異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、こちらの世界での仕入れ その2

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 本日は、私の世界へ仕入れにやってきております。

「相変わらず、さわことバテアさんが持って来てくれたパワーストーンは大人気よ。ホントに感謝しているわ」
 お店の奥にある応接室の中で、みはるは笑顔を浮かべながら私達の前に飲み物を置いてくれています。


 私には緑茶
 バテアさんには紅茶

「はい、ベルちゃんはこれね」
「うにゃん!」
 ベルは、目の前におかれたメロンソーダフロートを前にして飛び上がらんばかりの勢いで喜んでおります。

 緑色をした炭酸水。
 その中に浮かんでいるバニラアイス

 ベルはこれが最高に大好きなんです。

 みはるが、ショッピングモール内の近くにございますフードコートで買ってきてくれているのですが、以前ベルが大喜びしたのを覚えてくれていて、こうしてわざわざ準備してくれているんです。

 私達の好みをしっかりと把握していて、それを当たり前のように出してくれるみはる。
 この心遣いは、私も見習わせてもらわないと、と常日頃から思っている次第です。

「頼まれてたのも持って来たけど、こんな感じでいいかしら?」

 そう言って、バテアさんが差し出したのは、魔石がはめ込まれたネックレスやペンダントでした。

 いずれも、バテアさんの世界の装飾がほどこされています。
 しばらくそれを確認していたみはるなのですが、
「いいデザインだわぁ。この装飾、すっごくお洒落で素敵! 売るのがもったいなくなっちゃいそう」
 
 そう言って喜んでいるみはる。

 その言葉を聞いた私とバテアさんは思わず顔を見合わせてしましました。

 と、言いますのも……
 『売るのがもったいなくなっちゃいそう』
 そう言っているみはるの胸元には、バテアさんが前回持って来たネックレスが輝いていたのです。
 その手にも、バテアさんが以前持参なさった指輪が、
 その服にも、バテアさんが持参なさったペンダントが

 ……そういった具合に、みはるのいたるところに、バテアさんがこの店に持ち込んだ魔石のアクセサリーが散見されるといいますか……

 おそらく、バテアさんが今までに持ち込んだアクセサリー系の魔石は、すべてみはるが個人的に買い取っているとしか思えない状態なのでございます。

 もともと服にはこだわりがあって、いつもお洒落な格好のみはるなのですが、アクセサリーは滅多に身につけていなかったのです。
「アクセはねぇ……身につけたいと思う物に出会わないのよねぇ」
 常々そう言っていたみはるなのですが、ようやく身につけたいと思うアクセサリーに出会えた、ということなのでしょうね。

◇◇

 みはるからこれまでの魔石の販売代金を受け取り、新たに持参した魔石を預けました。

 その後、メロンソーダフロートを平らげてしまい、若干涙目になっていたベルにお代わりを買ってきてくれたみはる。
 
 そんなみはると、雑談を交わしていきました。

 バテアさんも、みはるとは馬が合うようで、いつも楽しそうにお話しなさっています。
 それは、みはるも同様でして、バテアさんといつも楽しそうに会話をしています。

 2人とも、私にとってかけがえのない親友でございます。

 そんな2人が仲良く会話なさっている姿を横で拝見出来るのは本当に嬉しいことなのですが……

「そうなんですよ、さわこって昔から……」
「そういえば、さわこってばこの間も……」

 ……なんでしょう……
 気のせいか、2人の話題の7割少々が、私の話題になっている気がしてならないのですが……

 た、確かに、2人の共通の知人ですので、話題に上る頻度が高いのは理解出来るのですが、

 バテアさんは、私の最近のドジ話を
 みはるは、私の過去のドジ話を

 ……確かに、共通の友人の失敗談は面白おかしいとは思いますけど……本人の前では少々お手柔らかにお願いしたいと、心の底から思っている次第でございます。

 私が真っ赤になりながら、
「もう、そこまでにしてくださいぃ」
 そう言っている横で、ベルはメロンソーダフロートを笑顔で口に運んでいたのでございます。

◇◇

 みはるのお店で少々長居をしてしまった私達ですが、
「またね。待ってるわ」
「うん、また来るね」
 みはると握手を交わし、私達はみはるのお店を後にいたしました。

 いつもは私が道案内を兼ねて先頭を歩くのですが、みはるのお店を出てすぐの折りだけは、
「さ、さわこ行くわよ」 
 バテアさんがすごい早足で先導なさります。

 その行く先は、ショッピングモールの中に出店しておりますアイスクリーム店でございます。

「今日は確か秋の限定アイスが出てるはずなのよね」
 前回持ち帰られて、みっちりチェックなさった後のあるアイス店のチラシを見つめながら、バテアさんは満面の笑顔を浮かべておいでです。

