異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、おでん その1

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「あったあった、ありました」
 バテアさんの家の2階にございます、私の部屋の中。
 元の世界から持参しております荷物の中を探し回っていた私は、ようやく目当ての品を探しだしました。

 段ボール箱の中に、新聞紙で幾重にもくるまれているその中身。
 新聞紙を外していきますと、その中から銀色をした鉄製の板で四角い箱のような形を形成し、その中を間仕切りにするためのパーツ類が見えてまいりました。
 その下部には、ガスコンロのパーツが接合されています。

「ホワット?……さわこ、何それ?」
 その器具を1階にございます居酒屋さわこさんの厨房へと持っておりますと、魔法雑貨のお店の店場をしておりましたエミリアが、怪訝そうな表情をその顔に浮かべながら器具の方へ視線を向けてきました。
 私は、そんなエミリアににっこり微笑むと、
「はい、おでんを作る機械なのですよ」
 そうお答えいたしました。

 そうなんです。
 これ、お店でおでんを煮込む機械でございます。

 以前、居酒屋酒話でも、冬が近づいて参りますとこの機械をカウンター上の棚に設置いたしまして、おでんを常駐させていた次第でございます。
 日に日に寒さも増してきておりますし、そろそろおでんの準備に取りかかろうと思いましてこれを引っ張り出してまいりました。

 居酒屋酒話を畳んだ際……後々辛くなるかもしれないと思いまして、一度は店内の物を全て処分してしまおう……そう考えた事もございました。

 ……ですが……どうしてもそうすることが出来なかったんですよね。

 店内を片付けていると、いつのまにかそこで使用していた品々を丁寧に梱包しては段ボールへ……そんな作業を無意識に続けていった結果、引っ越しの際の荷物が倍以上に膨れ上がった程でございました。

 ……でも、そのおかげでこうして異世界におきまして、新しく居酒屋さわこさんを開店することが出来たのでございます。
 居酒屋酒話の荷物を持参しておりませんでしたら、ここまでスムーズにお店を開店することは出来なかったと思います。

 本当に……人生、何が幸いするかわかりませんね。

◇◇

 居酒屋酒話でお出ししていたおでんは、とてもシンプルでした。

 焼き豆腐にこんにゃく、はんぺんにしらたき、ジャガイモ・大根、あとは牛串ですね。

 常にこの7品でございました。
 時に、新しい食材を試すこともあったのですが、その際には定番の品を外しまして7品になるように調整いたします。

 これは、父の代から引き継いでおります手法でございます。

 常に7品になるように……この、7が重要といいますか……

『七福神が宿り、食べた皆さんに福がもたらされますように』
 父が、そう言って始めたこの7品おでん。
 それを、私も引き継いでいた次第でございます。

◇◇

 おでんを出すに際しまして、私はアミリアさんにあれこれ相談させていただいておりました。

 ジャガイモもどきのジャルガイモ
 大根もどきのダルイコン

 この2品はすでにアミリアさんの畑で栽培が始まっておりまして、容易に入手が可能です。

 ちなみに、この世界の青物でございますジャルガイモとダルイコンなのですが、

 ジャルガイモは子供の握りこぶし程度
 ダルイコンも、長さが10センチ程度

 と、どちらも痩せ細った状態の物しか存在しておりませんでした。

 これを、私の世界の野菜でございますジャガイモと大根、これをアミリアさんにお渡しいたしまして、それを元にして研究・品種改良して頂きまして……その結果、新種のジャルガイモとダルイコンが誕生していたのでございます。

 アミリアさんは学生時代から植物学を学んでおられまして、こういった品種改良の技術をお持ちなのでございます。時に魔法も駆使なさっておいでなのですが、
「魔法に関してはバテアの協力を得られるようになったのがすっごく大きいわね。彼女の魔法能力は最高よ、私では到底再現出来ないことまで、彼女はいとも簡単に成し遂げてくれるのですもの」
 とのことでございまして、バテアさんの協力も得た上で、この世界の青物類の品種改良に日々取り組んでおられるのでございます。

