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さわこさんと、日本世界での飲み会 その3
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会がはじまってから2時間ほどが経過したでしょうか……
会場となっております部屋の中の一同は、いい感じに出来上がっていた次第でございます。
家飲みの際にはたまに羽目を外してしまうことのある私ですが、基本的に外での飲み会の際にはしっかりしております。
当然、今日も飲み過ぎることなく、自制しながらお酒をいただいている次第でございます。
「あはは、さわこってば、30越えてからは意識が飛ばなくなったわなぇ」
「ちょ!? み、みはるってば!」
「30前まではちょくちょく外でも意識をなくしちゃって……結構大変だったのにねぇ」
「へぇ、面白そうね、ちょっとその話、詳しく聞かせてよ」
「ちょ!? ば、バテアさんまで!?」
……いけませんね……若気の至りの時代を知っている友人が同じ会場内におりますと、こうしてかつての消し去りたいお酒の失敗談をまるで見てきたように語られてしまいますので、油断なりません。
……みはるの場合、実際に見てきていますので、さらに洒落になりません。
私は、語りだそうとするみはるの口を必死に塞いでいったのですが、そんな私を、今度はバテアさんが後ろから羽交い締めにして引き剥がそうとなさいまして……あぁもう! 後生ですから勘弁してくださいぃ。
◇◇
そんなこんながございました宴会も、それから1時間もしないうちにお開きと相成りました。
「あはは、みんな満足してもらえたかしら?」
「えぇ、さわこのあんな話やこんな話も聞けたしね」
みはるの言葉に、バテアさんが意地悪そうな笑顔をその顔に浮かべながら私の方へ視線を向けておいでです。
「もう、意地悪なんだから……」
私は、その笑顔に対しまして頬をぷぅ、と膨らませて応じた次第です。
すると、私の腕に抱きついていたベルが、
「にゃはは、さーちゃん、ほっぺがぷっくり!」
そう言いながら、人差し指で私の頬を思い切り押したものですから、私は
「ぷひゅう」
と、間抜けな音を周囲に巻き散らしていく羽目になってしまいました。
それを合図に、一斉にみんなが笑い声をあげていきました。
「……もう、さわこってば」
「ちょっと笑わせないで、ストマックがブレイクしちゃうじゃない」
そんな皆さんを見回しながら、私は顔を真っ赤にしていた次第でございます。
もう、ベルったら……
私は、ベルに抗議の視線を向けました。
ですが、そんな私の視線の先のベルはといいますと、
「ぷひゅうだって、さーちゃん、ぷひゅうだってにゃはは!」
なんかもう、お腹を抱えて笑い転げているもんですから……その姿を見ておりますと、なんだか怒るのも馬鹿馬鹿しく思えてきてしまいました。
「もう、みんなひどいですよ!」
「まぁまぁ」
そんな会話を交わしながら、私達はお店を後にしていきました。
途中で、バスに乗って帰宅するみはると別れた私達は、いつもの歩道を歩いていきました。
ここは、転移ドアのあるビルの合間の道まで近いので、こうして歩いている次第です。
「へぇ……なんか綺麗ね」
バテアさんは、道路をみながらそんなことを口になさいました。
すでにとっぷりとくれた夜道。
そこを、車のヘッドライトが行き交っています。
バテアさんの世界では、夜の街道は薄暗いものと相場が決まっております。
飲み屋街の街道には、等間隔で魔法灯が設置されておりますけれども、その魔法灯の明るさはヘッドライトのそれとは比べものになりません。
「これが、さわこの世界なのですね……なんだか不思議な世界ですわ」
行き交う車を眺めながら、この世界にはじめておいでになったラニィさんも笑顔を浮かべておられます。
私にしてみれば、かつて毎日のようにお店に通っていた道です。
ですが、皆さんにとっては初体験の夜道なわけでございます。
皆さん、そんな道路の様子を横目で見ながら歩道を進んでいた次第です。
ビルの合間に入る前に、私は後方を振り返りました。
その視線の先にございますビルの一階には、かつて私が父から託された居酒屋酒話がございました。
その酒話は、私が手放した後、ガールズバーとかいうお店になっていたはずなのですが、今はそのお店も閉店してしまったらしく、その一角は暗く静まり帰っています。
