146 / 343
連載
さわこさんと、こんな夜
しおりを挟む
その夜のことでございます。
お店を終えた私達は、お風呂を済ませた後、寝間着でリビングに集合しておりました。
今夜の晩酌にはエミリアも参加しています。
私の世界では、まだお酒が飲めない年齢のエミリアですけど、こちらの世界では合法的にお酒を飲むことが出来ますので、こうして時折、私達の晩酌に参加しているのです、
みんなで晩酌を楽しんでいる中、
「もしよかったらお使いくださいな」
私はそう言って、バテアさん、リンシンさん、エミリアにマフラーをプレゼントいたしました。
バテアさんは赤
リンシンさんは緑
エミリアは青
居酒屋さわこさんのお店の際に、皆さんが好んで着ていらっしゃる着物の色に合わせてあります。
「へぇ、これ、あったかそうね……ふぅん、この太い紐が保温効果を……」
バテアさんは、マフラーを手にしながら早速その仕組みを調べておられます。
バテアさんってば、気になったことは納得いくまで調べないと気が済まない性格をなさっています。
どうやら、その知的探究心に少し火がついてしまったようですね。
「……うれしい……あったかい」
リンシンさんは、早速マフラーを首に巻いておられます。
お酒で赤くなっているお顔に、満面の笑顔が浮かんでいます。
「サンキューさわこ。最近朝が寒いから助かるわ」
エミリアは笑顔でそう言いながらマフラーを両手で持っています。
エミリアは毎朝バテア青空市を切り盛りしてくれています。
最近は朝夕の冷え込みが半端なくなってきておりますものね。
そんな中、私の膝の上にベルが飛び乗ってきました。
牙猫姿のまま私に抱きつき、私を見上げています。
「さーちゃん、ベルのは?、ねぇ、ベルのは?」
目を潤ませているベル。
そんなベルに、私はクスリと微笑むと、
「ベルはもう少し待っててくださいね、すぐにまた編んであげますから」
そうなんです。
ベルのマフラーも当然準備してあったんです。
ただですね、今日の昼間に一緒にお散歩に出かけた際に、ベルにだけ先にマフラーを渡していたのですけれども、そのマフラーのほつれを発見したベルが、それを引っ張ってしまいまして……ベルのマフラーは毛糸の玉に逆戻りしてしまっているんです。
私の言葉を聞いたベルは、ぱぁっと表情を明るくすると
「だからさーちゃん、大好きにゃ!」
そう言いながら、その姿を人型に変化させて私の顔に抱きついてきました。
っといいますか……牙猫の姿から人型に変化したばかりのベルってば、素っ裸なんですよ。
「ちょ、ちょっとベル!? せめて服を着てからにしてくださぁい」
「えー、服は鬱陶しいから嫌にゃ」
私の言葉を無視しながら、私に抱きつき続けているベル。
もう、ホントに困ったものです……
私にじゃれついているベル。
困惑しながら苦笑している私。
そんな私達を、バテアさん達が楽しそうに笑いながら見つめておいでです。
もう、見てないで、ベルに服を着せるのを手伝って頂きたいのですが……
◇◇
そんなベルなのですが、最近少し困ったことも起こしております。
寝ている際には、基本牙猫姿のベルなのですが。
寝ぼけて人型に変化することが多々ございます。
そうなりますと、体を覆っている体毛が極端に少なくなってしまいまして、
「寒いにゃ」
そう言いながら、毛布をかき集めて暖を取ろうとするのです。
ただベルはですね、私とバテアさんに挟まれて寝ているんです。
つまり、毛布は3人で1枚なんです。
ベルが、その毛布を独り占めしてしまうものですから、私とバテアさんの上に毛布がない状態が何度も発生している次第なのでございます。
寝室の中は、バテアさんの魔石で温度調整されていますので、寒くて仕方がないというほどではないのですが、そのまま寝続けることが出来るほどでもないんですよね。
「……もう、ベルったら」
この夜も、そんなベルに毛布を独り占めされてしまいまして、私は夜中に目を覚ましてしまいました。
これはもう、毛布を1人1枚にした方がいいかもしれませんね。
そんな事を考えている私の前で、毛布にくるまって丸くなっているベルは、
「うにゅう……」
幸せそうな笑顔をその顔に浮かべていました。
◇◇
少し目が覚めてしまった私は、枕元に置いてあった予備の毛布をバテアさんにかけました。
そのままベッドを抜け出すと自分の部屋へと移動していきます。
寝室に隣接しているこの部屋には扉がございません。
