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さわこさんと、日本世界での飲み会 その1

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イラスト:NOGI先生

 今日は居酒屋さわこさんはお休みの日です。

 日中の私達は、

 中級酒場組合の皆様の料理教室を行った私。
 そんな私に同行していたベル。
 他の世界へ薬草採取に出かけたバテアさん。
 狩りの武具の手入れをなさったリンシンさん。
 姉のアミリアさんのお仕事を手伝ったエミリア。
 ワノンさんの酒造工房の手伝いをなさったラニィさん。

 このような感じで各自の時間をすごした私達でございますが、夕方……いつもであれば居酒屋さわこさんの開店準備を始める頃合いに、バテアさんの家の2階にございますリビングへと集合いたしました。

「お待たせいたしまして申し訳ございません」
 最後に部屋へ入って来たのはラニィさんでした。
「いえいえ、時間ぴったりですよ」
 そんなラニィさんに、私は笑顔でお答えいたしました。
 
 そんな私の視線の先におられますラニィさんですが、いつもよりも少しお洒落な服を身にまとっておられます。

 それは、ラニィさんだけではございません。

 エミリアも、リンシンさんも、バテアさんも、いつものラフな格好よりも幾分お洒落な服装をお召しになられておいでです。

 そのお洒落の基準も、この異世界パルマのものではございません。
 すべて私の世界、日本の基準でございます。

「さわこの世界って、このような服装がお洒落なのですわね……少し不思議な感じですわ」
 胸の部分がV字にカットされている服を身につけておられるラニィさんは、その胸元をお気になさりながらも、その服そのものはとても気に入っておられるようです。

 そんな中……
「さーちゃん、これ似合ってるにゃ?」
 ベルもまた、いつもの格好よりも少々お洒落な服を身につけております。
「えぇ、とても可愛いですよ」
 私が笑顔でそう言いますと、ベルは
「にゃは」
 嬉しそうにその場で回転しておりました。

「じゃ、行きましょうか」
 全員が揃ったことを確認したバテアさんが、そう仰られますと右手を前に突き出されました。

 その手の先に魔法陣が展開いたしまして、さらにその先に大きな魔法陣が展開していきます。
 ほどなくして、その大きな魔法陣の中にドアが出現いたしました。
「さ、準備出来たわよ」
 そう言いながら、バテアさんがその扉を開けると、その向こうには私の世界が広がっていたのでございます。

◇◇

 お休みの今日……居酒屋さわこさんの面々は、私の世界で飲み会をすることになっておりました。

 この飲み会を主催してくれたのは、みはるでした。

 学生時代からの私の親友みはるなのですが、先日お店をリニューアルオープンしたばかりなのですが、
「さわことバテアさんが持って来てくれたパワーストーンのおかげで、リニューアル直後から大盛況なのよ」
 とのことでございまして、
「ぜひお礼をさせてよ。リニューアルオープンのお祝いを兼ねて飲み会でもしない? さわこのお店の従業員全員招待するわよ。もちろん全部アタシの奢り」
 そう、申し出てくれたのでした。
「何を言っているのみはる。お祝いなんだし、むしろこっちが奢らせてもらわないと……」
 当然、私はそう申し出ました。

 何しろ、みはるが私とバテアさんがパルマ世界から持参しております魔石を、パワーストーンとして彼女のお店で販売してくれて、その何割かを私達に還元してくれているおかげで日本世界での仕入れの代金を稼ぐことが出来ているのですから、むしろ私の方がみはるに感謝しきりなわけでございます。

 ですが、

「さわことバテアさんが持って来てくれてるパワーストーンのおかげでリニューアル出来たようなもんなんだから、ここは大人しく奢られなさい!
 そう言うみはるに、最後は押し切られた次第でございます。

 いつものビル街の隙間の奥にある転移ドアの出口をくぐって、日本世界へとやってきた私達は、
「さ、こちらです」
 私の案内で、夕方の歩道を移動していきました。

 日本でも、今日は日曜日でございます。

 夕焼けがビル街を照らしている中を、私達はゆっくり歩いて移動しております。
「……この匂いは苦手にゃ」
 ベルはそう言いながら道路の中へ視線を向けています。
 そこを、たくさんの車が行き来しているのですが、その背後からは排気ガスが排出されております。
 エコカーなども増えてはいるものの、その独特の臭いが全くなくなったわけではございません。
 牙猫ゆえに、臭いに敏感なベルはこの臭いが大嫌いなんです。

 同時に、ベルは煙草の臭いも全く駄目です。
 時折、歩き煙草の方とすれ違うことがござますと、
「うにゃあ……」
 私の腕に抱きつきながら、背後に隠れるようにしてしまいます。

