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さわこさんと、バテアさんのお弟子志願の その4

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イラスト:NOGI先生

 ……昨夜は本当に大変でした。

 私が花火セットを持ち出した途端に
「さわこ師匠!」
 私のことをそう呼び始めたラパーナさんは、
「さわこ師匠! もっと他にはないっぽい!っぽい!」
 と、その尻尾を千切れんばかりに振りながらカウンター席にかぶりつき続けた次第でございます。

 幸い、あと2袋ほど善治郎さんから頂きました花火セットがございましたので、
「これでよろしければ差し上げますよ」
 そう申し出ましたところ、ラパーナさんは、
「ぽいいいいいいいいいいいいい!」
 そう歓喜の声を上げながら喜んでくださった次第でございます。

 私から追加の花火を手に入れることが出来たラパーナさんは、
「これを研究して科学魔法をさらに極めるっぽい!」
 そう言いながら、すぐにお店を出て行こうとなさったのですが、
「ちょっとあんた。もう今日は夜遅いんだから、帰るのは明日にして今日は泊まっていきなさい」
 バテアさんの一言によりまして、ラパーナさんは、一晩お泊まりになられた次第でございます。

◇◇

 その夜、いつものようにみんなで晩酌をした私達。
 ラパーナさんもその輪に加わっていたのでございますが、
「あはは、さわこ師匠が5人いるっぽい~」
 お酒を一口、口に含んだだけで、真っ赤になって倒れ混んでしまったのでございます。
「あ~……そうだった。この子ってば、お酒がからっきしだったのよねぇ」
 真っ赤になって倒れこんでしまったラパーナさんを見つめながら、バテアさんはそうおっしゃった次第でございます。

 結局、この日のラパーナさんは、リンシンさんとラニィさんと一緒に寝て頂くこと人いたしまして、先にお布団へと運ばせていただいた次第です。

 そうして、改めて飲み直しをはじめた私達なのですが、
「ところでバテアさん」
 ここで私は、少し疑問に思ったことをバテアさんに質問させていただきました。
「ラパーナさんはしきりと『科学魔法』という言葉を口になさっていたのですが……その科学魔法というものは一体何なのですか?」
「あぁ、科学魔法ね」
 私の言葉に、バテアさんは小さく頷かれました。
「科学魔法を最初に定義したのはスア師匠よ。定義としては……そうね、簡単に言えば、魔力を消費することなく使用することが出来る魔法って感じかしらね」
「魔力を消費しない……ですか?」
「そう、さまざまな薬品を調合し、生成することで様々な反応を起こさせて、その反応を研究して全く新しい物質を作り出していく、そんな魔法のことね」
「へぇ、そうなんですか」
 バテアさんが、かなりわかりやすく説明してくださったおかげで、私もなんとなくですが理解出来たような気がいたしました。

 ちなみに……
 ラパーナさんは、魔法関連の知識は相当お持ちなのだそうですが、残念なことに体内に有しておられる魔力量が非常に少ないため、一般的な魔法がほとんど使えないのだそうです。

「そんなラパーナにね、科学魔法を教えてあげたのがスア師匠だったわけ」
「あぁ、そうですね。魔力を用いないのであれば、そういったご事情をお持ちのラパーナさんでも魔法の研究が出来ますものね」
 私は、バテアさんのお言葉に頷いた次第でございます。

 そんな中、たまたま私の世界で入手なさった花火をラパーナさんにお譲りしたバテアさん
「そうなのよ……あの日からずっと、アタシはあの子に『師匠』呼ばわりされててさぁ」
 お酒を飲みながら苦笑なさっていたのですが、
「ま、これからはさわこが新しい師匠になるわけだしね、ホント助かったわ」
 そう言いながら笑っておられます。
「ちょ、ちょっと待ってください。私も、花火をたまたま所持していただけでですね、その生成方法などを知っている訳ではございませんし……」
 バテアさんのお言葉に、必死になって顔を左右に振った私。
 ですが、そんな私にバテアさんは、
「ふふふ……そんなことはどうでもいいのよ、あの子にとってはね。自分の研究に有意義な品物を提供してくれる人は全員師匠になっちゃうんだから」
 しかも、バテアさんのお話によりますと、ラパーナさんはそういった品物を直近でお譲りした方に一番つきまとわれるのだそうでございまして……
「……もう、先にそのお話をお聞きしておりましたら、バテアさんを通じてお渡ししてもらいましたのに……」
 私は少し頬を膨らませながらそう行った次第でございます。

 そんな私を見つめながら、バテアさんは
「まぁまぁ、そんなに怒らないでよ、さわこ師匠」
 そう言いながらグラスの酒を飲み干されたのでした。

◇◇

 晩酌を終えましてベッドへと入った私は、すぐ下に敷いてある布団の中で寝息をたておられますラパーナさんへ視線を向けました。

 バテアさんのお話によりますと、このラパーナさんは、バテアさんからもらった花火を元にしてあのダイナマイトのような筒を開発しているそうなのです。
 しかし、あの筒が本当に私の世界でいうところのダイナマイトなようなものなのでしたら……そんなことを考えておりますと、私は少し憂鬱な気分になってしまいました。

 私の世界でのダイナマイトは、工事現場などで大変重要な働きをしております。
 ですが、その一方では、使用方法を誤れば一度に大勢の命を奪ってします……そんな一面も持ち合わせているのです。

 ……ラパーナさんには申し訳ないのですが、花火の提供はこれで最後にさせていただいた方がいいのかしら

 私は、そんなことを考えていた次第でございます。

「にゃ?」
 そんなことを考えておりますと、私とバテアさんの間で猫の姿で丸くなっていたベルが、人の姿に変化して私の顔を覗き込んできました。
「さーちゃん、どうしたにゃ? なんか困ってるにゃ?」
 そう言いながら、私の上にのしかかりながら、さらに顔を覗き込んでくるベル。
 私は、そんなベルを優しく抱き寄せました。
「いえ、なんでも無いのですよ」
「にゃ……ならいいんにゃけど」
 そう言いながら、ベルは私の胸へ顔を寄せました。
 私は、そんなベルの頭を撫で続けた次第でございます。

◇◇

 翌朝になりました。
「ぐぎぎぎ……っぽい……」
 寝ぼけたリンシンさんに抱きしめられまして……いわゆる鯖折り状態になっているラパーナさんの悲鳴で目が覚めた私達は、まずリンシンさんを起こしましてラパーナさんをお助けすることから始まった次第でございます。

 どうにかラパーナさんを救出することが出来た私達。
「まったく、リンシンのこの寝癖にも困ったものね」
「えぇ、本当ですね」 
 ラパーナさんをがっちりと抱え込んでいるリンシンさんの腕をひっぱりながら、私とバテアさんは苦笑しながら両腕に力を込めた次第でございます。

 その後、さわこの森の皆様と一緒に朝ご飯をお食べになられたラパーナさんは、
「っぽい! すっごく美味しいっぽい!」
 私に向かって満面の笑みでそう言ってくださったのでした。

 そうですね。
 難しいことはよくわかりませんけれども、料理のことでこうして喜んで頂けるのが、私は一番嬉しく思います。

ーつづく
 
 
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