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さわこさんと、寒い朝 その2

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 ワノンさんの酒造り工房から酒粕を購入させていただいています。

 最近、居酒屋さわこさんではじめました一人鍋のラインナップの中にも

「ジャッケの酒粕鍋」

 を加えておりまして、大変人気なんですよ。

 また、粕漬けを作るのにも大変重宝しております。

 すりばちで酒粕をすり潰しまして、調理酒とみりんを加えていきます。
 なめらかになりましたら、これを蓋付きの保存容器に移しまして、そこに下ごしらえを終わらせた魚の切り身を入れてよくからめてから、これを魔石冷蔵庫へ。
 おもてなし商会で購入いたしました白身系の魚がとてもよくあいます。
 だいたい、3日でいい味になるんです。

 この辺境都市トツノコンベは山の中にあるものですから、あまり魚を口にする習慣がないそうなのですが、

「いやぁ、この店で食べられる魚はうまいねぇ」
「ジャッケ以外にも、美味しい魚がいっぱいでうれしくなるよ」

 皆様、喜んで粕漬けや、鍋のお魚をお口になさっている次第です。

 そのお言葉が、ホントにうれしいんですよね。

◇◇

 毎朝寒いです。

 そんな中、毎朝早くから仕入れ作業をなさっているバテア青空市の皆様のために、先日から温かい物を作成させていただきまして、皆様に提供させていただいている私なのですが、本日はこの酒粕を使用した物をお出しすることにいたしました。

 お出しすることにしたのは甘酒です。

 甘酒は、居酒屋さわこさんのメニューにもございまして、神界から週に5日はご来店くださっているゾフィナさんがいつも御注文くださっています。

 基本的には、この甘酒と同じ物なのですが……

 ダルマストーブの上には、鍋が3つ乗っています。

 一番大きい寸胴鍋の中には、お店でお出ししている物と同じ甘酒が入っております。
 ダルマストーブに熱せられて、くつくつ美味しそうな音をたてています。

 その横にある2つのお鍋。

 これは少々小振りな鍋でございます。
 その中でも、甘酒がくつくつ美味しそうな音を立てているのでございます。

 ……ですが

 この2つのお鍋で調理しています甘酒は、少々趣向が異なっているんです。

 1つのお鍋の中身は、茶色をしています。

 もう1つのお鍋の中身は、少しミルキーな色合いをしています。

「さわこさん、これはなんだい?」
「寸胴の酒粕とは色が違うみたいだけど」

 ダルマストーブの近くに集まられた皆様が、口々にそう言われています。

 まず、この茶色の甘酒ですが、これにはココアを加えております。
 牛乳を加えた甘酒に、ココアパウダーを加えまして、そこに水飴を加えて味を調えております。

 もう一つのミルキーな色合いの甘酒ですが、こちらにはスキムミルクを加えております。
 温まりましたら、ここに水飴を加えて味を調えます。
 そして、ここに仕上げといたしましてすりおろしておいた林檎と、同じくすりおろしておいた生姜を加えます。
 最後に、シナモンを少し加えて完成です。

「さ、皆様、どうぞ召し上がってくださいな」
 出来上がった甘酒を、紙コップによそって皆様にお渡ししていきます。

「ふぅ、あったかいわ」
「ホント、生き返るわねぇ」
 皆さん、嬉しそうに甘酒を口になさっておいでです。

 寒さのため、皆様が手になさっている紙コップの中からは湯気があがり続けています。
 同時に、皆様の口からも白い息が……

 そんな、見るからに寒さが厳しくなり始めている中、皆様は笑顔で甘酒を口になさっています。

「へぇ、このココアの甘酒もいいわね」
「うん、この甘さが結構癖になりそう」

「この林檎の甘酒もいいわ」
「うん、すっごくぽかぽかしてくるわね」

 ちょっと趣向を変えて作成してえみた変わり種の甘酒も、皆さんに喜んで頂けているようですね。

 そんな皆さんの様子を拝見しながら、私も思わず笑顔を浮かべていた次第です。

 今朝も、寒かった朝ですが、こうして心あったかくすごせた次第です、はい。

◇◇

 その日の夜のことでございます。

「な、なんだと!?」
 カウンター席から立ち上がったのは、ゾフィナさんでした。

「そ、そこの女達、今、なんと言った?」
 ぜんざいのお椀を手に持ったまま、近くのテーブル席に座っておられる2人の女子の方へ向かって歩いていかれています。

 そのお2人は、中級酒場組合に所属している酒場で働いておられる方々です。
 今朝も、バテア青空市でお姿を拝見したようにお見受けいたします。

 で、そのお2人なのですが、

「え、えっと、さっきの話ですか?」
「今朝仕入れた野菜がいい出来だったって……」

 その言葉に、ゾフィナさんは首を左右にふりました。

「違う、その後! 仕入れが終わったあとの話だ!」
「後?」
「あぁ、後と言うと、さわこさんが配ってくれたココアと林檎の甘酒のことですか?」
「そう! それだ!」 

 そう言うなり、ゾフィナさんは、今度は私へと視線を向けてこられました。

「ちょっとさわこ、どういうこと? ココア? 林檎? そんな甘酒、メニューで見たことないわ」
「あ、あれはですね、ちょっとお試しで作ってみただけなんですよ……」
 私がそう言うと、ゾフィナさんは、
「そ、そうなのか……し、新商品ではないのか……では仕方ない」
 そう言いながら椅子に座り直されたのですが……見るからに落胆なさっておられます。

 はい、何かの懐かしいアニメの特集をしている番組の中に出て来た、コーナーで真っ白になってしまったボクサーのようなとでも申しましょうか……

「ぞ、ゾフィナさん? ちょっと大丈夫?」
 横に座っておられる役場のヒーロさんが声をかけても、どこか上の空でございます。

 ……それでも、手になさっていたぜんざいは、冷める前にすべて口になさっていた次第です。

 そんなゾフィナさんに、私は、

「あの……少しでしたらお作り出来ますけど?」
 そうお声をいたしました。

 すると、ゾフィナさんは、ガバッと顔をあげられました。
「さわこ殿……このような我が儘かつ身勝手なことをお願いするのは非常に心苦しいことこの上ないのだが……どうか、どうかお願いしたい!」
 そう言って、カウンターに額をこすりつけんばかりの勢いで、頭をさげられた次第です。

 私は、

「そ、そこまでしていただかなくても大丈夫ですよ」
 苦笑しながら、早速新しい鍋を魔石コンロにかけていきました。

 ゾフィナさんは、そんな私の手元をわくわくなさった顔で見つめておられたのですが
「さわこ殿、お詫びにぜんざいのお代わりを頼むとしよう」
 そう言ってくださいました。

 ですが、そんなゾフィナさんにバテアさんが
「あんた、それお詫びじゃなくても頼む気だったでしょ?」
 そう声をおかけになられますと、
「うぐ、ま、まぁそう言うな、バテアよ」
 そう言いながら苦笑なさっていた次第です。

 こうして、今夜も居酒屋さわこさんに、笑い声が沸き起こっていたのでございます。 

ーつづく
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