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連載
さわこさんと、ジャッケ握り飯弁当
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
ジャッケが食材として加わりましたので、お昼に販売しております握り飯弁当にも利用してみることにいたしました。
ジャッケの切り身をご飯でくるんだジャッケ握り飯のお弁当を作成してみた次第でございます。
付け合わせには自家製の漬物を数切れ咥えております。
早速、いつもの握り飯弁当と一緒に販売を開始してみました。
バテアさんの魔法道具のお店のレジに並べさせていただいているこの居酒屋さわこさん特製握り飯弁当ですが、毎日100食近くが完売する人気商品になっております。
販売し始めてすぐの頃には、冒険者の方々からも敬遠されていたのがまるで嘘のようでございます。
「じゃあエミリア、よろしくお願いしますね」
「オーケーさわこ、まかせて」
昼間、バテアさんの魔法道具のお店の店番をしてくれていますエミリアに、握り飯弁当を預けました。
そんな私に、エミリアは笑顔を浮かべながらそれを受け取ってくれた次第でございます。
バテアさんの魔法道具のお店は毎日大変繁盛しております。
店内にはバテアさんが調合なさいました薬品や魔法薬、各種魔石などが販売されているのですが、毎日それらの品を求めて多くの方々がご来店なさっておられます。
お客様の7割くらいは冒険者の方々でございます。
傷薬や、能力向上魔法が付与されている魔石などをお求めになる方がとても多く、当然販売しております商品の多くがその系統の品々になっているそうです。
ですが、販売なさっているのはそれだけではありません。
居酒屋さわこさんの厨房で使用させていただいております魔石コンロもバテアさんが作成なさった製品でございまして、こういった魔石を利用した調理器具、暗いところを照らすのに用いる魔法灯などの生活用品なども取り扱っておられまして、そういった商品をお求めになられますお客様も少なくありません。
生活用品に関しましては、大工をなさっておられますドルーさんがよく購入してくださいます。
なんでも、バテアさんの家庭用品を、家を建築する際にご利用なさっているのだそうです。
「バテアが作った魔石コンロや魔法灯は出来がいいからな。ワシも安心して使えるんじゃ」
本日もご来店なさると同時に魔法灯を17個レジにお持ちになられたドルーさんは、そう言いながら笑っておられました。
「あと、いつもの握り飯弁当を……って、なんじゃこれは?」
「気が付いたかしらドルー。それはさわこのニューラインナップ、ジャッケ握り飯弁当よ」
いつも販売している握り飯弁当とは違いまして、ジャッケの切り身弁当には一目でそれとわかる工夫をしております。
握り飯弁当を包んでおります、私の世界の笹の葉によく似た葉に、ジャッケのイラストを焼き印しているのでございます。
このジャッケの絵は、僭越ながら私が描かせて頂きまして、それをバテアさんに魔法で箔押し機に仕上げていただきました。このジャッケ箔押し機を使用して、葉に焼き印を入れております。
ドルーさんは、焼き印をマジマジとご覧になりながらエミリアの説明をお聞きになっていたのですが、
「なんと、あのジャッケの握り飯とな!? これは是非とも買っていかねばなるまい」
ドルーさんはそうおっしゃられますと、通常の握り飯弁当とジャッケ握り飯弁当をそれぞれ5つずつ購入してくださいました。
ドルーさんは、大工仕事を手伝っておられますお弟子さんの分も、こうして購入していかれるのでございます。
ドルーさんと前後して、リョウガさんとナベアタマさんが立て続けにご来店なさいまして、この新商品ジャッケ握り飯弁当を購入していってくださいました。
お2人ともドルーさん同様に、毎日お昼ご飯用に握り飯弁当を購入してくださっているのでございます。
常連のお二人が、