そこに酒話がなくなっていることはわかってはいるのですが……なんでしょう、心がキュッと締め付けられるような感覚が沸き起こってまいりした。
「さわこ?」
立ち止まっていた私を、バテアさんが呼んでくださいました。
振り返ると……そこにはバテアさんの姿がございます。
ベルもいます。
リンシンさんも、エミリアも、ラニィさんもおられます。
皆さん、私を笑顔で見つめてくださっています。
「さわこ、帰るわよ」
「はい、すぐ行きます」
私は、最後にもう一度だけ、かつて酒話があった方へ視線を向けると、軽く頭を下げてからビルの隙間の道の奥……皆さんが待ってくださっている場所へ向かって小走りに向かっていきました。
「次は3日後ね、今度は仕入れもするんでしょ?」
「はい、その予定です」
私は、バテアさんとそんな会話を交わしながら、みんなと一緒に転移ドアをくぐっていきました。
◇◇
バテアさんの自宅の二階へと戻って来た私達は、外履きを脱ぐとすぐに身軽な服装に着替えていきました。
「ふにゃあ……この格好はあんまり好きじゃにゃいにゃ」
着ていた服を全て脱ぎ去ったベルは、そのまま猫の姿へと変化していきました。
一瞬とはいえ、素っ裸になるのは自重するように何度も言っているのですが……
猫の姿へと変化したベルは、そのままベッドへダイブしていくとその中央で丸くなってしまいました。
「あらあら、ベルはもうお眠のようね」
バテアさんは、そんなベルを苦笑しながらながめています。
その後、私達は交代でお風呂に入りました。
バテアさんの転移魔法で温泉に行こうという話も出たのですが、みんなお酒が入っておりますしこのまま温泉に行ってしまいますと、そのまま帰りたくなくなってしまいかねません。
それを考慮し、今夜はバテアさんの家のお風呂に入った次第です。
一度に2人、交代で浴室を使用してさっぱりしていきます。
リンシンさんはエミリアと
ラニィさんはバテアさんと
私は、ベルと
それぞれお風呂へ入っていきました。
「うにゃあ……今日はお風呂はいいにゃ」
「駄目ですよ、ベルは毛が多いのですし、女の子なんですから毎日綺麗にしませんと!」
ベルは、牙猫でございます。
そのため、人型になりましても、その背中から肩にかけて多めの体毛が生えております。
そこにボディーソープをつけまして、私が綺麗に洗っていきます。
以前はバテアさんと一緒にお風呂に入ることが多かった私ですが、最近はこうしてベルのお母さんのように、その体を綺麗にしてあげております。
「はい、綺麗さっぱりですね」
「うにゃあ……」
お風呂からあがり、私がその体を拭き終えるとベルは露骨に疲れたといった様子の声をあげながら再び猫の姿になってベッドに飛び込んでいきました。
「ベルはお子様だからね、まぁしょうがないわ」
そんなベルへ視線を向けながら、かなり薄いネグリジェ姿のバテアさんが笑っておいでです。
……そのネグリジェですが……私の世界で購入してこられた物なのですが……なんといいますか、下着を身につけておられないものですから、私だけでなく、エミリアやラニィさんまで目のやり場にお困りのご様子です。
そんな中、リンシンさんだけは晩酌を開始なさっておいででして、グラスを楽しそうに眺めておられました。
「さ、せっかくなんだし、寝るまで飲みましょう」
「……うん、それがいい」
バテアさんの言葉に、リンシンさんも笑顔で頷いておいでです。
「もう、バテアってば、そのシースルーはどうにかしてよ」
「なにさエミリア、減るもんじゃないし、別にいいでしょ。それに、お酒を飲むと暑くなるのよ」
そんな会話を交わしながら、バテアさんはエミリアにお酒を注いでいます。
私の世界ではお酒が飲めない年齢のエミリアですが、こちらの世界ではその年齢は成人として扱われます。
「ふぅ、やっとお酒がドリンク出来るわ」
そう言いながら、エミリアはお酒を一気に飲み干していきました。
そんなエミリアに釣られるようにして、私とラニィさんもバテアさんからグラスを受け取り、そこにお酒を注いで頂きました。
こうして私達は、バテアさんの家の寝室で、2次会を行って行った次第でございます。
◇◇
……じ、自制したはずです。
確かに、昨夜はしっかり最後まで意識を保っていたはずです。
……なのに……
目を覚ました私は、布団の中の自分の姿を見つめながら真っ赤になっておりました。
……寝るまでしっかり意識があったはずなのに……な、なんで私はパジャマをすべて脱ぎ去っているのでしょうか……
