異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記

鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)

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さわこさんと、秋の森 その3

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イラスト:NOGI先生

 お昼ご飯を終えた私達は、それからしばらく森の中で収穫を行っていきました。

 少々残念だったのは、このあたりの森には秋になっても紅葉するような木がないことでしょうか。
「にゃ? 赤くなるにゃ?」
「えぇ、そうなんですよベル。そんな木が私が以前住んでいた世界にはあるんです」
「まるで火事みたいにゃ」
「ふふ、そう見えてしまうかもしれませんね」
 私にくっついて森の中を歩いているベル。
 そんなベルと私はそんな会話を交わしながら森の中を歩いておりました。

 バテアさんも、薬草などを採取なさっておいでです。
 そして、その手にはバニラ最中が握られています。
 なんと言いますか、バテアさんってば本当にバニラ最中がお好きですね。

 それでいて、あの体型を維持なさっておられるのですから……なんと言いますか、ホントにうらやましいと申しますか……

 見事なまでにボンキュボンなスタイルのバテアさん
 一方、見事にストーンな私……

 少々落ち込んでしまった私ですが、その後も収穫を頑張った次第でございます。

◇◇

 家に戻った私は、早速収穫してきた品々に手を加えることにいたしました。

 一番多く収穫してきましたカルキから手をつけていきます。
 
 まずへたをハサミで切りまして皮を剥いていきます。枝の部分は残し気味にいたします。
 次に、カルキを吊るすためのロープに柿の上部に残しております枝を挟み込んでいきます。
 それを、風通しのいい日陰に並べて干していきます。

 直射日光にあてますと変色やカビの原因になってしまいますので、くれぐれも日陰で干すのが大事です。

 今日はかなりの数のカルキを収穫してきましたので、干したカルキもかなりのものになりました。
 家の裏手が、一面オレンジ色に染まった感じですね。

 今回、この柿もどきな果物、カルキを大量に収穫出来たのには理由がございます。
 ベルが嫌がったように、このカルキはとても渋いわけです。
 そのため野生の魔獣達もあまり食べないのです。
 そのおかげで大量に残っていたものを、私達が収穫してきたものですから、結果的に大量に収穫出来たわけでございます。

 栗によく似たバックリンも、実の周囲をイガが覆っておりますし、実を覆っている渋皮が、私の世界の栗どころではなく渋いものですから、こちらも魔獣達に敬遠されて大量に残っていた次第です。

 バックリンに関しましては、渋皮をかなり厚めに剥きまして、それを大量の水に浸していきます。
 このバックリンは私の世界の栗よりも二回りくらい実が大きいので、少々厚めに渋皮を剥きましても問題ありません。
 渋皮をむき終わったバックリンを大量の水に2,3時間も浸しておけばかなり渋みがとれます。
 念のために、流水を注いでおき、水が入れ替わるように配慮しております。

 そのような作業を行っている私を見ながら、バテアさんは苦笑なさっておいでです。
「なんというか、すっごくめんどくさいことをするのねぇ」
「はい、お客様に少しでも美味しく召し上がって頂くためですので、手間暇は惜しみません」
 私は、笑顔でお返事を返しながら、バックリンを剥き続けています。

 ベルも手伝ってくれようとしたのですが……ベルの場合、包丁をほとんど使用したことがございませんので、今度子供用の包丁を私の世界で購入してまいりまして一緒に練習していこうかな、と、思っている次第です。

 そのベルですが……

 先ほどまでは私の周囲をウロウロしながら、私の作業を眺めていたのですが、どうやらそれに飽きたらしく、今は猫の姿へ変化いたしまして、カウンターの端に置いてあります座布団の上で気持ちよさそうに寝息をたてています。

 夕方の時間ですと、ちょうど夕日があたりますのでとても居心地がいいみたいです。

 バテアさんも、そんなベルを横目で見つめながら楽しそうに微笑んでおいでです。

 そんな中、私は今日の収穫の下ごしらえに加えまして、居酒屋さわこさんでお出しする料理の下ごしらえも行っていったのでございます。

◇◇

 ほどなくいたしまして本日も居酒屋さわこさんが開店いたしました。

 同時に、お店の中には土鍋ご飯が炊き上がっていく匂いが充満しております。
 この匂いは、換気扇を通してお店の前にございます街道側へと排出されております。

「おほ、今日もいい匂いをさせておるの!」
 本日一番のりをなさったドルーさんが、満面の笑顔でそう仰いました。
 その後方には、ドルーさんのお弟子さん達が続いておられます。
「いらっしゃい、今日はテーブル席でトゥゲザーね?」
「おう、よろしく頼むわい、エミリアよ」
「オーケー、じゃ、こっちに来て」
 来店なさったお客さんを真っ先にお出迎えしてくれるエミリアが、ドルーさん達をテーブル席に案内していきます。

