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さわこさんと、バテアさんのお弟子志願の その3

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イラスト:NOGI先生

 牙猫のベルと、犬人のラパーナさん。
 
 その種族ゆえなのでしょうか……仕込みをしている私の前のカウンター席では、互いに端の席に座っているベルとラパーナさんが視線をバチバチとぶつけ合っておられました。

「ほらラパーナ、そんな顔しない。何子供みたいな喧嘩してるのよ」
「でもでも……悪いのはあっちっぽい?」
 ラパーナさんは、その顔に不服そうな表情を浮かべながらベルへ視線を向けています。

「ほらベル。あなたもですよ。ラパーナさんと仲良くしてください」
「にゃ、いくらさーちゃんのお願いでも、これは聞けにゃいにゃ」
 私の言葉に、ベルはそう言うと、ふー!っと威嚇音を口から発している次第です。
 当然、首のあたりにございます毛は思いっきり逆立っている始末でして……

 私は、思わずバテアさんへ視線を向けました。
 
 ラパーナさんの後ろに立っておられるバテアさんは、そんな私の視線に気が付かれますと、
『これはお手上げね』
 とばかりに肩をすくめておいでです。

 そんなわけで、一向に関係改善の見込みが見いだせないベルのラパーナさんだった次第でございます。

◇◇

 そんなわけで、ベルとラパーナさんを仲良くさせることは一旦諦めまして……

 まず、バテアさんがラパーナさんとお話をすることにいたしました。
「で? あんなに慌てて私に会いに来たのって、何があったってのよ?」
 カウンター席、ラパーナさんの隣に座ったバテアさんの言葉に、ラパーナさんはようやく顔を輝かせました。

 何しろ、つい先ほどまでベルと威嚇し合っていた次第でして、今仁もベルに向かって飛びかかりかねないような表情をなさっていましたものですから……

「っぽい! バテア師匠に見てもらいたいっぽい! 新しい科学魔法が完成したっぽい!」
 ラパーナさんはそう言うと、カウンターの上に魔法袋の中から取り出した物を並べていきました。

 それは、ラパーナさんが先ほど手に持たれていた筒によく似ています。
 やはりそれらは私の世界で言いますところの、ダイナマイトのような気がしないでもありません。

 私が、厨房の中からその筒へ視線を向けておりますと、その視線に気が付いたらしいバテアさんが、
「このラパーナはね、薬品を調合する科学魔法を得手にしているのよ。特にね、硫黄や硝石なんかを調合して生成する、この爆裂魔法筒の生成を得意にしているの」
「っぽい!」
 バテアさんに紹介してもらえたおかげでしょうか、ラパーナさんはご機嫌な様子で私に向かって笑顔で右手をあげられました。

 ……しかし、これはどういうことなのでしょうか?

 薬品を調合して生成するとなりますと……やはりその筒はダイナマイトそのものということではないでしょうか?
 私自身、そういった爆薬の生成に精通しているわけではございませんので断言は出来ないのですが……そのような気がしてなりません。

 そんな事を考えながら、机上の筒を見つめている私。
 そんな私の前で、ラパーナさんはその筒を1つ手に持たれまして
「っぽいっぽい!見て欲しいっぽい!」
 その顔に満面の笑顔を浮かべながら、その筒をバテアさんの眼前へと差し出しておられました。

 そんなラパーナさんの前で……バテアさんはなぜか苦笑なさっておいでです。

「だからさ、ラパーナ。アタシは科学魔法は苦手だって、ずっと言ってるでしょ? それがどんなにすごい物なのかは、私にはまったく想像もつかないし判断も出来かねるのよ」
 バテアさんはそう言いながら、ラパーナさんが手になさっている筒を両手で押し返そうとなさっておいでです。
「あら? そうなのですね……」
 バテアさん言葉をお聞きした私は、思わずそんな言葉を口にしてしまいました。

 私の中でのバテアさんと言いますと……もう、なんといいますか完璧魔法超人とでももうしましょうか……
 魔法のことならなんでもござれ、な、お方といった印象しかございません。
 だからこそ、ラパーナさんにここまで慕われているのでしょう、と、内心で納得していた次第でございます。

