123 / 343
連載
さわこさんと、日本世界での飲み会 その1
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
今日は居酒屋さわこさんはお休みの日です。
日中の私達は、
中級酒場組合の皆様の料理教室を行った私。
そんな私に同行していたベル。
他の世界へ薬草採取に出かけたバテアさん。
狩りの武具の手入れをなさったリンシンさん。
姉のアミリアさんのお仕事を手伝ったエミリア。
ワノンさんの酒造工房の手伝いをなさったラニィさん。
このような感じで各自の時間をすごした私達でございますが、夕方……いつもであれば居酒屋さわこさんの開店準備を始める頃合いに、バテアさんの家の2階にございますリビングへと集合いたしました。
「お待たせいたしまして申し訳ございません」
最後に部屋へ入って来たのはラニィさんでした。
「いえいえ、時間ぴったりですよ」
そんなラニィさんに、私は笑顔でお答えいたしました。
そんな私の視線の先におられますラニィさんですが、いつもよりも少しお洒落な服を身にまとっておられます。
それは、ラニィさんだけではございません。
エミリアも、リンシンさんも、バテアさんも、いつものラフな格好よりも幾分お洒落な服装をお召しになられておいでです。
そのお洒落の基準も、この異世界パルマのものではございません。
すべて私の世界、日本の基準でございます。
「さわこの世界って、このような服装がお洒落なのですわね……少し不思議な感じですわ」
胸の部分がV字にカットされている服を身につけておられるラニィさんは、その胸元をお気になさりながらも、その服そのものはとても気に入っておられるようです。
そんな中……
「さーちゃん、これ似合ってるにゃ?」
ベルもまた、いつもの格好よりも少々お洒落な服を身につけております。
「えぇ、とても可愛いですよ」
私が笑顔でそう言いますと、ベルは
「にゃは」
嬉しそうにその場で回転しておりました。
「じゃ、行きましょうか」
全員が揃ったことを確認したバテアさんが、そう仰られますと右手を前に突き出されました。
その手の先に魔法陣が展開いたしまして、さらにその先に大きな魔法陣が展開していきます。
ほどなくして、その大きな魔法陣の中にドアが出現いたしました。
「さ、準備出来たわよ」
そう言いながら、バテアさんがその扉を開けると、その向こうには私の世界が広がっていたのでございます。
◇◇
お休みの今日……居酒屋さわこさんの面々は、私の世界で飲み会をすることになっておりました。
この飲み会を主催してくれたのは、みはるでした。
学生時代からの私の親友みはるなのですが、先日お店をリニューアルオープンしたばかりなのですが、
「さわことバテアさんが持って来てくれたパワーストーンのおかげで、リニューアル直後から大盛況なのよ」
とのことでございまして、
「ぜひお礼をさせてよ。リニューアルオープンのお祝いを兼ねて飲み会でもしない? さわこのお店の従業員全員招待するわよ。もちろん全部アタシの奢り」
そう、申し出てくれたのでした。
「何を言っているのみはる。お祝いなんだし、むしろこっちが奢らせてもらわないと……」
当然、私はそう申し出ました。
何しろ、みはるが私とバテアさんがパルマ世界から持参しております魔石を、パワーストーンとして彼女のお店で販売してくれて、その何割かを私達に還元してくれているおかげで日本世界での仕入れの代金を稼ぐことが出来ているのですから、むしろ私の方がみはるに感謝しきりなわけでございます。
ですが、
「さわことバテアさんが持って来てくれてるパワーストーンのおかげでリニューアル出来たようなもんなんだから、ここは大人しく奢られなさい!
