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さわこさんと、だるまストーブ

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 バテア青空市で使用いたしましただるまストーブですが、青空市が終了したのに合わせまして片付けました。
 通常、熱くなった本体が冷めるまで待つ必要があるのですが、
「これくらいなら楽なものよ」
 起きて来たバテアさんが、魔法でだるまストーブを冷ましてくださいました。
 そのおかげで、だるまストーブをすぐに移動させることが出来た次第です。

 そのだるまストーブを、今度は居酒屋さわこさんの中で使用したいと考えています。

 ですが、ここで2つ問題が生じました。

 まず1つめは煙突です。
 炭を燃やして暖を取るだるまストーブですので、当然煙突が必要です。
 バテア青空市では、煙突を縦に少し伸ばしただけにしていたのですが、室内で使用するとなるとそうもいきません。
 炭の煙で室内がとんでもないことになってしまいます。

 ただ、居酒屋さわこさんの中で煙突を使用しようとした場合、お店の壁に穴を開けないといけません。
 それに、店内はそこまで広くありませんので、煙突を張り巡らせてしまいますと少々邪魔になってしまいますし、熱を持った煙突に当たって火傷してしまう方が出ないとも限りません。

「……さて、どうしたものでしょうか……」
 店内に運び込んだだるまストーブを前にして、私は思わず腕組みしておりました。

「つまり、この穴からでてくる熱気と煙を店の外に出せばいいのね?」
「えぇ、そうなのですが……」
「なら簡単よ、まかせて」
 バテアさんはそう言うと、だるまストーブの煙排出口に向かって右手を伸ばしました。
 すると、その手の先に魔法陣が展開していきまして、その魔法陣がだるまストーブの煙排出口を塞いでいったのです。
「さて、今度はこっちね」
 そういうと、バテアさんは、私が床に並べていましただるまストーブの煙突の一番先の部分を手に取られまして、本体につなぐ側の穴を魔法陣で塞いでしまいました。
「さ、これでいいわ」
 そう言うと、バテアさんは煙突の先をリンシンさんに手渡しました。
 それを受けて、リンシンさんがその煙突の先を店の外側、やや高めの場所に釘とカナヅチで固定してくださいました。

「じゃ、さわこ。早速火をつけてご覧なさいな」
「え?……で、でも……」
「いいからいいから」
 バテアさんに笑顔で促されまして、私は半信半疑ながらもだるまストーブの中に炭を入れて火をおこしました。

 正直内心ドキドキです。
 
 だって……だるまストーブの煙排出口は魔法陣で塞がれているだけなのですよ?

 このままでは、だるまストーブのあちこちから煙が吹き出してしまうのでは……そう思っていたのですが……

 ……な、なんということでしょう!?

 だるまストーブの中では勢いよく炭が燃え始めております。
 ですが、だるまストーブのどこからも煙は漏れておりません。

 慌てて外に出てみますと……煙突の先からもくもくと煙が出ているではありませんか。
 だるまストーブと煙突の先の間はつながっていないのに、です。

「転移ドアの応用よ。あのだるまストーブの煙が出るところと、外にとりつけた煙の出るパーツをね、魔法陣でつないだの。だからね、煙排出口から出ようとした煙は魔法陣から魔法陣へと通過していって外の煙突の先に排出されているわけ」
 バテアさんはそうご説明してくださったのですが……その理屈はわかったものの、なぜ何もない空間を煙が……

 どうしてもそんな事を考えてしまう私は、何度もだるまストーブの煙排出口に手をかざしていた次第でございます。

 とにもかくにも、バテアさんのおかげで煙突問題は解決いたしました。

 もう1つの問題と言いますのが、だるまストーブ本体の熱でございます。
 
 だるまストーブの本体は、中の炭が燃える熱で大変高温になってしまいます。
 そのため、その周囲に網かなにかを巡らせないといけません。

「あら、ならだるまストーブ本体を魔石で冷却すれば……」
 バテアさんが、気持ちドヤ顔でそう言われたのですが、
「あの……せっかくなのですが、このだるまストーブは高温になった本体の熱で室内を暖める仕組みですので、その本体を冷ましてしまうと……」
 私は、そんなバテアさんに申し訳ない表情を浮かべながら一礼した次第です。
「そっか、なら冷却は駄目ね……となると……」

 そんなわけで、私とバテアさん、それにリンシンさんを交えた3人でしばらく解決柵を考えていきました。

◇◇

 その夜、居酒屋さわこさんの店内にだるまストーブがお目見えしました。

 その周囲には、金属製の柵が張り巡らせてあります。
 その柵にはですね、バテアさんの結界魔法がはられています。
 これによりまして、人の手や体がだるまストーブに近づき過ぎたあたりで結界にあたり、それ以上だるまストーブに近づけない仕組みになっております。
 一方で、この結界には熱を通すよう条件が設定されています。
 この条件のおかげで、だるまストーブの熱が室内を暖めてくれるのを阻害しない仕組みになっている次第です。

 バテアさん、リンシンさん、そして私の3人で頑張って考えた成果でございます。

 だるまストーブの上部には、水を張ったたらいがおかれています。
 だるまストーブの熱で暖められているそのたらいのなかで、日本酒の入った徳利を温めています。
 
 ご来店くださった皆様に、この徳利から熱燗を1杯だけサービスさせていただきます。

『寒い中、ようこそお越しくださいました』
 その感謝の気持ちを込めた一杯ですからね。

 以前、居酒屋酒話で行っていたサービスなんですよね、これ。
 ここ居酒屋さわこさんでも、このサービスを再開することが出来たことに、私が笑顔を浮かべておりました。

「へぇ、これはいいね」
 今日一番にご来店くださいましたナベアタマさんが、私から説明をお聞きになられた後、嬉しそうにその徳利を手にとり、だるまストーブの脇におかれています机の上のコップへ注いでいかれました。

 セルフサービスでお願いしているこのサービスなのですが、そうすることで徳利の暖かさでもあったまって頂こうという趣向になっております。

 熱燗を注いだコップを手に、ナベアタマさんは早速カウンター席につかれました。
「じゃ、今日は寄せ鍋と、クッカドウゥドルの焼き鳥をもらおうかな」
「はい、喜んで」
 ナベアタマさんに、私は笑顔でお返事いたしました。

「あら?甘酒はないのね」
 そんな私に、女性の声が聞こえてきました。
 だるまストーブへ視線を向けますと、そこにはご来店なさったばかりのゾフィナさんの姿がございます。

 そうでした。
 ゾフィナさんはいつも甘酒とぜんざいしかお召し上がりにならないのでした。

「ゾフィナさん、今日のところはこちらで準備いたしますので」
 私がそう言うと、ゾフィナさんは
「あぁ、気にしないでさわこ。あれがお店のサービスだということはよく理解しているから、無いものを出せなんて言わないわ。と、いうわけで、ぜんざいと甘酒を注文するわね」
「ありがとうございます、喜んで」
 私は、笑顔で笑いかけてくださっているゾフィナさんに、一礼してからぜんざいと甘酒の準備をはじめました。

 ……明日は、甘酒も燗しておかないと

 そう、心の中で思った次第でございます。

ーつづく

 
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