 そんな中、おでんの開始を見越しましてアミリアさんに更に検討をお願いしておりましたのが、

「豆腐・こんにゃく・しらたきを製造出来ないでしょうか」

 こういった内容でございます。

 幸い、どの品も私の世界のインターネットを使用すれば、その製造工程やその際に必要な機材などが事細かく説明されているサイトを探すことが用意でございます。
 そこで私は、その製造工程のサイトをみはるに印刷してもらいまして、それをアミリアさんにお渡しいたしました。
 同時に、その食材として必要になります大豆やこんにゃく芋の現物もお渡しさせていただいております。
 最初は、見た事の無い豆腐やこんにゃくを前にして困惑しきりだったアミリアさんですが、
「OK、この資料があれば問題ないわ。みてなさいさわこ、あっという間にこの私がこの豆腐とこんにゃくとしらたきを作って見せるわよ」
 そう言ってくださったのでございます。

 そんな会話を交わして、すでに半月ほどが経過しております。

 アミリアさんはその間に、アミリア植物研究所がございますさわこの森の中に、豆腐製造工房とこんにゃく・しらたき製造工房を作成なさっておられました。工房と申しましても、どちらもちょっとした小屋程度の大きさでして、アミリアさんの農場で働いておられます元上級酒場組合の方の中から数名の方にこちらの担当をしていただき、作業にあたっていただいているそうです。

 ちなみに、この工房を作成してくださったのは、居酒屋さわこさんの常連客の1人ドルーさんとそのお弟子さん達でございます。
 ドルーさんは、私が準備いたしました資料を基にいたしまして、アミリアさんとも相談を重ねてこの工房を作り上げてくださいました。
「しかしまぁ、さわこの世界は面白いもんを作っておるのじゃな。ワシも勉強になるわい」
 ドルーさんはそう言って笑っておられました。

 その工房はどちらもすでに稼働を開始しておりまして、豆腐・こんにゃく・しらたきの試作品が完成しております。
 まだ試作の段階とはいえ、その3品は十分お店でお出し出来るレベルの物に仕上がっていた次第でございます。

 この3品に関しましては、増産体制が整いましたらバテア青空市での販売も行おうと思っております。
 同時に、ジュチさん達中級酒場組合の酒場の皆様をお相手に、私が月に2回行っております料理教室で、この3品を使用した料理の作り方を指導させていただけば問題ないかな、と、思案したりもしております。

 あと、はんぺんに関してですが、これは私が作成しております。
 トツノコンベは内陸の奥地にございまして、はんぺんの材料になります白身魚を入手することが出来ませんでした。
 ですが……最近、タテガミライオンのお肉を仕入れさせて頂いております、辺境都市ナカンコンベにございますおもてなし商会で、私の世界の鱈によく似た白身魚『タルラ』を扱っておられたものですから、それを仕入れさせていただいている次第です。

 タルラを使用してのはんぺんの試作品も、すでに完成しております。

 牛串の代わりにいたしますのは、タテガミライオンのお肉でございます。
 このお肉は、どう料理しても美味しいものですから、本当に重宝いたします。

 このタテガミライオンのお肉とタルラの2品は、おもてなし商会から購入させて頂いているのですが、そちらの責任者をなさっておられますファラさんのご厚意のおかげで、とてもお安く仕入れさせて頂けておりますので、大変助かっております。

 ただ……仕入れ値の交渉を終えた後、いつもバテアさんが眉をひそめておいでのような気がしないでもないのですが……きっと私の考えすぎですよね。

◇◇

 こうした経緯を経まして……
 今、私の前には7品の食材が並んでおります。

「さて、では早速おでんの試作をしてみますか」

 私は、その7品を今一度確認いたしますと、そう言って料理を開始していった次第でございます。

ーつづく

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