異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

文字の大きさ
上 下
124 / 343
連載

さわこさんと、日本世界での飲み会 その2

しおりを挟む
「「「乾杯!」」」
 みんなの声とともに、室内にジョッキやグラスが合わさる音が響きました。

 そして、みんなそれを口に運んでいきます。

 私は、日本酒山田錦のグラスを一気に飲み干しました。

 バテアさん・リンシンさん・ラニィさん、そしてみはるの4人は生ビールを、ベルとエミリアは果汁100パーセントのオレンジジュースを、それぞれ口に運んでいます。

「へぇ、このビールっていうのも悪くないじゃない」
 ジョッキを一気に空になさったバテアさんがそう言いながらジョッキへ視線を向けておられます。
「みはる、とりあえずこれのお代わりをもらえるかしら?」
「……私は、さわこと同じ日本酒」
「私も日本酒でお願いいたしますわ」
 ビール追加のバテアさんに対しまして、リンシンさんとラニィさんは2杯目から日本酒に変更なさいました。

「あら? そっちの2人はビールが口にあわなかったかしら?」
 そう言うみはるにリンシンさんは、
「……ん~……悪くはない。でも、日本酒の方が好き」
 ニコニコ笑いながらそう言われました。
「はい、私も同じでございますわ」
 その横で、ラニィさんもそう言いながら頷いておいでです。
「了解。せっかくだから何種類か頼んでおくわね」
 そう言うと、みはるは受話器に向かって飲み物を追加していました。

◇◇

 このお店は創作居酒屋でございます。
 私といたしましては、どのような料理が出てくるのか非常に楽しみにしておりました。

 私自身も常に創意工夫を心がけてはおりますが、こうして他のお店の料理にも接する事で刺激を受けることも大事だと、父も生前よく言っておりましたもの。

 お通しとして出て来たのは、

 キュウリのキムチ和え
 山芋の短冊切り辛子味噌かけ
 カリカリレンコン

 以上の3種の盛り合わせでございます。

 カリカリレンコンには、さりげなくすりおろした山椒が振られておりまして、3品とも口の中にピリッとした刺激を与えてくれます。
 
 キュウリのキムチ和えはストレートに
 味噌和えはマイルドに
 そしてカリカリレンコンは忘れた頃に

 口の中に、様々な角度から刺激が加わってまいります。

 ……なるほど、こういった趣向もなかなか良いものですね

 私は、それぞれを口にしては大きく頷いておりました。
 そこに、追加の日本酒が到着いたしました。

 みはるがチョイスしてくれていたのは峰乃白梅でございました。
 非常に深みのあるコクとキレが、この上なく美味しい吟醸酒を思わせる逸品でございます。
 新潟三梅はどれも大好きなのですが、特にこの峰乃白梅は大好物な私でございます。
「みはるってば、いいチョイスね」
 それを一口、口に含んだ私は、ほぅ……と、吐息を漏らしながら笑顔を浮かべておりました。
 そんな私に、みはるは、
「伊達にあんたの友人を十何年もやってないわよ」
 そう言って笑っています。
 そういうみはるの手にも、新しい生ビールのジョッキがにぎられています。

 リンシンさんは、届いたばかりの日本酒のグラスを嬉しそうに笑いながら眺めておいでです。
「……うふふ、綺麗」
 リンシンさんがそう仰られていますグラスの中身は、山吹色が鮮やかな日本酒でございます。

 ……見たところ、賀茂泉の純米吟醸山吹色の酒あたりでしょうか?

