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連載
さわこさんと、ベルのはじめて その2
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
親友であり、いつも魔石をパワーストーンとして販売してくれていたみはるのお店の前で私は呆然と立ち尽くしていました。
いつもなら店が開いている時間ですのに、そのお店の前は白い化粧板で覆われています。
そしてその化粧板には、
「閉店のお知らせ」
そう、はっきりと明記されている張り紙がされていたのでございます。
「嘘……なんで……」
その張り紙を見つめながら、私はそう呟くのがやっとでした。
「あ、さわこ!」
その時でございます。
近くから声をかけられたような気がいたしました。
私がそちらへ視線を向けますと……そこに、みはるの姿があったのです。
「みはる!」
その姿を確認した私は、大きな声でみはるの名前を呼ぶとみはるの元へ駆け寄っていきました。
そんな私を、みはるは苦笑しながら見つめています。
「ごめんね、連絡が後になっちゃってさ」
「そんなことよりもみはる……閉店って……」
「あぁ、そうなのよ。パワーストーンのお店は閉店することにしたの」
そう言うと、みはるは私に名刺を差し出してきました。
それを受け取った私は、その名刺をマジマジと見つめていったのですが、そこには
『パワーストーン&ジュエリーのお店 「MIHARU」 店長 長門みはる』
そう書かれていたのです。
「……はい?」
その名刺を見つめながら、私は思わずきょとんとしてしまいました。
……ど、どういうことなのでしょうか……いまいち思考が追いつかないといいますか、どういう事なのか理解出来ていない私でございます。
そんな私を見つめながら、みはるは
「さぁ、こっちこっち」
そう言いながら、私の手を取って引っ張っていったのでございます。
◇◇
「さ、ここよ。ここが私の新しいお店、『パワーストーン&ジュエリーのお店「MIHARU」』よ」
みはるに案内されたのは、みはるのパワーストーンのお店から少し離れた場所でした。
すでに営業を開始しているその店舗は、以前のパワーストーンのお店の倍以上の広さがございます。
お店の前には「祝新装開店」と書かれた札が立てられているお花がいくつか飾られています。
そのお店の中には、今までどおりのパワーストーンの販売スペースに加えまして、奥に宝石を扱っているコーナーがございました。
「以前からさ、宝石も扱いたかったんだけど、あの店じゃ手狭だったのよね。それがさ、この秋の契約更新の際に退去するお店があってね、その跡地をこうして使わせてもらうことにしたってわけ」
みはるは、笑顔でそう言いながら私達を店内へ迎え入れてくれました。
みはるの説明によりますと……
この大型ショッピングモールに入居しているお店はですね、ショッピングモール側と数年に一度契約を更新することになっているそうなのです。
その際に、契約更新料の支払いが生じるそうなのですが、それが結構高額なために売り上げがいまいちなお店はこの再契約の時期に契約を更新せず、退去してしまうお店も少なくないのだそうでございます。
みはるは、そんな退去したお店の跡地に移転して、こうしてパワーストーンだけでなく宝石も取り扱いする新しいお店をはじめたそうなのです。
「事情はわかったけど……そんな話、前回来た時には全然言ってなかったじゃない」
お店の奥にある応接室の中で、私は苦笑しながらみはるへ視線を向けていました。
そんな私に、みはるも苦笑しています。
「悪い悪い。ここの店が退去するのを知ったのがつい最近だったもんだからさ。慌てて入居を申し込んだのよ。何しろこういうのって早い者勝ちだからさ、好立地のお店が退去するとなるとみんな狙ってくるのよね」
みはるが言いますように、このお店はただ広いだけではなく、エスカレーターとエレベーターにほど近く以前のお店よりも人目につきやすい場所にございます。
しかも、前の店では店内の奥に敷居で隔てていた応接コーナーが、ここではお店の奥に別室として備わってもいるのでございます。
