110 / 343
連載
さわこさんと、ベルのはじめて その2
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
親友であり、いつも魔石をパワーストーンとして販売してくれていたみはるのお店の前で私は呆然と立ち尽くしていました。
いつもなら店が開いている時間ですのに、そのお店の前は白い化粧板で覆われています。
そしてその化粧板には、
「閉店のお知らせ」
そう、はっきりと明記されている張り紙がされていたのでございます。
「嘘……なんで……」
その張り紙を見つめながら、私はそう呟くのがやっとでした。
「あ、さわこ!」
その時でございます。
近くから声をかけられたような気がいたしました。
私がそちらへ視線を向けますと……そこに、みはるの姿があったのです。
「みはる!」
その姿を確認した私は、大きな声でみはるの名前を呼ぶとみはるの元へ駆け寄っていきました。
そんな私を、みはるは苦笑しながら見つめています。
「ごめんね、連絡が後になっちゃってさ」
「そんなことよりもみはる……閉店って……」
「あぁ、そうなのよ。パワーストーンのお店は閉店することにしたの」
そう言うと、みはるは私に名刺を差し出してきました。
それを受け取った私は、その名刺をマジマジと見つめていったのですが、そこには
『パワーストーン&ジュエリーのお店 「MIHARU」 店長 長門みはる』
そう書かれていたのです。
「……はい?」
その名刺を見つめながら、私は思わずきょとんとしてしまいました。
……ど、どういうことなのでしょうか……いまいち思考が追いつかないといいますか、どういう事なのか理解出来ていない私でございます。
そんな私を見つめながら、みはるは
「さぁ、こっちこっち」
そう言いながら、私の手を取って引っ張っていったのでございます。
◇◇
「さ、ここよ。ここが私の新しいお店、『パワーストーン&ジュエリーのお店「MIHARU」』よ」
みはるに案内されたのは、みはるのパワーストーンのお店から少し離れた場所でした。
すでに営業を開始しているその店舗は、以前のパワーストーンのお店の倍以上の広さがございます。
お店の前には「祝新装開店」と書かれた札が立てられているお花がいくつか飾られています。
そのお店の中には、今までどおりのパワーストーンの販売スペースに加えまして、奥に宝石を扱っているコーナーがございました。
「以前からさ、宝石も扱いたかったんだけど、あの店じゃ手狭だったのよね。それがさ、この秋の契約更新の際に退去するお店があってね、その跡地をこうして使わせてもらうことにしたってわけ」
みはるは、笑顔でそう言いながら私達を店内へ迎え入れてくれました。
みはるの説明によりますと……
この大型ショッピングモールに入居しているお店はですね、ショッピングモール側と数年に一度契約を更新することになっているそうなのです。
その際に、契約更新料の支払いが生じるそうなのですが、それが結構高額なために売り上げがいまいちなお店はこの再契約の時期に契約を更新せず、退去してしまうお店も少なくないのだそうでございます。
みはるは、そんな退去したお店の跡地に移転して、こうしてパワーストーンだけでなく宝石も取り扱いする新しいお店をはじめたそうなのです。
「事情はわかったけど……そんな話、前回来た時には全然言ってなかったじゃない」
お店の奥にある応接室の中で、私は苦笑しながらみはるへ視線を向けていました。
そんな私に、みはるも苦笑しています。
「悪い悪い。ここの店が退去するのを知ったのがつい最近だったもんだからさ。慌てて入居を申し込んだのよ。何しろこういうのって早い者勝ちだからさ、好立地のお店が退去するとなるとみんな狙ってくるのよね」
みはるが言いますように、このお店はただ広いだけではなく、エスカレーターとエレベーターにほど近く以前のお店よりも人目につきやすい場所にございます。
しかも、前の店では店内の奥に敷居で隔てていた応接コーナーが、ここではお店の奥に別室として備わってもいるのでございます。
そんな応接室の中を見回しながら、みはるが差し出してくれた紅茶に口をつけた私なのですが、
「それもこれも、さわことバテアさんのおかげよ」
「私と、バテアさんの?」
みはるの言葉に、私は思わず隣に座っているバテアさんと顔を見合わせていきました。
「そう。2人から提供してもらっているパワーストーンの評判がすこぶるいいのよ。中には2人のパワーストーンを指定して購入しにくるお客様もいるくらいなの。それに釣られるようにして他のパワーストーンの売り上げもあがっていったってわけ」
満面の笑みを浮かべながら、みはるは私とバテアさんを交互に見つめています。
バテアさんは、そんなみはるに
「アタシはさわこに魔石を買ってもらってるだけだしさ。感謝ならさわこにしてよ」
そう言いながら、みはるに出されたバニラアイスを頬張っておられます。
バテアさんのお言葉を受けまして、私は
「私は、バテアさんに売って頂いた魔石をみはるに販売してもらって、その売り上げのいくらかをバックしてもらっているだけだし……頑張って売ってくれているみはるのおかげだよ」
そう言いながら、みはるに微笑みかけました。
そんな私を改めて見つめながらみはるは、
