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連載
さわこさんと、ペット その3
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
ベッドで横になった私は、すぐに深い眠りについたようでございます。
やはり、生死を……と、いいますか、本気で死を意識してしまうほどの体験をしてしまうと、精神がおもいっきり削られてしまったといいますか……
それは、私が連れて帰ってまいりました牙猫さんも同じようです。
私が抱っこしたままベッドに入ったのですが、まったく目を覚ます気配がございませんでしたから。
小型とはいえ、ティラノによく似た肉食の古代怪獣族に食べられて、それでも飲み込まれまいとして必死に抵抗していたのですもの……そうなるのも当然でございます。特に、この牙猫さんは子猫のようですしね……本当に、よく頑張りましたね、と、褒めてあげたい気持ちでございます
バテアさんの治療魔法のおかげで怪我は治っているそうですので、しっかりお休みしたらきっと元気になるはずです。
私は、眠りに落ちていきながら、そんな事を考えていた次第でございます。
◇◇
夢を見ました。
その夢の中で、私は赤ちゃんを抱っこしていました。
横には、旦那様と思われる男性が立っているのですが……気のせいでしょうか、妙にその男性の方がバテアさんによく似ていた気がいたします。
そんな旦那様に見守られながら、私は赤ちゃんに母乳をあげておりました。
赤ちゃんは、私に抱っこされながら、嬉しそうに微笑んでおります。
あぁ……なんだかいいですね、こういうのって……
私は、なんとも言えない幸福な気持ちに包まれながら、赤ちゃんを優しく抱きしめておりました。
……あれ?
なんでしょう……気のせいか、先ほどまで笑顔だった赤ちゃんが、徐々に険しい表情になってきたような気がしないでもありません。
ぼ、母乳の出が悪いのでしょうか? 赤ちゃんは、私の胸に必死になってしゃぶりついています。
赤ちゃんが必死に吸えば吸うほど、私の胸が痛くなってしまいます。
とはいえ、私は自分の胸の痛みよりも、赤ちゃんを満足させてあげることが出来ていないことの方を申し分けなく思いつつ、おろおろし続けていたのですが……
ガリっ
赤ちゃんが、胸に思いっきり噛みついたのでございます。
その途端に、私は
「いた~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
思いっきり悲鳴を上げてしまいました。
◇◇
目を開けた私は、その光景を見つめながら唖然といたしました……
いつも寝間着にしております、シャツと短パン姿で眠っていた私なのですが……そのシャツの中に何かが入り込んでいたのです。
その何かが……その……私の胸におもいっきり噛みついていると言いますか……
「さわこ!? どうしたの!」
寝室に、バテアさんが駆け込んでこられました。
「ば、バテアさん!?」
「さっきすごい悲鳴が聞こえたけど、何かあった!?」
バテアさんはそう言いながら私の方を見つめておいでです。
どうやら私は、先ほど夢の中で絶叫したと思っていたのですが、リアルでも悲鳴をあげていたようです。
バテアさんの後方からは、リンシンさんやエミリアの姿も見えています。
そんなみんなの前で、私は自分の着ているシャツが異常に膨らんでいるのを見つめていました。
「え?」
バテアさんも、その様子に気が付かれたようで、私のシャツを見つめながら目が点になっておいでです。
すると、バテアさんはおもむろに私の元に歩み寄ってこられまして、シャツを思いっきり引っ張りあげたのです。
「ふ、ぇ!?」
皆さんの前で、上半身裸となってしまった私なのですが……そのことよりも別のことにびっくりしている自分がいました。
はい……今、私の体にはですね……女の子が抱きついていたのです。
猫の耳と尻尾を持っているその女の子は、私をしっかりと抱きしめながら、私の慎ましい胸を口で咥えて……
あぁ……こ、これですね、先ほどの痛みの原因は。
上から見るとよくわかるのですが、その女の子の犬歯が胸の上部に食い込んでいるのがはっきりと見えました。
え?……犬歯?
ここで私は、もうひとつのことに思い当たりました。
そうです、牙猫さんはどこに行ったのでしょう?