そう言うみはるに、最後は押し切られた次第でございます。
いつものビル街の隙間の奥にある転移ドアの出口をくぐって、日本世界へとやってきた私達は、
「さ、こちらです」
私の案内で、夕方の歩道を移動していきました。
日本でも、今日は日曜日でございます。
夕焼けがビル街を照らしている中を、私達はゆっくり歩いて移動しております。
「……この匂いは苦手にゃ」
ベルはそう言いながら道路の中へ視線を向けています。
そこを、たくさんの車が行き来しているのですが、その背後からは排気ガスが排出されております。
エコカーなども増えてはいるものの、その独特の臭いが全くなくなったわけではございません。
牙猫ゆえに、臭いに敏感なベルはこの臭いが大嫌いなんです。
同時に、ベルは煙草の臭いも全く駄目です。
時折、歩き煙草の方とすれ違うことがござますと、
「うにゃあ……」
私の腕に抱きつきながら、背後に隠れるようにしてしまいます。
「こら、そこの男」
「あ?」
「『あ?』ではない。歩き煙草はマナー違反であろう。みろ、そこのお嬢さんが嫌がっているではないか。人の迷惑になるような行為は、この雪花、見逃すわけにはいかん」
そんな中、歩き煙草をなさっていた男性に、一言言ってくださった方がおられました。
その言葉を受けた男性は、渋々といったご様子で煙草を近くに投げ捨てようと、
「馬鹿者! 携帯灰皿も持ち歩かずに歩き煙草をしていたのか! ほれ、そこのコンビニのところにある灰皿まで行かぬか!」
なさった男性に対し、その方は声を荒げながら、その男性を近くのコンビニまで連れていかれた次第でございます。
「へぇ、なかなかしっかりした人もいるじゃないの」
その方の後ろ姿を見送られながら、バテアさんはその顔に笑顔を浮かべておられました。
煙草の臭いは、実はバテアさんも苦手なものですから、余計に嬉しかったのかもしれませんね。
◇◇
しばらく歩道を歩いた私達ですが、
「……あ、あそこですね、指定されたお店」
私は、とあるビルの一階の看板を指刺しました。
創作居酒屋そのまんまや
なんでも、みはるが最近お気に入りのお店なんだそうです。
小洒落た扉をくぐり、店の中へ入っていく私達。
「いらっしゃいませ」
すぐに、若い女性の店員が駆け寄って来ました。
「あの、予約している長門みはるの連れの者なのですが」
「はい、承っております。お部屋、こちらになりますのでご案内いたしますね」
笑顔でそう言うと、その女性は大きく手を動かして、部屋の場所を指し示しながら私達を先導してくださいました。
「ふーん、こういうお出迎えの仕方もあるのね、とってもスタディになるわ」
その女性の仕草に視線をむけながら、エミリアが何度も頷いていました。
居酒屋さわこさんで、主にご来店なさったお客様のお出迎えと席への誘導を行ってくれているエミリアだけに、このお店の従業員の接客方法が気になったのでしょう。
私といたしましては、せっかくのお休みなんだし、今日くらいはお店のことは忘れてのんびり料理とお酒を満喫してほしいと思うのですが……かく言う私も、きっと料理やお酒が出てくると、
「ふ~む、この調理方法は……」
「この隠し味は何かしら……」
などと、あれこれ考え始めてしまうのがわかっておりますので、あえてこの場では何も言いませんでした。
みはるが準備してくれていたのは個室でした。
少し広めの部屋の中には、すでにみはるが到着していました。
「みはる、今日は招き頂きましてありがとうございます」
「もう、さわこってば他人行儀ね。そんな堅苦しいのは抜き抜き」
頭を下げる私の手を、みはるは笑顔で引っ張りました。
そのまま、みはるの隣の席へと着席していく私。
その横にバテアさんが座ろうとなさったのですが、
「さーちゃんの隣はベルにゃ!」
そう言いながらベルが私の隣の席へと滑り込みました。
これを受けまして、バテアさんはみはるの向かいの席へ。
その横に、ラニィさん、リンシンさんが着席なさいました。
エミリアが角の1人席に腰をおろし、それでちょうど全員が席に着きました。
それを確認したみはるは、
「じゃ、早速乾杯の飲み物を注文しましょうか……って、さわこは今日も日本酒から?」
「えぇ、もちろん」
みはるの言葉に、私はさも当然とばかりに返答いたしました。
乾杯といえば、確かにビールが一般的かもしれません。
ですが、私はどんな時でも日本酒でございます。
ここは譲れません。
「そう言うと思ってたわ。大丈夫よ、この店は日本酒の種類も充実してるから」
みはるはそう言いながら、自分の席の横にある受話器を使って注文をしていきました。
ほどなくして、私達の個室に飲み物が運ばれてきました。
私は日本酒。
「山田錦の新酒が入ってたから、それにしたわよ」
「ありがとう、みはる。大好物よ」
みはるの言葉に、私は満面の笑みでこたえました。
バテアさん・リンシンさん・ラニィさんには、とりあえずビールを体験してもらうことにいたしました。
エミリアとベルは、果汁100パーセントのオレンジジュースを注文してあります。
エミリアは、日本ではまだお酒が飲めない年齢ですし、ベルは酔っ払ってしまうとすぐに猫の姿になって寝てしまいますので、それは避けないといけません。
「みんな行き渡ったかしら? じゃあ、乾杯ってことで!」
挨拶もそこそこに、みはるがジョッキを掲げました。
そこに、私達も
「「「乾杯!」」」
と、声をあげながら手に持ったグラスやジョッキを互いに当てていきました。
ーつづく
10
お気に入りに追加
3,678
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。