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連載
さわこさんと、雪の季節序
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私が移り住んでいる異世界の辺境都市トツノコンベは、冬は雪に埋もれてしまうこともあるそうです。
元いた世界では、雪とは無縁の生活を送っていた私は、バテアさんからそのお話をお聞きすると、
「スキーをしたり、かまくらをつくったりと楽しそうですね」
そんなことを想像していたのですが、それをお聞きになったバテアさんは
「さわこの言っているスキーやかまくらがどういう物なんかはちょっとよくわかんないけど……雪そのものはそんなに楽しい物でもないのよね」
少し真面目な表情をなさってそうおっしゃられました。
そんなバテアさんのお顔を拝見して、私は思わずハッとしてしまいました。
……そうです。
私の住んでいる世界でも、雪の少ない私の元居住地近辺はともかく、豪雪地帯と言われています東北や北海道方面にお住まいの方々は、毎年この雪のせいでとても大変な思いをされているのです。
そして、このトツノコンベも、そういった豪雪地帯に属しているのです。
そう考えますと……先ほどの私の発言は非常に配慮を欠いた一言だったのではないでしょうか……
そのことに思い当たった私は、
「……バテアさん、申し訳ありません。配慮を欠いた事を申し上げてしまいまして……」
私はそう言って頭を下げたのですが、これを受けたバテアさんは、
「え? さわこってば何に謝ってるの?」
そう言われながら、そのお顔に怪訝そうな表情を浮かべておられました。
◇◇
その後、バテアさんから詳しくお話をお聞きさせて頂いたところですね……
「あぁ、確かにこの一帯にはかなりの雪が降るし、雪そのものは楽しいとは言えないけど……でもね、雪は魔法で除去も出来るしね」
とのお返事を、笑顔とともにいただけたものですから、私も思わず安堵いたしました。
ちなみにですが……
「もうじきね、雪の除去のバイトをしに、各地から魔法使いがやってきたりもするのよ。それに雪像祭りもあるしね、それなりに楽しくもなるわ」
「雪像祭り?」
「えぇ、大量の雪を使ってね、街道に雪像を作るのよ。で、その出来映えを競うお祭を、ここトツノコンベではやってるの」
そんなバテアさんのお話をお聞きして、私の脳裏には北海道で毎年のように開催されています同じ趣向のお祭のことを思い出しておりました。
この世界のこのトツノコンベで開催されます雪像祭りにも、その雪像を見物しにいらっしゃるお客様が相当数おられるそうでして、この時期のトツノコンベは、豪雪に負けることなく盛況となるそうなのです。
そうお聞きいたしますと、なんだ私もわくわくして参りました。
「バテアさんも、その雪像をお造りになるのですか?」
「……そうね……まぁ、一応」
あれ?……あれれ?
いつもでしたら、こういった話題の際には歯切れ良くお答えくださって、屈託なくお笑いになられるバテアさんなのですが、どういうわけかものすごく歯切れの悪いお返事を返してこられました。
私は猛烈な違和感を感じながらバテアさんを見つめていました。
すると、バテア青空市での仕入れを終えられて、店内に顔を出してくださっていた中級酒場組合のジュチさんが
「バテアはさぁ、魔法であれこれ出来るんだけど、こと雪像の造形に関しては才能がないのよねぇ」
そう言いながら、すごく楽しそうに笑いはじめたのです。
「去年作ったあれ、なんだっけ、ほら、灰色熊?」
「……雪兎よ」
「ぶふぅ……あの不細工で無駄にでかかったあれが、愛らしい雪兎? ぷぷぷ……」
ジュチさんは、面白くてしかたがないといった様子で笑いながらバテアさんの肩を叩いておいでです。
一方、肩を叩かれまくっている側のバテアさんは
『しまった……この話題は避けるべきだったわ』
そんなことをお考えなのでしょう、窓の外を見つめながら、苦虫をかみつぶしたような表情をなさっておいでです。
そんなバテアさんの様子を拝見していた私は、
「バテアさん、今年は私も手伝わせていただきますので、一緒に頑張りましょう!」
そう言いながら、両手を握りしめました。
すると、バテアさんは、私の言葉を受けまして、
「ねぇ、聞いたジュチ? 私の手伝いをさわこがしてくれるってさ? ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ち?」