「新商品か。これはまたうまそうだな。お昼が楽しみだ」
「うんうん、いつもの握り飯弁当も美味しいだけに、ホント期待大だね」
そのような会話をなさりながら購入していってくださるものですから、店内で品定めなさっておられましたお客様達も、
「じゃあせっかくだからこのジャッケ握り飯ももらおうか」
「私も、魔石と一緒にこのジャッケ握り飯弁当をもらうわね」
まるで釣られるような感じで、このジャッケ握り飯弁当を次々に購入してくださった次第でございます。
「えへへ~、ジャッケ握り飯弁当かぁ、これは楽しみだなぁ」
そんな購入客の中には、近所にお住まいのツカーサさんのお姿もございました。
「ヘイ、ツカーサ、あなた主婦じゃなかったかしら? 自分でお昼をつくらないの?」
「あはは~、だってさわこさんのお弁当美味しいんだもん。たまにはいいじゃないの」
「たまに? ツカーサはエブリデイ、ここでお昼を買っていってるじゃない」
「うふふ~、まぁ、そう言わないでよ~」
エミリアに突っ込まれながらも、ツカーサさんは終始笑顔でジャッケ握り飯弁当を購入していかれたのですが……
「にゃ」
そんなツカーサさんの足を、猫の姿に変化しているベルが口でくわえてひっぱりました。
ツカーサさんが振り向くと、そんなツカーサさんに対しましてベルは
「うにゃ~」
満面の笑顔とともに甘えた鳴き声をあげていきます。
「うぐ……べ、ベルちゃん、これは私のお昼ご飯なのよ~ごめんね~」
「うにゃ~」
「だ、だからこれは、私のお昼ご飯……」
「うにゃ~」
「だからね、これはその……」
「うにゃ~」
「あの、その……」
「うにゃ~」
「……」
ベルが粘ること5分少々……ツカーサさんは新しくジャッケ握り飯弁当を購入なさいまして、
「もうベルちゃんったら、今日だけだよ~」
そう言いながら、ジャッケ握り飯弁当をベルの前で広げてくださいました。
そんなツカーサさんに、ベルは
「うにゃん」
笑顔でペコッと頭を下げると、ガツガツとジャッケ握り飯弁当を食べ始めたのでございます。
ツカーサさんは、その姿を見つめながら、ぽわ~っとした笑顔を浮かべておいでです。
「はわ~、なんかも癒やされる~。せっかくだから私もベルちゃんと一緒にジャッケの握り飯食べちゃおうかなぁ」
ツカーサさんはそう言われますと、袋の中からご自分が購入なさったジャッケの握り飯を取り出されました。
大ぶりなジャッケの切り身が、握り飯の頭部から頭をのぞかせているジャッケ握り飯。
それをご覧になりながらツカーサさんは、居酒屋さわこさんの厨房で仕込みをしておりました私へ視線を向けられまして、
「さわこ、このジャッケの握り飯すごく美味しそうだよ」
笑顔でそう言ってくださいました。
そして、改めてジャッケの握り飯へ視線をお戻しになられたのですが、
「……あ、あれ?」
ジャッケの握り飯を見つめながら、ツカーサさんは首をかしげておいでです。
よく見ますと……先ほどまで握り飯の頭部から顔をのぞかせていたジャッケの切り身がなくなっていたのでございます。
ツカーサさんは慌てて周囲を見回したのですが……そんなツカーサさんのすぐ前では、口を大きく膨らませながら、その口をもごもごさせているベルの姿がありました。
「べ、ベルちゃん……ま、まさか私のジャッケを……食べちゃった?」
恐る恐るベルに質問なさるツカーサさん。
そんなツカーサさんに、ベルは
「うにゃ!」
まるで『ごちそう様でした』とでも言っているかのように、満面の笑顔を浮かべてひと鳴きした次第でございます。
「ちょ!? べ、ベルちゃんたらぁ」
ツカーサさんは、その笑顔を見つめながら困惑しきりといった表情をうかべておいでです。
私は、そんな1人と1匹のやり取りを苦笑しながら拝見しつつ、新しいジャッケの切り身を焼き始めた次第でございます。
なぜかベルってば、ツカーサさんからだけつまみ食いをするんですよね。
ーつづく
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