「ホント、さわこってばそう言うところは昔から変わらないわね……だからこそさわこなんだけどさ。とにかく、これからもよろしくね」
そう言いながら、私とバテアさんに向かって深々と頭をさげました。
「……ところでさ」
顔をあげたみはるは、その視線を私とバテアさんの間に向けました。
「その子……誰?」
そう言いながらみはるが指さした先……そこには、ベルの姿がありました。
エミリアの私服を貸してもらっているエミリアは、白いシャツに黄色のハーフパンツをはいています。
耳と尻尾をバテアさんお魔法で隠しておりますので、一目見ただけではごくごく普通の女の子にしか見えません。
ベルは、先ほど購入したクレープを食べ続けているところです。
そんなベルの姿をマジマジと見つめていたみはるは、ゆっくりと口を開きました。
「……ひょっとして……2人の子供、とか?」
その言葉を聞いた私は、思わずガクッと崩れ落ちてしまいました。
◇◇
その後、みはるには
『バテアさんの親戚の子供で、諸事情により預かっているのです』
という説明で納得してもらいました。
ただ……みはるは意味深な笑顔を浮かべ続けています。
「いやぁ……まぁ、そう言うことにしときますか」
「そういうことに、って……バテアさんも私も女性ですよ?子供が出来るわけないじゃない」
「だってさ、バテアさんってばすっごく男前じゃない? 実はオネエなんじゃって思ったり思わなかったり」
「違います!」
クスクス笑っているみはるに、私は必死に反論していきました。
……とはいえ、バテアさんがすごく男前なのは確かに事実でございます。
見た目はこの上なく女性ですが、いつもさりげなく私をエスコートしてくださいますし、何かあればすぐに助けてくださる、とても頼もしい存在です。
私も、『バテアさんが男性だったら……』そんな事を考えないことが無きにしも非ずといいますか……
って、わ、私ってば、一体何を考えているのでしょうか。
私は慌てて顔を左右に振っていきました。
そんな会話を交わしながら、私はみはるから今日までの売り上げの手数料を受け取りまして、引き換えに新しい魔石を渡しました。
「宝石や貴金属も買い取るからさ。何かあったらよろしくね」
みはるはそう言って笑っていました。
そんなみはるの言葉を受けてバテアさんは
「そうね、みはるの新装開店祝いだし、何か見繕っておくわ」
そう言いながら、5個目のバニラアイスを完食なさったところでございます。
私は、バテアさんと言葉を交わしているみはるを見つめながら、みはるのお店が閉店したのではなかったことに安堵のため息を漏らしていった次第です。
そんな私とバテアさんの間では、話が退屈だったせいか、クレープを食べ終えたベルが私にもたれかかりながらうつらうつらとし始めておりました。
ーつづく
10
お気に入りに追加
3,678
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
継母の心得 〜 番外編 〜
トール
恋愛
継母の心得の番外編のみを投稿しています。
【本編第一部完結済、2023/10/1〜第二部スタート☆書籍化 2024/11/22ノベル5巻、コミックス1巻同時刊行予定】
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?
猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」
「え?なんて?」
私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。
彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。
私が聖女であることが、どれほど重要なことか。
聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。
―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。
前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。
辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~
雪月 夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。
辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。
しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。
他作品の詳細はこちら:
『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】
『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】
『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』
【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。