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連載
さわこさんと、バテアさんのお弟子志願の その1
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
「さわこ……提灯と暖簾、出した……」
着物姿に着替えられているリンシンさんが、そう言いながら居酒屋さわこさんの出入り口から店内へと入ってこられました。
「はい、ありがとうございます」
テーブルを拭いていた私は、その手を止めるとリンシンさんに向かって深々と頭を下げました。
開店作業を急ピッチで進めている居酒屋さわこさん。
一方、閉店作業が始まっているバテアさんの魔法道具のお店の方では、バテアさんが店内に陳列されている商品の詰まっている棚を魔法で片付けておられました。
ほどなくしてすべての棚が無くなると、そこに居酒屋さわこさん用のテーブルと椅子を魔法で並べてくださっています。
「オー、いつもだけど、ホントにバテアの魔法って便利よね」
レジのお金の確認をしていたエミリアが感心した表情をその顔に浮かべながら、魔法を使用なさっているバテアさんを見つめています。
「そういうエミリアも、結構な魔力を持っているんだし鍛えればいい魔法使いになれるんじゃない?」
バテアさんはそう言いながらエリアの側へと歩み寄っていかれました。
バテアさんの言葉を聞いたエミリアは、
「確かに魔法使役者としての素養は持っているけど、魔法のスタディよりも私にはこっちのスタディの方が向いているの」
そう言うと、エミリアは手にしていたそろばんをバテアさんに向けてかざしていきました。
バテアさんは、そんなエミリアを苦笑しながら見つめておられます。
「確かにその方がしっくり来るけどさ。まぁ、少しでも魔法に興味があったらいつでも相談なさい、アタシが直々に教えてあげてもいいからさ」
バテアさんはそう言うと、クスクス笑いながらエミリアの頭をポンポンと叩いておられました。
◇◇
「なんじゃ!? あのバテアが魔法を教えてやるとか言ったじゃと!?」
開店してしばらく経ちました居酒屋さわこさんの店内に、ドルーさんの声が響きました。
「イエス、そうだけど?」
そんなドルーさんを、カウンター席へと案内していたエミリアが怪訝そうな表情をその顔に浮かべてながら見つめています。
ドルーさんは、そんなエミリアを目を丸くしながら見つめ続けておられます。
「あ、当たり前じゃ、この女はの、今まで一度も弟子を取ったことがないんじゃぞ!? 今まで何人もの弟子志願者が訪ねて来ておるのじゃが、全て断っとるしの」
「ホワット!? そうなのバテア?」
ドルーさんの言葉を聞いたエミリアをお聞きしたエミリアもまた、その目を丸くしたながらバテアへ視線を向けました。
いつものように、肩を露わにした格好で着物を着ているバテアさんは、ドルーさんとエミリアへ交互に視線を向けられますと。
「ちょっとした気まぐれよ。そんなに大騒ぎするほどの事じゃないでしょ?」
そう言いながら、開店前の腹ごなしとばかりにバニラ最中を口になさっておいでです。
そんなバテアさんの横では、カウンターの端の机上に置いてある座布団の上で、猫の姿で丸くなっているベルが気持ちよさそうに寝息をたてておりました。
バテアさんは、そんなベルの頭を優しく撫でながら、
「それに、今まで弟子志願ってことでアタシの元にやってきた奴らってさ、そのほとんどが鍛える価値がない上に、やる気もほとんど感じられない奴らばっかりだったしね」
「どうだかのぉ。中には熱心にお前さんの元に弟子入り志願じゃと言って何度も通って来ておった嬢ちゃんもおったのに、無碍な態度で断り続けておったではないか」
カウンター席に座られたドルーさんの言葉に、バテアさんは苦笑なさっておられました。
「だからさ、あのラパーナにはそもそも致命的な……」
ドルーさんへ差し出したグラスに日本酒をそそがれていたバテアさん。
本日のお勧めは山田錦の特別純米酒でございます。
そのまま、言葉をお続けになられようとなさっていたのですが……
「バテア師匠ー!」
魔法道具の店の扉の方から、そんな声が聞こえてきました。
すでに、閉店作業を終えているためバテアさんの魔法道具のお店側の出入り口は施錠されております。
その戸を、誰かが外から引っ張っているのがわかります。
ガチャガチャと音がしていたのですが、施錠されているのに気が付かれたらしく、その向こうにおられる方は扉をドンドンドンと叩き始められたのでございます。
「げ!?」
その声をお聞きになられたバテアさんは、その顔に露骨に嫌悪の表情を浮かべられました。
「ほほう、噂をすればなんとやらじゃの。随分久しぶりにあの嬢ちゃんがお出ましじゃ」
そんなバテアさんを楽しそうに見つめているドルーさんがそうおっしゃいました。
「ラパーナさん……ですか?」
私は、ドルーさん・バテアさん・そして魔法道具のお店の扉をそれぞれ交互に見つめながら小首をかしげておりました。
そんな私へと視線を向けられたバテアさんは、相変わらずその顔に苦笑を浮かべておいでです。
「……そういえば、さわことエミリアは、まだラパーナに会ったことはなかったわね」
バテアさんはそう言うと、苦笑をお続けになりながら魔法道具のお店の扉を見つめておられます。
「とりあえず、扉をオープンするわね」
ドルーさんを席にお通ししたばかりのエミリアが、そう言いながら魔法道具のお店の扉へ向かって歩いていきました。
……そして、その時でございました。
エミリアが向かっている先……そこにございます魔法道具のお店の扉の外側で、まばゆいばかりの光りが輝いたかと思いますと、
どっごーん!
すさまじい音響が響いてまいったのでございます。
同時に、魔法道具のお店の扉が煙に包まれていたのです。
「な、なんですかぁ!?」
その光景に、私は思わず目を丸くいたしました。
エミリアとリンシンさんも、私同様に目を丸くしながら扉へと視線を向けておいでです。
そのあまりの衝撃音と振動を前にいたしまして、座布団の上で飛び起きたベルが私の足下へと駆け寄って来ましてしがみついております。
ドルーさんと、店内のテーブルを確認していたラニィさんも、その視線を魔法道具のお店の扉へ視線を向けておられます。
徐々に煙がはれてまいりました。
姿を現した魔法道具のお店の扉には、傷一つついておりません。
「そりゃそうよ。私が常時防壁魔法を展開してるんだしね。ラパーナごときでどうにか出来るわけないというか……」
そう言いながら、バテアさんは扉に向かって駆け足で歩み寄っていかれました。
私は、そんなバテアさんの後ろ姿を見つめながら
「ラパーナさん? じゃあ、先ほどの衝撃音とこの煙はラパーナさんの魔法なのですか?」
そんなことを口にしておりました。
その言葉をお聞きになられたバテアさんは、
「魔法? 違うわ」
そう言われながら、扉を開けられました。
すると……その扉の向こうに、1人の女性が倒れておられたのです。
「うきゅう……まぁた、配合に失敗しちゃったっぽい……」
その女性は、ゴホゴホと咳き込まれながら起き上がられたのですが……その手にお持ちになられている物に気が付いた私は、思わず目を丸くいたしました。
長細い筒の先に導火線のような物が伸びている物体を握っておられるラパーナさん。
その形状は……私の世界のダイナマイトにそっくりな気がいたします。
私自身、ダイナマイトの本物を見た事はございません。ドラマや映画の中で観たことがある程度の知識でございます。
その女性は、右手に持っているその筒へと視線を向けながら、
「やっぱり、ラパーナの科学魔法はまだまだっぽい」
そんな言葉を口になさっておいでです。
ーつづく
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