私は、先ほどまで牙猫さんを抱っこして寝ていた次第でございます。
猫人の女の子を抱っこしていた記憶はございませんといいますか、そもそもこんな猫人さんのお知り合いは……
私が困惑していると、バテアさんが猫人の女の子の顔に、自らの顔を近づけられました。
「へぇ……あの、牙猫ってば、人型になれる牙猫人だったんだねぇ……古代怪獣族で人型になれる種族って、結構希少なんだよ」
そう言いながら、バテアさんは猫人……いえ、牙猫人さんの首ねっこを掴まれました。
すると、その首の皮がびろーんと伸びていきました。
これは、普通の人間ではありえません。
まさに、猫、といいますか。
まだ眠っている様子の牙猫人さんは、無意識のまま私を抱きしめていまして、バテアさんに引っ張られても私の事を離すまいとして必死に抱きついていたのですが……その手の先にある爪が伸びたらしく、それが私の背中に食い込みました。
牙猫人さんといたしましては、私から離れまいとしての、無意識の行動だったのだろうと思います。
ですが……私が再び悲鳴をあげたのは言うまでもございません。
◇◇
それから1時間もしないうちに、牙猫人さんは目を覚ましました。
私から無理に引き剥がそうとすると私の体に爪をたててしまうため、結局、そのまま私が抱っこし続けていたのですが、背中を優しく撫でてあげていると牙猫人さんはとてもおとなしくしてくれていた次第です。
時折、ゴロゴロと気持ちよさそうな鳴き声まで上おりました。
そんな私の腕の中で目を覚ました牙猫人さんは、寝ぼけた眼で私を見上げてまいりました。
私は、そんな牙猫人さんに笑顔を向けました。
「目が覚めましたか?」
努めて優しい声でそういった私。
そんな私に、牙猫人さんは、しばらくジッと私の顔を見つめた後に、ギュッと私に抱きついて来た次第でございます。
私は、そんな牙猫人さんを優しく抱きしめてあげました。
「あら、目を冷ましたようね」
ちょうど一階からあがってこられましたバテアさんが、笑顔でそう言われました。
すると、そんなバテアさんへ顔を向けた牙猫人さんは、
「にゃあああああああああああああ!? た、食べにゃいで~~~~~~!」
そんな悲鳴をあげながら私にきつく抱きついてきた次第です。
そんな牙猫人さんを見つめながらバテアさんは、
「……古代怪獣族を食べる趣味は持ち合わせてないわよ」
そう言いながら、手に持たれているバニラ最中を口に運ばれていた次第でございます。
◇◇
バテアさんを見て取り乱した牙猫人さんですが、私が抱きしめてあげていますと、徐々に落ち着きを取り戻してまいりました。
「もう大丈夫ですからね。ここには怖い古代怪獣族もいませんから」
そう言いながら、私は牙猫人さんを優しく撫でていました。
牙猫人さんは、バテアさんからもらったバニラ最中を食べながら私の言葉に頷いています。
先ほどはバテアさんを見て慌てふためいた牙猫人さんなのですが……そんなバテアさんが手に持たれておられましたバニラ最中を見た瞬間に、
ぐうううううううううううううううううううううううううううう
と、激しくそのお腹が鳴ったのでございます。
「……食べる?」
バテアさんがそう言って差し出されたバニラ最中を、牙猫人さんは美味しそうに食べているのでございます。
……ちなみに、目下12個目でございます。
私とバテアさんの視線の先で、牙猫人さんが、嬉しそうに微笑み続けています。
そんな牙猫人さんを笑顔で見つめている私とバテアさん……
その時、私の脳裏に夢の光景が蘇ってまいりました。
あの夢の中で、バテアさんは男性でございまして、私の旦那様として寄り添ってくださっていて……
そこまで考えた私は、顔が真っ赤になったのを感じた次第でございます。
「さわこ? どうかした? なんか顔が赤いわいよ?」
「い、いえ!? な、なんでもございませんです!?」
バテアさんに、私はうつむきながら裏返った声で返答していった次第でございます、はい。
ーつづく
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