その顔に満面の笑みを浮かべながらジュチさんの肩をバンバンと叩き返しはじめたのでございます。
ジュチさんは、私に友情以上の好意を持ってくださっておられるそうなのですが、あの、私はよき友人として好意を持たせて頂いている次第ですが……とにもかくにも、そんなジュチさんはですね、バテアさんのお言葉を聞かれながら、
「ぐぬぬ、うらやましいったらありゃしない、キー!」
なんて言われ始めてしまった次第でございます。
……えっと、こういう時って、どんな顔をしたらいいのでしょうか。
いつもですけど、困惑してしまいます。
◇◇
ちなみに、この季節のリンシンさんなのですが、例年は雪を避けて南に移動なさっていたそうなのですが
「……今年は、ここで頑張る」
そう言うと、私に向かって笑いかけてくださいました。
これはあれですね、居酒屋さわこさんと冒険者の契約をしてくださっているからなのでしょう。
「……それもあるけど、友達のさわこのために頑張る」
「リンシンさん……」
にっこり笑ってくださっているリンシンさんに、私は
「本当にありがとうございます」
そう言うと、深々と頭を下げました。
実の事を申しますと……
寒いのが苦手なリンシンさんは、毎年冬になると南方に移動されているということを小耳に挟んでいたのでございます。
そのため……ひょっとしたらしばらくリンシンさんとお別れしないといけないのかも……そんなことを悶々と考えていたのでございます。
その心配が杞憂に終わったものですから、私は心の底から喜んでおりました。
笑っている私を見つめながら、リンシンさんも
「……さわこが喜んでくれて、私も嬉しい」
そう言ってくださいました。
こして、トツノコンベで迎える初めての冬を、この世界で出会った親友のバテアさんとリンシンさんと一緒にすごせることが決まったわけでございます。
私は、そのことを喜びながら、料理の下ごしらえをするために厨房へ移動していきました。
ーつづく
元いた世界では、雪とは無縁の生活を送っていた私は、バテアさんからそのお話をお聞きすると、
「スキーをしたり、かまくらをつくったりと楽しそうですね」
そんなことを想像していたのですが、それをお聞きになったバテアさんは
「さわこの言っているスキーやかまくらがどういう物なんかはちょっとよくわかんないけど……雪そのものはそんなに楽しい物でもないのよね」
少し真面目な表情をなさってそうおっしゃられました。
そんなバテアさんのお顔を拝見して、私は思わずハッとしてしまいました。
……そうです。
私の住んでいる世界でも、雪の少ない私の元居住地近辺はともかく、豪雪地帯と言われています東北や北海道方面にお住まいの方々は、毎年この雪のせいでとても大変な思いをされているのです。
そして、このトツノコンベも、そういった豪雪地帯に属しているのです。
そう考えますと……先ほどの私の発言は非常に配慮を欠いた一言だったのではないでしょうか……
そのことに思い当たった私は、
「……バテアさん、申し訳ありません。配慮を欠いた事を申し上げてしまいまして……」
私はそう言って頭を下げたのですが、これを受けたバテアさんは、
「え? さわこってば何に謝ってるの?」
そう言われながら、そのお顔に怪訝そうな表情を浮かべておられました。
◇◇
その後、バテアさんから詳しくお話をお聞きさせて頂いたところですね……
「あぁ、確かにこの一帯にはかなりの雪が降るし、雪そのものは楽しいとは言えないけど……でもね、雪は魔法で除去も出来るしね」
とのお返事を、笑顔とともにいただけたものですから、私も思わず安堵いたしました。
ちなみにですが……
「もうじきね、雪の除去のバイトをしに、各地から魔法使いがやってきたりもするのよ。それに雪像祭りもあるしね、それなりに楽しくもなるわ」
「雪像祭り?」
「えぇ、大量の雪を使ってね、街道に雪像を作るのよ。で、その出来映えを競うお祭を、ここトツノコンベではやってるの」
そんなバテアさんのお話をお聞きして、私の脳裏には北海道で毎年のように開催されています同じ趣向のお祭のことを思い出しておりました。
この世界のこのトツノコンベで開催されます雪像祭りにも、その雪像を見物しにいらっしゃるお客様が相当数おられるそうでして、この時期のトツノコンベは、豪雪に負けることなく盛況となるそうなのです。
そうお聞きいたしますと、なんだ私もわくわくして参りました。
「バテアさんも、その雪像をお造りになるのですか?」
「……そうね……まぁ、一応」
あれ?……あれれ?
