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連載
さわこさんと、ベルのはじめて その1
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
本日の私は、仕入れのために私が元いた世界へと出向くことになっております。
いつものように私とバテアさんの2人で行く準備をしていたのですが、
「ベルも一緒に行きたいにゃ!」
そう言いながら、人型の姿になったベルが私にすり寄ってまいりました。
ベルの普段の行動を思い出した私は、正直難色を示しました。
何しろベルは自由気ままを絵に描いたような……と申しますか、とにかくあちこちにフラフラ行ってしまうことが多いのです。
とはいえ、だいたいいつも家の近く……特に、巨木の家の上部にのぼっては、太い枝に寝そべりながらひなたぼっこしていることが大半なのですが、もし万が一、私の世界でこの放浪癖が出てしまったら……
そんな心配をしていたのですが、
「ベル、さーちゃんの側を絶対に離れないにゃ」
そう言いながら必死に頼み込んで来たベル。
「……どうしましょう、バテアさん」
「……そうねぇ」
そんなベルを見つめながら、私とバテアさんは互いに貌を見合わせながら首をひねっていた次第でございます。
◇◇
結局、押し切られる形で、私とバテアさんはベルを連れて私の元いた世界へと移動してまいりました。
「にゃ!?」
転移ドアをくぐったベルは、目を丸くしたまま固まってしまいました。
隠していた猫耳と尻尾がピーンと伸びているではありませんか。
私は、持参してきていたベレー帽を慌ててベルの頭の上に被せました。
周囲を見回しましたところ、どうやらベルのこの異変に気付いてはいないようです。
「ベル、人前で耳と尻尾を出しては駄目ですよ、と、言ったではありませんか」
私に注意されたベルなのですが、
「だ、だって……すごいにゃ!何、この硬そうででっかい建物! 鉄の荷馬車!」
ベルは興奮した様子で街中のあれやこれやを指刺しつつ私を見上げています。
せっかく隠した耳がベレー帽の中でピンと立っているのがわかります。
尻尾にいたっては、再びズボンの上部から飛び出している次第です。
興奮した様子のベルは、いくら注意しても耳と尻尾を隠し続けておくことが出来ませんでした。
この周辺はまだ人通りが少ないですので良いのですが、これから向かいます、みはるのパワーストーンのお店が入店しております大型ショッピングモールの中ではこうはいきません。
「ほんっと、手がかかるわねぇ」
バテアさんはそう言うと、ベルに魔法をかけてくださいました。
すると、ベルの耳と尻尾がすーっと見えなくなっていったのです。
バテアさんによりますと、一時的にベルの耳と尻尾を消したのだそうです。
「とりあえず、これで周囲の人達にバレることはないでしょ」
「にゃ! ありがとにゃ、バテア」
バテアさんの説明を聞いたベルは嬉しそうに微笑んでいました。
バテアさんのおかげで、ようやく大型ショッピングモールへ向かうことが出来そうです。
◇◇
大型ショッピングモールへ移動するために、私達はいつものようにバスへと乗り込んでいきました。
「にゃは~」
ベルは、子供のように椅子の上に膝立ちになって窓の外を楽しそうに見つめています。
その際も、ベルは私の手を離そうとしませんでした。
窓の外を見つめながらも、片手で私の腕をしっかり掴んでいるベル。
どうやらベルは「私の側を離れてはいけませんよ」そう、出発前にした約束を守ってくれているようです。
バスが停留所に到着し、私達は大型ショッピングモールに到着しました。
予想通り、ベルは地上三階建ての巨大なショッピングモールを見上げながら、その巨大さに圧倒されていました。
その間も、ベルは私の右腕にしっかりと抱きついていた次第です。
ショッピングモールの中でも周囲をキョロキョロ見回し続けていたベルなのですが、片時も私の腕から離れようとしておりませんでした。
しっかりと約束を守ってくれているようです。
そのことに、私は最初安堵していたのですが……とある一角にさしかかったところで、私のその思いは一気に吹っ飛んでしまいました。
「……くんくん……なんかいい匂いがするにゃ」
そう言いながら、ベルが私の腕を持ったまま別方向へ移動し始めたのでございます。
ベルが向いている方向を見た私はピンときました……その方向には、フードコートがあるのです。
ショッピングモール内のフードコートは、屋台のように食べ物のお店がずらっと並んでおりまして、好みのお店の前でそれを購入し、広場風になっているコーナーいっぱいに並べられておりますテーブルを使用して、そこで食べることが出来る仕組みになっております。
どうやらベルは、そこで調理されていたり、テーブルに座って食事している皆様の食べ物の匂いに反応している感じでございます。
「ちょっとベル!? 先に用事をすませないと……」
私は、そう言いながらまっすぐ進もうとしているのですが、そんな私の右腕を両手でガッチリ掴んでいるベルは、すごい力で私をフードコートの方へ向かって引っ張っている次第でございます。
まだ子供のベルですが、その正体は古代怪獣族でございます。
その、すさまじいパワーの前に、私は為す術なくひっぱって行かれてしまった次第でございます。
◇◇
結局、私達はフードコートで少し早めの昼食を食べることにいたしました。
何しろ、フードコートに到着したベルが、
「さーちゃん、すごく美味しそうにゃ! 何か食べたいにゃ!」
目を輝かせながらそう言い続けつつ、その場から動こうとしなかったのでございます。
フードコートにはいろいろな種類のお店がたくさんございます。
散々悩んだ末に、ベルはクレープを選択いたしました。
「とっても甘い匂いがしていて美味しそうにゃ!」
そう言うと、ベルはまるで子供のように、試作品が展示してあります店頭のショーウインドウにべたっと張り付きながら見つめていた次第でございます。
せっかくなので、私とバテアさんも一緒に食べることにいたしました。
私はバナナ生クリーム、バテアさんはバニラアイス、ベルは
「さーちゃんと一緒がいいにゃ!」
そう言って、私と同じバナナ生クリームにした次第です。
商品を受け取った私達は、お店の近くにあるテーブル席へと座っていきました。
するとベルは、手に持っていたクレープに向かって大きく口をあけていきました。
……なのですが、
そこで、ふと手を止めたベル。
すると、両手で持っているクレープに向かって、
「いただきますにゃ」
そう言いながらぺこりと頭をさげたのでした。
家で食事をする際に、私が
「いいですかベル。物を食べる前には両手を合わせて『いただきます』、食べ終わったら、同じく両手を合わせて『ごちそうさま』と言わなければなりませんよ」
そう言い続けていたものですから、その事を思い出してくれたのでしょう。
バテアさんによりますと、ベルは猫の姿になれるとはいえ食事まで猫と同じ物しか食べてはいけないということはないそうです。
「基本的には私達と同じ物を食べさせても大丈夫なはずよ」
バテアさんはそう言いながらベルを見つめていました。
そんなバテアさんの視線の先で、ベルは椅子を私へぴったりとくっつけまして、寄り添うように体を預けながらクレープを頬張っておりました。
◇◇
クレープを気に入った様子のベルは、結局クレープを3枚食べました。
私は1つだったのですが、バテアさんも3枚食べられた次第でございます。
その後、私達はみはるのパワーストーンのお店へと向かっていったのですが、
「あれ?」
遠くに見え始めたみはるのお店へ視線を向けながら、私は首をかしげてしまいました。
何やら、みはるのお店に張り紙がいっぱい貼られているのです。
私は、目を凝らしながら向かっていたのですが、ようやくそのチラシの文字が読めました。
どうやら『閉店セール』と、書かれているようですね。
って……え? 閉店? みはるのお店が!?
ーつづく
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