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さわこさんと、休日 その1
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朝になりました。
いつものように、いつもの時間に目を覚ました私。
私の体には、ベルが抱きついています。
寝る際、いつもは牙猫の姿のベルなのですが、今日は人の姿に変化しています。
以前ですと、この姿になってしまうと毛布を独り占めにして丸まって寝ているのが常だったベルなのですが……今ではこうして私を抱き枕兼カイロ替わりにして眠っていることが多い次第でございます。
「すいぃ……さーちゃんおかわりにゃ……むにゃむにゃ」
ふふ……そんな寝言を口にしているベルですけれども、夢の中でいったい何を食べているんでしょうね。
そんなベルを起こさないように気をつけながら、私の体から引き剥がそうと……と……と……
「あらら?」
私は思わず目を丸くしてしまいました。
……おかしいのです。
いくら頑張っても、ベルの腕が私の体から離れないんです。
いつもですと、そんなに苦労することなくその手を外してベッドの外へと出ることが出来るのですが……今日はその腕がいくらがんばってもとれないんです。
あんまり強くひっぱってしまうと、気持ちよさそうに寝ているベルを起こしてしまうことになりかねませんし……
かといって、このままジッとしていてはバテア青空市の皆さんのためにダルマストーブを準備する時間がなくなってしまいます……
内心焦りまくっている私は、無意識のうちに天井を見上げていきました。
「……あら」
そこで私は、そんな声をあげてしまいました。
私の視線の先……天井には紙が貼られていました。
そして、その紙にはこう書かれていたんです。
「今日はお休み」
……はい、そうなんです。
今日は週に1度の休日だったのです。
◇◇
私の世界ではですね、接客業は土日こそかき入れ時といいますか、休日にお店が休むことなんてまずありえませんでした。
土日に営業して、週明けの月曜日にお休みするお店なんかもありましたし、従業員を交代でお休みさせることで結果的にお店が休みの日をつくらないなんてところも少なくありませんでした。
なのですが
こちらのバテアさんの世界は、少し様子が違います。
こちらの世界では週末の休日は、大奥の皆さんがお休みなさるんです。
街道のお店も軒並み閉まっています。
開いているのは冒険者の皆さん相手に商売なさっている宿屋とその宿屋に併設されている酒場、それに冒険者の皆様御用達の武具屋くらいのものなのです。
さすがに役場近くの、街の中心部はそれなりに営業しているお店もあるのですが、買い物をしようとするとそこまで出向く必要があるんです。
もっとも、雑貨屋などは尋ねていって
「あのすいません、ちょっと購入したい物が……」
と、申し出ると、割と気軽に店を開けてくれたりもするんですけどね。
そんなわけで、今日は居酒屋さわこさんはお休みなんです。
バテアさんの魔法雑貨のお店も、バテア青空市もお休みです。
さわこの森で働いておられます皆様には昨日のうちに今日1日分のお弁当を魔法袋に入れてお渡し済みですので、朝ご飯を準備する必要もございません。
ただ
先週の休日の日にも、私はお休みであることを忘れて、いつものようにいつもの時間に起きてしまいまして、バテア青空市にダルマストーブを持って行ったりしていたものですから、
「さわこは明日も絶対にいつもの時間に起きてダルマストーブを準備しようとするに違いないわ」
そう言ったバテアさんがですね、
まず天井にあの紙を貼ってくださいまして、
次に、ベルに魔法をかけて私から離れないようにしてくださり
私が部屋を出ようとすると、自動で布団に戻る魔法までかけてくれている次第なんです。
「ここでこれだけ話題になったのですし、さすがに明日は間違いませんってば」
……自信満々にそう宣言していた昨夜の私なのですが……そうですね、見事に第二段階がかなり進んだところまでいかないと、今日がお休みだということを思い出せませんでしたね。
私は、そのことに苦笑しながら、ベルを抱きしめ返しました。
……せっかくのお休みですもの。私も今日は、お寝坊をしてみようと思います。
そう思って目を閉じた私……
するとそんな私とは裏腹に、今度はベルが目を覚ましました。
そして、私を見つめながらベルは言いました。
「さーちゃん……おしっこ」
……はい?