 お店に入って左側。
 厨房に近いテーブル席がドルーさん達の指定席のようになっております。

 ドルーさんは、週に3回、1日おきにお弟子さん達を連れてご来店なさいます。
 エミリアもそれを把握しておりますので、該当日には必ずこの席を空けています。
 
 カウンター席も、主に常連の皆さんで占められます。

「さわこ、来たわよ」
 いつものように元気に店内に入ってこられるのはゾフィナさんです。
 ゾフィナさんは、ほぼ毎日、比較的開店してすぐの時間にご来店なさいます。
 
 そして

「さわこ、いつものをお願いね」
「はい、喜んで」
 私は、その言葉をお聞きする前から、すでに切り餅を焼き始めております。

 何しろ、ゾフィナさんはぜんざいしかご注文なさいませんので。

 それも、毎晩最低でも5杯はお食べになられます。
「この店のぜんざいを食べるために、私は仕事をしているようなものなのよね」
 切り餅を焼いている私の方へ視線をお向けになられながら、ゾフィナさんは満面笑顔を浮かべておられます。

「おいおいゾフィナよ。たまには焼き鳥も食ってみんか? さわこが焼いた焼き鳥は絶品じゃぞ」
「遠慮するわ。その分ぜんざいをいただくから」
 時折、ドルーさんをはじめとした他の常連客の皆様が、ゾフィナさんに他の食べ物をお勧めになることもあるのですが、毎回ゾフィナさんはきっぱりお断りなさっておいでです。

 とはいえ、ドルーさんもそれは承知の上でお声をかけておいでですので、
「もったいないのぉ、こんなに美味いのに」
 そう仰られながら、リンシンさんに運んでいただいたばかりのクッカドウゥドルの焼き鳥を口に運んでおられます。

 すると、すかさずバテアさんがドルーさん達のテーブルへ歩み寄っていかれます。
「それに、美味しいお酒もあるのにねぇ」
 そう言われておりますバテアさんの手には日本酒加賀美人の瓶が握られています。
「うむうむ、焼き鳥にはこの酒がホントにあうでなぁ」
 そう言いながら、ドルーさんは笑顔でグラスをバテアさんへ差し出していかれます。
 そこに、バテアさんが日本酒を注いでいかれます。

 とはいえ、その様子を横目で確認なさったゾフィナさんは
「うむ、その酒が美味いことは否定しない。だが私にはこれがある」
 そう言って、右手でかかげられたのは甘酒です。

 ぜんざいをお食べになるゾフィナさんは、必ず甘酒を一緒にお飲みになられます。

 そんなゾフィナさんを見つめながらドルーさんは
「よくもまぁ、そんなに甘い物ばかり口に出来るのぉ」
 そう言いながら、日本酒をあおっておられます。

「そうねぇ、甘い物はたまにならいいけどさ、ゾフィナさんみたいに毎回大量にだと私でもちょっときついかな」
 そんなゾフィナさんの隣の席に、いつのまにかツカーサさんのお姿がございました。

 ご近所にお住まいのツカーサさんは、ほとんど毎日、朝と夜、お店に顔を出してくださいます。

「オー……シット! 今日もツカーサをお出迎え出来なかったわ」
「あはは、エミリアちゃんお構いなく」
「そうはいかないわ、接客は私のジョブなのよ、次回こそ……」
 エミリアがそう言っているように、ツカーサさんは、誰の目にとまることもなく店内に入ってこられます。

 その手法は、もう忍者とでも申しましょうか……

 そんなツカーサさんとエミリアのやり取りを、苦笑しながら聞いておりますと、徐々にお店にお客様が増えてまいりました。

 どうやら、今夜もたくさんの皆様にお越しいただけそうです。

ーつづく
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