 そんなバテアさんですが、お目当ての栗味のアイスと、バニラアイス、バナナ&ストロベリーの、カップの3段重ねを無事購入することが出来ました。

 ベルはメロン味
 私は抹茶味

「さーちゃんとお揃いにゃ!」
 見た目の色合いがよく似ておりましたので、ベルがとても喜んでいたのですが、バスの中で私の抹茶を一口食べたベルは
「……な、なんか違うにゃ……」
 そう言って、複雑な表情をその顔に浮かべておりました。

◇◇

 その後、いつもの業務用スーパーで日本酒を中心に購入した私達は、その足で善治郎さんのお店に顔を出しました。

「おぉ、さわこちゃんにバテアちゃん、それにベルちゃんもいらっしゃい」
 お店の裏手で一休みなさっていた善治郎さんが、笑顔で私達を迎えてくださいました。

 ここで、私はこちらの世界のお野菜を仕入れます。

 今は、アミリアさんの農園から収穫出来るお野菜だけでも十分まかなえているのですが、善治郎さんには父の代からお世話になっておりますし、私自身今まで何かとお世話にもなっておりますので、そのお礼もこめて今もこうして引き続き購入させていただいている次第です。

「……そういえば善治郎さん、だるまストーブを売っているところをご存じありませんか?」
「だるまストーブというと、居酒屋酒話でさわこちゃんが使ってたやつかの?」
「はい、あの型のものがあれば最高なのですが」
「ふむ……あの型はもう市販されてはおらんはずじゃが……ちょっと待っとれ」
 そう言うと、善治郎さんはお店の奥へ入っていかれました。

 待つこと少々。

「ほれ、これでどうじゃ?」
 そう言って善治郎さんがお店の奥から持って来てくださったのは、まさにだるまストーブだったのでございます。

 居酒屋酒話で使用していた物より一回り小さいのですが……このサイズであれば問題ございません。

 中に炭を入れるタイプのこのだるまストーブですが、これから寒くなる季節に合わせて是非ともお店に置きたいと思っていたのでございます。

 居酒屋酒話では、このだるまストーブの上に大きめのたらいを置きまして、それに貼ったお湯の中で日本酒を燗しておりました。
 その中のお酒は、
『寒い中、ご来店くださいましてありがとうございます』
 の気持ちを込めまして、お1様1杯無料で提供させていただいておりました。

 あのおもてなしを再開したいと常々思っていた私でございます。

 このだるまストーブをぜひ買い取らせて頂きたいと申し出たのですが、善治郎さんは
「どうせ使わない物じゃ。遠慮無く持っていってくれてよい」
 そう言って、笑い続けておられる次第です。

 そのお礼の気持ちを込めまして、いつもよりお野菜を多めに購入させて頂いたのは言うまでもございません。

 そのままでは少々かさばってしまうだるまストーブですが、
 バテアさんが、善治郎さんが私とお話している隙に魔法袋の中に収納してくださいました。

 善治郎さんが
「おや? だるまストーブが見当たらない……」
 そう言い出されませんように、さりげなくだるまストーブの事を忘却する魔法まで使用してくださっておられました。

 そのおかげで、いつのまにかだるまストーブが消えていたにもかかわらず、善治郎さんはそのことを特に気になさることもなく
「じゃあの、さわこちゃん。また顔を見せてくれい」
 笑顔で私達を見送ってくれました。

◇◇

「さ、今日はこんなとこかしら?」
「えーっと……はい、これで終わりですね」
「にゃ、じゃあ帰るにゃ」
 そんな会話を交わしながら、私達はビルの合間にございます、転移ドアをくぐってバテアさんの世界に戻っていきました。

 ……そうですね

 今では、バテアさんの世界が、私の世界でもございます。

 だからでしょうか、

「ただいま帰りました」

 そんな言葉が、自然と口をついて出た次第でございます

ーつづく
  
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