その言葉を聞いた私は目を丸くしてしましました。
おトイレくらい自分で行けば……そう思ったのですが、
「手が……手がさーちゃんから離れにゃいにゃ」
そう言いながらベルが困惑しております。
気のせいか、その体がぷるぷる震えている気もいたします。
その手……そうですね、私を固定すために、バテアさんが魔法をかけて私の体に固定しているんでしたね。
そのことにようやく思い当たった私は、
「バテアさん! 緊急事態です! すぐに起きてください!」
そう声を上げました。
……しかし、バテアさんは動きません。
「バテアさん、ベルが大変なんです! バテアさん!」
再度私が声をかけます、
「う~ん、もう飲めないわ」
そんなことを口になさりながら、バテアさんが体を動かしておられます。
夢の中でバテアさんはいったいどんなお酒をお飲みに……って
「そ、そんな悠長なことに思いをはせている猶予はないんですぅ!」
私は再度声をあげました。
ここで、ベルも
「バーちゃん、起きてにゃ!」
そう声をあげたのですが、
「だからバーちゃんはやめなさいと言ってるでしょ!」
それまで寝返りをうつばかりだったバテアさんが、いきなり目を覚まして起き上がられた次第なんです。
そのあまりの勢いに、思わず目を丸くして、その場で固まってしまう私とベル。
そんなわけで……どうにか目を覚ましてくださったバテアさんにお願いして、この拘束魔法を解除していただく事が出来た次第でございます。
「うひゃあ、おトイレにゃあああああああ」
ベルは凄い勢いでトイレに駆け込んでいきました。
バテアさんは、そんなベルの後ろ姿を見送りながら大あくびをなさっています。
そのまま、私の側に近づいてこられると、
「……まだ眠いわ」
そう言いながら、私を抱きしめてベッドの中で再び眠り始めてしまった次第なのです。
「あ、あのバテアさん……そ、その……わ、私もですね、ベルのおトイレをみていたら少しその……」
思わずからだをモジモジさせている私なのですが……
バテアさんってば、私を抱きしめたまままったく目を覚ます気配がございません。
「あ、あの、バテアさん? バテアさん?」
私は必死に声をかけつづけていたのですが、バテアさんは相変わらず眠り続けておられまして……
その後、トイレから出て来たベルのおかげで、どうにかバテアさんを起こすことが出来、私もトイレに駆け込むことが出来た次第でございます。
もちろん、キーワードが「ばーちゃん」だったの……おわかりですよね。
ーつづく
いつものように、いつもの時間に目を覚ました私。
私の体には、ベルが抱きついています。
寝る際、いつもは牙猫の姿のベルなのですが、今日は人の姿に変化しています。
以前ですと、この姿になってしまうと毛布を独り占めにして丸まって寝ているのが常だったベルなのですが……今ではこうして私を抱き枕兼カイロ替わりにして眠っていることが多い次第でございます。
「すいぃ……さーちゃんおかわりにゃ……むにゃむにゃ」
ふふ……そんな寝言を口にしているベルですけれども、夢の中でいったい何を食べているんでしょうね。
そんなベルを起こさないように気をつけながら、私の体から引き剥がそうと……と……と……
「あらら?」
私は思わず目を丸くしてしまいました。
……おかしいのです。
いくら頑張っても、ベルの腕が私の体から離れないんです。
いつもですと、そんなに苦労することなくその手を外してベッドの外へと出ることが出来るのですが……今日はその腕がいくらがんばってもとれないんです。
あんまり強くひっぱってしまうと、気持ちよさそうに寝ているベルを起こしてしまうことになりかねませんし……
かといって、このままジッとしていてはバテア青空市の皆さんのためにダルマストーブを準備する時間がなくなってしまいます……
内心焦りまくっている私は、無意識のうちに天井を見上げていきました。
「……あら」
そこで私は、そんな声をあげてしまいました。
私の視線の先……天井には紙が貼られていました。
そして、その紙にはこう書かれていたんです。
「今日はお休み」
……はい、そうなんです。
今日は週に1度の休日だったのです。
◇◇
私の世界ではですね、接客業は土日こそかき入れ時といいますか、休日にお店が休むことなんてまずありえませんでした。
土日に営業して、週明けの月曜日にお休みするお店なんかもありましたし、従業員を交代でお休みさせることで結果的にお店が休みの日をつくらないなんてところも少なくありませんでした。
なのですが
こちらのバテアさんの世界は、少し様子が違います。
こちらの世界では週末の休日は、大奥の皆さんがお休みなさるんです。
街道のお店も軒並み閉まっています。