いつもでしたら、こういった話題の際には歯切れ良くお答えくださって、屈託なくお笑いになられるバテアさんなのですが、どういうわけかものすごく歯切れの悪いお返事を返してこられました。
私は猛烈な違和感を感じながらバテアさんを見つめていました。
すると、バテア青空市での仕入れを終えられて、店内に顔を出してくださっていた中級酒場組合のジュチさんが
「バテアはさぁ、魔法であれこれ出来るんだけど、こと雪像の造形に関しては才能がないのよねぇ」
そう言いながら、すごく楽しそうに笑いはじめたのです。
「去年作ったあれ、なんだっけ、ほら、灰色熊?」
「……雪兎よ」
「ぶふぅ……あの不細工で無駄にでかかったあれが、愛らしい雪兎? ぷぷぷ……」
ジュチさんは、面白くてしかたがないといった様子で笑いながらバテアさんの肩を叩いておいでです。
一方、肩を叩かれまくっている側のバテアさんは
『しまった……この話題は避けるべきだったわ』
そんなことをお考えなのでしょう、窓の外を見つめながら、苦虫をかみつぶしたような表情をなさっておいでです。
そんなバテアさんの様子を拝見していた私は、
「バテアさん、今年は私も手伝わせていただきますので、一緒に頑張りましょう!」
そう言いながら、両手を握りしめました。
すると、バテアさんは、私の言葉を受けまして、
「ねぇ、聞いたジュチ? 私の手伝いをさわこがしてくれるってさ? ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ち?」
その顔に満面の笑みを浮かべながらジュチさんの肩をバンバンと叩き返しはじめたのでございます。
ジュチさんは、私に友情以上の好意を持ってくださっておられるそうなのですが、あの、私はよき友人として好意を持たせて頂いている次第ですが……とにもかくにも、そんなジュチさんはですね、バテアさんのお言葉を聞かれながら、
「ぐぬぬ、うらやましいったらありゃしない、キー!」
なんて言われ始めてしまった次第でございます。
……えっと、こういう時って、どんな顔をしたらいいのでしょうか。
いつもですけど、困惑してしまいます。
◇◇
ちなみに、この季節のリンシンさんなのですが、例年は雪を避けて南に移動なさっていたそうなのですが
「……今年は、ここで頑張る」
そう言うと、私に向かって笑いかけてくださいました。
これはあれですね、居酒屋さわこさんと冒険者の契約をしてくださっているからなのでしょう。
「……それもあるけど、友達のさわこのために頑張る」
「リンシンさん……」
にっこり笑ってくださっているリンシンさんに、私は
「本当にありがとうございます」
そう言うと、深々と頭を下げました。
実の事を申しますと……
寒いのが苦手なリンシンさんは、毎年冬になると南方に移動されているということを小耳に挟んでいたのでございます。
そのため……ひょっとしたらしばらくリンシンさんとお別れしないといけないのかも……そんなことを悶々と考えていたのでございます。
その心配が杞憂に終わったものですから、私は心の底から喜んでおりました。
笑っている私を見つめながら、リンシンさんも
「……さわこが喜んでくれて、私も嬉しい」
そう言ってくださいました。
こして、トツノコンベで迎える初めての冬を、この世界で出会った親友のバテアさんとリンシンさんと一緒にすごせることが決まったわけでございます。
私は、そのことを喜びながら、料理の下ごしらえをするために厨房へ移動していきました。
ーつづく
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