異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、おでん その3

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 出来ることなら、居酒屋さわこさんにもだるまストーブを設置したいと思うのですが、さすがにこれは引っ越しの際に持ってこれておりません。

「……そうですね、今度また私の世界に仕入れに行った時に、ホームセンターあたりで探してみましょうか」

 とりあえず今日は、おでんはおでん鍋でお出しするとして……位置はそうですね、今置いている場所だとベルの座布団に近い気がしますのでとりあえず炭火コンロの前あたりに移動させようと思います。

 カセットコンロのガスカセットを切らしていたのですが、携帯式の魔石コンロを使用すればほぼ同じ役目を果たしてくれますので、今日はそちらを使用することにいたしました。

 しかしあれですね……そう考えてみますと、この居酒屋さわこさんの厨房って不思議な空間になっている気がいたします。

 クッカドウゥドルの焼き鳥やタテガミライオンの串焼きを焼く場所では、私の世界の炭を使用しているのですが、その横にありますコンロは魔石を使用したものになっております。
 
 和洋折衷といいますか、こういうのって和異世界折衷とでも言えばいいのでしょうか?

 そんな事を考えながら、私はおでんの支度を調えつつ他の料理の下ごしらえも行っていった次第でございます。

◇◇

 夕方になりました。

 狩りからお戻りになったリンシンさんが、いつもの着物に着替えてお店に降りてこられました。
「……そろそろ、森にクッカドウゥドルが少なくなってきた」
「そうなのですか……」
 リンシンさんの言葉に、私は思わずうつむいてしまいました。

 私の世界の鶏によく似た魔獣のクッカドウゥドルですが、秋口まではここ辺境都市トツノコンベ周辺に多く出没しているのですが、寒さが増してまいりますと徐々に南下していくそうなのです。
 最近、朝夕が冷え込み始めていますので、どうやらその南下が始まったのではないかと、と、リンシンさんはおっしゃっておられるのです。

 すると、そのリンシンさんに続いて部屋から降りてこられたバテアさんが、
「なら、今度から週に2,3回南に遠征しちゃう? アタシの転移魔法でつれてったげるわよ」
 そう行ってくださいました。
「……それ、助かる」
「具体的にどのあたりがいいのかしら?」
「……おそらく、この川沿いに南下してるはず……だから、リットの街あたり」
「リットの街というと、ニアノとかいう小さな村があるあたりね」

 リンシンさんとバテアさんは、その場で打ち合わせを始められました。

 そのお話をお聞きしながら、私は安堵した次第でございます。

 居酒屋さわこさんの看板メニューの1つとなっておりますクッカドウゥドルの焼き鳥なのですが、そのクッカドウゥドルの仕入れは、もっぱらリンシンさん達、契約させていただいております冒険者の皆様が生け捕りにしてきてくださる個体でまかなわせて頂いている状態なのです。

 冒険者の皆さんが生け捕りにしてきてくださったクッカドウゥドルは、さわこの森にございます飼育施設で飼育しておりまして、ここの管理は基本的にアミリアさんと元上級酒場組合の皆様にお願いしているのですが、

「個体を飼育するのは問題なく出来ているんだけどさぁ……なんかこの子達ってばあんまり繁殖しないのよねぇ」

 そう、アミリアさんが日頃から言われているのが現状でございます。

 当初は、適度に広く自然をそのまま利用した場所に放してやれば繁殖してくれると考えていたのですが……どうもこの考えは早計だったようでございます。

 なぜそのような状況になってしまっているのか、アミリアさんともよく相談してはいるのですが、
「アタシの専門は植物学だからねぇ」
「そうですよねぇ」
 そんな会話に終始してしまっている次第でございます。

 リンシンさんをはじめとした冒険者の皆様も、
「……クッカドウゥドルの習性ならわかるけど……繁殖のことはちょっと」
 そう言って首をひねられている次第でございます。

 そんなわけで、この件に関しましては常連客の皆様にもお声をさせていただきまして、詳しい方を探させていただいている次第でございます。

 繁殖の目処が立っていない以上、クッカドウゥドルが生け捕り出来なくなってしまうと居酒屋さわこさんとしても大変困ってしまう事態だったのですが、どうやら最悪の事態は避けられたようでございます。

◇◇

 程なくいたしまして、居酒屋さわこさんの入り口に暖簾と提灯が掲げられました。

 最初の頃は、この世界ではこの提灯が珍しいらしく
「なんだいこれは?」
 と、よく質問されたものですが、最近ではすっかりお馴染みになったせいか、そのような質問を受けることはまずございません。

 そんな店内に、本日最初に顔を出してくださったのはジューイさんでした。
「ジュ、リンシンさっきぶりジュ」
「……ジューイ、お疲れ」
 ジューイさんは、居酒屋さわこさんと契約してくださっている冒険者さんの1人です。
 少し前までリンシンさんと一緒に狩りに出ておられましたので、そういった挨拶になったのでしょう。

 私の世界でいいますところのハムスターにそっくりなお姿をなさっておられるジューイさん。

 この世界の亜人種の方には2種類ございまして、

 人種族の姿をなさっていて、その耳や尻尾などの一部が獣化している方を獣人(ビーストピープル)
 獣の容姿のまま、全体的に人種族に近い姿をなさっておられる方を人獣(ワービースト)

 そう呼称するのだそうですが、ジューイさんは人獣に該当する方でございます。

 カウンター席に座ったジューイさんは、エミリアから受け取ったおてふきを広げると、それで顔をゴシゴシ拭いていかれます。
「ジュ、ふい~、これ最高ジュ」
 そして開口一番、そう言われるのがいつもでございます。

 ジューイさんに限らず、人獣種の皆様は総じて毛深い方が多いものですから、そういった皆様がご来店なさいますと、こうしておてふきで思い切り顔をおふきになられる方が多いんですよね。

 でも、

 それは居酒屋さわこさんでくつろいでいただけている証拠だと思っておりますので、私的にはなんら問題ございません。

 そんなジューイさんなのですが、
「ジュ? その鍋は何ジュ?」
 早速おでん鍋に気が付かれたご様子です。
「あ、はい。おでんと言いまして、私の世界の食べ物なんですよ。今日は試験販売を行ってみようと思いまして」
「ジュ、じゃあ早速それをもらうジュ」
「はい、喜んで」
 ジューイさんのお言葉に、私は笑顔で返事を返させていただきました。

 最初のお客様に、すぐに注文いただけました。
 なんでしょう……これってすごく嬉しいといいますか、幸先がいいといいますか……

 私は、笑顔でおでんを取り皿によそっていきました。
 今日は試験販売ですので、7種を一通りセットにしてお出しさせていただくことにしております。

「はい、お待たせしました」
 おでんを盛り付けたお皿をジューイさんの前にお出ししました。

 するとジューイさんは、
「ジュ?これは何ジュ?」
 そう言いながらお皿の脇に添えてあります辛子を指さされました。
「あ、はい。それは辛子と言いまして……」
 私が、そうご説明をさせていたこうとしたのですが、

 ひょい……パク

 ジューイさんは、そんな私の話が終わらないうちに、辛子をすべてスプーンですくうと、口の中に入れてしまわれまして……


「じゅ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~辛い~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」

 そう悲鳴を上げられた次第でございまして……

 これを受けまして、おでんをお出しさせて頂く際には、必ず辛子の説明をさせていただくことにした私でございます、はい。

ーつづく
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