開いているのは冒険者の皆さん相手に商売なさっている宿屋とその宿屋に併設されている酒場、それに冒険者の皆様御用達の武具屋くらいのものなのです。
さすがに役場近くの、街の中心部はそれなりに営業しているお店もあるのですが、買い物をしようとするとそこまで出向く必要があるんです。
もっとも、雑貨屋などは尋ねていって
「あのすいません、ちょっと購入したい物が……」
と、申し出ると、割と気軽に店を開けてくれたりもするんですけどね。
そんなわけで、今日は居酒屋さわこさんはお休みなんです。
バテアさんの魔法雑貨のお店も、バテア青空市もお休みです。
さわこの森で働いておられます皆様には昨日のうちに今日1日分のお弁当を魔法袋に入れてお渡し済みですので、朝ご飯を準備する必要もございません。
ただ
先週の休日の日にも、私はお休みであることを忘れて、いつものようにいつもの時間に起きてしまいまして、バテア青空市にダルマストーブを持って行ったりしていたものですから、
「さわこは明日も絶対にいつもの時間に起きてダルマストーブを準備しようとするに違いないわ」
そう言ったバテアさんがですね、
まず天井にあの紙を貼ってくださいまして、
次に、ベルに魔法をかけて私から離れないようにしてくださり
私が部屋を出ようとすると、自動で布団に戻る魔法までかけてくれている次第なんです。
「ここでこれだけ話題になったのですし、さすがに明日は間違いませんってば」
……自信満々にそう宣言していた昨夜の私なのですが……そうですね、見事に第二段階がかなり進んだところまでいかないと、今日がお休みだということを思い出せませんでしたね。
私は、そのことに苦笑しながら、ベルを抱きしめ返しました。
……せっかくのお休みですもの。私も今日は、お寝坊をしてみようと思います。
そう思って目を閉じた私……
するとそんな私とは裏腹に、今度はベルが目を覚ましました。
そして、私を見つめながらベルは言いました。
「さーちゃん……おしっこ」
……はい?
その言葉を聞いた私は目を丸くしてしましました。
おトイレくらい自分で行けば……そう思ったのですが、
「手が……手がさーちゃんから離れにゃいにゃ」
そう言いながらベルが困惑しております。
気のせいか、その体がぷるぷる震えている気もいたします。
その手……そうですね、私を固定すために、バテアさんが魔法をかけて私の体に固定しているんでしたね。
そのことにようやく思い当たった私は、
「バテアさん! 緊急事態です! すぐに起きてください!」
そう声を上げました。
……しかし、バテアさんは動きません。
「バテアさん、ベルが大変なんです! バテアさん!」
再度私が声をかけます、
「う~ん、もう飲めないわ」
そんなことを口になさりながら、バテアさんが体を動かしておられます。
夢の中でバテアさんはいったいどんなお酒をお飲みに……って
「そ、そんな悠長なことに思いをはせている猶予はないんですぅ!」
私は再度声をあげました。
ここで、ベルも
「バーちゃん、起きてにゃ!」
そう声をあげたのですが、
「だからバーちゃんはやめなさいと言ってるでしょ!」
それまで寝返りをうつばかりだったバテアさんが、いきなり目を覚まして起き上がられた次第なんです。
そのあまりの勢いに、思わず目を丸くして、その場で固まってしまう私とベル。
そんなわけで……どうにか目を覚ましてくださったバテアさんにお願いして、この拘束魔法を解除していただく事が出来た次第でございます。
「うひゃあ、おトイレにゃあああああああ」
ベルは凄い勢いでトイレに駆け込んでいきました。
バテアさんは、そんなベルの後ろ姿を見送りながら大あくびをなさっています。
そのまま、私の側に近づいてこられると、
「……まだ眠いわ」
そう言いながら、私を抱きしめてベッドの中で再び眠り始めてしまった次第なのです。
「あ、あのバテアさん……そ、その……わ、私もですね、ベルのおトイレをみていたら少しその……」
思わずからだをモジモジさせている私なのですが……
バテアさんってば、私を抱きしめたまままったく目を覚ます気配がございません。
「あ、あの、バテアさん? バテアさん?」
私は必死に声をかけつづけていたのですが、バテアさんは相変わらず眠り続けておられまして……
その後、トイレから出て来たベルのおかげで、どうにかバテアさんを起こすことが出来、私もトイレに駆け込むことが出来た次第でございます。
もちろん、キーワードが「ばーちゃん」だったの……おわかりですよね。
ーつづく
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