「こら、そこの男」
「あ?」
「『あ?』ではない。歩き煙草はマナー違反であろう。みろ、そこのお嬢さんが嫌がっているではないか。人の迷惑になるような行為は、この雪花、見逃すわけにはいかん」
 そんな中、歩き煙草をなさっていた男性に、一言言ってくださった方がおられました。
 その言葉を受けた男性は、渋々といったご様子で煙草を近くに投げ捨てようと、
「馬鹿者! 携帯灰皿も持ち歩かずに歩き煙草をしていたのか! ほれ、そこのコンビニのところにある灰皿まで行かぬか!」
 なさった男性に対し、その方は声を荒げながら、その男性を近くのコンビニまで連れていかれた次第でございます。

「へぇ、なかなかしっかりした人もいるじゃないの」
 その方の後ろ姿を見送られながら、バテアさんはその顔に笑顔を浮かべておられました。

 煙草の臭いは、実はバテアさんも苦手なものですから、余計に嬉しかったのかもしれませんね。

◇◇

 しばらく歩道を歩いた私達ですが、
「……あ、あそこですね、指定されたお店」
 私は、とあるビルの一階の看板を指刺しました。

 創作居酒屋そのまんまや

 なんでも、みはるが最近お気に入りのお店なんだそうです。

 小洒落た扉をくぐり、店の中へ入っていく私達。
「いらっしゃいませ」
 すぐに、若い女性の店員が駆け寄って来ました。
「あの、予約している長門みはるの連れの者なのですが」
「はい、承っております。お部屋、こちらになりますのでご案内いたしますね」
 笑顔でそう言うと、その女性は大きく手を動かして、部屋の場所を指し示しながら私達を先導してくださいました。
「ふーん、こういうお出迎えの仕方もあるのね、とってもスタディになるわ」
 その女性の仕草に視線をむけながら、エミリアが何度も頷いていました。

 居酒屋さわこさんで、主にご来店なさったお客様のお出迎えと席への誘導を行ってくれているエミリアだけに、このお店の従業員の接客方法が気になったのでしょう。

 私といたしましては、せっかくのお休みなんだし、今日くらいはお店のことは忘れてのんびり料理とお酒を満喫してほしいと思うのですが……かく言う私も、きっと料理やお酒が出てくると、
「ふ~む、この調理方法は……」
「この隠し味は何かしら……」
 などと、あれこれ考え始めてしまうのがわかっておりますので、あえてこの場では何も言いませんでした。

 みはるが準備してくれていたのは個室でした。
 
 少し広めの部屋の中には、すでにみはるが到着していました。
「みはる、今日は招き頂きましてありがとうございます」
「もう、さわこってば他人行儀ね。そんな堅苦しいのは抜き抜き」
 頭を下げる私の手を、みはるは笑顔で引っ張りました。
 そのまま、みはるの隣の席へと着席していく私。
 その横にバテアさんが座ろうとなさったのですが、
「さーちゃんの隣はベルにゃ!」
 そう言いながらベルが私の隣の席へと滑り込みました。
 これを受けまして、バテアさんはみはるの向かいの席へ。
 その横に、ラニィさん、リンシンさんが着席なさいました。
 エミリアが角の1人席に腰をおろし、それでちょうど全員が席に着きました。

 それを確認したみはるは、
「じゃ、早速乾杯の飲み物を注文しましょうか……って、さわこは今日も日本酒から?」
「えぇ、もちろん」
 みはるの言葉に、私はさも当然とばかりに返答いたしました。
 
 乾杯といえば、確かにビールが一般的かもしれません。
 ですが、私はどんな時でも日本酒でございます。

 ここは譲れません。

「そう言うと思ってたわ。大丈夫よ、この店は日本酒の種類も充実してるから」
 みはるはそう言いながら、自分の席の横にある受話器を使って注文をしていきました。

 ほどなくして、私達の個室に飲み物が運ばれてきました。

 私は日本酒。
「山田錦の新酒が入ってたから、それにしたわよ」
「ありがとう、みはる。大好物よ」
 みはるの言葉に、私は満面の笑みでこたえました。

 バテアさん・リンシンさん・ラニィさんには、とりあえずビールを体験してもらうことにいたしました。
 エミリアとベルは、果汁100パーセントのオレンジジュースを注文してあります。
 エミリアは、日本ではまだお酒が飲めない年齢ですし、ベルは酔っ払ってしまうとすぐに猫の姿になって寝てしまいますので、それは避けないといけません。
「みんな行き渡ったかしら? じゃあ、乾杯ってことで!」
 挨拶もそこそこに、みはるがジョッキを掲げました。
 そこに、私達も
「「「乾杯!」」」
 と、声をあげながら手に持ったグラスやジョッキを互いに当てていきました。

ーつづく
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