 長期熟成によって日本酒本来の色合いである山吹色をしているお酒でございます。
 そのお酒を、リンシンさんはいつものようにまず、ゆっくり目で楽しんでおいでです。
 このあと、そのグラスをくゆらせながらその匂いを満喫し、そして、ちびちびと舐めるようにして味わっていくのがいつものリンシンさんの日本酒の楽しみ方でございます。
 そのような飲み方がお好きなリンシンさんですので、喉越しを楽しむ生ビールはあまり好まれないのだと思います。

 ラニィさんはといいますと、
「まぁ……まるで果物のようですわ」
 グラスを半分ほど飲み干した後、そう仰られておいでです。
 そのお酒は、先ほどみはるが注文していたのが聞こえたのですが、川中島幻舞の大吟醸Premiumのはずです。
 この日本酒は、まるでメロンを思わせるような芳醇さが口の中いっぱいに広がっていくまろやかなお酒です。
 日頃からそういった果実系の味わいのお酒を好まれるラニィさんにぴったりのチョイスと言えました。

 ソフトドリンクのエミリアとベルも、それを美味しそうに飲んでいます。
「にゃ、こういう飲み物大好きにゃ」
「ですね。お酒も嫌いではありませんが、果物ベースの飲み物が私にはベターだと思います」
 ベルとエミリアはそんな事を口にしながら料理を口に運んでいます。

 新たに運ばれて来たのは串揚げですね。

 全員の前に、円状に盛り付けられた串揚げのお皿が配布されていきました。
 ソースとケチャップ、そしてマヨネーズの3種類が添えられています。
「さわこ、これはどれにつけて食べたらいいの?」
「そうですね、これは好みによりますので、とりあえず一通り試して見ることをお勧めいたします」
 私がそうお答えいたしますと、バテアさんは、
「なるほどね、じゃ、そうしてみましょうか」
 そう言いながら、手に取った串を左のソースから順番につけては、それを口に運んでおられました。
 
 上品に揚げられているこの串揚げですが、どれもなかなかなお味でございます。
 私が口にいたしましたのは、ししとうと椎茸の2種類の串揚でございました。
 私はあえて何もつけずに、そのまま口にしたのですが、素材の旨みが衣と相まって非常によい味になっておりました。

 こういった上品な食べ方も嫌いではないのですが……

 そうですね、大阪の屋台街にございます串揚げも嫌いではありません。
 ソースにじゃぶっとつけて、それを口に運んでいく。
 油で疲れた口休めとして、ざく切りにしたキャベツを口に運んでは、また串揚げを……
 あの、味わいもなかなか捨てがたいものがございます。

 以前親友のなちこに連れられて出向いたお千代保稲荷で食べた土手焼きもなかなか捨てがたく……

 ふふ……串揚げを口に運びながら、いろんな料理を口にした思い出が蘇ってまいります。
 そんな思い出に浸りながら頂く料理も、また良いものですね。

 私は、自分のお皿の串焼きを次々に口にしていきました。

「うにゃ……ベルはこの衣は苦手にゃ」
 そんな私の横で、ベルが顔をしかめていました。

 そうでした。
 牙猫のベルは、あまり油の衣類を好まないのでした。
 
「ごめんねベル、忘れていました」
 私は、ベルの串揚げのお皿を手に取ると、串揚げの衣を外していきました。
 
「はい、これでどうかしら」
「にゃ!」
 すべての衣が取り払われた串揚げを、ベルはようやく嬉しそうに口にしていきました。

◇◇

 その後、運ばれてきたのは、

 ローストビーフのサラダ和え
 鳥の唐揚げざく切り野菜添え
 たっぷりお野菜のタジン鍋

 どの料理にも、この季節のお野菜がしっかり使用されています。
 こうしてたくさんお野菜を取ることが出来る料理というのも、健康的でなかなかいいものですね。

 お肉類がお好きなバテアさんも、
「うん、どれも美味しいわ」
 そう言いながら、お野菜も残すことなくお召し上がりになられています。

 その大柄なお体に似合わず、量はあまりお食べになられないリンシンさんは、5杯目の日本酒を口になさっておいでです。
 リンシンさんにしては、ややペースが速い感じですね。

 ラニィさんも、楽しげにグラスのお酒を口に運ばれては
「始めて体験する料理は多いのですが、どれも美味しいですわ」
 そう言いながら笑顔を浮かべておいでです。

 私達のおります部屋は、そんな感じで終始笑顔が充満しておりました。

ーつづく
しおりを挟む
感想 163

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。

婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ! 

タヌキ汁
ファンタジー
 国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。  これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。