部屋の中には、私が引っ越しの際に持参した荷物のうち、すぐに必要なかった品々が段ボールに入ったまま山積みになっています。
机と椅子、それに棚が2つ。
これはバテアさんからプレゼントして頂きました。
その棚の中には、本や小物にくわえて、写真立てを飾っております。
その写真立ての中には居酒屋酒話のお店の前で仲良く並んでいる私と父の写真……
「……何年前になるのかしら」
写真から目を離した私は、椅子に座り、窓の外へと顔を向けていきました。
街には、ポツポツと灯りが灯っています。
空には満天の星空。
その光景を、私はしばらく眺めておりました。
……不思議なものですね
全てが終わったと思ったあの日……バス停でバテアさんと出会ったことで、私の人生は一変してしまいました。
そう……
全てが終わったと思ったあの日に、新しい全てが始まったのでございます。
これも、縁というものなのでしょうか……でも……
私は、寝室へ視線を向けました。
そこでは、
ベッドの中で寝ているバテアさんと、ベル。
ベッドの下に敷いてある布団の中で寝ているリンシンさんとエミリア。
……父さん、私……ここで元気にやってます。素敵な皆さんと一緒に。
写真たての中から、笑顔の父が私を見つめてくれています。
そんな父に、私は笑顔を返しました。
しばらく、そこで時間を過ごした後……私はベッドへと戻っていきました。
「さわこ、どうかしたの?」
そんな私に、バテアさんが声をかけてこられました。
「あ、す、すいません、起こしてしまいましたか? ちょっと目が覚めてしまったものですから……」
「気にしなくてもいいわ。私もたまたま目が覚めただけよ」
そう言うと、バテアさんは
「もし何かあったら、遠慮しないで何でも言ってちょうだい。あなたはアタシの大切な友達なんだからね」
そう言うと、毛布に潜り込まれました。
そんなバテアさんに、私は
「……はい、ありがとうございます」
軽く頭を下げました。
予備に準備してあったもう1枚の毛布を体の上にかけた私は、もう1度バテアさんに頭を下げてから目を閉じました。
……うん、明日も頑張ろう
ーつづく
お店を終えた私達は、お風呂を済ませた後、寝間着でリビングに集合しておりました。
今夜の晩酌にはエミリアも参加しています。
私の世界では、まだお酒が飲めない年齢のエミリアですけど、こちらの世界では合法的にお酒を飲むことが出来ますので、こうして時折、私達の晩酌に参加しているのです、
みんなで晩酌を楽しんでいる中、
「もしよかったらお使いくださいな」
私はそう言って、バテアさん、リンシンさん、エミリアにマフラーをプレゼントいたしました。
バテアさんは赤
リンシンさんは緑
エミリアは青
居酒屋さわこさんのお店の際に、皆さんが好んで着ていらっしゃる着物の色に合わせてあります。
「へぇ、これ、あったかそうね……ふぅん、この太い紐が保温効果を……」
バテアさんは、マフラーを手にしながら早速その仕組みを調べておられます。
バテアさんってば、気になったことは納得いくまで調べないと気が済まない性格をなさっています。
どうやら、その知的探究心に少し火がついてしまったようですね。
「……うれしい……あったかい」
リンシンさんは、早速マフラーを首に巻いておられます。
お酒で赤くなっているお顔に、満面の笑顔が浮かんでいます。
「サンキューさわこ。最近朝が寒いから助かるわ」
エミリアは笑顔でそう言いながらマフラーを両手で持っています。
エミリアは毎朝バテア青空市を切り盛りしてくれています。
最近は朝夕の冷え込みが半端なくなってきておりますものね。
そんな中、私の膝の上にベルが飛び乗ってきました。
牙猫姿のまま私に抱きつき、私を見上げています。
「さーちゃん、ベルのは?、ねぇ、ベルのは?」
目を潤ませているベル。
そんなベルに、私はクスリと微笑むと、
「ベルはもう少し待っててくださいね、すぐにまた編んであげますから」
そうなんです。
ベルのマフラーも当然準備してあったんです。
ただですね、今日の昼間に一緒にお散歩に出かけた際に、ベルにだけ先にマフラーを渡していたのですけれども、そのマフラーのほつれを発見したベルが、それを引っ張ってしまいまして……ベルのマフラーは毛糸の玉に逆戻りしてしまっているんです。
私の言葉を聞いたベルは、ぱぁっと表情を明るくすると
「だからさーちゃん、大好きにゃ!」
そう言いながら、その姿を人型に変化させて私の顔に抱きついてきました。
