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さわこさんと、バックリンの甘露煮

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 新たなメニューとして加わった一人鍋ですが、徐々に浸透していっている、そんな感じでございます。

 好評ではあるのですが、
「いやぁ、やっぱり俺はクッカドウゥドルの焼き鳥が……」
「今日はタテガミライオンのステーキをもらおうかな」
 居酒屋さわこさんの人気メニューの方がやはり人気といいますか、そちらの注文の合間に皆さんお試しで頼んでくださっている、そのような感じでございます。

 ただ注文数は、最初扱い始めた際にドーンと伸び、一度沈静化したあとジワジワ右肩あがりといった具合ですので、これから寒さが厳しくなっていけば、売り上げも自然とさらに伸びていくのではないかと思っている次第でございます。

◇◇

 午前中、時折街中に買い物に行くことのある私ですが、
「ちょっと待ってさわこ、私も一緒に行くわ」
「……さわこ、一緒」
 その度に、バテアさんやリンシンさんが同行してくださっていました。

 これは、以前私が中級酒場組合と上級酒場組合の騒動に巻き込まれてしまいまして、連れ去られたことがあるものですから、念のための措置なんです。

 すでに首謀者も捕まっていますし、私が十二分に周囲に気をつけていればよいのでは……そう思いもするのですが、実際に一度連れ去られているだけに、私自身も少々恐怖感が残っているといいますか……


 ただ、バテアさんは、薬草や魔石を採取するために異世界へ出向いていることが多いですし、リンシンさんも他の冒険者の皆様と一緒に狩りにでかけておられることが多いものですから、私が買い物に行きたいと思った際に出かけることが出来ずにいたんです。

 ですが

 最近は、その心配がなくなっております。

 
 本日、街の商店街へと買い物に出かけた私なのですが、その横にはベルの姿がありました。
 いつもの猫の姿ではなく、人型に変化しているベルは、
「さーちゃん、ベルの側を離れちゃ駄目よ」
 そう言いながら、私の腕をぎゅっと抱きしめながら移動してくれています。

 ここまでしてもらわなくても、一緒に歩いてくれていればそれで十分……そう思うのですが……

「いい、ベル。さわこは時々考え事をしながら無意識にあちこち動き回る癖があるから、一時も目を離しちゃ駄目よ」
「……あと、背後をほとんど警戒してないから、そこもしっかりフォローよろしく」
 バテアさんとリンシンさんから散々そんな風に言われているものですから、ベルもですね
「うん、任せて。サーちゃんはベルが守る!」
 気合い満々な様子で2人に頷いておりまして、その結果、こうして今も私の腕に抱きついた状態で周囲を警戒してくれている次第なんですよね。

 歩行の妨げになるようでしたら、さすがに辞めてもらうようにお願いするところなのですが……

 私の腕にガッチリ抱きついているベルなのですが、その存在を邪魔と感じることはまずありません。

 ベルは、私の歩行速度にあわせて移動してくれております。
 腕に抱きついてもいますけれでも、体重をかけてきませんので、重さも感じておりません。
 さらに、その腕を商品に伸ばそうとすると、ベルは自然な感じで腕を放してくれまして、また腕を元の位置に戻していくと、自然な感じで再び抱きついてくるのでございます。

 そこに存在感はあるのですが、まったく邪魔になっていない……そんな不思議な存在となって私の護衛をしてくれているんです。

 今日のベルも、そんな感じで私の腕に抱きついて移動しています。

 その際のベルは、常に猫の耳を立ててですね、それを周囲に向けてピコピコ動かしまくっています。
 周囲の音を聞き集めて、危険がないかどうか気を配ってくれているんですよね。

「いつもありがとうベル。用事も済んだし、何か食べて帰りますか?」
 日頃の感謝の気持ちを込めて、私はベルにそう言いました。

 これを受けたベルなのですが、
「じゃあ、お店に戻ってさーちゃんのつくった甘い物が食べたい!」
 すぐにそう返答してきました。

 私といたしましては、街でどのような食べ物が売られているのかを知るためでもあったのですが、
「さーちゃんの料理が一番好き」
 ベルは満面の笑顔でそう繰り返すばかりです。

 でも、本当に嬉しい一言です。

「じゃあ、帰ったら何か作りましょうか。何かリクエストはありますか?」
「ん~……さーちゃんの作った物!」
「もう、ベルったら、それはわかっていますから」
 そんな会話を交わしながら、私とベルは家路を急いだ次第でございます。

◇◇

 この日は、バックリンの甘露煮をベルに食べてもらいました。

 秋の味覚の代表格の1つであります栗とよく似た形と味をしているバックリン。
 それを丁寧に下処理した後、水と砂糖、蜂蜜と水飴を混ぜ合わせて甘く煮込んだバックリン。
 それを、お皿に盛り付けまして、そこに水飴を少し垂らして出来上がりです。

 お店に戻ると、すぐに猫の姿に変化するベル。
 なんでも、この姿でいる方が楽なんだそうです。

「はいベル、どうぞ」
 出来上がったバックリンの甘露煮を、座布団の上で丸くなっているベルの前に置きました。

 すると、ベルは
「にゃ~」
 と、嬉しそうに一鳴きしてから、バックリンを食べ始めました。

 ガツガツといった感じで、バックリンを食べていくベル。
 一度もとまらずに食べ続けていったベルの前から、バックリンの甘露煮はあっという間になくなってしまいました。

 よほど気に入ったらしく、ベルは食べ終わった後のお皿までペロペロなめ続けています。

「うふふ、そんなに美味しかったですか?」
「にゃ~!」
 私の言葉に、ベルは嬉しそうな表情で答えてくれました。

 そんなベルに、私はさっそくお代わりをよそった皿を置いてあげたのですが、

「さわこ~、アタシにも~」
 そんなベルのすぐ横の席に、いつのまにかツカーサさんが座っていたのです。

 私だけでなく、ベルもその気配に気が付かなかったらしく、その声を聞くなりビクッとしながら背中の毛を逆立てています。

 ホントに、ツカーサさんってば、いつもながら神出鬼没です……

 そんなツカーサさんは、
「ふー!」
 ベルに威嚇されていまして、
「もう、ベルちゃんったら、なにもそう青筋たてなくてもいいじゃないのさ」
 苦笑しながら必死にそれをなだめておられました。

 そんなツカーサさんの姿に苦笑しながら、私は鍋の中の甘露煮をもう一皿準備していった次第でございます。

ーつづく

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