 そんな私の前で、バテアさんは少し困った表情をその顔に浮かべられました。
「アタシはスア師匠のようになんでも究極的にこなせる魔法使いじゃないわ。防御魔法と転移魔法に特化してるだけ……出来ることしか出来ないわよ。ラパーナが得意にしている科学系の魔法はホント苦手なのよねぇ」
「そんなことないっぽい! バテア師匠はすごい科学魔法を使えるっぽい!」
 バテアさんの前で、ラパーナさんはぶんぶんと顔を左右に振っています。
「あの科学魔法を見たその日から、ラパーナはバテア師匠に一生ついていくと決めたっぽい!」
「だから、この極彩色の光りを発する科学魔法の棒は、どこかの世界でたまたま手に入れただけでアタシが作ったものじゃ無いって何度も言ってるでしょう?」
 そう言いながら、バテアさんはご自分が腰につけておられます魔法袋の中から取りだした何かをラパーナさんへ押しつけておいでです。

「え?」
 その何をを拝見した私は、思わず目が点になってしまいました。
「……それって、花火セット、ですか?」

 はい、そうなんです。
 バテアさんが手に持たれているのは……間違いございません、私の世界で普通に販売されています花火の詰め合わせなのでございます。

 手持ち花火のセットで間違いございません。
 袋に入っているその花火セットには『ファミリーパック』と書かれた紙が入っております。

 そんな私の言葉を耳になさったバテアさんとラパーナさんは、同時に私へ視線を向けてこられました。
「ちょ!? さわこ、この科学魔法のことを知ってるの!?」
「っぽい!?っぽい!?」
 お2人は目を丸くなさりながら私へ視線を向けてこられました。
 カウンター越しですが、厨房の中におります私に向かって上半身を乗り出してこられている次第なのです。
「はぁ……多分……」
 そんなお2人に少々たじたじになりながら、私はそうお返事させて頂いた次第でございます。

◇◇

 その夜のことでございます。

 お店の前で、ラパーナさんが花火をしておいでです。
「っぽい!っぽい!」
 手持ち式の花火を見つめながら。ラパーナさんは目を輝かせておいでです。
 感動のあまり、その尻尾をぶんぶんと左右に振っておられます。

 ラパーナさんが手にもたれている花火は、私が以前、善治郎さんに
「新しいお仲間さん達と、これでもして楽しみな」
 そう言っていただきましたお徳用の花火セットの中の1本なのでございます。

 私の魔法袋の中からこれを取り出した際に、バテアさんは
「そう! それよそれ!」
 そう言いながら目を丸くなさっておいででした。

「いやぁ、助かったわさわこ。この花火ってのをね、以前ラパーナに見せてあげたらすっかりその虜になっちゃってねぇ……もっとあれこれ見せてあげたいと思ったんだけど、あの頃のアタシは、これをどこで入手したのかさっぱり覚えてなくてねぇ」
「そうだったのですねぇ」
 バテアさんの言葉に、私は思わず苦笑してしまいました。

 いえね……善治郎さんから、この花火セットを頂いた際にはバテアさんもおられたのでございます。
 ですが、その際のバテアさんは善治郎さんから頂いたバニラアイスに夢中なご様子でしたので……

 なんと言いますか、バテアさんってばホントにバニラアイスに目がないのですね。
 目の前でやり取りされていた花火がまったく目に入っていなかったのですもの。

 バテアさんのお話によりますと……
 バテアさんから見せてもらった花火にすっかり魅了されてしまったラパーナさんは、その研究に没頭するようになったそうでして……自信作が出来あがると、今日のようにバテアさんに見てもらいに飛んでこられるのだそうです。
「そういうわけでさ。アタシはたまたま花火を手に入れただけで、詳しいわけじゃないんだけどさ。ラパーナってば一方的にアタシを師匠と崇め奉ってる始末なのよ」
 そう言うと、バテアさんは苦笑しながら大きなため息をつかれました。
「悪い子じゃないんだけどさ、思い込んだら一途というか……自信作が出来たらこっちの都合なんかおかまいなしでやってくるのが、ちょっとねぇ……」
「そういえばそうですね。今日も閉まっている戸を科学魔法で破壊なさろうとしたくらいですし」
 バテアさんのお言葉に、私は思い出し笑いをしてしまった次第でございます。

 そんな私とバテアさんの視線の先で、ラパーナさんは嬉しそうに花火を見つめておいでです。

「さわこ師匠! これホントにすごいっぽい!」
 ラパーナさんは満面の笑顔でそう言われています。
 私に向かって手を振られているのですが……ちょっとお待ちください。

 ラパーナさん、今、なんて言われました?

ーつづく
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