久しぶりにやらかしてしまった自分に激しく嫌悪の念を抱きながら、私は自分が周囲に脱ぎ散らかしたらしい服を回収していきました。
ーつづく
会場となっております部屋の中の一同は、いい感じに出来上がっていた次第でございます。
家飲みの際にはたまに羽目を外してしまうことのある私ですが、基本的に外での飲み会の際にはしっかりしております。
当然、今日も飲み過ぎることなく、自制しながらお酒をいただいている次第でございます。
「あはは、さわこってば、30越えてからは意識が飛ばなくなったわなぇ」
「ちょ!? み、みはるってば!」
「30前まではちょくちょく外でも意識をなくしちゃって……結構大変だったのにねぇ」
「へぇ、面白そうね、ちょっとその話、詳しく聞かせてよ」
「ちょ!? ば、バテアさんまで!?」
……いけませんね……若気の至りの時代を知っている友人が同じ会場内におりますと、こうしてかつての消し去りたいお酒の失敗談をまるで見てきたように語られてしまいますので、油断なりません。
……みはるの場合、実際に見てきていますので、さらに洒落になりません。
私は、語りだそうとするみはるの口を必死に塞いでいったのですが、そんな私を、今度はバテアさんが後ろから羽交い締めにして引き剥がそうとなさいまして……あぁもう! 後生ですから勘弁してくださいぃ。
◇◇
そんなこんながございました宴会も、それから1時間もしないうちにお開きと相成りました。
「あはは、みんな満足してもらえたかしら?」
「えぇ、さわこのあんな話やこんな話も聞けたしね」
みはるの言葉に、バテアさんが意地悪そうな笑顔をその顔に浮かべながら私の方へ視線を向けておいでです。
「もう、意地悪なんだから……」
私は、その笑顔に対しまして頬をぷぅ、と膨らませて応じた次第です。
すると、私の腕に抱きついていたベルが、
「にゃはは、さーちゃん、ほっぺがぷっくり!」
そう言いながら、人差し指で私の頬を思い切り押したものですから、私は
「ぷひゅう」
と、間抜けな音を周囲に巻き散らしていく羽目になってしまいました。
それを合図に、一斉にみんなが笑い声をあげていきました。
「……もう、さわこってば」
「ちょっと笑わせないで、ストマックがブレイクしちゃうじゃない」
そんな皆さんを見回しながら、私は顔を真っ赤にしていた次第でございます。
もう、ベルったら……
私は、ベルに抗議の視線を向けました。
ですが、そんな私の視線の先のベルはといいますと、
「ぷひゅうだって、さーちゃん、ぷひゅうだってにゃはは!」
なんかもう、お腹を抱えて笑い転げているもんですから……その姿を見ておりますと、なんだか怒るのも馬鹿馬鹿しく思えてきてしまいました。
「もう、みんなひどいですよ!」
「まぁまぁ」
そんな会話を交わしながら、私達はお店を後にしていきました。
途中で、バスに乗って帰宅するみはると別れた私達は、いつもの歩道を歩いていきました。
ここは、転移ドアのあるビルの合間の道まで近いので、こうして歩いている次第です。
「へぇ……なんか綺麗ね」
バテアさんは、道路をみながらそんなことを口になさいました。
すでにとっぷりとくれた夜道。
そこを、車のヘッドライトが行き交っています。
バテアさんの世界では、夜の街道は薄暗いものと相場が決まっております。
飲み屋街の街道には、等間隔で魔法灯が設置されておりますけれども、その魔法灯の明るさはヘッドライトのそれとは比べものになりません。
「これが、さわこの世界なのですね……なんだか不思議な世界ですわ」
行き交う車を眺めながら、この世界にはじめておいでになったラニィさんも笑顔を浮かべておられます。
私にしてみれば、かつて毎日のようにお店に通っていた道です。
ですが、皆さんにとっては初体験の夜道なわけでございます。
皆さん、そんな道路の様子を横目で見ながら歩道を進んでいた次第です。
ビルの合間に入る前に、私は後方を振り返りました。
その視線の先にございますビルの一階には、かつて私が父から託された居酒屋酒話がございました。
その酒話は、私が手放した後、ガールズバーとかいうお店になっていたはずなのですが、今はそのお店も閉店してしまったらしく、その一角は暗く静まり帰っています。
そこに酒話がなくなっていることはわかってはいるのですが……なんでしょう、心がキュッと締め付けられるような感覚が沸き起こってまいりした。
「さわこ?」
立ち止まっていた私を、バテアさんが呼んでくださいました。
振り返ると……そこにはバテアさんの姿がございます。