そんな応接室の中を見回しながら、みはるが差し出してくれた紅茶に口をつけた私なのですが、
「それもこれも、さわことバテアさんのおかげよ」
「私と、バテアさんの?」
みはるの言葉に、私は思わず隣に座っているバテアさんと顔を見合わせていきました。
「そう。2人から提供してもらっているパワーストーンの評判がすこぶるいいのよ。中には2人のパワーストーンを指定して購入しにくるお客様もいるくらいなの。それに釣られるようにして他のパワーストーンの売り上げもあがっていったってわけ」
満面の笑みを浮かべながら、みはるは私とバテアさんを交互に見つめています。
バテアさんは、そんなみはるに
「アタシはさわこに魔石を買ってもらってるだけだしさ。感謝ならさわこにしてよ」
そう言いながら、みはるに出されたバニラアイスを頬張っておられます。
バテアさんのお言葉を受けまして、私は
「私は、バテアさんに売って頂いた魔石をみはるに販売してもらって、その売り上げのいくらかをバックしてもらっているだけだし……頑張って売ってくれているみはるのおかげだよ」
そう言いながら、みはるに微笑みかけました。
そんな私を改めて見つめながらみはるは、
「ホント、さわこってばそう言うところは昔から変わらないわね……だからこそさわこなんだけどさ。とにかく、これからもよろしくね」
そう言いながら、私とバテアさんに向かって深々と頭をさげました。
「……ところでさ」
顔をあげたみはるは、その視線を私とバテアさんの間に向けました。
「その子……誰?」
そう言いながらみはるが指さした先……そこには、ベルの姿がありました。
エミリアの私服を貸してもらっているエミリアは、白いシャツに黄色のハーフパンツをはいています。
耳と尻尾をバテアさんお魔法で隠しておりますので、一目見ただけではごくごく普通の女の子にしか見えません。
ベルは、先ほど購入したクレープを食べ続けているところです。
そんなベルの姿をマジマジと見つめていたみはるは、ゆっくりと口を開きました。
「……ひょっとして……2人の子供、とか?」
その言葉を聞いた私は、思わずガクッと崩れ落ちてしまいました。
◇◇
その後、みはるには
『バテアさんの親戚の子供で、諸事情により預かっているのです』
という説明で納得してもらいました。
ただ……みはるは意味深な笑顔を浮かべ続けています。
「いやぁ……まぁ、そう言うことにしときますか」
「そういうことに、って……バテアさんも私も女性ですよ?子供が出来るわけないじゃない」
「だってさ、バテアさんってばすっごく男前じゃない? 実はオネエなんじゃって思ったり思わなかったり」
「違います!」
クスクス笑っているみはるに、私は必死に反論していきました。
……とはいえ、バテアさんがすごく男前なのは確かに事実でございます。
見た目はこの上なく女性ですが、いつもさりげなく私をエスコートしてくださいますし、何かあればすぐに助けてくださる、とても頼もしい存在です。
私も、『バテアさんが男性だったら……』そんな事を考えないことが無きにしも非ずといいますか……
って、わ、私ってば、一体何を考えているのでしょうか。
私は慌てて顔を左右に振っていきました。
そんな会話を交わしながら、私はみはるから今日までの売り上げの手数料を受け取りまして、引き換えに新しい魔石を渡しました。
「宝石や貴金属も買い取るからさ。何かあったらよろしくね」
みはるはそう言って笑っていました。
そんなみはるの言葉を受けてバテアさんは
「そうね、みはるの新装開店祝いだし、何か見繕っておくわ」
そう言いながら、5個目のバニラアイスを完食なさったところでございます。
私は、バテアさんと言葉を交わしているみはるを見つめながら、みはるのお店が閉店したのではなかったことに安堵のため息を漏らしていった次第です。
そんな私とバテアさんの間では、話が退屈だったせいか、クレープを食べ終えたベルが私にもたれかかりながらうつらうつらとし始めておりました。
ーつづく
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