから起き出した私は、その足で厨房へ移動しました。
1階の居酒屋さわこさんではなく、2階のリビングに併設されている厨房の方でございます。
外がすでに暗くなり始めておりますので、皆様の夕食を作ろうと思った次第です。
そういえば……今日はなんのかんのでよく寝ていたものですから、私、お昼ご飯を食べておりません。
そのため、今の私は、空腹の極みでございました。
すると、
「……さわこ、こっち」
一階からリンシンさんの声が聞こえてきました。
「はい?」
階段の上から階下へ視線を向けますと、そこにリンシンさんのお姿がありました。
リンシンさんは割烹着を身につけておられます。
「……ご飯つくってる。こっちに来て」
リンシンさんがそうおっしゃいました。
1階におりますと……居酒屋さわこさんの厨房で、バテアさんが何やら調理してくださっていたのです。
リンシンさんも、すぐにその横に移動なさいまして、調理をおこなわれています。
どうやら、寝ている私を起こさないように、と、わざわざ一階で調理してくださっていたようです。
「今日はアタシ達がご飯を作ってあげるから、さわこは休んでなさい」
「……うん、まかせて」
バテアさんとリンシンさんが笑顔でそう言ってくださいました。
「よろしいのですか? お手伝いいたしますよ」
「いいからいいから、さわこはカウンターに座ってなさいな」
バテアさんは、クスクス笑いながらそう言ってくださいました。
それを受けまして、私はお言葉に甘えてカウンター席へと腰を下ろしました。
バテアさんは、何やら薬草を刻んで鍋に入れておられます。
ひょっとしたら私の体調を考慮してくださっているのかもしれません。
リンシンさんは、お肉を焼いておられます。
その匂いが、空腹の私の胃をおもいっきり刺激しております。
私は、そんなお2人の前に座りまして、料理が出来上がるのをひたすらお待ちいたしました。
やがて、牙猫姿のまま駆けて来たベルが、私の膝の上で丸くなりました。
そうですね……こんな時間を過ごせる休日というのも、たまには良いものですね。
ーつづく
応援ありがとうございます!
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