っといいますか……牙猫の姿から人型に変化したばかりのベルってば、素っ裸なんですよ。
「ちょ、ちょっとベル!? せめて服を着てからにしてくださぁい」
「えー、服は鬱陶しいから嫌にゃ」
私の言葉を無視しながら、私に抱きつき続けているベル。
もう、ホントに困ったものです……
私にじゃれついているベル。
困惑しながら苦笑している私。
そんな私達を、バテアさん達が楽しそうに笑いながら見つめておいでです。
もう、見てないで、ベルに服を着せるのを手伝って頂きたいのですが……
◇◇
そんなベルなのですが、最近少し困ったことも起こしております。
寝ている際には、基本牙猫姿のベルなのですが。
寝ぼけて人型に変化することが多々ございます。
そうなりますと、体を覆っている体毛が極端に少なくなってしまいまして、
「寒いにゃ」
そう言いながら、毛布をかき集めて暖を取ろうとするのです。
ただベルはですね、私とバテアさんに挟まれて寝ているんです。
つまり、毛布は3人で1枚なんです。
ベルが、その毛布を独り占めしてしまうものですから、私とバテアさんの上に毛布がない状態が何度も発生している次第なのでございます。
寝室の中は、バテアさんの魔石で温度調整されていますので、寒くて仕方がないというほどではないのですが、そのまま寝続けることが出来るほどでもないんですよね。
「……もう、ベルったら」
この夜も、そんなベルに毛布を独り占めされてしまいまして、私は夜中に目を覚ましてしまいました。
これはもう、毛布を1人1枚にした方がいいかもしれませんね。
そんな事を考えている私の前で、毛布にくるまって丸くなっているベルは、
「うにゅう……」
幸せそうな笑顔をその顔に浮かべていました。
◇◇
少し目が覚めてしまった私は、枕元に置いてあった予備の毛布をバテアさんにかけました。
そのままベッドを抜け出すと自分の部屋へと移動していきます。
寝室に隣接しているこの部屋には扉がございません。
部屋の中には、私が引っ越しの際に持参した荷物のうち、すぐに必要なかった品々が段ボールに入ったまま山積みになっています。
机と椅子、それに棚が2つ。
これはバテアさんからプレゼントして頂きました。
その棚の中には、本や小物にくわえて、写真立てを飾っております。
その写真立ての中には居酒屋酒話のお店の前で仲良く並んでいる私と父の写真……
「……何年前になるのかしら」
写真から目を離した私は、椅子に座り、窓の外へと顔を向けていきました。
街には、ポツポツと灯りが灯っています。
空には満天の星空。
その光景を、私はしばらく眺めておりました。
……不思議なものですね
全てが終わったと思ったあの日……バス停でバテアさんと出会ったことで、私の人生は一変してしまいました。
そう……
全てが終わったと思ったあの日に、新しい全てが始まったのでございます。
これも、縁というものなのでしょうか……でも……
私は、寝室へ視線を向けました。
そこでは、
ベッドの中で寝ているバテアさんと、ベル。
ベッドの下に敷いてある布団の中で寝ているリンシンさんとエミリア。
……父さん、私……ここで元気にやってます。素敵な皆さんと一緒に。
写真たての中から、笑顔の父が私を見つめてくれています。
そんな父に、私は笑顔を返しました。
しばらく、そこで時間を過ごした後……私はベッドへと戻っていきました。
「さわこ、どうかしたの?」
そんな私に、バテアさんが声をかけてこられました。
「あ、す、すいません、起こしてしまいましたか? ちょっと目が覚めてしまったものですから……」
「気にしなくてもいいわ。私もたまたま目が覚めただけよ」
そう言うと、バテアさんは
「もし何かあったら、遠慮しないで何でも言ってちょうだい。あなたはアタシの大切な友達なんだからね」
そう言うと、毛布に潜り込まれました。
そんなバテアさんに、私は
「……はい、ありがとうございます」
軽く頭を下げました。
予備に準備してあったもう1枚の毛布を体の上にかけた私は、もう1度バテアさんに頭を下げてから目を閉じました。
……うん、明日も頑張ろう
ーつづく
30
お気に入りに追加
3,701
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

英雄一家は国を去る【一話完結】
青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。