ベルもいます。
リンシンさんも、エミリアも、ラニィさんもおられます。
皆さん、私を笑顔で見つめてくださっています。
「さわこ、帰るわよ」
「はい、すぐ行きます」
私は、最後にもう一度だけ、かつて酒話があった方へ視線を向けると、軽く頭を下げてからビルの隙間の道の奥……皆さんが待ってくださっている場所へ向かって小走りに向かっていきました。
「次は3日後ね、今度は仕入れもするんでしょ?」
「はい、その予定です」
私は、バテアさんとそんな会話を交わしながら、みんなと一緒に転移ドアをくぐっていきました。
◇◇
バテアさんの自宅の二階へと戻って来た私達は、外履きを脱ぐとすぐに身軽な服装に着替えていきました。
「ふにゃあ……この格好はあんまり好きじゃにゃいにゃ」
着ていた服を全て脱ぎ去ったベルは、そのまま猫の姿へと変化していきました。
一瞬とはいえ、素っ裸になるのは自重するように何度も言っているのですが……
猫の姿へと変化したベルは、そのままベッドへダイブしていくとその中央で丸くなってしまいました。
「あらあら、ベルはもうお眠のようね」
バテアさんは、そんなベルを苦笑しながらながめています。
その後、私達は交代でお風呂に入りました。
バテアさんの転移魔法で温泉に行こうという話も出たのですが、みんなお酒が入っておりますしこのまま温泉に行ってしまいますと、そのまま帰りたくなくなってしまいかねません。
それを考慮し、今夜はバテアさんの家のお風呂に入った次第です。
一度に2人、交代で浴室を使用してさっぱりしていきます。
リンシンさんはエミリアと
ラニィさんはバテアさんと
私は、ベルと
それぞれお風呂へ入っていきました。
「うにゃあ……今日はお風呂はいいにゃ」
「駄目ですよ、ベルは毛が多いのですし、女の子なんですから毎日綺麗にしませんと!」
ベルは、牙猫でございます。
そのため、人型になりましても、その背中から肩にかけて多めの体毛が生えております。
そこにボディーソープをつけまして、私が綺麗に洗っていきます。
以前はバテアさんと一緒にお風呂に入ることが多かった私ですが、最近はこうしてベルのお母さんのように、その体を綺麗にしてあげております。
「はい、綺麗さっぱりですね」
「うにゃあ……」
お風呂からあがり、私がその体を拭き終えるとベルは露骨に疲れたといった様子の声をあげながら再び猫の姿になってベッドに飛び込んでいきました。
「ベルはお子様だからね、まぁしょうがないわ」
そんなベルへ視線を向けながら、かなり薄いネグリジェ姿のバテアさんが笑っておいでです。
……そのネグリジェですが……私の世界で購入してこられた物なのですが……なんといいますか、下着を身につけておられないものですから、私だけでなく、エミリアやラニィさんまで目のやり場にお困りのご様子です。
そんな中、リンシンさんだけは晩酌を開始なさっておいででして、グラスを楽しそうに眺めておられました。
「さ、せっかくなんだし、寝るまで飲みましょう」
「……うん、それがいい」
バテアさんの言葉に、リンシンさんも笑顔で頷いておいでです。
「もう、バテアってば、そのシースルーはどうにかしてよ」
「なにさエミリア、減るもんじゃないし、別にいいでしょ。それに、お酒を飲むと暑くなるのよ」
そんな会話を交わしながら、バテアさんはエミリアにお酒を注いでいます。
私の世界ではお酒が飲めない年齢のエミリアですが、こちらの世界ではその年齢は成人として扱われます。
「ふぅ、やっとお酒がドリンク出来るわ」
そう言いながら、エミリアはお酒を一気に飲み干していきました。
そんなエミリアに釣られるようにして、私とラニィさんもバテアさんからグラスを受け取り、そこにお酒を注いで頂きました。
こうして私達は、バテアさんの家の寝室で、2次会を行って行った次第でございます。
◇◇
……じ、自制したはずです。
確かに、昨夜はしっかり最後まで意識を保っていたはずです。
……なのに……
目を覚ました私は、布団の中の自分の姿を見つめながら真っ赤になっておりました。
……寝るまでしっかり意識があったはずなのに……な、なんで私はパジャマをすべて脱ぎ去っているのでしょうか……
久しぶりにやらかしてしまった自分に激しく嫌悪の念を抱きながら、私は自分が周囲に脱ぎ散らかしたらしい服を回収していきました。
ーつづく
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